我は邪王真眼の使い手、めぐみん!   作:桃玉

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なんとか投稿間に合いました……


20-6 因果の…暗黒世界(ディストピア)

「わーっはっはっは! 我が紅蓮の炎に包まれ眠るがいい!」

「んなこといってる場合か! 悪魔は倒せたが、お前の魔法のせいでアルダープさんの屋敷が!」

 

激しい熱風が頬を叩く。

それだけじゃない気怠さと頭部の痛み。

そのあまりの不快感にワシは意識を取り戻した。

 

「……あ、あつい……! な、なにごとだ……!?」

 

頭を押さえながら目を細める。

朦朧とする意識の中で目を開ければ、そこにあったのはワシの自慢の屋敷……だったはずだ。

しかし目に映るのは巨大なクレーター。

それに飲み込まれる形で半分ほどが消え去った別邸が業火に包まれていた。

 

「大丈夫よカズマ! 水を司るこの私に任せなさいな……『セイクリッド・クリエイトウォーター』!!」

 

あのふざけたプリーストの声が聞こえる。

その瞬間、上空に黒雲が立ち上り、雨がひたひたと降り始めた。

ワシの屋敷を消火してくれる恵みの雨に思わず感謝した……のだが。

 

「ナイスだアクア!」

「ふふん、そりゃ水の女神ですから! でもこれくらい、私の全力には及ばないわ。せっかくだし、私がどれだけすごい存在なのか、最近ぞんざいな扱いをしてるカズマにしっかり教えてあげましょうか!」

「あの、アクア? 一体何をしようとし……!? ちょ、お前、鎮火してるからもうこれ以上はいいって! やめっ、もうこれ以上はやり過……ぼぼぼっ!?」

 

目の前に押し寄せる大量の水。

まるで巨大な生物のように押し寄せるそれは、ワシを一気に飲み込んだ。

荒れ狂う激流の中、必死に息をしようとするが叶わない。

しかし、しばらく流されるとその水の流れは収まったようで、ワシは咳き込みながら呼吸をしようと必死になる。

ようやく呼吸が収まってきた頃、顔を上げるとそこにあったのは――

 

「わ、ワシの屋敷が…………」

 

――先ほどまではあった屋敷が見るも無惨な姿で全壊していた。

炎に包まれていたところはすべて流され、かろうじて引火していなかった場所も水浸しどころか瓦礫と化していた。

 

「アルダープさん、無事だったか!!」

 

唖然としていると、聞き覚えのある声。

思わず顔を上げると、そこにはララティーナの冒険仲間の小僧が、心配そうな顔で駆け寄ってきていた。

そうだ、ワシはあの小僧におかしな技で眠らされて……何が起きたのかはわからぬが、全身にひどいだるさの原因はこいつか!

 

「大丈夫ですよ、アルダープさん、あの恐ろしい悪魔は、俺たちが討伐しました! ……ちょっとアルダープさんの屋敷が、その……」

「き、貴様! ワシに危害を加えただけにとどまらず、ワシの屋敷をも……!!」

 

ワシは震える指先で、瓦礫の山と化した愛邸を指差した。

数時間前まで、ここにはワシの権威を象徴する豪華絢爛な屋敷だった。

最高級の酒があり、ワシの指先一つで恐怖に震える女たちを呼び込める、まさに極楽浄土。

それが今や、炎に焼かれ、洪水に流され、見るも無惨な泥溜まりとなっている。

 

「いや、本当にうちの仲間がすみません! で、でも、悪魔マクスウェルに操られていたアルダープ様を助けるにはこれしかなくて! 安心してください、屋敷は壊れちゃいましたけど、ダクネスと俺が証人となって『アルダープさんは悪魔の被害者だ』って証言しますから――」

「ふざけるな、誰がそんなことを望んだ!」

「ま、まさかアルダープさん……悪魔に操られていたときの自分のことを責めて――!?」

 

ワシは泥水を吐き捨て、ヤツの言葉を無視する。

こいつは何もわかっていない。

悪魔を呼び出し、神器を乱用していた事実が残れば、ワシの貴族としての地位は保証されまい。

 

確かに、大貴族であるダスティネス家が証言すれば、ギロチンは免れるかもしれん。

しかし、たとえ「悪魔の被害者」として死刑にならずとも、これだけの不祥事だ。

家督は没収、爵位は剥奪されるに決まっている。

 

爵位を剥奪され、平民に落ちる。

それは、贅の限りを尽くしたこの生活を捨て、領内の女を好きなだけ弄ぶ特権を失うということだ!

あの平民どもと同じ泥水をすすり、汗水垂らして働くなど、考えただけでも反吐が出る!

そんなのは、死ぬよりも屈辱だ!

ワシは貴族として、領民の生殺与奪を握り、ララティーナのような高貴な女をこの手で汚し、欲望のままに振る舞う生活がしたいのだ!

 

(……マクスウェルだ。あいつがいれば、今までの悪事の記憶を消させ、公文書を書き換えさせ、この状況を全て『なかったこと』にできるはずだ……!)

「あっ、ちょっと、アルダープさん!? 一体どこに行く気……まさか屋敷に戻るのか!? 危ないからやめ――!」

 

 

 

 

ワシは制止を振り切り、這いずるようにして崩壊した屋敷へと向かった。

崩壊した廊下と、焦燥の道中。

かつては最高級の絨毯が敷かれ、名画が飾られていた廊下は、今や膝まで水に浸かり、折れた柱が牙のように突き出している。

 

(くそっ、重い……! あの爆裂女と悪徳プリーストめ、ワシの家を、ワシの権威を、ここまで無惨に! なぜワシが、こんな泥の中を歩かねばならんのだ!)

 

どれほど走っただろうか。

普段なら数秒で着くはずの距離が、永遠のように感じられる。

一歩踏み出すたびに、水浸しの瓦礫が足を切り、煤の混じった水が高級な外套を汚していく。

いつもなら「おい、誰か掃除しろ!」と怒鳴れば済むはずなのに、返ってくるのは不気味な建材の軋む音と、遠くで聞こえる爆裂娘の「ナイス爆裂!」という間抜けな歓声だけ。

時間が、恐ろしく長く感じる。

一分一秒経つごとに、ワシの権威が、財産が、指の間からこぼれ落ちていく感覚に、心臓が潰れそうになる。

 

焦りと恐怖で心臓がうるさいほどに脈打ち、脂汗が顔を伝う。

それでも止まるわけにはいかない。

屋敷の地下に、もう一つの魔道具があるのだ!

 

「はぁ、はぁ……! あった、ここだ……!」

 

瓦礫をどかし、地下への扉をこじ開ける。

マクスウェルの魔法がまだ機能していたようで、中は崩落することなく以前と同じように保たれていた。

部屋の中には、ランダムにモンスターを召喚する神器が、以前と変わらぬ禍々しい輝きを放っていた。

これさえあれば、もう一度マクスウェルを呼び出し、この破滅した現状を……ワシの輝かしい貴族生活を、無理やりにでも修復させられるはずだ!

 

「これだ、これさえあれば……! 戻ってこい、マクスウェル! この無能、愚図、役立たず! ワシの言うことを聞けぇ!」

 

ワシが杖をひっ掴み、絶叫したその時――。

背後から、聞き慣れたあの不気味な呼吸音が聞こえた。

 

「ひゅー……ひゅー……! お呼びかな、アルダープ」

「マ、マクスウェル! おお、マクスウェルよ! やはり戻ってきたか!」

 

このアルダープ、最近不幸ばかり続いていたが、やはり強運で守られている!

大胆な「行動力」で対処すれば、幸せな人生を謳歌できるのだ!

ワシは歓喜に震え、ニヤリと口角を上げた。

振り向くと、そこにはひょろりとした、見覚えのある人影が立っていた。

 

「……ひゅー。ねえ、アルダープ。ボクと一度契約してくれるかい? 今までの悪行をなかったことにする代わりに、キミがマクスウェルに支払わなかった代価を、今度こそきっちりと支払うという契約を……」

 

一瞬、その言い回しに違和感を覚えた。

あやつは、これほど流暢に喋る男だっただろうか。

マクスは、こんなにも理路整然と、皮肉を込めたような喋り方をする男だっただろうか。

 

だが、そんな些細なことはどうでもいい。

こいつを再び従わせれば、ワシはまた大貴族として、ララティーナを膝の上に乗せてシュワシュワを飲む生活に戻れるのだ!

今この状況からワシを救い出せるなら些細なことだ!

 

「ああ、もちろんだ! 契約だ! ワシをこの状況から救い出し、死刑から……そしてこの貧乏くさい状況から守ってくれるなら、代価などいくらでも払ってやる!」

 

ワシがそう絶叫し、契約を了承した瞬間だった。

マクスウェルの姿が、陽炎のように揺らめく。

 

「……ふむ。では、契約成立であるな。我が同胞を随分とこき使ってくれたようだが……その厚顔無恥な精神、なかなかどうしておいしそうだ。……なに、貴様が今考えている『平民に落ちて女を弄べなくなるのが嫌だ』という、その吐き気を催すほどゲスな本音……すべてお見通しであるからして、今更取り繕うようなまねはせずともよいぞ」

「…………は?」

 

ワシの心を見透かしたような言葉に、背筋が凍った。

なんだ、この男は。

マクスウェルと同じ声を出しながら、所作はまるで別人のように洗練されている。

薄暗い部屋の中で、その顔が見えた。

……マクスウェルの特徴的な、欠けた後頭部ではない。

そこにあったのは、白と黒の不気味な仮面。

 

「だ、誰だ貴様! マクスウェルはどうした!」

「あやつなら、先ほど爆裂魔法で消し飛ばされた。まあ、地獄の公爵の一人として、地獄に帰っただけなのだが……ふわははは! そのような絶望の悪感情はマクスウェルの好みの感情であるな。冗談だと思っている傲慢な男よ、我が輩は嘘をつかない主義なのである。現実から目をそらす愚かな行為はやめた方がいい、まるで愚図のようであるからして……っと、失敬失敬! 貴様の場合は『ようである』のではなくそのものであったな!」

「人の心を見透かしたような言動……このワシを誰だと思っておる! 貴族に向かってこんな態度、無礼千万だぞ!」

「ふむ、まだ状況を飲み込めていないようだ。よく聞くがいい、マクスウェルのペットとなる男よ。我が輩はマクスウェルの同胞にして地獄の公爵、諸悪の根源にして見通す悪魔…………バニルである。とあるおつかいのついでに、貴様から溢れ出している悪感情を味わいに来た、慈悲深い悪魔である。……さて。キミは我が輩と契約を交わしたのだ。もう後戻りはできぬぞ?」

「な、なにをいってるのだ……」

 

不気味だ。

あまりにも不気味な奴だ。

だが、ワシはアレクセイ・バーネス・アルダープ。

相手が悪魔だろうと、ワシの命令に従う道具に過ぎん!

 

「ええい、マクスウェルの同胞なら、仰々しい口上などいいからワシを助けろ! 貴様も悪魔なら、ワシと交わした契約を遂行しろ!」

「ふむ……『死刑も平民になるのも御免だ!! 早くワシのことを助けろ!』……か。そんなにいくつも契約をしてくれるとは太っ腹なお客様であるな。我が輩としては代価を払ってくれるのであれば何でもいいのだが……本当に払ってくれるのだな?」

「か、構わん! 代価は払う! だから早くしろ、でないとあの冒険者が来る!」

「確かに念押ししたぞ? であればその願い、確かに聞き届けよう。我が輩は慈悲深いからな」

「ほ、本当か!? さすがは悪魔だ! さあ、今すぐワシをどこか安全な……!」

「フハハハハ! ああ、よいとも、死と無縁な場所に案内してあげようとも。老いることもなく死ぬことも、殺されることも決してない、永遠の揺り籠へ招待してやろう。……マクスウェルよ、準備はいいか?」

 

ワシが了承すると、バニルは不気味に笑い始めた。

バニルが虚空に向かって手を振ると、ドロリとした闇の中から、実体を持たぬ飢えた影――マクスウェルの気配が再び現れた。

 

「マクスウェル! おお、来たか! これでもう一度、ワシの天下だ!」

「ひゅー……ひゅー……! アルダープ、アルダープ……! 代価を……代価をちょうだいよ……!」

「あ? ああ、やるから今は早くあの冒険者たちを――」

 

ワシは勝利を確信し、狂喜した。

しかし、マクスウェルはワシの命令を聞く代わりに、よだれを垂らすような音を立てて近寄ってくる。

マクスウェルがワシの腕に触れた瞬間、激痛が走った。

 

「ぎ、ぎゃあああああああああああかっ!!?」

 

骨が砕け、肉が削ぎ落とされるような激痛が走った。

ワシの腕が、肩から先が、マクスウェルの影に食い千切られ、霧散していく!

 

「な、何を……!? バニル! 助けろ! 契約と違うではないか! ワシを助けると言っただろう!」

「助けているではないか。これから死ぬことすら許されず、永遠にマクスウェルに悪感情を捧げ続ける場所……地獄に連れて行くのだからな」

「じ、地獄……」

「死刑よりも、遥かに『安全』な場所だ。死ぬことも、誰かに殺されることも、未来永劫ありはしないのだからな。代価は、貴様のその醜い魂から出る、極上の負の感情ですべて払ってもらおう」

「だ、代価は……」

「他の者で払うとな? 残念、非常に残念であるのだが、代価支払いの対象は契約をした本人である」

「ひっ、あ、ああああああああっ!!!」

「……フワハハハハ! 実に素晴らしい絶望だ!」

 

悶え苦しみ、バニルに縋ろうとしたが、仮面の悪魔はただ楽しげにそれを見下ろしているだけだった。

ワシの体が、闇に飲み込まれていく。

死ぬこともできず、贅沢もできず、ただ永遠に悪魔の餌となる。

ワシの意識は、底なしの絶望の中へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

「……さて。マクスウェルの奴め、随分といい餌を見つけたものだ。実に仲睦まじいことで、見ていて我が輩も気分が良いぞ」

 

後に残された廃墟で満足げに肩をすくめた。

仮面の奥の瞳が、今しがた「相思相愛」で地獄へと旅立った一人と一匹の余韻を味わうように細められる。

 

(……思えば、あの貧乏店主との会話が始まりであったな)

 

それは、アクセルの街の魔道具店でのこと。

魔道具店のカウンターで、魔王軍幹部のリッチーが泣きそうな顔で、我が輩が赤字経営を説教したのは数週間前のことだ。

 

 

「どれだけの赤字を生み出せば気が済むのだ貧乏店主めっ!」

「ヒィィイ! ごめんなさいバニルさん! でも私だって頑張ってるんですよ!」

「はぁ……現状を見て魔王の使いをしてる余裕が消え失せたぞ」

「魔王さんからのお使い……ですか?」

「うむ。実は例の幹部の変態騎士が失踪してな。魔王城で部下のことをおちょくってる暇があるならと、その所在を調査することを頼まれたのだ」

「ベルディアさんですか? あの人ならカズマさんたちが討伐しましたよ?」

「ほう。あの実力だけはある首なし騎士がついに力尽きたか」

「はい! 実はアクセルの街を拠点にしている、サトウカズマさんという駆け出しの冒険者が倒してしまったんですよ。さらに、あのデストロイヤーが襲撃してきた時も、彼が中心になって爆破してしまったんですよ! 駆け出し冒険者なのに凄いですよね」

「サトウ……」

 

 

その名は、かつてこの世界を騒がせた初代勇者の名と同じだ。

ウィズの店の有様を見たときには、一体我が輩の破滅願望が叶うのかと落胆したが、その話を聞いて興味が出た。

我が輩は、その場で「見通す力」を使い、その冒険者の周辺を探ろうとしたのだが……

 

「……ふむ。サトウカズマ。運の数値が異常に高いこと以外は、ごく普通の貧弱な小僧ではないか。……ん? 待て、隣にいるこの青と赤の発光体はなんだ? この我が輩の見通す力が、霧に巻かれたように弾かれる……?」

 

ウィズの言う男の姿や、その隣にいるクルセイダーやアークウィザードは辛うじて見えた。

しかし、どういうわけか、一部は強烈な光にてかき消されてしまう。

ウィズやあの変態のように、我が輩と同格レベルであればそのようなことも起こるが……

まさか、この駆け出し冒険者の街に我が輩の力もってしても、その詳細を読み取ることができない存在がいようとは考えにくかった。

しかし今は確信を得た。

 

「なるほど、先ほどの爆裂魔法と水生成魔法の威力……あの青い髪の女と紅魔族の片割れがか」

 

足元に広がる焦土と化したクレーターを眺める。

ただの魔法使いであれば、一発撃っただけでこれほどまでに空間の因果を歪めるような魔力は放てない。

そして、あのマクスウェルを一方的に蹂鳴し、神器の効果すら鼻歌混じりに解除したあの青い女。

 

「ふはははは! まさか人間のパーティーに人ならざる存在が紛れ込んでいようとは!」

 

以前から行方不明だった魔王軍幹部ベルディアの所在を探すように魔王から言われてアクセルの街へ行ってみたはいいが、帰り道にこのような面白い場面に遭遇するとは……

あのサトウカズマという小僧、とんだ曲者を引き連れている。

見通しにくい存在が三人も揃っているとなれば、魔王軍の未来も長くはなさそうだ。

 

「まあ、魔王軍が滅びようとも、このバニルの知ったことではないがな。さて、魔王城へ向かうとしよう。あやつにこの面白い報告を届けてやるのが楽しみだ。……特に、マクスウェルがあのゲス貴族と永遠の愛を誓い合ったという話などは、最高に笑える報告になるだろう! フハハハハハハ!」

 

高笑いだけを残して、悪魔は去った。

後に残されたのは、悪が滅びた後の静寂と、月明かりに照らされた巨大な穴だけであった。

最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…

  • 第6章(現在の章)
  • 第7章
  • 第8章
  • リメイクしてテンポよく進める
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