痛ましい……事件だった……
俺はただ盗賊スキルを習得したかっただけだったんだ。
なのにどうしてあんなことに。
その事件の被害者兼加害者である俺とクリスは顔を俯かせて顔に陰を作りながらギルドの扉を開け――
「アクア様、もう一度! お金なら払うのでもう一度花鳥風月を!」
「なら俺はその倍払う!だからアクア様、どうかもう一回ハンカチを鳩にするヤツを!」
「すみません、私は芸人じゃないのでおひねりはご遠慮ください」
「お前、アクア様はお金よりアルコールだろ! アクア様一つ前のにんじんの火の輪くぐりをアンコール!」
「奢ってくれるんだったら、まあ、受け取らないのも失礼よね! どもども~、今こちらのお客さんからキンッキンに冷えたクリムゾンビアを頂きました! こんなのいくらあってもいいですからね!」
何かの騒ぎの中心にアクアがいた。
どうして朝っぱらからシュワシュワを片手に芸人みたいなことをしているだアイツ……
花鳥風月ってのはさっき俺に見せてくれた宴会芸スキルだってわかるが、にんじんの火の輪くぐりって何だ。
この世界のニンジンは猛獣扱いってか。
馬鹿にしてんのか。
「じゃあ次はにんじんを使った火の輪くぐりを……っとその前に、今頂いたお酒を一瞬にして消してしまう芸を披露しましょう! カズマさんに見つかったら没収されちゃう気がしてならないしね。それじゃあ――」
そう言ってアクアは腰に手を当ててジョッキを傾けようとした。
それ、シュワシュワを胃袋の中にぶちこむだけだろ。
そんで胃袋に入れた酒を純水に入れ替えるマジックしながらリバースするオチが見える。
つまりはアクアの言うとおり、俺はそのジョッキを没収しなきゃならない!
「おいアクア、朝っぱらからシュワシュワだなんていいご身分じゃないか」
「カ、カズマ!? スキル習得しに行ったんじゃあ……」
「もう終わったんだ。というわけでだ、午後からクエストに行くから飲むなよ」
「そんな殺生な! カズマ、私の体はエネルギーを欲してるの……つまり、ガソリンを注入しないと働こうにも働けるわけないじゃない!」
「アルコールをガソリンって言うなよ。飲むにしても夜だ。今は飲むんじゃないぞ? 絶対飲むなよ」
人混みのせいでアクアのところにたどり着くには時間がかかるため、俺は念を押して声を上げた。
……それがいけなかったのだろうか。
アクアは何か納得したように手をぽんとたたいて。
「なるほどね、これはきっとフリってやつね!」
「おい! いくら飲みたいからって俺の台詞をフリ扱いするんじゃねえ!」
「止めないで……いや、むしろ止めてちょうだいなカズマ! その度に私の宴会魂が高まって宴会の盛り上がりがヒートアップしていく気がするの! というわけで皆様大変長らくお待たせいたしました、ご僭越ながらわたくしアクア、シュワシュワ一気にいかせていただきます!」
「ほんとやめろ!?」
俺の声はむしろ逆効果、なんとか手を伸ばして物理的に止めようとするも、その手は無情にも空を切る。
人混みのせいで全く前に進めないのだ。
このままじゃあアクアのシュワシュワを阻止できない…………さっきまでの俺なら。
「ああもうっ! 午後から覚えたてのスキルを体になじませるためクエストをこなそうとしてたのに!」
「あら? カズマさん、もしかしてその奇妙な手の動き……機動要塞デストロイヤー? ということはもしかして私が披露してた宴会芸スキルを目で見て盗ん――」
「違う! 誰があんな冒険の役に立ちそうもないスキル覚えるか!」
「ええええぇぇェェーーっ!?」
コイツ、いつどこで宴会芸が冒険に役立つと思ってるんだよ。
意外そうな顔で驚きの声を上げるアクアに一瞬呆れながらも、俺は突き出した腕とアクアのジョッキに意識を向けながら。
「これはこうやって使うんだよ! いくぜ……『スティー」
「あっ、おはようございますカズマさ――」
「ル』ッ! ふっ、決まった……ぜ? うん? なんだこれ?」
アクアに向けて使ったんだが、重さといい感触といい明らかにアクアのジョッキのものではない。
手の中にある温もり、肌触り、これどっかで体験したことあるような……?
そんなことを思いながら顔を上げると目の前には顔を真っ赤にしたゆんゆん。
「スゥーー……」
えっ、どうしよー、もしかしなくてもまたまた俺何かやっちゃいましたー!?
そうやって現実逃避しても前に真っ赤なゆんゆんがいるし、俺の手の中にパンツが握られているのは確実。
言い逃れできないような状況に絶望しかけたその瞬間、俺の中に電気が走る。
(これはただの布きれ……中身を確認してない今はただの布きれ以外の何物でもないんだ……!)
パンツだろうとハンカチだろうとなんだろうと、俺が知り得る情報は手のひらサイズの布が一枚。
俺は手の中身を完璧には観測していない、何も見ていないならばそれ即ち俺の手はシュレーディンガーボックス!
そうだ、ここにあるのはただの布が一枚、それ以上でも以下でもない。
手を動かして形を探ってみるに三角形の形をしてるような気がするが、きっと三角形のハンカチなんだ。
そうじゃなくてもゆんゆんのことだ、ガサツに丸めてポケットにつっこむんじゃなく、きれいにハンカチを折ってポケットに収納してるに決まってる……この三角形はその結果なんだ!
そう思い込んで平常心を取り戻した俺は。
「おはよゆんゆん。ハンカチとったみたいで悪かったな」
「あ、えっとおはようございます……じゃなくて! かっかかかっかカズマさん!? その、それハンカチじゃなくて……!」
「何言ってるんだゆんゆん、これはハンカチ、誰がなんと言ってもハンカチなんだ! 仮にハンカチじゃなかったとしても何も言わない方がいい! 言ったら公衆の面前でこの手のひらの中身を公開することになる!」
「ええええっもしかしなくても今私脅された!?!? そ、そんな……私のパンt……」
「そうかそうか今朝はパンの気分だったのかー! さっきめぐみんが全部食べちゃったからな、俺におごらせてくれよ! ハンカチのお詫びにさ!」
そう言って俺は完璧な動作で店員さんにパンを注文しようと席を立ち、その流れでゆんゆんにハンカチ(仮)を返そうと動き出す。
油断はできない。
もし万が一にでもこの中身がハンカチじゃなかった場合、それはそれはひどい視線のオンパレードになること間違いなしだからだ。
誰にも手の内を見せてはいけない緊張でいやに汗がにじむ。
手を伸ばしてゆんゆんにブツを託そうとした――次の瞬間だった。
「あああああっ! またパンツ盗ったでしょ君!!」
「うわぁあっ!? あ――」
思いがけ合い呼びかけに動揺を隠せず、次の瞬間、俺の手のひらからピンクの布が飛び立つ。
しかし飛翔することはなく、ユラユラと空気を受けながら、ファサリと地面に着地した。
それは、まごう事なきパンツ。
さっきまでアクアの宴会芸を馬鹿にしてた俺だが……
ハンカチが鳩なる宴会芸スキルを教えてもらわなかったことを心より後悔した。
「キャーッ! カズマさんのエッチーッ!」
そんな可愛げのある言葉とは裏腹に、力士並みの張り手で頬を叩かれたカズマです、奥歯ガタガタします。
頬にはくっきりと手形がついてジンジン……それどころかもしかしたら陥没してるかもしれない。
魔法使いのくせにどうして俺より力強いんだという疑問はさておき、やっぱりオーディエンスの前でパンツを落としてしまったのがマズかったのだろう、涙目のゆんゆん。
そんなゆんゆんに対して、俺は究極の謝罪方法であるDOGEZAを披露していた。
地面に頭をこすりつけるという俺の姿を見て、謝罪の意が伝わったのか、パンツをはき直したのだろうゆんゆんが。
「あ、あの、今回のことは事故なんですよね? カズマさんはハンカチって信じてたみたいですし……」
「ごめんよ、今回はアクアの酒を奪おうとしただけだったんだ……そしたらその射線上にゆんゆんがいて。俺が不注意なばっかりに……」
「そ、そうだったんですね。悪気はなかったみたいですし、今回のことはなかったことに……だからその、顔を上げてください?」
ゆんゆんから許しを得て、なんとか首の皮一枚つながった気持ちで顔を上げると――
そこにはクリスが、何が面白いのかニヤニヤしていた。
「やあカズマくん。ゆんゆんにはごめんなさいしたみたいだけど、あたしには? ねえねえ、あたしにごめんなさいの言葉はないのかな?」
「お前のは因果応報だろ。俺の財布奪おうとしてたくせに謝ってやるもんか」
「いや、確かに私も悪かったけどさ! でも君はそれ以上にあたしの大切なもの奪ったよね!?」
「「大切なものを奪った……!?」」
クリスを言い負かしていると、その言葉に過剰反応を示すアクアとめぐみん。
確かにパンツをスティールしたけども、俺はパンツをだしに金銭を要求しただけ……で……!?
あれ、おかしい、俺は何も悪いことしてないはずなのにこうして言葉を羅列してみると俺が圧倒的不利な気がしてくる!?
い、いや、言い方がよくないだけだ。
俺はベテラン冒険者にカツアゲされていたが、それを見事蹴散らしただけなのだから。
「人聞き悪いな。俺はむしろカツアゲされたのを正当防衛しただけの被害者なんだが?」
「あたしの身ぐるみ剥がした人が何言ってんの過剰防衛にもほどがあるよ! おかげでこっちは今からクエスト受けないと飢え死んじゃう身だよ……」
「「「身ぐるみ剥がした!?」」」
い、いけない、アクアとめぐみんだけじゃなくゆんゆんまで台詞が揃いだした!
俺の直感がこれは行けない流れだと言っている……二人に誤解を与える前になんとかしなくては!
そう思った瞬間だった。
ダクネスが息を荒くしながら。
「そこにいるクリスはカズマにスキルの最初の練習だといってパンツを剥ぎ取られたあげく、有り金全部むしり取られて落ち込んでいるだけだ」
「「「二重の意味で身ぐるみ剥がされてた!?」」」
「ちょっ、わざとか!? わざと言ってんのか!?」
「私はありのままの真実を話しているだけなのだが……そもそも、クリスがパンツ返してほしいって頼んだら自分のパンツの値段は自分で決めろと言い出したのは――」
「ち、ちがーっ……くはないんだけど、周囲の俺を見る視線がゴミ以下の何かを見る目だからやめて!?」
アクアとめぐみんのみならず、周囲の女性冒険者やら受付のお姉さんの視線が極寒なんですが。
おかげでこちとら身が縮こまる思いだわ。
そんな俺の気持ちを察することなくダクネスは。
「そのあげく、然もなくば俺の家宝として崇め奉られることになると脅しをかけながらパンツを公衆の面前で晒しあげ……クリスが泣き止んでギルドに来てみれば、今度は年端もいかない少女にまで手を上げているとは! クッ、生まれてこの方これを上回る鬼畜を見たことがないぞ私は! さあ、その欲情の捌け口として私にもしてみ」
「ません!! そもそも別にゆんゆんに手を上げたわけじゃない! さっきのは不慮の事故だったんだ! あと、クリスの件に関して俺は何も悪くない。クリスが俺の財布を奪って『高い授業料だったね!』とか言ったのが根本的な原因だろ! 俺は財布を取り返すためにスティールを使って取り戻そうとしただけだからな!」
「でもカズマさんの財布って確か千エリスちょっとしか……」
「ちょっとアクア黙ってろ!?」
お前は俺の転生特典なんだから味方であれよ。
頼れる仲間はもう俺にはいない。
泣きたい……
い、いや、こういう悲しいときこそ逆に考えるんだ。
よくよく考えればアクアは元々は頼れなかったし、俺には元々頼れる仲間も裏切る仲間もいなかったのだと。
……余計泣けてきた。
一人孤独にしくしく泣いていると、さすがにそれを見かねたのかめぐみんが。
「その窃盗スキルというのはランダムで物を奪い取るスキルなんですよね? クリスの件といいゆんゆんの件といいパンツをスティールしてしまったのは偶然なんですよね?」
「信じてくれるかめぐみん!」
「ちょ、わ、いきなり肩をつかまないでください!? 顔が、顔が近いです!」
仲間が誰一人としていない状況から脱したのが嬉しすぎて思わずめぐみんを抱きつきかけてしまった。
めぐみんの言葉を聞いて周囲の目もわずかに柔らかくなった気がする。
しかしめぐみんはそれだけでは満足していないようで、少し赤い顔を隠しながら。
「まあ、ようやく見つかったパーティーメンバーが下着泥棒だと悪評が出回るのは問題ですからね。変な噂が流れないようにしておきましょうか」
「いや、できることならしたいが……でもどうやって?」
「簡単な話です、皆にさっきのは偶然の事故だったと印象づければいいのです。もう一度スティールを使うことで」
「おー、なるほど! それでちゃんと普通の物を奪えれば!」
「そういうことです」
流石は知力が高いと言われている紅魔族、よく名案を思いついてくれた。
クリスとゆんゆんにスティールを使ったときは不覚にもパンツをとってしまったが、次こそは……!
そう思って俺は新スキルを発動させた。
ひとつ、ただひとつ誤算があったとすれば、自分の幸運値を舐めていたことだろう。
「何ですか、レベルが上がったから冒険者から変態にジョブチェンジしたんですか……あの、スースーするんでパンツ返してください……」
「やはり私の目に狂いはなかった!こんな年端もいかない少女の下着を公衆の面前で剥ぎ取るとはなんと鬼畜の所業!こ、これは騎士として見逃すわけにはいかない!是非、是非とも私をパーティに!」
「カズマさん、最低……」
こうして俺はパンツ脱がせ魔、クリスはパンツ脱がせ魔の師匠という不名誉極まりない称号をゲットしたのだったのだった。
ストーリー進行の早さどうですか?
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もっとはやく(伏線など要所に絞って書く)
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ちょいはやく(アニメ各話ごとに~1万字)
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今で丁度いい(アニメ各話ごとに2万字)
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もっと深掘り(アニメ各話ごとに2万字~)