Re:ゼロから始める異世界生活 〜憑依者ナオヤの異世界生活~ 作:ヤストモ
02
盗品蔵に響く足音。
赤髪の騎士が堂々と現れると、エルザは愉悦の笑みを浮かべた。
「ラインハルト……ふふっ、剣聖の家系ね。凄いわ。こんなに素敵なご馳走だらけなんて」
ラインハルト・ヴァン・アストレア。
ルグニカ最強の男。
対するエルザは満身創痍。それでもまだ戦意は衰えない。
俺は拳を握りしめながら、ちらりとエミリアを見る。
「スバル、大丈夫……?」
「おう、心配かけたちまったみたいだな」
どうやら、エミリアがこのラインハルトをここへ連れてきてくれたらしい。
おかげで、俺は一人で戦わなくて済む。
俺はラインハルトに視線を向け、短く言う。
「共闘、頼めるか?ええと、ラインハルトでいいか?」
「もちろんだよ。僕もスバルと呼ばせてもらう」
ラインハルトは剣を抜く……かと思いきや、鞘のまま構えた。
——つまり、それで十分ということだ。
「——行くわよ」
エルザが地を蹴る。
驚異的な加速。
だが——俺の身体能力なら、その速さにも適応できる。
俺はエルザの攻撃を正確に見極め、拳を振るう。
——ドンッ!!!
俺の拳がエルザの肋骨を砕く感触が伝わる。
「ぐっ……!」
吹き飛ばされたエルザの体を、すかさずラインハルトが追う。
「——遅いよ」
ラインハルトの一撃。
それは鞘に収められた剣の一振りに過ぎない。
それでも——
「がっ……!」
エルザの体が宙を舞い、壁へと叩きつけられた。
瓦礫が崩れ落ちる中、エルザは荒い息を吐く。
「……これは、分が悪いわね」
エルザは目を細めると、次の瞬間——
影の中へと飛び込んだ。
「逃げたか…………」
「深追いは避けるべきだね」
エルザがこのまま引き下がるとは思えない。
だが、今は戦いを終えるべきだと、俺もラインハルトも判断した。
エルザが退いた後、俺はラインハルトとエミリアに事情を説明した。
フェルトが徽章を盗んだこと。
俺たちが追ってきたこと。
腸狩りと戦ったこと。
「……本当に、ありがとう」
エミリアが深く頭を下げる。
「あなたがいなかったら、きっとあのまま徽章を追ってここに来て、エルザに………」
「礼はいいさ。俺はただ、やるべきことをやっただけだ」
俺は苦笑しながらそう答えた。
そんな中——
「ん?」
フェルトがエミリアが落とした徽章なる物を拾い、指で回しながら歩み寄ってきた。
「おいおい、これってそんなに大事なモンだったのかよ?」
フェルトが徽章を掲げた瞬間——
徽章が淡く光を放つ。
その光に、ラインハルトが驚愕の表情を浮かべた。
「……まさか」
「? なんだよ、剣聖さん」
「君が……王選の資格者だったとは」
「は?」
フェルトが目を丸くする。
そして——
「フェルト様、申し訳ありませんが、私と共に来ていただきます」
ラインハルトがそう告げる。
「おい、勝手に決めんなよ!」
フェルトが怒鳴る。
当然だ。
突然「王になる資格があるからついて来い」なんて言われて、納得できるはずがない。
俺もそれを見過ごせるわけがなかった。
「……待てよ」
俺は、ラインハルトに睨みを向ける。
「フェルトの気持ちも考えずに、勝手に連れて行くのか?」
「スバル、これは……」
「納得できねぇな」
俺は無意識のうちに、一瞬だけ——ラインハルトに敵意を向けていた。
その時——
——ガキィン!!
剣の音が響いた。
見ると、ラインハルトの腰に携えられていた龍剣レイドが、僅かに抜けていた。
「っ……!?」
ラインハルトの表情が驚愕に染まる。
龍剣レイドは、本来抜くべき強者の前でしか抜けない。
そして今、この剣は俺に反応した。
「……まさか、君は」
ラインハルトが俺を見る目に、警戒の色が混ざる。
だが、俺にはその意味が分からなかった。
「……フェルトのこと、頼むぜ」
俺はそれだけを言って、敵意を引っ込めた。
ラインハルトも剣を戻し、深く頷く。
「必ず、大切に扱うよ」
ラインハルトとフェルトが去った後——
「……スバル」
エミリアが俺を見つめていた。
「本当に……ありがとう」
「だから、礼はいいって」
「でも、私がしたいの」
エミリアは微笑んだ。
「よかったら、私達が住んでる屋敷に来て。ロズワールって人の屋敷なんだけど」
「……わかった。俺も少し、事情を知りたいしな」
こうして、俺は——ロズワール邸へと向かうことになった。
ロズワール邸に足を踏み入れた瞬間、俺の心は少しだけ落ち着いた。エミリアとパックに導かれ、豪華な屋敷の中へと足を運んだが、やっぱり広くて美しい建物に圧倒されてしまう。
「ようこそ、スバル。ここがロズワール邸よ」
エミリアが優しく微笑みながら、案内をしてくれる。その笑顔に少し安堵しながら、俺は「ありがとな」と返し、彼女に続いて歩き出した。
屋敷の中は非常に広く、そして豪華だ。その途中、青髪の少女が現れる。それが、レムだった。
「スバル様、ようこそロズワール邸へ」
レムはお辞儀をしながら、静かに微笑む。その目には警戒の色は見えなかった。少しほっとして、「よろしくな、レム」と返すと、レムは少し驚き、そしてまた落ち着いた表情を浮かべた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
レムのその言葉に、何となく安心したような気分になった。
その後、レムの姉であるラムが現れた。いつものように冷徹な目をしているが、どこか優しさを感じさせる。
「ようこそ、スバル様」
ラムが微かに目を細めて、言葉をかけてくれる。その言葉に少し驚き、俺は思わず頷いた。
「ありがとう、ラム。ところで、レムに紹介されたけど、君もよろしくな」
ラムは少し考え込むようにしてから、冷静に答える。
「ふん、仕方がないわね。よろしくしてあげるわ」
その言葉には少しだけ冷たさがあるが、どこか温かみも感じる。ラムもレムと同じくとても優しい女の子なのだろう。
しばらく歩きながら、俺はラムの顔をちらりと見た。彼女の額に何かが残っているのを見つける。小さな傷跡のようだ。
「ラム、ちょっと待って」
俺が思わず声をかけると、ラムが少し驚いたようにこちらを見た。
「どうしたの?」
「その額、古傷の跡か?」
ラムは少し口を噤むが、やがて静かに頷いた。
「まぁ、ちょっとしたことよ。気にしないで」
その言葉に、俺は心配そうに眉をひそめる。けれど、あまり無理に言い返さず、俺は手を差し伸べた。
「いや、気になるから直してやるよ」
言いながら、俺は「修復の加護」を使う。すると、ラムの額を柔らかな光が包み、その傷跡が治っていった。
ラムの顔に驚きが広がる。
「――っ!?」
そして、その後、彼女の額からは完璧に元通りの角が再生され、あの跡はもうどこにも見当たらなくなった。
角?この世界には色んな種族がいるみたいだし、鬼人族ってところかな?
「……本当に?」
ラムは額を手で確認し、信じられないような顔をして俺を見つめる。俺はうなずきながら言った。
「うん、これで動きやすくなっただろ?」
「……っ、ありがとう」
ラムの口から、意外にも素直な感謝の言葉が出てきた。それを聞いて、俺は少し驚きつつも、軽く頷いた。
「気にしないでくれ、ラム。」
その言葉を聞いて、ラムは少し照れくさそうに目を逸らした。
「ふ、ふん。勘違いしないで、ただ感謝しているだけよ」
「うんうん、分かった分かった」
俺は笑いながら答えると、ラムは照れ隠しにそっぽを向いた。
そのやり取りを見て、レムが嬉しそうに笑った。
「姉様、よかったですね!」
「レム、あまり騒がないで」
ラムが少し厳しい顔をしてレムに注意すると、レムは申し訳なさそうに微笑みながら言った。
「すみません、姉様」
その仲が良い様子が、少し微笑ましく感じた。
その後、ピエロみたいな男性が現れた。彼はしばらく俺を見つめた後、にやりと笑みを浮かべながら言う。
「ふむふむ、君がナツキ・スバル君か。実に面白い、面白い」
「初めてまして、ロズワールさん、でいいのかな?俺はただの通りすがりさ。」
俺が少し照れくさい笑顔を浮かべながら言うと、ロズワールはますます興味を引かれたような表情で続ける。
「ふふ、君のことがますます興味深いよ」
俺がどう返すべきかを考えていると、エミリアが話しかけてきた。
「スバル、少し話があるの。ついてきてくれる?」
俺はエミリアに軽く頷き、「分かった」と答える。エミリアと一緒に歩き出すと、パックもその後に続いてきた。
「スバル、改めてお礼を言いたかったんだ」
「いや、そんな気にしなくていいさ。こんな事くらいでいいなら、いくらでも協力するよ」
俺がそう答えると、エミリアは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう、スバル。私を助けてくれて」
その言葉に俺は苦笑しながら答える。
「別に大したことじゃないよ。」
エミリアと俺の会話が続いていると、レムもラムも微笑みながら見守っていた。そんな温かな空気の中、俺は新たな一歩を踏み出すのだと感じた。