我は邪王真眼の使い手、めぐみん!   作:桃玉

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18-4 二度目の…天国(エデン)

本当は、アルダープさんにあの魔道具の効果を見せたかった。

そうすれば手っ取り早く魔道具の効果も、それがどれほど危険なのかもわかってもらえる。

 

だが、そう簡単にはいかなかった。

俺がこれを思いついたときには、既に厳重に保管され、誰の手にも渡らないようになっている。

そもそも、アルダープさんがあの魔道具を王族へ送ったのは研究するためであって、アイリスやジャティス王子に身につけてもらうものではなかったとのこと。

その証拠にこんなことを喋った記憶がある。

 

「なあ、アルダープさん。あの魔道具……ちょっと試してみたりはしないんですか? ほら、もしかしたら王国の防衛とか、そういう実用面でも役立つかもしれませんし」

「ふん、冒険者風情が余計な口を出すな。あの魔道具がどんな性能かわからない以上、ワシはおろか誰にもつけさせるつもりはない」

「というと?」

「効果も危険性も分からぬものを試すなど愚かだ。しかしまさか王子が魔道具をアイリス様にお渡しするなど! ワシの計画が……い、いや、なんでもない」

 

その声には明確な拒絶があった。

アルダープさんが安全を考えているのは分かる。

と、俺に愚痴を漏らしていたし、もう一度試させてほしいと頼んでも「効果がわかるまでは」と拒否されるだろう。

……はぁ、良案が思い浮かんだと思ったんだけどなぁ。

 

もし俺にあの魔道具の説明書みたいなのをくれれば、すぐにでも効果を言い当てられるのに。

というかなくても言い当てられるのに。

……でも、そんなことをすれば「なぜ知っている?」と問い詰められるに決まっている。

アクアやねりまきが教えてくれたなんて言っても、そんな情報をどこで聞いたのか怪しまれるだけだ。

ましてや、実際に効果を体験したと言えば問い詰められるだろうし、嘘ついて魔道具を持ち出したといっても、嘘つかないでアイリスと入れ替わっていたなんて真実を口にしたら――それこそ、王国どころか俺の人生がアウトになる。

 

 

というわけで中々アルダープさんに魔道具の性能を伝えられずに、早くも一週間が経とうとしていた。

最初こそ二日でようやく一冊読み終わる程度の早さだったが、今ではある程度の流れが掴めて倍の速度で読めるようになってきた。

それに、メインは小説やらの文章主体の物だが、やちらほら漫画みたいなやつもあったのだ。

地球にいた頃はアニメ漫画が好きだったが、この世界じゃそういうのは少ない。

こんなマンガに囲まれて生活できるなんて……むしろお金払うべきなんじゃないか!?

マジで俺のために用意された仕事といっても過言じゃないだろう。

そんなことを思いながら今日も漫画を読んでいると、ノックもなく扉が開かれる。

 

「最近の調子はどうだ。慣れない環境で疲れているんじゃないか?」

 

そう言いながら籠っていた俺のもとへ現れたのはアルダープさんだ。

相変わらず誤解されそうなニタリとした笑みを浮かべながら、俺の机を覗き込むようにして言った。

まさかわざわざそんなことを気遣ってくれるとは思わず、胸の奥が少し熱くなった。

 

「わざわざ心配してくれてありがとうございます! 初日あたりは少し疲れがあったっぽいですけど、最近はむしろアクセルにいた頃より規則正しく生活できてて、すこぶる調子がいいです!」

「何!? あ、いや、そうか。まさかマクスに用意させたあの量を……いや、ま、まあ、あの程度で値を上げておるようでは魔道具の解析もできまい。それに、自己管理もできないようなやつに仕事は任せられん」

 

アルダープさんはわずかに目を見開いた。

文字を読む仕事が冒険者に勤まるはずがないとでも思ったのか、それとも単純にこの量を読んで疲れているどこか楽しそうな反応が返ってくるとは思ってなかったのか。

俺にとってはこここそ追い求めていた理想郷なんだが、確かに異世界の人からしてみればそう思うのもむりはないか。

 

「本当にこんな楽しい仕事をくれてありがとうございます! いやほんとマジで! もしよければ追加の仕事もやってみせます! あと、冒険者やめたらここで働いてもいいですか!? それくらいここは天国です本当にありがとうございます!!」

「そ、そうか……す、少しはやるようだ。仕事の量を調整してやる。ありがたく思うんだな」

「はい! 俺もそろそろその魔道具に直接関わるようなヤツに参加できるように頑張りますよ! もっとバンバン仕事ください!」

 

俺が追加の仕事を要求すると顔を引きつらせるも――

 

「そうか……。そうだな、わかった。貴様の望み通り仕事を増やしてやる! それこそ本に埋もれて死ぬくらいの量をな!」

「はい! よろしくお願いします!」

 

ニタリと笑って俺の希望を通してくれた。

しかしその後俺が歓喜していると、アルダープさんは軽く頭をひねりながら部屋を出て行った。

……ワーカホリックだと思われてドン引きされたかもしれないが今更か。

 

 

 

 

さてと、今日も仕事が終わった……仕事っていうか娯楽なんだが。

それでも腹は減るし、疲れて眠くもなる。

 

「おし、夕食を食って、さっさと寝る支度でもするか」

 

そう思って椅子から立ち上がろうとしたときのことだった。

タイミングよく部屋の扉を叩く音が。

夕食の時間だし、ゆんゆんあたりが一緒に食べようと誘いに来たのかと思って返事をしてドアを開けると――

 

「やぁ、カズマくん」

「クリス!? それにねりまきも……やっと来てくれたのか!」

 

目の前にいたのは義賊コンビ。

一緒にアルダープさんに魔道具の危険性を説明しようと言ったが、まさか本当に来るとは思ってなかった。

いや、悪い意味じゃなくて、一週間も音沙汰なかったから協力してくれないものかと思っていたんだ。

 

「なんだよ、ずいぶんと遅かったな。もしかして二人ともアルダープさんが信用できるかどうか調べてたとかか?」

「まさにその通りよ――って、ええええっ!? 何この場所!? すごい量の古代文字の本!」

「アルダープさんが俺にくれたんだ。古代文字を研究すれば解き方がわかるとかなんとかでな」

「ものすんごい量だね……というかマンガばっかりなだけど!?」

「おっ、クリスはマンガを知ってるんだな」

「ええっ、ああ、ま、まあね! 私もこれはよく読んでるから。中々面白いよね!」

 

俺から視線をそらすも、慌てて元気に振る舞うクリス。

怪しい……頬をかいてるし、何か誤魔化してるような……そんな感じがする。

もしかしてクリスは……

 

「なあクリス」

「ほうぇ!? な、何かなカズマくん、急に改まったような感じだして……」

「マンガを面白いっていってるってことは日本語、読めるってことだよな?」

「ああ、まあ、トレジャーハンターじゃないけど、そういうダンジョンに潜るとよくある言語だしね。ある程度は読めるっていうか……」

 

概ね予想通りの反応だ。

クリスは日本語が読める。

国の研究者ですらほとんど読めないって言ってる文字を、日本語として認識できる程度には。

俺の予想が正しければ――

 

「クリス、お前って…………日本人の転生者、なのか?」

 

俺の発言で時が止まったように静寂に包まれる。

しかしそれをねりまきが瞬時に破った。

 

「えっ、クリスにそういうかっこいい設定があるなんて初耳なんだけど!? ねえ、どうして私に教えてくれなかったの! 私の前世の話もしてあげるからその日本人とか転生者とか、紅魔族の琴線にビンビン響く設定について詳しく!」

「いや、そんな設定ないから! あたし、紅魔族みたいな感性持ってないから!」

「ちぇー、つまんないの。カズマさんがせっかくいいふりしてくれたのに」

「ええっ、なんでそんなに拗ねちゃうのこの子! あ、あたしが悪いのかな!?」

 

そう言ってふて腐れてしまったねりまきのご機嫌ととるために謝り倒すクリス。

俺はクリスが日本人だと思ってが、本当に違うのか……?

 

「なあ、クリス」

「なに! 今ねりまきに謝ってるの見えてないのかな!?」

「いや、本当に日本人とは関係ないのか? 転生者じゃないのか?」

「いや、違うけど」

「……ほんとに? 嘘ついてるとかじゃなくて?」

「ん、ほんとほんと」

「日本語読めるのに?」

「いや、まあ、カズマくんみたいな変な名前の人に教えてもらって。確かその人たちが日本人なんだよね。だから無関係かって言われれば違うけど……」

「確かにソイツらなら知ってるかもしれないが……って、変な名前っていうなよ。どっちかっていうとお前の相方の方が変だろ」

「ちょっと、それは聞き捨てならないなカズマさん? というかカズマさんの名前は紅魔族的にいいセンスしてると思うんだけど」

 

この一瞬でプライドが酷く傷つけられた気がする。

予想が外れるわ、名前を貶されるわ、仕事終わりのいい気分が気分が台無しだ。

俺ががっかりしていると、クリスはいいやと頭を振る。

 

「って、これが本題じゃないから! 今日は魔道具のことについて話しに来たんだよ!」

「そもそもクリスが変な言動しなければスムーズに話が進んでたと思うんだが」

「そうだね、カズマさんの言うとおり、クリスが日本人とかの転生者だって認めて設定を語り出せばよかったのに……」

「あれっ、もしかして2対1の状況になってない!? さっきから言ってるけど何であたしが悪いみたいになってるの!?」

 

俺たちの様子にクリスは声を上げるも、ため息をして話を始めた。

 

「まったく、こんな変なテンションでする話じゃないのに……」

「なんだよ、別に一緒に魔道具のことアルダープさんに説明するのにどんなテンションでもいいだろ?」

「……あの人には説明しないよ」

「説明しないってどういう……」

「カズマくん。あたしたち、君のことを誘いに来たんだよ。義賊にね」

 

その瞬間、俺の思考が止まる。

クリスとねりまきが、まるで約束でもしたかのように顔を見合わせる。

 

「やっぱりあの魔道具は人知れずなくなってた方が世のためだと思うんだ」

「どういうつもりだよ、二人とも……冗談きついぞ」

「冗談じゃないよ。だからここまで時間がかかったんだ」

「で、でも、アルダープさんはいい人で……それに、あの人のことを調べたんだろ!? ならあの人は安全だって……」

「うん、何か裏があるんじゃないかって程潔白だよ。でも、その子孫までいい人とは限らない。今回はあたしたちの方法でやらせてもらうから」

 

クリスはいつもの涼しい顔で、ねりまきは真剣な目で俺を見た。

俺は心の中で溜め息をつく。

確かにあいつらは無鉄砲だ。

だが無鉄砲だからといって悪ではない。

義賊を名乗る彼女たちだが、目的はどうにも筋が通っている。

 

「それにね、ここで保管しておくよりいい方法を知ってるんだよ。あたしの知り合いに封印専門の人がいてね。まあ、その人はある場所から動けないし、誰も信用しないと思うから、あたしたちに神器を預けてほしいんだ」

「別に私たちはカズマさんと争いに来たわけじゃ――まあ、カズマさんがそうしたいっていうんだったら巷を騒がせる義賊として華麗に盗むってのもやぶさかじゃないんだけど」

「お前ら……本気か?」

「本気も本気。それでどうかな、アルダープさんに言ってあたしたちに神器を譲るように言ってくれない? もしくは盗むのに協力してよ」

 

俺は彼女たちの言葉を聞きながら、複雑な感情が胸をよぎる。

理屈では賛成できないが、彼女たちが悪用するとは思えない。

それに、収集して後処理する術があるという。

しかしアルダープさんが頭を縦に振るとは思えない。

強力な神器が効果もわからないまま行方不明なんて……

 

「俺はアルダープさんに恩を返したい。だからもし、その方法が一番いいんだったらそうしたい」

「じゃあ――」

「だが断る! 最善とはほど遠いその方法に協力なんかできるか」

「……そっか。やっぱりそう言われるとはお思ってたよ」

 

 

 

 

夜が深まる。

俺はもう部屋にはいなかった。

アルダープさんに今夜にでも義賊が来るかもしれないから、俺に見張らせてくれと頼むと、快く、むしろ待っていたと言わんばかりに了承してくれた。

アルダープさんは金庫のある1階の奥の部屋、自身の寝室に保管してたらしい。

 

「今日から貴様にわしの部屋を任す。あそこは窓もない。兵士を部屋の前に配置しておく。貴様は義賊が最後の警戒網だ。魔道具が盗まれないよう鍵を閉めて警戒しておれ」

「えっ、それじゃあ俺の仲間も一緒にそこで待機しておいた方が……」

「それは……女性がわしの寝室に入ったとなればいらぬ誤解が生まれる。それに、ララティーナならともかく、ほかのものは信用ならん! 特に青髪のプリーストは何をしでかすか! 警戒しろと言ってもわしの秘蔵酒を見つけては飲み干しおって……!」

「すみません。本当にうちのアクアがすみません!」

「そういうわけだ。」

 

しかし逆をいえば俺の事は信用してくれているのだと、より一層やる気がみなぎる。

俺は魔導具の周りに細工を施し、罠を仕掛け、潜伏スキルを使う。

そして、ドアの鍵にフリーズの魔法を放った。

 

「……ふう。諦めてくれればそれが一番いいんだけどな」

 

カチコチの氷に覆われた鍵を見て、あとは待つだけだと俺はベッドに腰を下ろした。

魔道具がある部屋の外にはアルダープさんのところの兵士とダクネスたちが待機中だ。

もう何も心配することはない。

強いていえばねりまきたちが捕まった後にどうなるかが気がかりだが、まあ、ダクネスがうまいことしてくれるに違いない。

 

俺はダクネスやめぐみんに折檻されている二人の姿を想像して苦笑しながらも、ランプを掲げて魔道具の置かれた部屋を見回す。

窓一つもなく、部屋の外にある光すら見えない。

でもそこ以外に通れる場所はないと、俺はそこだけを注意しながらいた。

 

 

 

 

「……来たか」

 

ドアの隙間からかすかに音が聞こえてくる。

きっと義賊が入ってきたのを見つけて抗戦してるんだろう。

俺は敵感知スキルを発動させて襲撃に備えようと……そう思った瞬間だった。

——背筋を貫くようなビリッとした感覚が走った。

 

「……ッ!? 敵感知スキルが反応した!?」

 

普通、敵感知スキルは敵意が大きければ大きいほど、近ければ近いほど、激しい警告音を放つ。

実際は警告音ではないが、そういう感覚だ。

そして、部屋の外の様子を敵感知スキルで捉えると、そこには確かに二人の敵がうっすらいることが感じ取れる。

 

しかし俺の敵感知スキルは、さらに強大な何かを捕捉していた。

それは強大な殺気。

敵感知スキルなんてなくても命の危機に誰しもが気づくレベルの。

それが俺の背後にいた。

 

やばいやばいやばい、これは振り向いたら即殺されるやつ!

まさかほかの貴族からの刺客が潜んでたっていうのか!?

濃密な死の恐怖に心臓が一気に跳ね上がる。

 

喉が乾く。

空気が重い。

肌が粟立つような嫌な予感が、全身を締めつけてくる。

だが、俺はアルダープさんに魔道具を任せたと言われたんだ。

この信頼を裏切るくらいだったら……

 

恐怖に抗おうとした……その瞬間だった。

 

胸の奥にぐしゃりと何かが沈み込むような衝撃が走った。

呼吸が止まり、視線を落とすと、胸の中心から腕が突き出していた。

そう、腕だ。

脈動するたび、赤黒い泡が弾ける。

 

「ごふっ……あ、が……っ……。なん、だ……これ……」

 

不思議と痛くない。

ただ腕がずるずると音を立てながら、肉の中を蠢く不快感に身を震わせる。

残ったのは大きな穴。

えぐり取られた肉が、どくどくと流れる熱が、床に落ちて……

 

「いったい、誰が……ぐっ……げほっ……。……ぁ……っ……」

 

次第に呼吸が苦しくなっていく。

心臓はまだあるが、それでも地上で溺れていく感覚とともに、声も出なくなっていく。

代わりに口から出るのは鮮やかな血液。

 

温かい血が一気に胸元へ流れ、同時に背中を伝って床へ滴る。

急速に体温が奪われ、指先が痺れ、世界の色が遠のいていく。

こんなことをねりまきやクリスがするはずがない。

 

「だ……れ…………」

「ヒュー……ヒュー……あれ、はずれちゃったよぉアルダープ! でも……あぁ……ヒュー……いいよぉ、絶望の悪感情、すごくいいよぉ……!」

 

必死ににらみつけるその先には、ひとりの男が立っていた。

貴族のような細身の体。

整いすぎた顔立ち。

だがその笑みは、慈悲の欠片もなく、残虐に俺を見下ろして歪んでおり、酷い喘鳴がひどく不気味に思える。

髪が闇の中で揺れ、目だけが異様に輝いていた。

 

「死の際の顔っていうのは、やっぱり……最高だよ」

「だれ……だって、聞いてる……ごふっ……だろ……ばけもの……!」

「ヒュー……ヒュー……ばけもの? ぼくは悪魔、マクスだよ……ヒュー……ヒュー……恐怖、絶望…………本当にいいねぇ!」

「……っ」

 

喉の奥が焼けるように熱く、息を吸うたび血が泡立つ。

声にならない呻きが、かすかに漏れただけだった。

その悪魔は満足そうに微笑み、ゆっくりと俺に顔を近づける。

その瞬間見えた後頭部には、何もなかった。

人じゃないことはわかっていたが…………

 

ああ、もうだめだ……

血液が足りなくなって視界が暗くなって……

 

冷たい笑みが、俺の顔のすぐ近くに浮かぶ。

その濁った光を放つ瞳に、俺の姿が映っていた。

視界が、夜の闇に溶けるようにゆっくりと閉じていった。




もしかしたら来週は投稿お休みするかもしれません……

最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…

  • 第6章(現在の章)
  • 第7章
  • 第8章
  • リメイクしてテンポよく進める
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