我は邪王真眼の使い手、めぐみん!   作:桃玉

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17-3 舞い戻りし…勇者一行(ヘルデン)

ダクネスとめぐみんが帰ってくる頃には義賊二人は次のターゲットを探すためにその場を去っていたし、ゆんゆんはあの二人のことを義賊だと思っていない。

ただ俺一人のみが真実を知っているのだが、この話をほかの奴らに話すつもりはない。

何故なら――

 

「このたびは、王都を守ってくださって本当にありがとうございました。特にお兄様方のご活躍はこの王城にまで届いています。これは褒美を取らせないと王族としての品位を疑われてしまいますね」……チラッ

「アイリス様がこのように仰せだ。一週間だけ、今回は特別に一週間の滞在を許可する」

 

――アイリスが上目遣いで懇願するように見ると、クレアはたまらず折れてしまったからだ。

これは宴があった翌朝のことである。

アイリスが今回の戦い俺たちが活躍したと聞くや否やこの場をセッティングしたそうな。

もし今回の活躍でもクレアが褒美を取らせないとか行ってきた場合は義賊二人を生け贄に捧げてでも王都に留まる算段だったのだが、どうやら奥の手は使わずにすんだみたいだ。

こうして、昨日あったことは闇の中に葬り去られたのだ。

 

「アイリス様が与えた一週間の猶予、どう使うかわかっているな? 私としては義賊の足取りすら掴めていない冒険者風情には王都から追い出したいのだ」

「……」

 

一週間後に闇の中から引っ張り出すかもしれない。

 

と、とにかく、今日から俺たちは城で生活できるようになったわけだがこれと言ってすることは変わらない。

眠くなったら寝て、お昼過ぎに起きてアイリスに呆れられ、一緒に遊びたいときは遊んで……そんな生活が今日からまた始まるのだ。

 

 

 

「お兄様、折り入って相談があります」

 

城での生活が始まってわずか数時間後のこと。

勉強が終わったアイリスを誘ってチェスをしていたのだ。

護衛役のレインが微笑ましそうに俺たちの試合を眺めている中、チェスで長考しているアイリスが俺に向かってそんなことを言い出した。

 

「……急にどうした? はっはーん、チェスで負けたくないからって俺のことを惑わす作戦か?」

「違います。真面目な話です。それとチェスの盤面は私の方が有利なのでお兄様みたいなことはしません」

 

俺たちの側にいるレインがくすっと笑う。

まったく、アイリスも随分というようになったもんだ。

俺は真面目にやってるのにアイリスが不真面目なのはどうなのかと、俺は本気で勝負をしてるのに手を抜かれているのかと一瞬不機嫌になるが、アイリスの顔を見るとどうやら本当に真面目な話らしい。

 

「チェスをやりながらでいいので聞いてくれませんか?」

「別にいいけど、何だよ相談って?」

「……レインの件です」

「わ、私ですか!?」

 

まさか自分のことだとは知らなかったレインが目を見開いた。

何か悪い知らせでもあるのかとドキドキした様子でいたレインを落ち着けるようにアイリスは。

 

「そう身構えないでください。その、最近、お兄様たちが外で仕事をしていたのでここはいつものように静かになりまして、その時にレインの仕事――いえ、その、本来はクレアの仕事なのですが、お兄様と喧嘩をしているときにレインが引き受けていて」

「あー、レインがクマをつけてまで頑張ってたやつか。片付いたのか?」

 

俺が駒を動かそうと考えながら話を聞いていると、俺の言葉にアイリスはこくりと頷く。

 

「ならよかったじゃないか」

「はい……ですが、これからまたお兄様たちがお城で過ごすとなると、またレインに負担を強いてしまうのではないかと心配で……」

「アイリス様……!」

 

レインはひどく感動した様子で口を押さえた。

まさか過労で倒れるかもしれないと、そう気遣ってくれるなんて思わなかったのだろう。

レインが感極まっている一方、アイリスの元気は薄れていた。

 

「もちろん私はお兄様たちにいてほしいのですが……その、いつもは静かで少しつまらなく感じるので、みなさんがいると城が賑やかで楽しいです。でも、それでレインが疲れてしまうのは……」

 

……アイリスが元気ないの、俺のせいだよな。

いや、原因はクレアにあるんだが、俺がいなければこういう心配とも無縁だったはずだ。

このまま妹を困らせたままじゃあ兄として失格だ。

なんとかしてこの状況を乗り越えねば……そう考えているとふと妙案と言えばいいのか、解決策に近いものが降りてきた。

正直敵に塩を送るような気分だが、元は俺とクレアはアイリスを愛でるもの同士、これでなんとかなるはずだ。

 

「任せておけアイリス。喧嘩を中断するとっておきがある……ごにょごにょ」

「えっ、ほ、本当ですか……? そんなので喧嘩が止まるなんて思えないのですが……」

「ものは試しだ。もし喧嘩になったらやってみな」

「わかりました――」

 

アイリスは半信半疑ながらも俺の案を受け入れてくれた。

しかし今の時間、クレアは護衛以外の仕事をしているので喧嘩が起きる要素はない。

俺はそんな話から意識をチェスに戻――。

 

「チェックメイトです」

「なっ!? こ、言葉で相手の集中力を削ぐなんて……だれからそんな狡猾なこと習った!」

「強いていえばお兄様からだと思います」

 

 

 

 

それから程なくして、俺たちはお城で昼飯を食べることになった。

お城での生活では高級な料理を満足するまで食べられる。

そして、満足という言葉を知らない大食らいがここに一人。

 

「お兄様。前々から思ってはいましたがめぐみんさんの胃袋はどうなってるのですか? あの山のように積み重なっている皿の中身はどこへ消えてしまったのでしょう……」

「どこって……そりゃ腹の中だろ」

「ですがお腹はぺたんこですよ! 食べたものがどこか別の場所にテレポートしていると考える方が辻褄が合います!」

「めぐみんに限って爆裂魔法以外の魔法を習得してるわけないだろ? バナナが川を流れていたり、サンマが畑でとれる世界だ。そんなこともあるだろ」

「私が箱入り娘だからってからかわないでください! そんなこと……」

「ありえるんだよなぁ。とある店でバイトをしてるときに店長からサンマを畑で収穫してこいって言われたんだぞ?」

 

めぐみんを指しながら驚愕したり、サンマの話を聞いて驚いたり、コロコロと表情を変えるアイリスを見ながら俺はうんうんと相槌を打つ。

アイリスと会話を楽しみながら食べるお昼……最高じゃあないか!

俺は今幸福の絶頂にいるに違いない。

そう思っていると、仕事を終えたらしいクレアが遅れながらアイリスのそばに使えるためにやってきた。

 

「アイリス様。遅くなり申し訳ありません。この男に何か変なことされてませんか? レインがいるので大丈夫だとは思いますが」

「おい」

 

出会い頭に随分な物言いだ。

アイリスの相談を受けてなかったらこのままドロップキックを叩き込んでた。

俺とクレアがにらみあってるとアイリスがさっきの質問に答える。

 

「変と言いますか、バナナが川を流れていたり、サンマが畑で収穫されているという話を……」

「貴様、アイリス様に嘘を教え込む気か! 不敬な輩を今すぐここで切ってもいいのだぞ!」

「う、嘘だったのですか!?」

「嘘じゃないわ! クレアは間違ったこと言って邪魔すんなよ! もしかして世間知らずのお嬢様はちゃんとサンマがどこから調達されるかもわからないんですかぁ? そんな人が教育係でいいのかなぁ?」

「馬鹿にして……! サンマは魚なのだから卵からふ化したら畑からいなくなるに決まっているだろう! バナナも植物なのだ、食われまいと空を飛び回っているに違いな――」

「アイリス様。それにクレア様も。カズマ様の言ってることは正しいですよ? サンマは畑で収穫されますし、バナナは川から流れてきます」

「――!?」

 

レインはクレアとは違って一般常識があるタイプの貴族らしい。

いや、バナナが川を流れていたりサンマが畑でとれるなんてのが一般常識だっていうのがおかしいと思うが。

しかし、そんな一般常識を知らなかった教育係様は驚愕しておられる。

 

「おやおやぁ? もしかしてクレアさんって、アイリスの教育係とかやってるのにこんな簡単な一般常識もわからないんですか? もしかしてマグロが海にいるって言うのも? それって教育係としてどうなんです?」

「じょ、冗談に決まってるではないかカズマ殿! 私は知ってるぞ、ああ、知っている! ただ興が乗ったのでああは言ったが、マグロが海にいるのは常識で――」

「クレア様。マグロは空を飛んで回遊してるんですよ」

「――ッ!? だ、騙したな!?」

 

別に騙してはいない。

ただ、ちゃんとクレアが教育係にふさわしいかテストしてただけだ。

そうしたらどうだ。

世間一般のことを何も知らないじゃないか。

アイリスに護衛なんていらないが、仮にも護衛兼教育係なんだからそれくらいの常識はないと務まらないだろう。

アイリスの教育係としていろいろ欠落してるクレアのことをどう教育してやろうものかと考えていると――

 

「おのれッ! だからアイリス様の教育上よくないと思っていたのだ! やっぱり一週間の滞在を許可したが取り消して今すぐに出て行ってもら――」

「そ、それは駄目です! お願いですクレア、お兄様は私に知らないことを教えてくれる上に謙ろうとしない希有な存在なんです……私たち兄弟の仲を引き裂こうとしないでください!」

「それが駄目なのです! 知らなくてもいい悪い知識を吹き込んでアイリス様を誑かそうと――」

「ダメ……ですか……?」

「うっ……ダメじゃ、ないです……」

「クレア、ありがとうございます! 大好きです!」

「――ッ!! い、いえ……もったいなきお言葉……」

 

突然のアイリスの言葉にクレアは爆発でもしたかのように急激に顔を赤く染めへたりと床に座り込んだ。

 

「流石はお兄様です、先ほど教えてくださった喧嘩の対処法がこんなに効果があるなんて!」

「だろ? ……俺にも大好きって言ってくれたっていいんだぞ?」

「それはなんか気持ち悪いといいますか、なんとなく違うと思うのでやめておきますね」

「……」

 

……別に泣いてなんかない。

お兄ちゃんはうれしいぞ、逞しく育った妹を見れて。

ただ兄離れがちょっとばかし早すぎると思うんだ。

丁寧にお断りされた俺は目頭が熱くなるのを感じているとクレアが掴みかかってきた。

 

「や、やはり貴様のせいか、アイリス様がこうずる賢くなられてしまったのは!」

「ずる賢いわけじゃないぞ? いや、さっきアイリスが深刻な顔で俺たちが喧嘩してるとレインの仕事が大変になるって言ってきたんだ」

「そ、それでもあの笑顔と感謝の言葉は世に出してはならない破壊力があるぞ! いくらアイリス様の頼みであったとしても……!」

「でも正直嬉しかっただろ」

「……ちょっと」

 

アイリスの顔を思い浮かべたのだろう、幸せそうな顔をしている。

 

「ちなみにアイリス様。次喧嘩が起きた場合ですが、クレアお姉ちゃん大好きと言いながらハグしていただけると――」

「お前、本当に教育係やめちまえ!」

 

 

 

 

俺に対するクレアの対応が少し丸くなった。

これまでのように俺と顔を合わせては言い争うということが減り、代わりに自室で仕事をする姿が見られるようになった。

……いや、もしかいすると俺がアイリスにクレアと喧嘩しないでほしいと言われ、クレアに突っかかることをしなくなったせいかもしれない。

そのおかげでレインは寝不足なく実に健康体だ。

なのに――

 

「カズマ、気分がいいうちに帰るぞ」

「帰りません。クレアですら一週間は滞在していいっていってたのに帰るわけないだろ」

「し、しかし、ほら、アクセルの街でカズマのことを待ってる仲間が……」

 

アイリスと一緒にいないときはいつもこうである。

ダクネスは何が何でもアクセルの街に帰りたいと言って聞かないのだ。

俺はプイとダクネスから顔を背けた。

 

「くっ、どうすれば……。アクアたちもどうにかしてカズマを説得するのを手伝ってくれないか」

「何言ってるのダクネス。あの男のことよ、こんな贅沢な暮らしを知ったらもう元には戻れないわ」

「アクアの言うとおりですよ。ダクネスはあの男のことをなんだと思ってるのですか。怠惰と傲慢の化身……それがカズマという男です。今更どうこうしようとしても徒労に終わります」

「めぐみん、カズマさんに対して言い過ぎじゃない? 確かにカズマさんは堕落の道に誘えば堕ちるところまで堕落するし、それを当然だと言わんばかりに享受するけど、流石にそこまで堕ちてはないと思うわ」

 

よし、後で一人ずつ部屋に行ったのを確認してクリエイト・ウォーターとフリーズで部屋から出られなくしよう。

朝日が昇ってもトイレに行けないという地獄を味合わせてやる。

 

「どうしてみんなこんなにも堕落してしまったのだ……」

「女神に対して堕落なんて失礼よ。そもそもダクネスはどうしてそんなにお城での生活が嫌なの? もしかしてホームシックって言うやつなのかしら」

「それなら私のテレポートで連れて行ってあげますから。私、ここでの食事結構気に入りましたし、今日の昼食は中々おいしくて……お邪魔じゃなければカズマさんが帰るまではいてもいいかなーなんて」

「しかしその必要はないでしょう? ホームシックではなく、カズマがやらかさないか心配なだけでしょうし。私たちはたまにの贅沢を楽しんでいるので帰るときになったら教えてくださいね」

「そう悠長なことをいっている場合ではない! このままだとカズマが特大のやらかしをする未来が……!」

「おい、一体俺のことをなんだと思ってるんだ! どっちかって言うとアクアの方がやらかすだろ!」

「なんですってぇええッ!!」

 

こうしていつも通りの騒がしい日常が過ぎていく……かに思えた。

最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…

  • 第6章(現在の章)
  • 第7章
  • 第8章
  • リメイクしてテンポよく進める
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