STAGE0-1:まずはお誘いから!
「由愛ちゃん! よかったらあたしとTRPGで遊んでみない?」
今日はレッスンお休みの日。
のんびりとソファーに座って絵を描いている私に声をかけてきたのは、紗南さんでした。
「て、てぃーあーるぴーじー……?」
あまり聞きなれない言葉に私は戸惑ってしまいます。
「あぁそっか、TRPGがわかんないよね、えーっと……」
と、紗南さんは少し考えこんで。
「そうだね、ゲームの一種でキャラクターになりきってお話しながら冒険とかをするんだ」
「なりきって……ですか?」
「うん。アイドルのお仕事で、衣装を着ていろんな役になりきってパフォーマンスしたりするよね? それとそんなに変わんないよ!」
紗南さんはそう説明してくれました。
「それなら……なんとなく、イメージできるかも?」
「本当はもっと人数がいた方が面白いんだけど、今日は二人きりだし……けど、せっかくなら由愛ちゃんにも興味持ってもらいたいなって!」
そういって笑みを浮かべる紗南さん。
「でも、私にできるかな……? あんまりゲームってやったことなくて……」
「大丈夫!初めてでも楽しめるようにあたしが説明しながら教えてあげるから!」
せっかくの紗南さんのお誘いだし、断るのも悪い気がして。
それに、紗南さんとはもっとお話してみたかったし……
「それじゃあ、やってみようかな……?」
「やった! じゃあさっそく準備するね、えーと……由愛ちゃんってホラー系は苦手?」
「こ、怖いのは少し苦手、かも……」
「そっかぁ、タイマンならこれが向いてるんだけど、それならこれは無しだなー……」
と言って分厚い本を脇によける紗南さん。
ほ、他にも何冊も本をカバンから出してるんだけど、あれは一体なんだろ……?
と、見ている私の視線に紗南さんが気づいたみたいで。
「あ、これ気になった? ルールブックって言うんだ。わかりやすく言えば説明書かな!」
「だ、だいぶ分厚いんですね……」
こ、これを全部読まないといけないのかな……?って思ったけど。
「あー……うん、全部読むと大変だけど、とりあえずゲームマスターが覚えてたら大丈夫! 由愛ちゃんは全部読まなくても大丈夫だよ」
「そうなんですね……」
「それに由愛ちゃんは今回初めてだし、プレイヤー側だから大事なところだけあたしが教えるし、そこまで気にしなくて大丈夫だよ!」
って、紗南さんが教えてくれます。
「あ、ゲームマスターっていうのは進行役のことで、プレイヤーは参加者、ゲームを遊ぶ人のことね。今回はあたしがゲームマスターでプレイヤーが由愛ちゃん!」
「なるほど……」
まだ、TRPGのことはよくわからないけど……
紗南さんが私のことを楽しませようとしてるんだな、って気持ちは伝わってきます。
「ここはー、やっぱり王道の剣と魔法のファンタジーかな! 由愛ちゃんとは前にそれで一緒にフェスで共演したこともあるしね!」
「でしたね、翠さんと一緒に……あの時の紗南さん、かっこよかったです……♪」
「へへっ、ありがと由愛ちゃん! 由愛ちゃんも似合ってたよー!」
あの時のことを思い出すと、確かにファンタジー、楽しかったかも……って。
それに、私にとっての初めてのツアーもスペインで、あの時もファンタジーな衣装を着て、ライブをしたなぁ……って、あの時のことも思い出して。
ふんわりと、温かい気持ちになって、嬉しい気持ちになります。
それから、紗南さんはさらにいくつかの本を選んで、眺めてから。
「……と言っても正統派の硬派なやつだと由愛ちゃんには少し難しいかもだから……よし、今回はこれにしようかな。これなら割ととっつきやすそうだし!」
と言って紗南さんが選んだゲームのルールブックは。
文庫本サイズの本、名前は……
「アリアンロッド、RPG……?」
「そう!これはライトなファンタジーだからとっつきやすいかなって」
「TRPGって言っても、いろいろあるんですね」
「うんうん、まぁ他のはまたの機会ってことで、今回はこれね!」
他の本を片付けながら紗南さんが言います。
「じゃあ……まずは軽くルール説明するね、とりあえずお試しだし本当に軽くだけど」
紗南さんは大まかなルール説明を始めます。
「由愛ちゃんはRPGってやったことある?」
「えっと……ボールで捕獲した子を育てるゲームなら、少し」
「おぉー!あれかー、面白いよね!」
「はい、青くて、白いふわふわの翼をしている子がかわいくて……」
「おっ、なかなかいいセンスしてるじゃん由愛ちゃん!あたしが好きなのはねぇ……」
と紗南さんが言いかけたところで。
「……っと、いけないいけない、ゲームの話になるとつい話し込みそうになっちゃうところだった」
「大丈夫ですよ。好きなお話って、たくさんしたくなりますもんね」
「だね……と、話を戻すね。RPGに似てるところが多くてさ。ターン制だったり、HPが0になったらやられちゃったりとか」
「RPG、って名前にありますもんね」
「そう!だから基本的にはゲームのRPGみたいなものだと思ってくれていいよ!」
「そうなんですね、それならできそう、かも……」
「TRPGで一番大事なのはコミュニケーションとか、相手を思いやる気持ちとかなんだけど……由愛ちゃんならその辺は大丈夫だと思うし!」
「そ、そうかな……?」
「だって由愛ちゃん優しいからね!もしも何かあったときは言うから心配しないで?」
「は、はいっ」
そう言って頷く。けど、優しいなんて言われると、ちょっと照れるな……。
「最初にいきなり全部説明しちゃうと混乱しちゃうだろうから、あとは必要になったら都度都度あたしが説明するね」
「は、はい」
「多分細かくルールを全部説明するより、実際にやりながら説明した方がしっくりくると思うから……よし、ここはあたしがゲームマスターでシナリオをやってみよう!」
そう言って紗南さんはルールブックをぱらぱらとめくって。
「そうと決まればキャラクリだね!クイックスタートっていう手もあるけど」
「クイックスタート……?」
私がまた聞きなれない単語だったのに気付いて、
紗南さんはルールブックから目線を私の方に向けて。
「あー、ごめんね。えーっと、ルールブックに載ってる、決まったキャラクターから選んでプレイする、っていうのをクイックスタートって言うんだけど」
と、言ったところで紗南さんは、何か思うところがあるのか、少し考えこむような仕草をして。
「由愛ちゃんはこういうキャラを演じたいなぁ、とかある?」
「え? う、うーん……」
「せっかくなら由愛ちゃんの自由に遊んで欲しいかなーって思って。本当は初めて遊ぶときはクイックスタートがいいんだけどね」
「私の、演じたい子……」
いろいろと考えてみる。
私は、どんなのが演じてみたいかな……?
「アリアンロッドはいろいろ種族があるんだよー。人間も居るし、一般的なファンタジーで言うエルフとかドワーフとか。変わったところだと異世界転生だったり、動物とか機械とか妖精だってキャラクターに選べるよ」
「妖精さん……」
紗南さんがいろいろ提案してくれる中で、妖精、というワードが引っかかって。
妖精……よく演じてるし、周りからも時々言われてたりするし……。
「紗南さん、私、妖精さんがいいな」
「お、確かに由愛ちゃんのイメージにぴったりだね!ちょっと待ってね、えーと……」
紗南さんはまたかばんをがさごそと漁って。
また分厚い本を取り出します。
「あれ……さっきの本がルールブックじゃないんですか?」
「うん、あれがルールブック。こっちはパーフェクトスキルガイド。追加サプリメントだね」
「サプリメント……?」
「あー、うーん、なんていえばいいかな……もっと楽しく遊ぶための追加データだよ!妖精はこっちにしか載ってないからね!」
紗南さんは数百ページはありそうな本を取り出してぱらぱらとページをめくっていきます。
て、TRPGって奥が深い遊びなんだなあ……。
紗南さんを眺めながら、私はそんなことを考えていたりしました。