我は邪王真眼の使い手、めぐみん!   作:桃玉

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23-1 旅立ちの…瞬間(ヴァージアロード)

「はぁ~!? テレポートできないですってぇ!?」

 

ウィズを連れて、俺たちが屋敷に帰り着いた瞬間のことだった。

玄関のドアを開けたとほぼ同時に放たれたアクアの絶叫が、高い天井に反響して俺の鼓膜を容赦なく震わせる。

思わず耳を塞ぐが、アクアは止まらない。

 

「ちょっとカズマ、どういうことよ! アルカンレティアまで一瞬で移動して、お風呂上がりのキンキンに冷えたシュワシュワをグイーっとやる。その完璧なスケジュールが私の頭の中には完成していたのよ!?」

「しょうがないだろ。ゆんゆんもウィズも、アルカンレティアへのテレポート登録をしてないって言うんだから」

 

俺が冷ややかに言っても、アクアの癇癪は収まるどころか加熱していく。

アクアは俺の背後に隠れるようにして震えているウィズを指差して。

 

「私はね、この不浄な子が一緒に行くのを渋々了承したけど、それはあくまでテレポート要員としてよ! それができないなんて、こんなの神への冒涜よ、ぼ・う・と・く!!」

「ひ、ひぃぃいい! すみません、すみませんアクア様ぁ……!」

「役立たずな上に、アンデッド臭どころか、ひどい悪魔臭まで漂わせて来ちゃって! いっそのことここで浄化してやろう――イタい!! ちょっと、何するのよカズマ!」

「こっちの台詞だわ! ウィズのこと浄化しようとするなよ!」

 

アクアの神聖なオーラに曝され、半泣き所か半透明になり始めるウィズ。

俺の背中に隠れさせてドレインタッチで体力を分け与えていると。

 

「まあ落ち着けアクア。旅というのは馬車に揺られながら景色を愛でる方が風情もある。それに、ウィズがいてくれれば、万一道中で上位モンスターに襲われたとしても安全ではないか」

「そうですよアクアさん、ウィズさんの魔法の火力は本物ですし。……それに、お姉さんもいますしね?」

 

アクアを宥めるダクネスとゆんゆん。

アクアは渋々「わかったわよ。みんながそう言うんだったらしょうがないわね……」と納得がいかない様子だが振り上げていた拳を下ろした。

 

「すみません役立たずで……」

「謝ることないぞウィズ。元々馬車か何かで行く予定だったんだ。もしテレポートでいけたらそれはそれでいいんだけどな」

「申し訳ないですぅ……私、アルカンレティアに行ったことはあって、温泉は好きなんですけど……」

「まさか、あの『氷の魔女』として尖っていた貴女が、温泉が好きだなんて意外ね。私の知ってる貴女はもっと強敵との戦いに飢えて、魔族とかモンスター相手に殺気を振りまいて――」

「もう、ウォルバクさん! 一体いつの話をしてるんですか! 今の私はしがない魔道具店店主なんですから、変な誤解を招くようなことは言わないでください!」

「ごめんなさいねウィズ。何だか今までおかしなことが多すぎて、あなたを見てると気が緩んじゃって」

 

ウィズが顔を真っ赤にしてウォルバクさんを制止する。

ほとんど初対面だそうだが、何故だか非常に波長が合うらしい二人。

 

「そう言えばウォルバクさんはウィズのことかなり詳しいですよね。さっきほぼ初対面だって聞いてたんだが……」

「だって彼女、かなりの有名人よ? それこそ知らない人がいないくらい……まあ、あなたたちみたいな冒険者なりたてみたいな世代は知らないかもしれな――これ以上喋ったらウィズからお説教が来そうだからやめておこうかしら」

 

隣を見ると頬を膨らませているウィズがウォルバクさんのことを可愛らしく睨み付けていた。

氷の魔女だっけか。

デストロイヤー襲来の時には爆裂魔法使ってたし、強いのはわかるんだがな……

俺が知ってるのはおっとりしたウィズだけだし、やんちゃしてた頃のウィズなんて想像がつかない。

そんなことを思いながら俺たちは乗合馬車の止まっている場所へ歩き出した。

 

 

 

 

「はぁ~!? 馬車が一台しかないですってぇ!?」

 

……デジャヴだ。

俺たちが屋敷の前に用意された一台の馬車を前にしたとき、本日二度目のアクアの絶叫が響き渡った。

 

「しょうがないだろ、今日アルカンレティア行きの定期便は全部埋まってたんだ。なんとか商人のおっちゃんに頼み込んで、余ってる荷物運び用の馬車を一台確保できただけでも奇跡なんだよ」

「でもこの馬車、私たちが乗る用にしては荷物がいっぱい載ってるんですけど! これじゃあ誰かは後ろの荷台に行かなきゃいけないじゃない!」

 

アクアの言う通り、御者台のすぐ後ろの座席は定員オーバーだ。

俺、めぐみん、アクア、ダクネス、ゆんゆん、ウィズ、そしてウォルバク……合計七人。

明らかに、二人は吹きさらしの、硬い板張りの荷台へと回らなければならない。

 

「まあまあ、落ち着けアクア。荷台の方は眺めが良さそうだぞ? 揺れをダイレクトに全身で受け止めることになるが、泥に塗れる景色を堪能するのも、それはそれで風情溢れる旅になるのではないだろうか」

「確かに外の景色はいいしそれでもいいわよね……って、そんな口車に乗せられないわよ! 荷台の方は堅くてお尻が痛くなりそうなんですけど!」

「それがいいんじゃないか」

 

ダクネスが頬を染めて、ドM特有の意味不明な供述を始めた。

こいつは放っておいても勝手に荷台に行くだろう。

問題は、もう一人だ。

 

「じゃあダクネスは確定ね! あともう一人、誰かが荷台の方にいけば万事解決よ! というわけで、そこの居候お姉さん」

「居候お姉さん? もしかしなくてもそれって私のことかしら?」

「ええ、もちろんそうに決まってるわ! そんな風貌してるし旅は慣れてる方よね。もしよければこの麗しい女神であるアクア様に席を譲ってくれても――」

「ごめんなさい、私、別の宗教なのよ」

「それじゃあ今からでも遅くはないわ。アクシズ教に改宗しなさいな。今ならこの石けんもついてくるわよ!」

「えっと……お嬢さん、いくら何でも実在の神様の名を騙るのはよくないと思うわよ?」

「何でよぉおおお! 私女神なのに……女神なのにぃ!」

 

そりゃ自称女神なんて信じてもらえるわけないだろ。

ウォルバクさんの言葉にショックを受けたアクアは、ウィズの胸に飛び込んだ。

なんだアクアのやつ、意外とウィズのこと嫌ってないじゃないか――

 

「アクア様? あの、泣き止んでください……アクア様の涙が当たるとなんだかヒリヒリするので。もしよければ私が荷台に行きますから泣き止んでもらえないでしょうか?」

「えっ、いいの? ありがと! いやでも図々しくも私たちの旅についてくるんだから、席を譲るくら当たり前よね……イタッ! 痛い痛いカズマさん、頬を抓らないで!」

「ウィズはアルバイターの仕置きのせいで瀕死なんだよ! せっかく回復してきたのに余計なことしやがって、少しは優しくしろよ」

 

アクアは頬を押えながら涙目で俺のことを睨む。

まったく、まだ出発もしてないのに……

これじゃあこの先が思いやられるな……そう思っているとアクアが。

 

「でもでも! 私の高貴なお尻が、あんな硬い荷台のせいで痛くなったらどうするのよ! それとも、カズマが後ろに乗ってくれるのかしら!」

「うん、いいよ」

「…………マジですか」

「マジ」

「ねえ、もしかして頭どこかにぶつけたの? いたいのいたいの飛んでけ~ってやってあげよっか? それとも偽物といつの間にか入れ替わってたりしない?」

 

コイツぶん殴ってやろうか。

俺のことをなんだと思ってやがるんだ!

 

「何もただで譲るなんていっちゃいない。俺とのじゃんけんに勝ったらな。三回勝負してやるから、その中で一度でもお前が勝てば、俺は喜んで荷台でダクネスの相手をしてやるよ」

 

俺がそう宣言した瞬間、めぐみんとゆんゆん、そしてダクネスまでもが「ああ……」という顔をして視線をそらした。

だが、このパーティーで唯一、俺のステータスの異常さに無関心な駄女神だけは、自ら墓穴を掘り始めた。

 

「ぷーくすくす! カズマさんってば、もしかして確率って言葉を知らないのかしら! 三回もあれば、この女神である私が一回くらい勝つに決まってるじゃない! いいわよ、受けて立ってあげる!」

 

受けてあげる、か……

それはちょっと違うな。

だって俺、今まで……

 

 

 

……ジャンケンで負けたことねえから。

 

 

 

 

「………………なんでよぉー!!」

 

一分後。

案の定、三連敗を喫したアクアが地面に突っ伏して号泣していた。

 

「おかしいわ! おかしいわよ! 絶対にズルしたわね! お願い、もう一回! 次こそ、次こそ負けたら、私は大人しく荷台に行くからぁ!」

「本当だな? また駄々をこねたら、ロープで縛って馬車の後ろに引きずっていくからな?」

「言ったわね! 見てなさい、これが本物の神の奇跡よ! 『ブレッシング』!!」

「汚ねぇ! 自分に魔法使いやがった!」

「運も実力のうちなら、魔法も実力のうちよね! さあ、私に慈悲を与えたことを後悔させてやるわ! いくわよ~! ジャ~ンケ~ンぽ――

 

 

――なんでよぉおおおおおお!!」

 

魔法で底上げしたはずの幸運も、俺の元々の異常な幸運値の前には無力だった。

そもそもアクアの幸運値はかなり低かったはずだし、魔法で幸運値を倍増させても1が10になる程度だ。

俺の幸運値は53万、戦闘力だけの不幸なアホに負ける道理など……ない。

 

「俺、ガキのころからじゃんけんで負けたことないんだよ」

「卑怯者! 何それズルい! そんなのチートよ、チート能力じゃない! アンタ、生まれながらにしてそんな特殊能力持ちなの!? 私という恩恵を授かったことは無効よ、無効! 帰してよ! 私を天界に帰してよぉおお!」

 

じゃんけんに勝てるのが特殊能力……?

アクアが恩恵……?

その言葉が、俺の逆鱗に触れた。

 

「てめぇ、このクソビッチがぁ! 俺の特殊能力が『じゃんけんに勝てる』だぁ!? こんな能力でどうやって凶悪なモンスターと渡り合えってんだ! 魔王相手に『俺が勝ったら世界に迷惑かけるのやめてください』ってじゃんけんしろってか、この馬鹿! 一番腹が立つのはな、俺がお前を授かったことを恩恵だって言い張ってるところだ! お前、ふざけんなよ、何が恩恵だ! お前を返品して、まともな特殊能力が貰えるってんなら、今すぐこの場で返品してやるところだ!!」

「わああああぁぁああ!! カズマが、カズマが言っちゃいけないこと言ったぁ! ひゃめ……ほおを引っ張りゃないれぇ……!」

 

アクアの情けない泣き声がアクセルの街に響き渡る。

それを見ていためぐみんが、呆れたように小さく息を吐いた。

 

「……カズマの口撃は相変わらずえげつないですね。普通の女性だったら、再起不能ですよ」

「私としては嬉しいのだが……」

「それはダクネスさんが特殊なだけですから。……そう言えばアクアさん、湖の浄化クエストのときにカズマさんとじゃんけんしてなかったから、カズマさんとのじゃんけん勝負受けちゃったのね」

「あの時は悲惨でしたね……」

 

めぐみんは馬車に荷物を積み込みながら呟いた。

結局、荷台にはダクネスと、泣き疲れて真っ白になったアクアが収まることになった。

 

「……よし、出発だ!」

 

俺が御者台の隣に座り、馬に合図を送る。

ウォルバクさんが「何だか、本当に賑やかなパーティーね」と苦笑する中、馬車はゆっくりと動き出した。

 

「カズマぁ……お尻が……お尻が痛いわぁ……代わってよぉ……」

「早すぎるわ! 寝てろ駄女神!」

 

アクセルの門を抜け、街道へと踏み出した俺たちの旅路は、アクアの啜り泣きと共に始まった。

最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…

  • 第6章(現在の章)
  • 第7章
  • 第8章
  • リメイクしてテンポよく進める
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