「へへへ……高級シュワシュワに最高のおつまみ…………なによ、そんなに食べたいのぉ?」
俺はソファーの上で酒瓶を愛する我が子のように抱えながら寝ているアクアを見下ろしていた。
俺の準備は完了しており、めぐみんとウォルバクさんも支度できている。
ダクネスとゆんゆんはまだ準備をしている最中ではあるが、もうすぐ終わるだろう。
「めぐみん、この旅のしおりを見て! 前にねりまきと三人で観光したときによかった場所と、行ってみたかった場所を書いてみたの!」
「準備をしてると思ったら……あなたは何をしてるのですか! 早く身支度をしてしまいなさい!」
「そ、そうよね! チェス以外にもトランプと……」
「なんで遊びの道具ばかりなのですか! こんなもの持って行かなくていいでしょうに!」
「こんなものって何よ! みんなで楽しむためには色々必要でしょ!?」
「これだからボッチは……や、やめ! 私の服を引っ張らないでください! 旅の一張羅が伸びてしまいます!」
「何着も同じのあるでしょ! ばかばか! ボッチとか言うなんてめぐみんのばかぁ!!」
……もうすぐ終わるのだろうか、不安になってきた。
ま、まあともかく、着々と旅の支度が調ってきている(ということにしておこう)中、この目の前の駄女神だけはグースカ寝ている。
……しょうがない、肩でも揺すって起こすか。
「アクア、起きろ。これから温泉旅行行くぞ。みんな準備終わるしお前もさっさと準備しろよ」
「むにゃむにゃ……なぁに、下僕にしてください? えへへ、しょうがにゃいわねぇ……かじゅましゃんがそこまで言うんだったら私の下っ端執事として――」
「『ドレインタッチ』」
「っひぎゃああああああああ!? な、何するのよ下っ端執事のくせに――って、私のシュワシュワっ!? アンタ、愛しの我が子をどこにやったのよ!」
「誰が誰の下っ端執事だこの駄女神め! 自分で全部飲んでただろうが!」
「う、うそ……嘘よ嘘よッ!! 私が……私に限って、ちびちび飲もうと決めてたのに一気に飲んじゃうなんてありえないわ! そうよ、きっとあの子がいたずらで飲んじゃったのね! 害のない子供の霊だからって見過ごしてあげてたけど今日はただじゃ置かないわ! お仕置きよ! お仕置きしてあげるんだから!!」
どうやら、アクアは未だに夢から覚めてないらしい。
もう一回か、もう一回眠気覚ましにドレインタッチいっとくか?
夢の中で俺のことを変な扱いした苛立ちが収まらないでいると、ダクネスが理解できていないアクアに。
「アクア、準備をしてこい。これからアルカンレティアへ旅に行くことになったのだ」
「……アルカンレティア? 今、アルカンレティアって言ったわよね! 水と温泉の街、アルカンレティアに行くの!?」
「ああ。ちょうどさっき決まってな。めぐみんが知り合いの彼女と再会したことを祝って、今日にでも旅にな」
アクアは見覚えのない人物――ウォルバクさんに視線を向ける。
ウォルバクさんが軽く頭を下げると、アクアも軽く頭を下げ――
「って、そんなのはどうでもいいのよ!」
「ど、どうでもいいの? ねえ、初対面の挨拶がこんなに雑でいいの!?」
アクアの適当な様子にショックを受けるウォルバクさん。
「本当に? 本当にこれで挨拶終わりでいいの!?」という助けを求めるような視線がめぐみんに注がれるが、めぐみんは「慣れてください」と言わんばかりに肩をすくめるだけだ。
「もうっ、どうしてそういう大事なことを早く言ってくれないのかしらこのパーティーは!」
「す、すまない、何分急に決まったものでな。……いかないなら留守番していても――」
「何言ってるのダクネス! 準備早く手伝ってよ!」
ダクネスが全部を説明しきる前に目を輝かせて準備を始めるアクア。
その目は寝起きと思えないほど元気溌剌としていた。
「ダクネス、さっき買ったシュワシュワを全部背負いなさいな! 温泉でキューって一杯ってのは乙なものよ。そ・し・て、お風呂上がりにキンキンに冷えたヤツをグビーっと!」
アクアの語り口に、俺の喉がゴクリと鳴る。
こと娯楽と酒に関しては、こいつは全知全能に相応しい閃きを見せやがる。
馬鹿と天才は紙一重とはいうが、コイツは天才なんじゃなかろうか。
そんなの絶対最高に決まってるだろ!
「アクア、流石に長旅で不要な荷物を大量に持って行くのは……」
「何言ってるんだダクネス! シュワシュワは必要だろ! むしろ必需品だ! 温泉に入って、上がった後に何を飲むつもりだ!? ぬるい水か!?」
「何でカズマがアクアに同調してるんだ……」
「当たり前だろ! 何のために温泉行くと思ってんだ! 風呂にキンキンッに冷えたシュワシュワでキューッと一杯やるためだろうが!」
「おまえは本当に何を言っているのだ!? 心の傷を癒やすためじゃなかったのか!?」
呆れた目で俺を見るダクネス。
しかしアクアの言葉を思い出したのか、俺と同様に喉を鳴らす。
「……仕方がない、厳選して3本だぞ? それ以上は旅の重荷になる」
「さっすがダクネス! 私とカズマとさらっと自分の分まで確保するなんて!」
「ち、ちがー! た、確かに私もその酒の飲み方には興味があるが、あくまで全員の分だ! ……まあ、もし、足りなくなったら後は現地調達でもしようじゃないか」
「素晴らしい……素晴らしいわ! アクシズ教はあなたを歓迎するでしょう!」
「そ、そうか……改宗は遠慮しておきたいのだが……」
酒と温泉と美女!
酒池肉林が俺を待っている!!
パラダイスを想像して、思わずウキウキして落ち着かない。
早く終わらないかとダクネスたちに圧をかけようと近くで待っていると。
「……カズマ。ソワソワする気持ちはわからなくもないが、私たちの周りをうろちょろするのはやめてくれないか。準備に身が入らない」
「う、うろちょろしてねえし!? 大体、準備が遅いダクネスが悪いんだぞ!」
「だったら準備を手伝ってくれてもいいと思うのだが。特にアクアはまだ終わらなそうだしな」
「……俺、女性のものを触るのは紳士としてよくないと思ってるんだ」
「さっきまで酒池肉林だの言っていた男の発言とは思えんな。面倒くさいならそう言えばいいだろうに」
「じゃあお前の荷造り手伝ってやろうか」
「………………わ、私よりも手伝ってほしいやつがいるんじゃないか?」
ほーら、こうなる。
俺は自分の日頃の行いを客観的に見ることができる男だ。
別に面倒くさがっていたわけじゃない。
「じゃあゆんゆ――」
「触らないでください!」
「ここまで拒絶されると心に来るものあるんだが」
「あっ、す、すいません! でもカズマさんは手伝うのを許可した瞬間、タンスの棚を片っ端から開けて下着を選び出すでしょ?」
うん。
「ねえゆんゆんに拒絶されたカズマさん。私は女神だから見られて恥ずかしいものはないし、しょうがないから私の準備――」
「断る」
「なんでよぉぉおおお!!」
パンツも持ってない、極貧駄女神の箪笥なんて漁る価値なんてない。
むしろ俺がアクアを性的な目で見ているという勘違いをされるなんてことがあったら屈辱だ。
加えて、アクアを手伝ってみろ……絶対全部俺に支度を任せて怠け出すに決まってる。
そう思っていると、後ろの方でめぐみんとウォルバクさんが。
「ねえ、あの青い髪の子、自分のことを女神って……」
「いつものことですのでお気になさらず。自分のことを女神だと思っているかわいそうな子なので」
「そうなの……かわいそうに。あんなに必死に酒瓶を抱えているなんて、相当辛いことがあったのね……」
非常に哀れみの深い視線だ。
まだアルコールが抜けきっていないアクアは気づいていないようだが。
「とにかく、私たちの手伝いはしなくていい。それよりも気が散るから別の用事を済ましてきてくれ」
「別の用事……? なんかあったか?」
「出発する前に、寄らねばならない場所があるだろう。ウィズの店に行ってこい」
「ウィズ……?」
「私たちの知り合いです。いつかのデストロイヤー討伐の時にはお世話になりまして」
めぐみんとウォルバクさんの会話を聞いて、そう言えば一番の関係者への報告を終えていないことを思い出す。
俺たちが大騒動に巻き込まれて、その後どうなったか心配しているはずだ。
心優しい彼女のことだ、今頃『カズマさんたちは無事でしょうか……』と、カウンターで浮き足だっているに違いない。
「そうですね。ウィズには色々と面倒をかけていますし、旅に出る前の挨拶は礼儀というものです。私も行きましょう」
「もしかしたらウィズがアルカンレティアにテレポート登録してるかもしれないしな。もしテレポートできるようならついでに頼もうか。馬車の移動費も浮くし、道中でモンスターに襲われることもないだろ」
「少し厚かましいかもしれませんがいい案ですね」
「よし、じゃあ少し行ってくるわ」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」
背後から金切り声が響いた。
屋敷の中から、寝癖で髪をボサボサにし、酒の匂いをプンプンさせたアクアが飛び出してきた。
「アンタたち、どこに行こうとしてるのよ! 私は行かないわよ!」
「うん、別にいいよ。お前が行っても邪魔なだけだしむしろ留守番してくれるとありがたい」
「そんなあっさりと私を置いてけぼりにしないでよ!? 私がいないとあのアンデッドが何やらかすかわからないし、しょうがないからついて行ってあげても――」
「いいからお前はここで留守番してろ。ウィズの店に行けば、どうせ浄化してやるとか叫んで暴れるだろ」
「知らないんだからね! あの店、入るだけで運気が下がるんだから!」
アクアは地面をドンドンと叩きながら地団駄を踏むのを無視して、俺たちはウィズ魔道具店へ向かうことにした。
めぐみんと、ウォルバクさんとともに。
「ね、ねえ、私までついてきてよかったのかしら」
「もちろんです。お姉さんは私と以外は初対面ですし、あの中にいたら…………いえ、これ以上は何も言いませんが、大変なことになっていたでしょう」
「どういう事なの!? 大変なことって!?」
確かにあの中にいたらアクアが手伝ってと絡んでくるだろうし、騒がしいことこの上ないだろう。
騒がしいだけですめばいいが、扱いのわかっていない初心者が手を出したら大変なことになる。
「まあそれはいいわ。それよりもさっき、アンデッドがどうとか……」
「ああ、その件ですか。言いそびれていましたが、実はカズマにドレインタッチを教えてくれたリッチーがその魔道具店の店主さんで」
「……もしかして、そのウィズって人、凄腕の冒険者として魔王軍に恐れられていた、氷の魔女とかいう通り名だったり――」
「いえ、別に彼女は人畜無害な温厚リッチーですので」
「そ、そう。じゃあ私の知ってる人とは違うかも……いや、でも同名のリッチーなんて早々いるものじゃ…………ねえ」
「どうしましたか?」
「あの、私の記憶がおかしくなっていなきゃだけど、確かリッチーって最上級のアンデッドだったわよね? ここ、初心者の街よね?」
「ええ、そうですね」
「おかしいわよ! ねえ、通報はしたのよね!? 討伐されたのよね!?」
「いえ、気づいているのは私たちくらいですし、無害なので。まあ、いざとなればアクアがしばきにいけますしね」
「この街おかしいと思うんだけど!? リッチーよ!? というかあの青髪の子、リッチーを討伐できる実力者なの!? 初心者の街なのに!? どうして貴方たちはさも当たり前かのような顔をしているのかしら!?」
だってこれがアクセルの街の日常だし……そんなこと言われたって。
そう思っていると、ウォルバクさんが頭を抱えてフラフラと歩き出す。
「リッチーがいて、ドレインタッチを使う最弱職がいて、最上位のアンデッドを滅ぼせて、爆裂魔法を使えて…………ねえ、あの金髪の子は何が凄いのかしら」
「ふっ、ダクネスは王家の懐刀と呼ばれているダスティネス家のご令嬢で、魔王軍幹部の攻撃でも真正面から受けきる最硬の盾なのです」
「す、すご……い、のかしら? いえ、凄いんでしょうけど、なんか、なんというか……他の人に比べると地味というか……」
ようこそアクセルへ。
どんどん常識が崩れていくだろうけど、慣れれば貴方もアクセルの住人さ。
ウォルバクさんが頭を抱える中、俺たちの目の前に、見るからに商売繁盛とは無縁そうな、寂れた外観の魔道具店が見えてきた。
「ここがアクセルで最も『無駄な買い物』ができる場所、ウィズ魔道具店だ」
「随分な言いようね……」
その様子を後ろから眺めながら、俺は内心でニヤリと笑った。
俺は、王都で溜まったストレスをウィズの店で癒やし、かつ彼女のテレポートでアルカンレティアまで優雅に直行する自分たちの姿を想像し、ルンルン気分で店のドアに手をかけた。
「へいらっしゃっせ! 美人の店主に会えると思って、ルンルンと胸を躍らせてやって来たところを申し訳ないっ! 我が輩でした!」
「いや、誰だよ!!」
最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…
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第6章(現在の章)
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第7章
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第8章
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リメイクしてテンポよく進める