世界救うのも四回目。 作:名も無き一人の望み
数十分振りに見る青尽くしのインテリア。
ベルベットルームではあるが、私が先程招かれた私のベルベットルームとは様子が違った。
「あ、白雪…!」
「戻って来たの? なんだか早いね」
「おお、お疲れ様~」
床が青い絨毯で埋め尽くされた、ただっぴろい空間。
中央に円の巨大なテーブルと、その周囲に四色の椅子が配置されていた。
「…お帰り、北原。 どうだった?」
青い椅子群のセンターに、髪で右目を隠したどこか気配の薄い気だるげな少年。
「俺は見守らせて貰ったから分かるぞ、何か問題が起こったか?」
黄色いソファの中央に、銀にも見える灰色の髪と瞳の穏やかな少年。
「俺も行った方が良かったか? 今からでも行けるが…」
赤い揺り椅子群のセンターに、黒い癖っ毛のニヒルな笑みを浮かべた少年。
それぞれが私と同じ、しかし違う「ワイルド」を持つ人間だ。
「未だ終わっていないよ。 少々分析して頂きたい事が出来てね。
頼めるかい、んー……そうだね、双葉?」
「んお、わたしかぁ!?」
驚く双葉。
仕方ないじゃないか、暇そうだったんだし。
「見てていたなら分かるかな? オルガマリーが回復魔術でなんとかできるのか、迅速に分析を頼みたい。出来るかい?」
「ぐぬー……いいだろう! その代わりに今度ダンジョン攻略を手伝え!」
「ゲームあるのかい、此処…?」
「それがあるんだよなぁ、暇潰しに最適だよ」
ゲームソフトを片手にカラカラと笑う蓮を睨みつけた。 ズルいぞ、私だってゲームしたいんだからな。
背後の空間にネクロノミコンを出し、それに乗り込んでデータ解析を始めた双葉を横目に次の頼みを言った。
「彼女がリカバリー可能であれば回復魔術を。生憎私は直ぐ戻りたいのでね、回復魔術を覚えるペルソナを持ってる奴を中心に全員でやってくれ。レイシフトが終わるより前に完全に回復してくれよ」
「まーた無茶振りを……」
溜息を吐いた結城先輩には笑顔を返した。
多分できるだろ、此処ベルベットルームなんだし。
「お、白雪!解析結果出たぞ!
爆弾のすーぐ近くに居たみたいだな。まあ、メッチャ頑張ればワンチャンある、みたいな感じだ!」
「それが聞けて良かったよ。結城先輩、悠、蓮、聞いたね?
回復スキル持ちのペルソナで対象はオルガマリー。この特異点修復が終わるまでに完全回復してくれよ」
「はいはい、分かりましたよ お姫様……」
「俺に出来ることであれば、喜んで」
「黒幕の奪った命を頂戴する!ってな。任せろ、全力を尽くす」
目を伏せて溜息を吐きながらしれっとお姫様呼びしてきた結城先輩は許さないとして。
頼れるリーダー三人組に、今は任せるしかないだろう。
「それじゃ 私は特異点修復に戻るよ。
難題を吹っ掛けて申し訳無いが、くれぐれも宜しく頼むよ」
「おう、行って来い!」
ぶっちゃけ誰の声だったのかよく分からなかったが、応援を貰うのは素直に嬉しい。
また青いドアを通り抜けて、元居た洞窟の一か所に戻った。
途端に轟音が聞こえ、咄嗟に耳を塞ぐ。
数秒後に恐る恐る耳から手を離せば、既に音は止んで此方に近付く足音が聞こえた。
数は四つ、間違いない。
「お疲れ様、キャスターとマシュ。
オルガマリーと立香もご苦労。」
「ったく…お前、ちゃんとやるべきことはやったんだろうな?」
「当然さ。 ま、終わってから知る事だよ」
だんだんと終わりが近づいてきたようで、辺りが一層暗くなってきた。
メメントスよりかはまだマシな明るさだ。 夜目ならタルタロスで鍛えられている。
洞窟の先には、大きな空洞があった。
そしてそこに鎮座するは__私と怪盗団の記憶をえぐる、聖杯。
なお、与えられた情報によるとあれはアインツベルンとやらが制作した魔術炉心……理解できる単語が殆ど無いのだが雰囲気だけで大丈夫なのだろうか。 というか聖杯を制作するとか何やってんだアインツベルン。聖杯は厄ネタだろ。
取り敢えずなんかよく分かんないけど願い叶えてくれる凄いヤツ(=厄ネタ)認識で大丈夫だろう。 理解を放棄した。
そして__その聖杯の正面に、人影が一つ。
「今度はお前もやれよ、フール?」
「当然さ、私が働かないヤツだと勘違いされちゃ困るよ」
死を疑う白さの肌、カモシダパレスのシャドウを思い出す黒の鎧、よく目立つ金髪。
髪と同じような色だが、明らかに髪よりも澱んだ色の瞳と…腰にあるのは剣か。
「……面白い宝具だな、娘」
「ぅえ、わ、私ですか…?」
私とキャスターの宝具はどうやら面白くないらしい。 というか宝具に面白みってあるのか?
「油断すんなよ。
ソイツは騎士王、アーサー・ペンドラゴン。
持ってんのは二振り目の選定の剣だ。 世界一有名であるっつっても過言じゃねぇ、至高の剣…」
『エクスカリバーか! 星の内海により鍛え上げられた、究極の宝剣…!』
アーサー王伝説、か。 読んだ記憶も無いので、円卓の騎士の名前が幾つか言えるレベルのミリしらではあるが…それでも、騎士王の名とエクスカリバーのことくらいは知っている。
ペルソナって大抵が神話読んでりゃ何とかなったからなぁ、アーサー王伝説は手を出していなかった。
「……というか、敢えて突っ込まなかったのだけれど…女性なのだね?」
「あっ同じ疑問を持っていた人が居た…有難い……」
アーサー“王”と言うのだから、当然男性かと思っていたものだけれど。
キャスターが「騎士王アーサー・ペンドラゴン」と言った目の前の人物は、どう見ても女性だった。
…いやこれで女装ガチ勢で男ですとかならもう笑うしか無いが。
『当時は女性だと不都合が多かっただろうからね…主に王位継承とかの点で』
「ああ、成程……いや納得は出来ないんだけれども」
逆だった。男装女子だった。 いやでも現代に渡るまで女性だったとかいう記述がミリも無いのは一体どういうことなんだ、当時の大衆は目が節穴だったのか…?私達の目の前のアーサー・ペンドラゴンはどう見ても女性だが……?
いやいや、今はその話をしている場合じゃない。 言ってしまえば滅茶苦茶気になるけど、今の優先順位はどう考えても違う。……気になるけど。気になるけど!
「良いだろう、娘。貴様に其の盾を掲げる資格があるか、私が直々に確かめてやろう!」
「来るぞ嬢ちゃん、構えろ!」
アーサー王……剣を持っているから恐らくセイバーが、その剣を振りかぶる。
明らかに何かが来る、その雰囲気にペルソナを構えたが__彼女に集まった莫大な魔力を鑑みるに、宝具を展開する気だ。
「テトラカーン」か「マカラカーン」、何方を出せばいいのか迷って判断が遅れてしまい、もう間に合わない。 剣を使おうとしているには「テトラカーン」でも良さそうだが、剣の纏う膨大な魔力を見るには「マカラカーン」……単純に考えればよかったシャドウとの戦闘が如何に有難いものだったのかを痛感する。
此処で自分に言い訳してもどうにもならない。 私の判断が遅れてしまったのは変えようのない事実だ。
今の私には、もう出来ることなんて皆無に等しい。
マシュが僅かに腰を落とし、構える。
前に出されたその両手には、確りと盾が持たれている。
エクストラクラス、「
「宝具、展開します!」
「卑王鉄槌―――極光は反転する。光を吞め!」
空洞内部、聖杯の光に照らされた薄明りの空間。
一方は黒い剣、一方は眩い盾。
一方に集った魔力がうねりをあげて、もう一方にぶつかる時を今か今かと待ち受けている。
その時間は星の一生涯とも等しかったか、或いは星の瞬きと等しかったか。
剣と盾との睨み合いの末に、膨大な魔力同士はぶつかり合うことを選ばれた。
「
「仮想宝具
神なんて私は信じない。 確かに居たとしても、ソイツらは人の望みなんて叶えちゃくれない。
人の望みを聞いたとて、それを捻じ曲げて解釈し、幸福なんて齎さないクソ野郎共だ__と、私は思っている。
神様は居ない。
ほら、その証拠に。神様は私達をこの窮地で助けてくれない。
黒の剣に纏わりついた、黒い魔力が暴風のように盾に襲い掛かる。
盾の後ろに居てもその猛威はよく分かる。 周囲だけがごうごうと音を立てている。
白の盾の周囲に集う、白い魔力がそれを受け止める。
輝くその光が黒を確りと受け止め、黒に対抗せんと震えながらも聳え立つ。
「っ、令呪を以て命ずる!!」
立香の手の甲に刻まれた令呪の一画が赤く輝いた。
「マシュ、負けるな!!」
アバウトにも聞こえるが、効果を発揮するには十分らしい。
マシュの盾が纏う魔力が更に光と量を増し、黒い魔力を追い返さんと堅牢な城壁となる。
白と黒の鍔迫り合い、その結果は。
「っう、あああああああああっ!!!」
白の。白の盾が、黒の魔力を全て受け止め、勝った。
一度は耐えた、しかし二度は無いだろう。 マシュももうボロボロだ。
故に、私とキャスターで早めに決着をつける他にない。
「行くぞ、フール!!」
「分かってるさ!」
タロットカードを片手に飛び出した。
「宝具展開時間が欲しい、ちと稼いで貰えるか!?」
「私に何を期待しているんだい…!!」
またタロットカードを叩き割り、カグツチを呼び出した。
「君だって負けたくないだろ カグツチ、アギダインだ!!」
巨大な火球をアーサー王目掛け飛ばさせるが、剣でばっさりと吹き飛ばされる。
飛び散った炎の合間を狙って右袖から針を投げたが、動きを見るにかわされてしまったようだ。
「いいぜフール、一旦退け!」
キャスターに集った魔力がうなりをあげる。肌が焦げつく気配がする。炎系の宝具か?
私のペルソナがカグツチである以上、『火炎無効』ゃ『火炎吸収』は期待できない。カグツチはせいぜい火炎耐性が関の山だ。 つまり逃げた方が良い。
咄嗟に飛び退いたが、逃げ遅れた髪が数本焦げて散った。 まあどうだっていい、髪の数本なんざ死ぬよりは安い。元々碌に手入れなんてしたことも無いのだから。
「焼き尽くせ、木々の巨人。炎の檻となりて__」
其は贄を求める神のしもべ。
其は敵対者を燃やす巨人の炎。
「
数秒前まで私が居た場所に、炎を纏った木が…正確に言えば、木の巨人の炎を纏った腕が振り下ろされた。
冗談じゃない、カグツチは物理技が弱点の一つにある。 幾ら火炎耐性があってもアレを喰らっちゃ流石に死んでいただろう。背中を冷や汗が滴り落ちた。
思った以上に俊敏な動きをする木の巨人。
…いや、全体的に見させて頂くと若干押されがちか? 宝具を切った当時は押せていたが、相手は騎士王アーサー・ペンドラゴン(ただし女性)。幾ら素早くても体が大きければただの大きな的、ということだろうか。まあ今の私が相手だったら瞬殺されているだろうのであまりこんなことを言うべきでは無いのだけれど。
このまま指を咥えて見ているのも嫌なので、木の巨人の影に紛れてアギを幾つか飛ばした。
しかし勝敗に大きな差が見えた気はしない。多分避けられたし。
…手札は温存、とか考えてる場合じゃないねえ。
切るしかないのだ、恐らくは。
通用するのか、とか。手札がどうこう、とか。そんな場合じゃない。
勝たなきゃいけない。勝つ為になりふり構っていられない。
思えば、私はいつだってそうじゃないか。
何かを守る為に戦った。何かを守る為には勝たなきゃいけなかった。
人知れず、僅かに震える手で、銃を構えた。
勿論、弾の入っている二丁拳銃じゃない。
応えて欲しいと祈りを込めて、引き金にかけた指に力を込めた。