我は邪王真眼の使い手、めぐみん!   作:桃玉

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20-5 収束の…歪み(ディストーション)

地下室から脱出し、俺たちは必死で階段を駆け上がった。

なんとか悪魔の視界からは逃れたものの、恐怖と害意はまだ背中に張り付いている。

 

「はぁ、はぁ……! カズマさん、お願いです、代わってください! ダクネスさん、鎧着てるから見た目以上に重いんです! 私、魔法使いなんですよぉ!?」

「だめだ! 俺は索敵と指揮で手一杯だ!」

「もっともらしいこといってるけど両手に何も持ってないくせに手一杯なわけないでしょ! 貧弱なカズマさんにも能力向上の支援魔法あげてるんだから、我が儘言ってないで手伝いなさいな!」

「俺の非力さをなめるなよ! 重いダクネスを背負ったら、逃げるどころかその場で潰れて動けなくなるんだからな!」

「誰が動けないくさせたんですか! ダクネスさんが気絶してなければこんなヒィヒィ言いながら逃げなくてすんだのに……!」

「俺だよごめんなさい! いやでも、ダクネスというか、アルダープさんは悪魔に操られてるから、なんとか無力化しないとだったんだ!」

 

背後からヒタヒタと迫る悪魔の気配に怯えながら、ゆんゆんは半泣きでダクネスを背負って走る。

必死に屋敷の出口に向かいながら走っていると、後ろの方からあの悪魔の声が聞こえ始めた。

 

「恐怖の悪感情! アルダープ……アルダープ! こんなのを用意してくれるなんてやっぱりキミは最高だよアルダープ! もっとボクのことを楽しませてよアルダープ!」

「いぃぃいやぁぁあああぁあああああっ!!」

「……ねえカズマ。普通そんな叫び声出すのは女の子の方だと思うんですけど。どうしてゆんゆんの悲鳴をかき消すくらい大きな声で叫ぶのかしら」

「叫ぶに決まってんだろバカか!! ゆんゆんも言ってやれ! お前の頭がわいてるだけだぞって!」

「わ、私は別に叫んでなんか……女の子に重い荷物を担がせるカズマさんと一緒にしないでください!」

「まさかの敵意!? くそったれ!! お前らは対抗手段もあるしステータスも高いからいいよな! 俺なんて昨日今日で何回殺されてるか!!」

 

そんな言い合いをしている間にもマクスウェルはアルダープさんの名前を連呼しながら俺たちの後ろを追ってくる。

そんな悪魔に恐怖しながらも俺の中に一つの疑念が湧き上がった。

(……待てよ? アルダープさんとダクネスが入れ替わってたってことは、だ)

悪魔はアルダープさんを人質にして操っていた。

今、俺たちが保護したのは「ダクネスの体に入ったアルダープさん」だ。

じゃあ、「アルダープさんの体に入ったダクネス」はどこだ?

 

「おい、二人とも止まれ! 引き返すぞ!」

「えぇっ!? 正気ですかカズマさん! 悪魔がすぐそこまで来てるんですよ!?」

「ダクネスがまだ屋敷にいるはずだ! 見捨てるわけにはいかねぇだろ!」

「えっ、何言ってるのよカズマ。ダクネスならここにいるじゃない」

「そっちのじゃなくて、アルダープさんの体にいるダクネス……だああああ! ややこしい! とにかく、ゆんゆんとアクアはダクネスを連れて先にめぐみんの所に行け!!」

「まさかダクネスさん括弧アルダープさんの姿括弧閉じを探しに引き返すつもりですか!?」

「いいなそれ、聞いててわかりやすい。俺もそのダクネス括弧アルダープさんの姿括弧閉じって使お」

「言ってる場合!? 悪魔がすぐそこまで来てるんですよ! ダクネスさんを背負いながらなんて無理ですよ!」

「なら俺だけでも行ってくる! 急げ、俺は本物のダクネスを助け出してくる!」

「わかりました、ダクネスさんのことは任せてください! めぐみんに準備するように行ってきます! アクアさんも行きましょう!」

 

ゆんゆんがそう叫ぶと、アクアがピクリと反応した。

 

「……待って。私も一緒にダクネスのこと探してあげなくもないわよ」

「いや、いらない」

「なんでよぉ!! ダクネスの居場所も知らないくせに! 手分けして探した方がいいから手伝ってあげようと思ったのに!」

「ちょっと待って!? まさかダクネスさんのこと私一人で運べってことですか!? 無理で所こんな重い人を運ぶの!」

「ゆんゆん。ゆんゆんに負担を強いるのは申し訳ないと思うわ。でも、カズマは貧弱もやしっ子なのよ? もしダクネスを見つけたら誰が運ぶっていうの?」

「あっ、確かに……」

「おい」

 

思わずイラッとしたが、確かにアクアの言うとおり、俺がアルダープさんを背負って走れるわけがない。

いつもはアホ面晒して堕落してるのに、悪魔が絡むと女神っぽくなって少し感心してしまう。

 

「それじゃあゆんゆん、ダクネスのことは任せたぞ!」

「えっ、あ、ほ、本当に私一人でですか!? カズマさんが一緒に手伝ってくれたりなんか――」

「アクア、俺はこっちから探すからアクアはそっちを頼んだぞ」

「合点承知よ! この女神アクアに任せなさいな!」

「えっ、ええっ!? カ、カズ、アクアさ…………!?」

 

頼りない声を漏らすゆんゆんにダクネスを託して俺たちは走った。

ゆんゆんは普段はおどおどしているがやるときはやる子だ。

 

そうこうして俺たちは部屋を次々に開けて俺たちはダクネス括弧アルダープの姿括弧閉じのことを探す。

――が、なかなか見つからない。

 

「くそっ、一体どこにいるんだ! アクア、そっちの部屋は隅々まで見たんだよな!」

「もちろんよ! しっかり隅々まで探して、貴族秘蔵の高貴なシュワシュワを――じゃなくて、ダクネスのことを探してるに決まってるじゃない」

「おい。まさかとは思ったがこの大変なときにシュワシュワを盗もうとしてんのか」

「ぬ、盗みなんて外聞の悪い言い方はやめなさいな。私はただ、隠し部屋に眠っている高級シュワシュワを探すついでにダクネスを探して、救出しようとしてるだけよ! 爆裂魔法で全壊するかもだし、できるだけ大事なものは拾っておかないと!」

「…………なあ、その手に持ってる瓶は?」

「さっき見つけたのよ……いいでしょ!! もしかしたら救ってくれたお礼にもらえないかしら」

「おいてけ」

「いや」

「…………」

「……イヤよイヤ! ねえお願いよ、あの子がいないともう私生きていけないの! そこらの安いシュワシュワじゃ満足できない体になっちゃったの!」

 

こいつ……仲間の心配をしないでシュワシュワばっかり考えやがって!

毎日浴びるように飲んでたが、どれだけ虜になったんだよ!

 

「はぁ……わかった、わかったから! その一本くらいなら許すが――」

「やったわ! やっぱりカズマもシュワシュワの誘惑に耐えられなかったのね。うふふ、カズマさんのそういうところ、嫌いじゃないわよ」

「いや違うぞ? 俺が先にダクネスのこと見つけたらシュワシュワ一週間禁止だから。それと、そのシュワシュワもダクネス見つけられなかったら没収で」

「…………なるほど、カズマさんも強欲って訳ね。まさか高級シュワシュワを独り占めして、私に見せつけながら飲んで悦に浸りたいって訳ね」

「うん」

「でも残念ね、この女神アクア、水を司ることをお忘れじゃあないかしら」

「お忘れてた」

「そんな私に――体を構成する成分の内、およそ8割を水分が占める人体の探知――水という分野で、この私に、1ミリメートルでも勝てるとでも思っていたのかしら!」

 

……逆に問いたい、どうしてそれができるのに最初からやらなかったのか。

それと、かっこつけたいんだったら8割とか1ミリメートルとか、かっこ悪い言い回しをやめた方がいいと思う……いろいろ間違っててほかの部分が全部台無しになってるから。

まあ多分、手当たり次第ドアを開け閉めしてるし、探知能力なんてないのだろうが……

 

(この調子ならすぐに見つかるな)

 

ご丁寧に俺の支援魔法を解除して、自分に何重にも重ね掛けして探しているアクアにあきれながら俺も再び探し始める。

馬の鼻先に人参をぶら下げるって諺があるが、駄女神の鼻先にシュワシュワを見せびらかせるとかに変えた方がいいと思う――なんて思いながらもドアを開けると……

 

「あっ、いた」

「う、うそよ、そんな……そんなぁあああああああああっぁ、ぅぁ、ぁあああああああぁああッッ゛!!」

 

アクアの泣き崩れる声。

そこには寝台の上でぐったりと横たわる、寝間着姿のアルダープの姿があった。

 

「おいダクネス、しっかりしろ! ……くそっ、顔色が悪い。毒でも盛られたか!? アクアがそんなに泣いてるってことはまさか手遅れってことか!?」

「私のシュワシュワがぁあああああああ……一週間禁酒なんて無理よぉ」

「おい、それでも女神か」

「ダクネスなんだからこれくらいのことで死ぬわけないじゃない! むしろ毒を盛られてるんだったら喜んでるはずよ!」

「確かに……いや、今はダクネスの体はアルダープさんのだし、喜んではいるかもだけど毒とか状態異常耐性はなような……」

「そんなことより後生よ! カズマ、いやカズマ様お願いします! お願いだから禁酒だけは!」

 

この女神、仲間の命よりシュワシュワらしい。

 

「いや、仲間の心配しろよ。別にダクネスの捜索を本気出してもらうための方便だったし禁酒なしでい――」

「『セイクリッド・ハイネスヒール』! 何やってるのカズマ! あの棚、王家御用達のロイヤルシュワシュワがあるわよ! あー! こっちにはヴィンテージがあるわ! カズマ、手伝って、一人じゃ全部持てないわ! ダクネスに完全回復の魔法かけたし三人で山分けでいいから全部持って帰りましょう!」

 

俺が寝台に駆け寄るのと同時に、アクアは部屋の奥の酒棚へダイブした。

……一応さっきの魔法、ポンポン使うから忘れがちだが最上級の回復魔法なんだよな。

どれだけシュワシュワが好きなのか、本当に一回だけ禁酒した方が体のためなんじゃないか。

そんなことを思っていると、ダクネスの顔色が明らかによくなっていた。

 

「おいダクネス! 起きろ! 悪魔が来るぞ!」

 

俺は寝台の上の人物の肩を揺さぶるが、反応がない。

どうやら深く眠っているようだ。

あるいは、悪魔の呪いの後遺症で意識が混濁しているのかもしれない。

悠長に起こしている時間はない。

 

「『フリーズ』」

「ひぃっ!? つ、つめたぁぁぁぁっ!!? な、なにごとだ……!? 貴様は……!? なぜワシの寝込みを襲って、顔面を凍らせるような真似を……!」

 

寝台の上の人物が飛び起きた。

俺は状況を理解できていなかったが、目の前の人物が混乱しているのは見て取れた。

ダクネスなら「ふくぅ……! 冷たいプレイも悪くない……!」とか言って済むが、今回に限っては様子がおかしい。

 

「貴様……! ワシとララティーナのことを邪魔しおって! ここで殺してくれる!」

「うわっ!? なにすんだよ!」

「目撃者さえいなければ貴族の権限を使ってうやむやに……」

 

おかしい。

ダクネスの一人称はワシなんかじゃないし、俺のことをここまで殺そうとするなんておかしい。

ワシなんてアルダープさんみたいな一人称をダクネスが使うわけ……

 

まさかアルダープさんと入れ替わりがとけたのかとも思ったが、まだ魔道具の効果は続いているはずだ。

俺がアイリスと入れ替わってた時間はこんなもんじゃなかったし、まだ解けるはずがない。

それなのに一体どうして……

 

(そうか、アルダープが操られてたみたいにダクネスも悪魔の呪いで混乱してるのか!)

 

アルダープさんが操られていたなら、同時期にダクネスも操られていたと考えるのが自然だ。

ダクネスは今、悪魔によって――!

 

「くそっ悪魔め! やっかいなことしやがって! 『ドレイン・タッチ』!!」

「ぐ、がぁぁぁ……き、きさ、ま……」

 

俺はアルダープの胸倉を掴むと、至近距離でスキルを発動させた。

普段のダクネスなら時間がかかっただろうが、肉体がアルダープさんだったおかげで手短にすんだ。

ダクネスは白目を剥き、再びぐったりと意識を失った。

 

「ふぅ……危なかった。暴れられたら運ぶどころじゃなかったぜ」

「どうしてダクネスのこと気絶させたのよ! これじゃあシュワシュワを全部持って帰るどころか一本だって怪しいじゃない!」

「そう言ってる場合じゃないだろ! 悪魔がいないうちに早く脱出しないと……」

 

 

 

 

《一方その頃、廊下にて》

 

「ひぃぃぃ! 重いです、ダクネスさん重いですぅ! カズマさんの馬鹿ぁ!」

 

ゆんゆんは涙目で、ダクネスを背負って走っていた。

背後からは、確実な死の気配が迫っている。

 

「ひゅー……ひゅー……! 逃がさないよ、ボクのアルダープ! もっと絶望をちょうだい!」

「いやぁぁぁ! 来ないでぇぇぇ!! ダクネスさん! 早く! 早く目を覚まして! もう無理ぃ!」

 

ゆんゆんは全てを振り絞って走る。

重い鎧を外す暇などなく、ただでさえ筋肉質で体格差があるダクネスを運ぶことさえ困難だというのに、懸命に逃げる。

途中で何度筋肉と鎧の塊を捨てようかと思ったことか。

しかしゆんゆんは捨てることをやめない。

それは仲間であるが故――挫けそうになっても、支援魔法が切れても、足は止めなかった。

 

しかし限界がくる。

玄関の前まで到達したというのに、そこには数十段の階段があった。

 

「ダクネスさん……ごめんなさい!」

 

ゆんゆんはダクネスを下ろして、ダクネスの足を掴んで引き釣りながら階段を折り始めた。

しかし、悪魔との距離はみるみる埋まっていき、あと数メートルで追いつかれそうだという近さ。

もう終わった……そう思ってしまうほどの詰め寄られていた。

 

「もう……無理……!」

 

ゆんゆんがどう声を出したとき、不思議なことが起こった。

目前まで迫っていた悪魔が、急に足を止めた。

その視線が、床に転がるダクネスから、別の方へと移ったのだ。

悪魔はゆんゆんたちへの興味を失ったようで、今度は猛スピードでどこかへ向かい始めた。

 

「……あれ? え……? た、助かった……?」

 

ゆんゆんは腰を抜かしたまま、ポカンと悪魔の背中を見送った。

 

 

 

 

 

《再び、アルダープの私室》

 

俺の背筋をぞわりとする感覚がなぞる。

間違いない……あの悪魔の気配だ。

 

「来るぞ! アクア、窓だ! このアルダープさん運ぶの手伝え!」

「絶対いやよ! そのおじさん運ぶのに手をとられたら、せっかく見つけた『シュワシュワ』を持って行けないじゃない!」

「馬鹿野郎! 命と酒どっちが大事だ!」

「シュワシュワに決まってるでしょ!」

 

アクアは両脇に高級そうな酒瓶を抱え、頑として拒否した。

俺はシュワシュワをアクアから取り上げようとしていると、急にアクアは抵抗をやめて、急に真剣な顔つきになり立ち上がる。

何か、覚悟を決めたような眼差しだった。

アクアは顔をうつむかせながら俺に背を向け、悪魔が来るであろう部屋の扉を見つめる。

 

「……いいわ、わかったわよカズマ。ここは私が引き受けるわ」

「な、何言ってんだよ……お前がいないとダクネスのこと運べないだろ」

「ふふっ、カズマは私がいないと何もできないんだから。『パワード』『パワード』『スピード』『スピード』。……重ねがけしておいたわ、これでカズマでも運べるはずよ」

「な、なに言って……」

「先に行ってなさいって言ってるのがわからない? 私たち二人で逃げて、あの悪魔から逃げ切れると思ってるの?」

「アクア……」

「私が足止めしておくわ。だからカズマ、アンタは先に行きなさい。…………何そんな顔してるのよ。大丈夫よ、私を誰だと思ってるの? 全国に一千万の信者を抱える女神アクアなのよ。」

「…………」

「それに、時間を稼ぐとは言ったけど…………別に、アレを倒してしまっても構わないのでしょう? 悪魔なんてコテンパンにしてやるわ。だから、私のことは置いていって」

 

絶望の境地で、それでも勝利を仄めかすアクア。

不思議と、絶対一人では勝てない敵であるはずなのに、こいつの背を見ると絶望とは別の感情がわき上がってくる。

その感情は希望だったのかもしれない……酒瓶抱えた状態じゃなきゃ

 

俺は無言でアクアに近づき、その両脇の酒瓶を掴むと――

床に叩きつけて粉砕した。

 

「あぁぁぁぁぁぁっ!! 私の、私のヴィンテージシュワシュワァァァッ!!」

「ほら、くだらないこと言ってないでいくぞ」

「くだらなくないわよ! 私に弁償しなさいよ!」

「元々お前のじゃないだろ」

 

そんなことをしてる間にも悪魔がやってくる気配は強くなっていく。

アクアに絶望とはなんたるかを教えてやった俺はすっきりとした顔でダクネスのことを抱えあげる。

泣きじゃくるアクアのことを放置して、俺は窓を蹴破った。

 

「ついてこい駄女神! 飛び降りるぞ!」

「覚えてなさいカズマ!!」

 

もうドアからの脱出は悪魔と遭遇するし危険だと判断し、俺たちは窓から庭の植え込み目掛けてダイブした。

アクアの筋力強化魔法のおかげで華麗に着地――

 

「あ、足首を挫きましたァ!!」

 

――できなかった。

着地の衝撃で、俺の貧弱な足首から嫌な音がした。

激痛が走る。

アルダープさんを庇ったせいで、俺自身がクッションになってしまった。

 

「……だから窓はやめましょうって言ったのに。これはシュワシュワの祟りよ」

「言ってなかっただろ! というか祟りとか言ってる場合か! 早く治せ! 回復魔法だ!」

「やーよ。酒の恨みは怖いのよ」

「このっ……! 無事に生きて帰れたらダクネスにこのことチクってやるからな!」

 

そんな不毛なやり取りをしている間にも、窓から黒い影が飛び出してきた。

マクスウェルだ。

 

「ひゅー……! アルダープ! アルダープアルダープ!」

「アクア! 回復! マジで早く!」

「帰ったらさっき壊した分のシュワシュワ奢りなさいよ! 『ヒール』」

 

アクアの魔法のおかげでなんとか走れるようになる。

急いで走るが、悪魔との距離はどんどん縮まっていく。

 

そして、悪魔との距離がもう数メートルになって……

絶体絶命のピンチに、俺がとっさに取った行動は――

 

「く、来るな! これ以上近づいたら、こいつがどうなってもいいのか!?」

 

俺は抱えていたアルダープさんの体を、盾にするように悪魔の前に突き出し、剣を首元に近づけた。

とっさの行動だった。

悪魔が今までアルダープさんのことを追っていたようにその名を連呼していたが故に、人質という考えが過ぎってしまったのだ。

しかし存外この方法は有効だったらしく、悪魔はびくりと硬直し、足を止めた。

俺はホッとして安堵の息を漏らすが……

 

「カズマさん、最低です!」

 

そんな悲鳴を上げたのは悪魔でもアクアでもない。

ゆんゆんだ。

そして、その横には――

 

「カズマ! 貴様、なぜアルダープ殿を人質に取っているのだ!」

 

そこにいたのはダクネスだ。

アルダープさんと入れ替わっている感じはなく、本来の鎧姿に戻ったダクネスが、心底信じられないものを見る目で俺を見ていたのだ。

俺の思考が停止する。

 

「どういうことだ!? ダクネス、もしかして入れ替わりが解除されてるのか!?」

「それはそうでしょ。最上級の回復魔法、セイクリッド・ハイネスヒールはただ治すだけじゃなくて状態異常も治すのよ? 私にかかれば神器だろうと何だろうとちょちょいのちょいよ! どうどう? 私のこと褒めてくれてもいいのよ?」

 

……なら今まで俺がアルダープさんを窒息させたりしたの意味ないじゃねえか。

ゆんゆんも「私の努力は一体……」と肩を落としている。

後で絶対殴る。

泣いても殴る。

そう思ったが今はそれどころじゃない。

悪魔がアルダープを奪還しようと手を伸ばしてくる。

 

「ダクネス、ゆんゆん、時間稼ぎだ! 俺とアクアでアルダープさんを連れて逃げる!」

「ま、待ってください、私がテレポートを使いますからダクネスさんと一緒にカズマさんは足止めを!」

「なっ!?」

 

それだとまたさっきみたいに悪魔にテレポートを阻止されるんじゃ……!?

そう思いゆんゆんのことを止めようとするが、ダクネスが。

 

「大丈夫だカズマ! 先ほどめぐみんが悪魔の能力について対策があると言っていた!」

「弱点!? ……わかった、説明は後で聞くからな! アクア! 支援魔法と回復魔法をダクネスに!」

「わかったわ!!」

 

ダクネスが壁となり、アクアが支援だ。

めぐみんのことを信用してないわけじゃないが、その対策とやらがどれだけ通用するのかわからない以上、俺はゆんゆんのことを隠すように立つ。

俺の考えが正しいなら、悪魔の能力は『観測』しないと発動しないはずだからな。

十秒にも満たない時間のはずなのに異様に長く感じる時の中固唾をのんでいると、テレポートの準備が終わったゆんゆんが叫ぶ。

 

「準備できました! テレポートで離脱します!」

「みんな! ゆんゆんの方へ集まれ!」

 

マクスウェルはそんな俺たちの様子を見てニヤニヤと笑う。

また俺たちのテレポートを阻害しようとしているのだろう。

 

本当にめぐみんのいう対策が有効なのか。

そもそも対策っていうのは何なのか。

不安に思っていた……そんなときだった。

 

「真打ち登場……!」

 

遠くから聞こえる、なじみのある声。

後ろを振り向くと、さっきまでは気配すらなかった仲間の陰。

右目を紅く煌々と、眼帯の隙間から金色を爛々と漏らす魔法使いは、潜めていたのであろう魔力を解き放つ。

めぐみんの周りの景色が歪んで見えるのと同時に、魔法陣が空に幾重に描き出される。

 

「めぐみん、後は任せたわよ! 『テレポート』!」

 

めぐみんは何も言わなかった。

そもそも聞こえてすらいないのだろう。

しかし、ゆんゆんがめぐみんの方を見ると、あとは任せてくださいと言うように笑って見せた。

それを見ると魔法を発動する。

 

……景色が歪む一瞬の後。

そこには、紅魔族の少女が、荒れ狂う魔力の風にマントをたなびかせて待ち構えていた。

俺たちはめぐみんの後ろへ転移していたのだ。

 

「うまくいったようですね」

「めぐみん!」

「ふっふっふ……待ちわびていましたよ、このときを!」

 

めぐみんは眼帯を取り払い、高らかに笑う。

 

「なんで……! なぜあの悪魔の力を……」

「能力の影響を受けなかった理由ですか? 簡単なことです」

 

めぐみんは杖を前へ突きつける。

その先端には、すでに膨大な魔力が渦巻いていた。

 

「同格以上であれば能力がうまく作用しない……アクアや私のように、魔力が多ければ。それがこの世界の揺るがぬ理です」

「で、でもそんなこというんだったらアクアの魔法が効かなかったわけは……!」

「普通、全魔力を消費して魔法は撃たないでしょう? 魔法自体に干渉すればあり得ない話ではありません……私を除いてですがね」

 

そう言うとめぐみんは、俺たちに襲いかかろうとする悪魔に、突き刺すように視線を真っ直ぐに。

 

「以前、紅魔族随一の占い師であるそけっとに、見通す悪魔の力で私の未来を観てもらったのですがね、我が強大な魔力に阻まれ見通せなかったのですよ。公爵級の大悪まであるというのにもかかわらず。日に日に強大になっている我が力。あなたに受け止められる道理は……ありませんよ!」

 

悪魔が必死に何かをしようと手を伸ばすが、魔法陣の輝きは揺らがない。

全魔力がめぐみんの前に収束し、風がピタリとやむ。

この後やってくる嵐を確信した。

 

――我が体は魔力で出来ている。

我は真紅で神は黄金。

幾たびの戦場を越えて不敗。ただの一度も敗走はなく、ただの一度も理解されない。

彼の者は常に独り。紅は微睡みの中で邂逅を切望する。

その体は、きっと魔法で出来ていた。

 

 

 

『エクスプロージョン!!』

 

焦がす爆炎が、悪魔の悲鳴ごと全てを飲み込んだ。

光と煙に包まれた屋敷の庭、その中心目掛けて、最強の破壊が叩き込まれた。

マクスウェルの能力が、情報として処理できないほどの暴力。

因果を弄る余地も、観測する暇すら与えられない、確定した結果。

 

爆裂魔法の轟音と閃光は、屋敷全体を飲み込み、夜の闇を一瞬で昼に変えた。

全てを破壊し尽くす、紅魔族の切り札によって。

マクスウェルの悪魔は、完全に討伐されたのだ。




長くなりすぎました……もしかしたら次は来週かもです。

最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…

  • 第6章(現在の章)
  • 第7章
  • 第8章
  • リメイクしてテンポよく進める
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