我は邪王真眼の使い手、めぐみん!   作:桃玉

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20-3 歪曲の…魔眼(クレアボイアンス)

アクアの攻撃は躱されたのか、悪魔は依然としてニヤニヤと悍ましい嗤いを浮かべたまま俺のことを見てくる。

 

ああ、気持ち悪い……

あの視線から一刻も早く逃げたい。

そんな思いとは裏腹に、膝に力が入らない。

 

「う゛……おえっ゛……」

「カズマさん! 大丈夫ですか!?」

「な、何でもない……はぁ……はぁ…………くそっ。警戒してたってのに同じ目に遭うなんて……気持ち悪い真似しやがって!」

 

あのときのトラウマを再現され、立っていられないほどの目眩に襲われる。

肺に溜まった鉄の味が喉を通って吐き出される。

そんな俺を見る顔は、不気味に歪められていた。

 

「カズマさん! こっち!」

 

近くにいたゆんゆんの手に引っ張られ、俺はなんとか悪魔から距離をとる。

悪魔はそんな俺たちを見て、何をするでもなく、ただニタリと嗤いながら呟いていた。

 

「ひゅー……ひゅー……アルダープアルダープ! ありがとうアルダープ! こんなに美味しい絶望の悪感情! オードブルにはもったいないよアルダープ!」

「何を言ってるんだ! 黙れ! 黙るんだ!」

 

ダクネスが激昂して悪魔に斬りかかる。

一人で戦うなと、そう声を上げようとしたが、その声が届く前にダクネスの剣が振るわれた。

届かないと思われたその剣筋は……予想を裏切り、悪魔の腕を深く傷つけた。

 

「悪魔風情が! 気安くアルダープアルダープと名前を呼ぶんじゃない!」

「ひゅー……ひゅー……! ごめんよアルダープ!」

 

ダクネスが激しく唾を飛ばしながら悪魔に剣を振るう。

その斬撃はすべて、悪魔に叩き込まれる。

 

……一体どういうことだ。

あのダクネスが全部の攻撃を的中させている……だと!?

いや、ダクネスにしてはかなり攻撃的なところもおかしいと思うが、それはダクネスがエリス教徒だから、まあ理解できる。

だが、いつも通りなら悪魔にかすりもしないはずなのに、一体全体どういうことだ!?

敵が避けなくても勝手に外す程度には当たらないレベルで不器用なんだぞあいつは!

 

「ダクネスやっちゃいなさい! 悪魔なんか害虫みたいなもんなんだから、いくらいつもは自分のこといじめてほしくても今は躊躇しちゃだめよ!」

「アクアさん、何というか、ダクネスさんの様子がいつもとおかしいというか……」

「そうかしら? エリス教はアクシズ教と同じくらい悪魔に対して容赦がないって聞くし普通なんじゃないかしら?」

「いやいや! そんなレベルじゃないですから! まるで人が変わった見たいっていうか……」

「それは内なるダクネスが覚醒したのよ!」

「な、なるほど! 確かに覚醒なら仕方がないですね!」

 

何が仕方ないんだ!?

ゆんゆんのやっぱり紅魔族の一員だったってことか!?

くそっ、この中で唯一まともなのは俺だけ……どうしてダクネスの様子がおかしくなったのか突き止めないと――

 

「ってあぶねっ!?」

 

俺はショートソードを抜いて悪魔が放ってきた爪による斬撃を受け止める。

……ふう、危ない危ない、二の舞どころか三の舞になるところだったぜ。

ダクネスのことばかり考えてたせいで攻撃を食らうなんて馬鹿なことあっていいわけ――

 

「ア……レ…………」

 

カランと剣先が床に落ちる音が聞こえてくる。

悪魔が俺に放ってきた魔法かスキルは、いともたやすく俺の剣を切り裂いていたらしい。

……うん、おかしいって思ってたんだ。

なんだって俺の体を貫通するほどの威力がある攻撃が片手一本で受け止められたのかって。

受け止められてなんかいなかったんだ。

 

「『ハイネスヒール』! からの『ハイネス・エクソシズム』!! カズマ! 早くダクネスのところに行きなさい! 『ハイネス・エクソシズム』!! 何度も死にかけてるんじゃ『ハイネス・エクソシズム』ないわよ!」

「あ、ああ……!」

 

腹に一本の線ができ、赤い血潮が吹き出かけたが、アクアの魔法が塞ぐ。

アクアに言われるまで自分がどれだけ思考足らずだったのか、いつもの俺らしくもない。

自分が何もできずにいるのは悔しいが、それ以上にアクアにこんな指示をされるなんて……その方が何倍も悔しく感じるんだが!

 

そう思いながらも、脇目でアクアと悪魔の攻防を見やる。

アクアの魔法は連続で悪魔の方に連射され、悪魔はそれに対抗して攻撃をする暇がないのか攻撃はしない。

高密度の退魔魔法が悪魔に襲いかかるが、悪魔はそのすべてを回避しきってみせた。

まさかあれだけの密度で放たれた魔法の隙間をすり抜けたのか……

人間業ではないその悪魔の余裕そうな笑いを見て背筋が凍てつく。

 

「いや、流石に運がよかっただけだ……。ゆんゆん! アクアに加勢して魔法を撃ち込め! 密室だから火力が低くてもいい! 逃げ道を塞ぐように撃て!」

「わ、わかりました! 『ブレイド・オブ・ウインド』!!」

 

ゆんゆんにそう言うと俺は急いでダクネスの元に駆け寄った。

元からあの悪魔に対して俺が攻撃とか防御で何かできるわけないことなんて知ってた。

悔しさを滲ませながらもダクネスの後ろに隠れる。

 

「……貴様、女の後ろに隠れて恥ずかしいとは思わんのか」

「お前の方が堅いし一切思わん!」

「そ、そうか」

 

俺がきっぱり断言するとダクネスの表情が少し引きつる。

やっぱりどこかダクネスの様子がおかしい。

いつものことだろうに今更こんな顔をするなんて――

 

そう思いながらも、アクアたちの魔法の嵐は止まない。

アクアの凶悪な魔法の連打に加えてゆんゆんの魔法が撃ち込まれる。

ゆんゆんの魔法はアクアの悪魔に対する特攻魔法とは違い、部屋の一部を荒々しく削り取る。

逆を言えばそれだけの威力があるはずなんだ。

 

「えっ……うそ…………ッ!?」

 

そんなゆんゆんの小さな声と同時に、魔法の嵐は止まる。

代わりに俺が見たのはゆんゆんが部屋の奥に吹き飛ばされるところだった。

 

「ゆんゆん!? ハイネスヒ――ッ!? ちょこまかと邪魔くさいわね!! 悪魔なら悪魔らしく女神に浄化されなさいよ!! 『ゴッドブロー』!!」

「……!?」

 

そのとき、初めて悪魔に攻撃が当たった。

アクアの拳は腹に突き刺さり、悪魔はくの字になって吹き飛ばされ壁をへこませた。

 

「ひゅー……ひゅー……! いたいよ! いたいよアルダープ!」

「あんの悪魔どんなだけ堅いのよ……タメなしで撃っちゃったせいで仕留め損なったじゃない。でももう終わりね……ゆんゆん! やっちゃいなさい!!」

 

アクアがそう言うと、悪魔に吹き飛ばされたゆんゆんがいつの間にか準備していた魔法を放っていた。

 

「私のことを殴り飛ばしてくれたお返しよッ!! 食らいなさいっ『ライト・オブ・セイバー』――ッ!!」

「ダメ押しの『セイクリッド・ハイネス・エクソシズム』ッ!!」

 

塵が舞い上がってるの魔法が痛みで悶えている悪魔に迫る。

勝ったか……そう思わせるには過剰な威力と条件だった。

しかし――

 

「なっ……!?」

 

魔法は外れた。

これが普通の外し方だったら「ちゃんと決めろよ!」と叱っていたかもしれないが、俺の口からは驚愕が漏れるだけだった。

 

「ど、どうして……」

「ひゅー……ひゅー……! いたくない! それはいたくないよ!」

「どうして当たってないんだよ! なんで……なんであんな急に魔法が曲がるんだよ!」

 

アクアの魔法ですら高密度で避けきれるか怪しいのに、ゆんゆんも加勢したときのあの量を裁ききるなんて無理だろ……そう思っていた。

しかし悪魔の体は無傷……それ即ちすべてを避けきって見せた。

……何かしらのトリックみたいなのがあるはずだとは思っていたがまさか攻撃が勝手に曲がるなんて。

 

「こんなのどうやって倒せばいいんだよ……!」

「め、めぐみんの爆裂魔法だったら避けられないんじゃ……」

 

ゆんゆんがそう言うが、本当に爆裂魔法で倒せるのだろうか。

この悪魔が何らかの能力で魔法をずらしてるのもわかった。

アクアのゴッドブローが何故か避けられなかったし、何らかの攻略法があるのもわかった。

だが、その能力が何なのかわからない限りは下手な行動ができない。

 

「……ゆんゆん、テレポートだ。一回作戦を立て直そう」

「わ、わかりました! 皆さんこっちに……!」

「アクア! 最後に特大の魔法をぶちかましてやれ!」

「まさか逃げるの!? そんな、悪魔を目の前にして逃げるなんてできるわけ――いたっ!? いたいいたい! 耳を引っ張るのやめてぇっ!?」

 

俺はアクアの耳を引いて、ダクネスとともにゆんゆんの方へ駆け寄る。

ゆんゆんの周りには魔法陣が展開されており、いつでもテレポートできる状態だ。

テレポートしたら作戦通りに撤退してめぐみんの爆裂魔法で悪魔を屋敷ごと破壊する。

今のところ作戦は順調なはず……

 

なのに、胸のざわつきは収まらない。

あの悪魔の不可解な言動のせいだ。

俺たちが逃げようとしているのにも関わらず、ニタリと笑う以外のことをしてこない。

余裕なのか何なのか、何を考えているのかわからない不気味さと、何もかも手のひらの上で転がされているような感覚に思わず生唾を飲む。

 

「ゆんゆん! 準備できたか!」

「大丈夫です! いきますよ……『テレ――――」

 

……ゆんゆんの魔法は発動しなかった。

まるで気絶したかのように、魔法を詠唱するのをやめてたことで、ゆんゆんの練り上がっていた魔力は宙に霧散したのだ。

 

「ど、どうしたの、ゆんゆん? もしかして私みたいにあの悪魔を放置して逃げるなんてできないって思ったの?」

「えっ……わ、私、今、何して……!? ご、ごめんなさい! もう一度テレポートの準備するので――!」

 

アクアがゆんゆんの肩を揺らすが、そこでゆんゆんは自身が何をしたのかに気づく。

ゆんゆんが魔法を使えなかったことに、俺とゆんゆんの顔に焦りが滲むが、それ以上に悪魔のあの貌……さらに口角が歪んで、面白がっているようで、寒気が背筋を貫く。

なんだ……何を見逃しているのか……胸騒ぎがする。

そんな悪い予感に焦りが加速し、周囲をくまなく見渡すと……予感が的中する。

 

「アクアっ、避けろ!!」

 

俺はアクアを突き飛ばす。

正直、こんながらじゃないのはわかってる。

でもどうしてだろうな……俺は背中に鈍い痛みを感じていた、身を挺してアクアを守る形で。

ダクネスの剣から。

 

「いっつ……! 今なにやろうとしてたんだ! ダクネス!」

「また貴様か……どうしてどうして! いつもワシの邪魔ばかりする!」

「ダクネス何言ってんだ! アクアのことを刺そうとして……アクアが悪魔に似てるってか!? 確かに一文字違いだけども間違えるわけ……!」

 

ダクネスに続きの言葉を言おうとして、俺は口を閉ざす。

――俺は知ってたはずだ。

あの魔道具が光ってからダクネスの様子がおかしかったことに。

それだけでおかしくなった理由は探さなくてもわかる……目の前の悪魔のせいでそれを考える隙すらなかっただけで。

 

「ダクネス……いや、アンタ。ダクネスと入れ替わってるアンタは、一体誰だ」

「……何を言っている。私はダクネスだ。いいからその悪魔にとどめを刺すために――」

「あのネックレスが光ったってことは、誰かと入れ替わってるはずなんだ。……はぁ、どうして俺ってやつは何も考えなしで悪魔のことばっかり考えてたんだろうな」

 

今までもやがかっていた点が鮮明に現れ、点と点が結ばれていく。

悪魔の能力、背後に潜む思惑そのすべてが。

 

「アンタがどうやってあの魔道具の使い方を知ったのかはわからないが、呪文を唱えたんだろ? そしてダクネスと入れ替わった……そうだろ

 

アルダープさん?」

 

ダクネス……いや、アルダープさんは剣を静かに下ろす。

その姿を見て、やはりダクネスではないことを確信する。

あいつならカンカンに怒るか呆れるかするはずだ……あんな冷酷な目をするはずがなかった。

 

「……全部繋がったぞ。悪魔がアルダープさんの名前を呼んでいたことも、アルダープさんが魔道具をダクネスに渡してきたのも。随分回りくどい手を使ったもんだ」

「……全く、本当は古代語を読める貴様を真っ先に殺したかったんだが。この役立たずめ、しくじりおって」

「悪魔はしくじってなんかない。俺ですら自分の体調の変化を見過ごすほどにはうまく調整されてたぞ、あの呪いは。だが、うちの駄女神が勝手に呪いを解いちまうことはアンタにとっても誤算だったんじゃないか?」

「くそったれめ……」

「あれでも魔法だけは一級品なんだぜ」

「ねえカズマ。私のことを貶したいんだか褒めたいんだか片方だけにしてちょうだい。どっちに反応すればいいかわかんなくなっちゃうから」

 

アクア、ちょっと黙ってろ。

そう思いながらも俺の視線はダクネスの一挙手一投足を捉え続ける。

悪魔のことを足蹴にするダクネスを見据えながら俺は最後の詰めにかかる準備を始めた。

 

「おかしいと思ったんだ。あのアルダープさんがお守り代わりに神器を貸し出すなんてな。何が起こるかわからない不確定要素を預けるなんて、アイリスの時にしないっていってたはずなのに」

「……よくそんなことまで覚えているものだ。そうだ、ワシの正体は――アレクセイ・バーネス・アルダープ、その人だッ!!」

「そ、そんな……!」

 

ゆんゆんはダクネスの中身がアルダープさんだと聞いて驚愕の声を上げる。

その言葉を聞いて俺は思わずため息をつく。

 

「……こうして、アルダープさんを主犯に仕立て上げたかったんだろ、どこかの誰かは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………はい?」

 

誰からか間抜けな声が漏れた。

最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…

  • 第6章(現在の章)
  • 第7章
  • 第8章
  • リメイクしてテンポよく進める
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