我は邪王真眼の使い手、めぐみん!   作:桃玉

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20-4 架空の…情報操作(パラドックス)

何かがおかしい……そう思っていた。

 

目の前の光景に対する違和感。

それは、恐怖や焦燥を塗りつぶすほどに強烈な不自然さ。

 

アクアとゆんゆんが放った魔法。

あれは外れたんじゃない。

魔法そのものが自らの意思を持ったかのように、直角に近い軌道を描いて悪魔を避けていった。

 

『悪魔が魔法を避けたんじゃない。魔法が悪魔を避けたんだ』

そう形容するしかない現象。

まるで『当たらなかった』という結果だけが、無理やり現実にねじ込まれたような気持ち悪さだ。

 

そう考えれば、今までの攻防もすべて説明がつく。

信じられないほど素早く、気配すら悟らせない挙動。

何度も俺を殺した、不可避の攻撃。

あれは身体能力の高さじゃない。

俺たちが反応できないよう、認識できないよう、因果そのものが改竄されていたとしたら?

 

『認識の改竄』

その単語が脳裏に浮かんだ瞬間、霧が晴れるように思考がクリアになっていく。

そうだ、俺はずっとおかしかった。

 

あの魔道具。

ダクネスの首元で光った、あのネックレス。

あれの使い方は、俺みたいな転生者、あるいはそれに準ずる知識を持つ者しか知らないはずだ。

勝手に発動するはずない。

なのに、俺はそれを深く考えようとしなかった。

 

なんか偶発的に発動したんだろ……そんな、普段の俺なら絶対にしないような思考放棄。

重要ではないと脳が勝手に処理を切り捨てた感覚。

思考に靄がかかり、目の前の矛盾を普通のこととして受け入れてしまっていた。

 

ゆんゆんもだ。

テレポートを使おうとして、突然ぼんやりとして魔法を中断したあの瞬間。

あれは詠唱失敗じゃない。

魔法を使うという思考そのものを、外部からいじられたようだった……。

 

 

 


 

 

 

「…………はい?」

 

ダクネスの口から、およそ彼女らしくない間抜けな声が漏れた。

それもそうだろう。

俺に正体を見破られ、自分の正体を明かしたのに――俺がそれを否定したのだから。

 

「ど、どういうことですかカズマさん……!? 目の前にいるダクネスさんは、アルダープじゃないってことですか!?」

「……最初にこの神器を使ったのはアルダープさんしかいないって、俺も思ったさ。でも悪魔がどんな力を使ってるか見て、点と点が繋がった。確かにダクネスの中身はアルダープさんだ。でも悪魔に操られていたんだ!」

 

俺がそう言うと悪魔を除く全員が目を見開く。

しかしすぐにダクネスの口がゆがむ。

 

「……ふん、自信満々に推理を披露するから焦ったがそんなものか。ワシがあの悪魔に操られているだと? おかしなことを言うではないか」

「ぷーくすくす! ズバリって感じで言ってたのに言い当てられなかったカズマさん、今どんな気持ち? ねえ、今どんな気持ちかしらぁ?」

 

ダクネスがそう言ったことで俺の推理がおかしかったとアクアは笑う。

ぶん殴ってやりたい……あのウザったい笑顔を!

だが、馬鹿に説明している時間が惜しい。

だがこのまま説明を放棄してもめんどくさいことになるのは目に見えてるし簡単に説明してやるか。

 

「あのなアクア。まともなアルダープさんがアホ丸出しで自白して墓穴掘るわけないだろ」

「アホ……丸出し……!」

「ひゅー……アルダープ、アルダープ! もっと代価を! 悪感情を!」

 

なぜかダクネスはダメージを受けたようにがっくりと膝をついている。

そして、代わりに悪魔が元気に喜んでいるのが不可解だが、俺の推理は止まらない。

 

「アルダープさんが正体を暴露してる時に思ってたんだ。あのアルダープさんがこんなヘマするのかって――あんなに理性的で、論理的な人が。そう思わないかゆんゆん」

「そ、そうかしら? 私的にはむしろ感情的だし、直感的な気がするんだけど……」

「しっ、静かにしてなさいゆんゆん! 今はカズマが迷探偵モードに入ってるのよ! あとで盛大に恥をかかせてやるチャンスなんだから!」

 

外野の雑音は無視だ無視。

俺はさらに畳み掛ける。

 

「ゆんゆん、冷静に考えてみろ。そもそも、アルダープさんが俺たちを殺したり、悪魔と手を組むメリットがどこにあるか? あの人はちょっと人当たりが激しいが、身は潔白で、根は領民思いの善良な貴族だぞ」

「『ちょっと』人当たりが激しいなんて思ってるのカズマさんだけなんじゃ……あと、よく私の胸に視線を感じ――」

「理性的で善良な人が自分から自白なんてするか? するわけがない。あの人がやるんだったらもっとわからないようにやるに決まってる。なのに見破られたあげく自白するなんて三流の悪役みたいなマネするもんか!」

「さ、三流……」

「確かにそんなの『私を捕まえてください』って言ってるようなものだし、悪のカリスマの欠片も感じないナンセンスさだったけど……」

「ナ、ナンセンス……」

「ひゅー……ひゅー……! アルダープの悪感情! 悪感情!」

 

再びダクネスはダメージを受けたようにがっくりと膝をついている。

……悪魔は人の負の感情が好きらしい。

そんなことを思っているうちにゆんゆんは、何かに気づいたように顔を上げた。

 

「ま、まさか、カズマさん……!」

「ああ、気づいたみたいだな。俺も最初はアルダープさん以外の誰かと入れ替わってるのかと思った……でも、あの魔道具の使い方を知るのはアルダープさん以外考えられない」

「つまり、少なくともアルダープを操るか何かしているはず! これはアルダープを陥れる誰かの陰謀……アルダープは、あの悪魔に操られて自らおかしな行動をさせられているのね!」

「カズマ? ゆんゆん? なんかダクネスなのかアルダープなのか偽物なのか操られてるのか、なんだかわからなくなてきたんですけど……つまりどういうことなの?」

 

俺とゆんゆんの推理を聞いて、アクアは頭を抱えていた。

ふっ……流石にアクアがこの高度な推理についてこれるなんて思っちゃいない。

ダクネスは図星だったのか、ポカンと口を開けていたが、やがてその表情が奇妙に歪んでいった。

 

「いや、しかしワシは確かにワシで操られてなど……って、なんでワシがこんな冒険者のクソガキの説明を真に受けてるのだ!?」

「……そうだよな。今のアルダープさんに言っても、思考そのものを操られてるから自分が被害者だってことすらわかんないよな」

 

声を荒げるダクネスに、俺は憐憫の眼差しを向ける。

ああ、なんてことだ……あの恩人が、こんな醜悪な悪魔に精神を乗っ取られ、自分の意志とは裏腹に悪事の片棒を担がされ、あまつさえ罪を被って自爆しようとしているなんて。

俺がもっと早く気づいていれば……!

 

「待っててくださいアルダープさん! この悪魔を倒して、必ずアンタのことを助けてやるからな……!」

「いや、話を聞け!」

 

俺が拳を握りしめ、背後の悪魔マクスウェルを睨みつけると、ダクネスはその場でわなわなと震えだした。

そして、チラリと後ろの悪魔の方を見る。

 

「……おいマクス、これもお前の仕業なのか!? それともこの小僧、本気で言っているのか!?」

「ひゅー……ひゅー……知らない、僕は知らないよアルダープ!」

「もしかして、今催眠的な何かが解けかかってるのか……!? アルダープさん! 悪魔のいうことに耳を貸しちゃだめだ!」

 

ダクネスが頭を抱えて唸りながら、悪魔の間でそんな視線のやり取りをしていたが、きっと洗脳が解けかかっている合図に違いない。

そう思って俺はアルダープに叫ぶが、一歩遅かったようだ。

 

「……まあ、どちらにせよ。ここでお前たちを亡き者にしてしまえばいいだけだ。ワシが貴様を殺そうとしたことも、この魔道具の効果もばれてしまったのだからな」

「くそ……っ! 早く悪魔を倒してやるからな……待っててくれよアルダープさん!」

「やれぃマクスウェル!! アイツらをこの部屋から生かして出すな!」

 

ダクネスがそう言うと悪魔は俺たちの方へ攻撃を仕掛けてきた。

……アクアの魔法が、直前で不自然に曲がり、ゆんゆんの魔法発動がキャンセルされ、俺たちの認識が歪められ……俺たちの攻撃は当たらず、悪魔の攻撃は当たる。

それを突破できないのに戦うなんて無謀もいいところだろう。

 

……だが、無謀だったのはさっきまでだ。

 

「アクア! ゆんゆん! あの悪魔に弱い魔法でいい! 俺たちが見えないように目眩まししてくれ!」

「弱くてもいいってどうしてよ! それじゃあ悪魔に攻撃が……」

「きっと、何か策があるんですよ! 『ロックラッシュ』! アクアさんも何か魔法を!」

「わ、わかったわ! 『エクソシズム』! 『エクソシズム』!」

 

さっきのダクネスが悪魔を呼んだ声を聞いて確信した。

俺の中で張り巡らされていた全ての点が、一瞬にして完璧な線で結びついた。

あの攻撃回避の現象。

当たるはずの魔法が、軌道をねじ曲げられて当たらなかった事象。

観測者効果、因果律の改竄……俺の抱いたすべての違和感の根源。

これら全ての事象を繋ぐ答えは一つ。

 

……あいつはマクスウェルの悪魔だ。

 

マクスウェルの悪魔。

俺のいた世界じゃあ有名なパラドックスだ。

情報を使ってエネルギーを取り出す悪魔が存在したら、永久機関が作れるかがわかるとかなんとか。

かつて中二病だった者なら大体が知っている事だ。

かく言う俺も中二病を克服した身であるため、その存在は知っていた。

 

しかし、その悪魔は架空の存在だ。

なぜなら、情報を「観測・記憶・消去」することでエントロピーが増大する……エントロピーが何かわからないが、つまり永久機関は作れないという結論になったからだ。

 

しかしこの異世界、想像が現実になるという厄介な特性を持っている。

実際に、冬将軍の到来とか天気予報でやってるせいで「冬といったら冬将軍」という転生者の勝手なイメージで冬将軍が冬の大精霊としてモンスターと化している。

 

マクスウェルの悪魔も例外じゃないのだろう。

だがしかし、俺の想像するマクスウェルの悪魔そのままであるなら――

 

「なっ、い、いつの間に!?」

「『クリエイト・ウォーター』からの『フリーズ』」

 

俺は潜伏スキルでダクネスの背後に忍び寄り、口を塞ぐように魔法を放った。

戦いなれていないアルダープさんには効果覿面だろうが、悪いことをしてない人に使うのは少し良心が痛む。

が、力では叶わないダクネスにはこれが一番最適だ。

最初こそ藻掻いていたダクネスだが、しばらくすると呼吸ができずに動かなくなっていく。

 

「あ、アルダープ! アルダープ! ひゅー……ひゅー……!」

「……やっぱりな。お前は洗脳するほどアルダープさんに固執してるみたいだが、目の前の攻撃を裁くので手一杯みたいだな。アクア、ゆんゆん! そのまま魔法を使いながら出口の方に移動してこい!」

「わ、わかりました!」

 

やっぱり、物理的な回避能力が高いわけじゃない。

魔法という現象、俺たちの思考を、情報として視ることで書き換えていたんだ。

だが、観測しなければ情報を処理――情報を「観測」し、「保存」し、最後に「消去」することはできない。

目の前の情報処理で手一杯ならそれ以上のことは考えられない。

保存した情報を消さないと、そのすっぽりと後頭部がない頭じゃ容量不足になっちまうからな。

 

すでにアルダープさんにもその能力を使って「情報を保存」しているのに、これ以上情報を追加するなんて、「情報を消去」しない限り難しいに違いない。

 

観測した情報を操り、思い通りの結果を引き寄せる。

だから俺たちの攻撃は当たらない。俺たちの攻撃も思考も誘導される。

こいつが無敵のように見える。

 

いや、実際ほとんど無敵なんだろう。

俺も思わずなんてチートな能力だよと笑ってしまうほどには馬鹿げた性能だ。

だが、そのカラクリさえ分かれば対処のしようはある。

 

「よし、二人とも来たな」

「あ、あのカズマさん、そろそろ魔力が……! いつまでこれしてればいいんですか!」

「ドアを閉めたらだ! いいか、閉めたらダクネスのこと担いで急いで上に駆け上がれ!」

「は、はい!」

 

ゆんゆんの声を聞いて、俺は悪魔に姿を見せることなくドアを閉めた。

「よしっ、駆け上がれ!!」と声を出すと、アクアとゆんゆんはダクネスの両脇を掴んで階段を駆け上がった。

やたら長く感じる階段を駆け上がると、明かりが見えてくる。

いよいよ最後の段を蹴飛ばすと、俺は隠し扉に鍵を掛ける。

そこでようやく安堵の息が出る。

 

「ふぅ……なんとかなったな」

「ですね……って、うわぁ……」

「ねえカズマ、いくらダクネスの生命力が逞しいからって、流石に口を凍りづけにしたまま気絶させておくのはどうかと思うの。しかもダクネスの中身別の人なんでしょ? もう少し手加減というか……白目むいてるし」

「し、しょうがないだろ! ダクネスの腕力を俺がなんとかできるわけないし、ダクネス――というか、アルダープさんを悪魔と引き剥がしつつこの地下から逃げるには必要だったんだよ!」

「悪魔から逃げるためとはいえ……流石にカズマさんの人間性を疑いますよ。おおよそ人間の所業とは思え……ひっ、ち、近寄らないでください!」

 

さすがに酷くないか?

俺なりにかなり頭を使って出た最適解なのにこんな怯えられて……

仲間に悪魔以上におびえられ、ダクネスの氷をティンダーで溶かしながらしょぼくれていると。

 

「ゆんゆん、カズマに怯えすぎよ。カズマだって必死に考えて出した答えなのよ」

「アクア……もしかして俺のことを庇って――」

「その結果悪魔的な作戦になるのはいつものことよ。前々からカズマに悪魔が憑いてるか悪魔に惑わされたか疑ってたけど、私の魔法もきかないし、カズマは元からこんなじゃない」

「あっ、確かに! すみませんカズマさん。必要以上に怯えちゃって……」

 

コイツら潰ス!!

……そう思い拳を握るが、実行するのは今じゃない。

階段の奥からヒタヒタと音が、敵意を隠すことなく近づいてくる悪魔の足音が聞こえてきたからだ。

最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…

  • 第6章(現在の章)
  • 第7章
  • 第8章
  • リメイクしてテンポよく進める
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