我は邪王真眼の使い手、めぐみん!   作:桃玉

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16-4 必中の…神槍(グングニル)

突如としてけたたましい警報が鳴り響き、平穏な時間が一瞬で戦場の予感に染まる。

外では兵士たちが慌ただしく走り、鐘の音が不安を煽っていた。

 

「おいおい、魔王軍って……マジかよ! アクセルじゃあこんなことなかったのに! お、おいお前ら! 早く逃げるぞ!」

「安心しろカズマ」

「安心できるか! というかなんでお前はそんなに冷静でいられるんだよ! 街の人も家に避難するだけでそんなに騒がないし、王都は一体どうなってんだ!」

「お前は知らないのだろうが、王都ではこれが日常茶飯事だ。住民に恐怖心がないと言えば違うだろうが、魔王軍との最前線に最も近いのがこの場所だ。騎士団もいくつかの部隊は王都に残っている。数で押されることはほとんどないだろう」

「そ、そうなのか? それならいいんだが……」

 

ダクネスの言葉を聞いて安堵で肩をなでおろす。

今まで一週間以上王都にいるが、こんなことは初めてだったから驚いてしまった。

騎士団が戦ってくれてるっていうし、これが日常茶飯事っていうなら対処も慣れていることだろう。

そう思って俺は布団にもぐろうと部屋に――

 

「おい、カズマ。いったいどこに行こうとしてるんだ」

「……離せよ、その手。俺はこれから夜に備えてもうひと眠りするんだ」

「何を言っているのだ? 冒険者も参戦するように言われたのだ、私たちもこれから騎士団とともに――」

「戦いません! 俺は寝るの! グッバイグッナイまた明日!」

「あっ、おい! 部屋に逃げ込むな! 国の一大事に駆け付けないとは何事だ!」

 

俺は一瞬の隙ををついてダクネスの魔の手から逃れた。

そのまま自分の部屋に逃げ込み鍵をかけようとドアを閉めようとして――ダクネスの手が扉の隙間に差し込まれた。

しかし勢いづいたドアの勢いは緩まることなく、ダクネスの手を思いっきり挟んだ。

 

「にゅぅぅぅうううん!! カ、カズマ! 今はそういう特殊プレイをしてる暇はないのだぞ……こういう非常事態でなければ私としては大歓迎なのだが」

「勝手に俺のことをお前の性癖に巻き込むなよ! 俺にはアルダープさんの家を義賊から守るっていう使命があんの! わかったら入ってこないで! 俺の安住の地を脅かさないで!」

「まさに今脅かしてるやつらがいるからそいつらを討伐しなければ……というか、この一週間過ごしてアルダープの屋敷に不審な影は一つもなかったろうに! おい、ここを開けろ! 鍵を開けるんだ!」

 

俺は布団に潜り込んでダクネスの言葉を無視する。

もしここが俺たちの屋敷ならダクネスはドアを壊してでも押し入ってくるだろうが、アルダープさんの屋敷だったので諦めて別の場所に行ったようだ。

とあの外に耳を向けると、今度はアクアの悲鳴が聞こえてくる。

 

「戦うなんてムリよぉおおお!! 大体、私たちは戦わずにシュワシュワ飲み放題だって話だったじゃない! 私はここのベッドを守ってるから行きたい人は勝手に行って! 怪我したり死んじゃったりしたら後で治してあげるから! 私が死んじゃったら生き返らせる人がいなくなっちゃうから! だから私を危険な場所に連れて行かないでぇぇええ!」

「後方でいいからついてこい! こらっ、どうしてこういう時ばかり力が強いのだ! 支援魔法を使うな!」

 

アクアがベッドの上で必死にしがみつきダクネスに抵抗している姿がありありと浮かぶ。

そんな中で対照的な、めぐみんとゆんゆんの興奮している声が聞こえる。

 

「行くわよ! 街の人を脅かす魔王軍……許せないわ! 行きましょうめぐみん! 私も上級魔法を覚えたし、めぐみん以上に活躍して見せるわ!」

「ほほう、私以上とは大きく出ましたね。しかしその意気ですよゆんゆん! 戦闘民族である紅魔族として、ここで戦わずいつ戦うというのでしょうか! 我が狂気の瞳が魔族の血肉を欲して疼く……! ああっ、もう辛抱たまりませんね! もう今ここで爆裂魔法を撃っていいでしょうか!」

「お、おい、落ち着いてくれ! というかここで爆裂魔法を使うというのは冗談だろう? なあ、そうだと言ってくれ! そもそもついさっき爆裂魔法をアクセルで撃ったばかりだろうに!」

「ええ、確かに魔力は全快していません……ですが、爆裂魔法を一発撃つのに必要な分はもう回復しますよ。ねりまきから魔力回復のポーションもいただきましたし」

「な、なんてことをしてくれたんだねりまき!」

 

今ここにはいないねりまきに向かって叫ぶダクネス。

どうやらめぐみんのやる気が限界突破しかけているようだ。

だが俺には関係ない、俺は今日はここでゆっくり過ごすんだ。

 

「ほら、めぐみんとゆんゆんはやる気だぞ! アクアもおとなしく早く来い! 回復役がいなくてどうする!」

「いやよいやぁぁぁ! どうじで私が危ない目に合わないといけないのよ! 借金も全部返済したんでしょ!? もう冒険者なんて危ない仕事はやめて屋敷でゆっくり隠居するって決めたのよ!」

「ふーははは! 我が邪眼が囁く、爆裂魔法を今放てと! この衝動を抑えられようか……否! さあゆんゆん、早く洗浄へ向かいましょう、我が衝動が抑えられてるうちに!」

「いいわ! でもめぐみんの魔法は無差別的だし敵の中央に撃つのよ? そこで統率が乱れたところを私が一掃してめぐみんの尻拭いをしてあげるわ」

「なにおう! 先ほどから黙っていれば随分と生意気なことを言うようになりましたね! いいでしょういいでしょう、破壊の権化である私の前には残党どころかひり一つ残さないということを教えてあげましょう!」

「おい、意気揚々と出発しようとしてないでめぐみんは爆裂する前にアクアをベッドから引きはがすのを手伝ってくれ! ゆんゆんもめぐみんを連れて先走らないでくれ!」

 

いつまでも騒がしいな!

ドタバタとダクネスが忙しそうにやってる間に、外の鐘はますます激しく鳴り響き、冒険者たちが次々と街門へ向かっているのが窓越しにわかる。

 

……そもそも、俺はこの前エルロード王国を救ったことで借金が全部なくなったのだ。

貯金こそないが、以前のように一日をどう耐えしのぐかという問題はもはやない。

こんな危険なだけで何の得にもならない戦闘に首を突っ込むなんて……

 

「……ッ!?」

 

そのとき、俺の脳裏に走る幻影。

――お兄様すごい! 魔王軍をものともしないなんて!

――人のために戦えるなんて、心から尊敬します!

――誰よりも勇敢だったと聞いてます! でもお兄ちゃんに危ない目に遭ってほしくないな……

俺の脳内より舞い降りしエンジジェルマイシスターアイリスの甘美な囁き。

その幻影は悪魔的で、雷に打たれたかのようだった。

 

「そうだよ! ここで活躍して戦果を上げれば王城に戻ることだって……!」

 

今までアルダープさんの屋敷では何の成果もなかったが、ここで大活躍すればクレアも無碍にはできないはずだ。

しかもこの戦いには俺たち以外にも騎士団の人や王都に在住している高レベルの冒険者といった頼もしい仲間が参加してくれる。

ダクネスの言葉を思い出すに負ける可能性は低いし、ここで俺たちの存在感を見せて城の守護神的立ち位置につけば、再び城に戻ってアイリスと生活できるだけじゃなく、アイリスに兄として尊敬される……!

 

「止めてダクネス! 私なんだか嫌な予感がするの! 女神の勘よ! きっと何かが起きると思うわ! だからお願い、朝のウィンナー一本分けてあげるから!」

「アクアさん早く行きましょう! 『戦場に到着した王国軍が見たものは、無残に壊滅した魔王軍と、悠然と立ち去る魔法使いだった……』っていうのやりたいの! さもなくばめぐみんがここで爆発するかもしれないわ!」

「おい、私のことをダシにしてアクアのことを動かそうとするのはやめてもらおうか。さもなくば、ゆんゆんが危惧していることをここですることになる」

「カズマ! 私じゃ無理だ、この三人をなんとかまとめてくれ!」

 

ダクネスのそんな声が聞こえる。

はっきり言って、俺だってアクアと同じで危険なことをしたいわけじゃない。

だが俺にはアイリスに兄として尊敬されたいという崇高な思いがある。

俺は騒がしい四人がいる部屋の扉を勢いよく開け放った。

 

「しょうがねえなあ! お前ら行くぞ! 王都のピンチだ!」

「「「「………………」」」」

 

俺たちは慌ただしく装備を整え、王都の門へと駆け出した。

 

 

 

 

王都の門前――そこはすでに地獄だった。

黒い煙が立ちのぼり、兵士たちの怒号と悲鳴が入り乱れる。

魔王軍の飛竜が上空を旋回し、火炎弾を吐き散らしていた。

 

「……カズマさんカズマさん」

「カズマだよ」

「私こんなところにきたこと後悔してるんですけど」

「正直同感」

 

アクアやめぐみんと言ったレベルが比較的高いやつはともかく、俺なんてこの前のジャイアントトード討伐でレベルが上がって14になったばかりだ。

ちくしょう、レベル11と14なんてどんぐりの背比べもいいところ、こんな戦いについて行けるか!

しかしそんな中でもめぐみんとゆんゆん、ダクネスは前の方に出る。

 

「いやダクネスはともかく魔法使い二人は出張るなよ!」

「ふーはっはっはっは! さあ、紅魔族の中でも天才と謳われしこの私をどれだけ楽しませてくれるのか!」

「ちょっと興奮しすぎじゃないめぐみん。まあ確かに満月でとってもいい気分の夜だけど」

「満月の夜……魔力の高まりを感じますね! さあ、今宵の私は血に飢えている! つゆ払いは任せましたよ」

「つゆ払いって……私が上級魔法使いだってこと忘れてるのかしら? めぐみんが爆裂魔法なんて使う前に私だけで十分よ。それに、こんなに月も紅いから……本気でやるわよ! 『ライト・オブ・セイバー』――ッ!!」

 

ゆんゆんはそう言うと瞳を赤く輝かせ、光の刃を展開させて敵に突っ込んでいった。

あぁ……駄目だこの紅魔族。

片っ方は平常運転だが、普段はまともな方も今日に限っては戦場の雰囲気に当てられて紅魔族の本能全開になってやがる。

これ、正気に戻ったときにめちゃくちゃ恥ずかしくなるやつだ……。

そうなったらそのことについて一週間くらいいじってやろう。

 

そんなことを思っている間にも、ダクネスは囮スキルを使って敵の注意を引き寄せる。

モンスターの勢いに押されている兵士たちの援護をして、次から次へと思い一撃を体で受け止めていた。

 

「いや、剣はどこ行ったよ」

「どうせ持っていても当たらないし使わないからな。皆の役に立てるように初っぱなそこら辺に放り捨ててきた」

「お前ってやつはいつも通りなんだから本当にもう! いい加減剣スキルとるかその性癖なんとかしてくれよ」

「断る!」

 

こんのダメネスめ!

そう思っているとダクネスが構え、突進してくるオークの斧を真正面から受け止めた。

鈍い音と共に地面がめり込み、火花が散る。

彼女の鎧はひしゃげ――というほどの損傷はなく、オークはたじろいだ。

ダクネスにダメージがなかったからではなく、ダクネスの表情が笑ってたせいだ。

 

「はぁ、はぁ……! いいぞ、もっと……来いぃっ!」

「なんだこいつ……おでの攻撃を受けたのに笑って――!? 完全に常軌を逸している!!」

 

ダクネスの勢いに気圧され、オークは逃げ出した。

こっちは命懸けの戦場なのに、なぜか味方がみんなテンションおかしい件。

唯一まともなのはよりにもよってこの駄女神。

瓦礫の影に身を潜める俺を見たアクアは、泣きじゃくりながらその後ろに隠れた。

 

「かじゅましゃん! もうおうち帰ろう!? 私たちには王都は過酷すぎたのよ! 私は田舎のネズミでいいから!」

「俺だってそうできることならそうしたいわ! でもここで逃げたらアイリスにも軽蔑のまなざしで見られるだろ!」

「いいじゃない、別にそれでカズマの評価は大体あってるんだからそれでいいじゃない!」

「お前よく本人の前でよくそんなこと言えたな、流石に傷つくぞ」

 

そんな会話をしてる間にも攻撃の嵐は止まない。

このまま比較的安全な後方で戦いが終わるまで息を潜めてたいが、流石にそれじゃあめぐみんたちだけ活躍してる中、俺は木偶の坊だと揶揄されかねない。

 

「一先ずアクア、俺に支援魔法を頼む! 特に筋力増強のをありったけだ」

「わ、わかったわ。カズマのへなちょこボディにかけたところで高がしれてるけどないよりかはマシよね」

「何でお前はそう余計な一言を添えないと会話できないんだよ!」

「本当のことなんだしどうでもいいでしょ! それより一体何をする気なの?」

 

大人もドン引きするレベルで噎び泣き叫んで地面を転がり回ってやろうか。

仲間にひどいことを言われて心が傷ついたカズマさんは涙をこらえながらも弓を構えた。

弓で狙う先は、冒険者と魔族が一対一で戦っているところに横やりを誘うとしているモンスター。

俺は弓を引き絞り――

 

「食らえ! 狙撃(ソゲキッ)――ッ!!」

 

レベルが上がったことで手に入れた新スキル狙撃(ソゲキッ)は幸運値が高いほどに命中率が増す、俺にもってこいのスキルだ。

弓スキルと合わせることで飛躍的に命中精度がアップする。

そして、アクアの筋力上昇の魔法で弓の威力と飛距離も増す。

つまり俺の放った弓は吸い込まれるように数十メートル先の敵に――

 

「よし、当たった……!!」

「すごいじゃないカズマ! まさかジャイアントトードを倒すのにも手こずってたのに……あの頃の貴方を知る私からしたら感慨深いものねぇ」

「お前は未だに手こずってるし、何なら捕食されて俺に助け出されるけどな」

「私は攻撃じゃなくて回復担当なの! カズマさん、この調子で後ろの安全地帯からチマチマどんどん倒していきましょう」

「よしきた! 次はもっと遠くの敵も狙ってみようか……アクア、幸運値を上げる魔法なんてあったりするか?」

「任せなさいな! それで安全を買えるんだったらお安いご用よ!」

 

俺はさらにアクアから筋力上昇の魔法と幸運値を上げる魔法を重ねがけしてもらう。

ギリリと弓を最大限まで引くと、狙いを定めて射った。

 

 

 

 

 

 

戦いが終わり、王都は歓声と熱気に包まれていた。

焦げた空気と血の匂いはまだ残っているが、確かに勝利の空気があった。

瓦礫の間で騎士たちが剣を掲げ、兵士たちは抱き合って泣いている。

めぐみんたちはその中心で、まるで英雄のように囲まれていた。

 

「紅魔族の嬢ちゃん! あの爆発は圧巻だったな!」

「そうそう! いつもいいときに撤退しようとする敵の上官を一撃で葬ったときには胸が震えたぜ!」

「アクセル随一の魔法の使い手にして、すべてを灰燼に帰する者、めぐみんさんのお通りだぞ! 道を空けろ!」

 

結局めぐみんが最後の最後でいいところを総取りしていったな。

まさか敵の上官が『今回の戦いは前哨戦よ。いずれこの数倍の軍勢を率いてこの王都を灰燼に帰してくれるわ!』と捨て台詞を吐いて撤退しようとした瞬間に爆裂魔法を放つなんて。

仕舞いには『我が名はめぐみん! アクセル随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操りし者! 灰燼に帰したのはあなた方の方でしたね』と決め台詞。

インパクトよし、決めよし、戦果よし。

 

隣に立っているゆんゆんもめぐみんと同じかそれ以上に頑張ったはずなんだが、上級魔法でバッタバッタと敵を無双していたのにも関わらず影が薄い子になってしまった。

そもそも、コミュニケーションが上手な方ではなく……ああ、ボッチはボッチである運命から逃れられないのだろうか。

かわいそうなゆんゆんのことを後で構いに行ってやろうかと思っていると別の方から――

 

「おい見たか? ダスティネス様はあの攻撃受けてまだ立ってたぞ!」

「ああ、騎士の鏡のようなお方だ。我々も見習わなければ!」

 

どうやらダクネスの話をしているらしい。

騎士たちが羨望のまなざしで見つめている方には、ダクネスは恍惚の表情を浮かべるのを我慢して凜々しい表情でいた。

いや、あれはどちらかというと魔王軍が自分をねじ伏せて蹂躙する程度の強さもなくがっかりしているだけか。

その顔はやたら空しそうだった。

さらに別の方からも声が上がる。

 

「アクア様の奇跡もすごかった! あれは本物の女神のようだった!」

「麗しいし、俺のことを生き返らせてくれたし! ようだったじゃなくて本物だ!」

 

アクアもアクアで戦いが終わった後の負傷者の回復や死者の蘇生で役に立ったみたいだ。

本人も女神扱いされてまんざらでもなさそう……というか、騎士たちからお礼にとシュワシュワ貰って飲んでやがる!

すでにできあがってる女神様に酒を供えて奉る騎士たちという奇妙な構図だ。

 

さて、アクアもめぐみんもダクネスもいい活躍をしてくれた。

もちろんゆんゆんも忘れちゃいけない……みんなは忘れてるが。

そうなると残る活躍は俺だけだ。

俺も何かしら褒めちぎられたい。

しかし待てど暮らせど一向にそのような声は聞こえてこない。

しびれを切らした俺は自ら声をかけにいくことにした。

 

「すいません、アクアのことを引き取りに来たんですけど」

「ああ、アークプリースト様のお連れ様ですか!」

「あ、はい。そうです」

「そうでしたか! いやぁ、私、アクアさんに治療してもらいまして、これほどのプリースト様は今まで見たことがありませんよ!」

「そ、そうですか」

「…………」

「…………あ、あの、俺のことはもしかしなくても戦場で見かけませんでしたかね? 一応戦ってたんですけど」

「えっ、そうなんですか? アクア様のお仲間であればそれ相応の実力者だと思うのですが、すみません、もしかしてアサシンの方ですか? というかどこで何をされてたんですか?」

 

わかってた、わかってたさ。

そりゃ俺の戦い方はかなり地味だった。

遠距離からチマチマあぶれた敵を狙って攻撃してたんだからな。

おかげで今日だけでレベルが17になった。

それくらいには遠距離から地味に狙撃して、敵の数を減らしてたんだけど、わかるわけないよな……

縁の下の力持ちってわけじゃないが、目立たないやつは評価されにくいってだけの話なんだよなぁ。

 

……くそ、久しぶりに本気で泣きそうだ。

戦いの最中に矢を百本以上放ったってのに、誰も見てなかったのか。

地味な仕事ってのは損だな。

俺は悲しみの中、ゆんゆんと悲しいもの同盟を設立しようとして……

 

「カズマくん! カズマくんじゃないか!」

「ん? ……お、おまえもいたのか!」

「ああ、当然要請があれば駆けつけるのが勇者としての務めだからね」

 

振り向くと、そこにいたのは聖剣を携えた勇者ミツルギ。

汗と血にまみれた顔で、それでも爽やかな笑顔を浮かべていた。

周囲の騎士たちが息を呑み、尊敬の眼差しを向ける。

 

「これは魔剣の勇者様! この度は戦いに参加してくださりありがとうございました!」

「いや、気にすることはないよ。それに、僕に礼を言うくらいだったらカズマくんにするべきだ。彼は僕以上に魔王軍のモンスターを仕留めていたからね」

「そ、そうなんですか!?」「ええっ、そうなの!?」

「……なんで君まで驚くんだ」

 

騎士と同じく驚いてしまいミツルギに呆れの視線を向けられる。

しかし何を勘違いしたのかヤレヤレと言うようにミツルギは首を振った。

 

「どうやら僕が目立ってなかったか、自分の仕事に集中しすぎていたかしてたらしいね。君が狙撃で倒した敵の数は、僕らが直接斬った以上だった。しかも横やりを入れようと動き回る敵なのに一度も矢を外さなかっただろう?」

「……何で知ってるんだよ。こわぁ」

「戦場に何度もいると全体を見渡す力もついてくるんだよ。カズマくんの支援があったから、僕らは強敵に集中できたんだ。低レベルの冒険者で、これだけの働きをする人を僕は知らない。胸を張っていい、カズマくん」

 

なんだか上から目線の言葉に頬がひくつくが、そんなミツルギの話を聞いて周囲の空気が一気に変わった。

それは俺が話しかけた人だけではなく、その周囲にいた人までも、俺のことを羨望の眼差しで見つめていた。

 

「すごい……あの薄い人、実はそんなに活躍してたのか!」

「勇者が言うなら間違いない!」

 

……おい、薄い人ってまだ言ってんじゃねえか。

だがまあ、こうして再び評価が上がるのは悪い気分じゃない。

ちょっと苛ついたが、正しく評価してくれたミツルギにが今度何かおごってやろう。

そうだ、アクセルの街名物のジャイアントトードの唐揚げにしよう、安いし。

 

俺も含めた皆が勝利に酔っていた。

王都で義賊が暗躍してるなんて誰もが忘れていた。

最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…

  • 第6章(現在の章)
  • 第7章
  • 第8章
  • リメイクしてテンポよく進める
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