目の前に広がるのは、崩壊したI.M.P.のオフィスだった。
壁は焼け焦げ、床には瓦礫が散乱し、机や椅子は無残に壊されていた。
あの馴染み深い空間が、まるで地獄の戦場のように変わり果てていた。
そして、その中心にいたのは——オスカーだった。
炎の中に佇む彼は、いつもと違っていた。
黒いコートの裾がひるがえり、燃え盛る炎が彼の背を照らしている。
紅い瞳は、普段の冷めたものではなく、まるで刃のような冷酷な光を宿していた。
——何かが違う。
——何かが、おかしい。
ブリッツは本能的にそれを感じ取った。
「おい、オスカー……?」
彼は、乾いた喉を震わせながら声を絞り出した。
しかし——
「…………」
オスカーは答えなかった。
ただ、静かにブリッツを見下ろしていた。
その無言の眼差しに、得体の知れない寒気が走る。
「な、なぁ……お前、何考えてんだよ……?」
ブリッツは必死に笑みを作ろうとした。
いつもみたいに、軽口を叩いて、冗談のように済ませられるように。
しかし、その時——
オスカーは、静かに口を開いた。
「……もう終わりだ」
「……は?」
「お前とはもう終わりだ、ブリッツ」
その言葉が、ゆっくりとブリッツの脳内に刻み込まれる。
「な、何言って……?」
「……俺はもう、お前の相手をするのに疲れたんだよ」
オスカーは静かに言った。
それは、今まで聞いたことがないほど冷たい声だった。
「お前といると、ただ無駄な時間が過ぎるだけだ……何も得るものがない」
「…………っ」
「ここはもう俺のいる場所じゃない。俺はもう行く」
「待てよ!! 何言ってんだよ!!!」
ブリッツは叫びながら、オスカーに向かって手を伸ばす。
しかし、その手は虚しく空を切った。
オスカーは一歩ずつ、ブリッツから遠ざかっていく。
「オスカー!! おい!!!」
ブリッツは必死に駆け寄ろうとするが——
足が動かない。
まるで地面に縛り付けられたように、どれだけ力を入れても体が動かない。
「くそ……くそっ!! なんだこれ!!」
焦燥感が胸を掻きむしる。
呼吸が荒くなり、頭の中が真っ白になっていく。
それでもオスカーは止まらなかった。
淡々と、迷いなく、ブリッツを振り返ることもせずに——
彼は、ただ静かに、歩き去った。
「待てよ……オスカー……!! ふざけんなよ!!! どこに行くんだよ!!!!」
叫び続けても、彼はもう二度と振り向かなかった。
「俺を見捨てないでくれ!!!!!!」
——静寂。
——完全なる暗闇。
先ほどまで燃え盛っていた世界は、まるで色彩が奪われたように、漆黒の闇に包まれていた。
そこに、"彼ら"はいた。
ブリッツの知る顔。
彼が過去に関わった者たち。
ヴェロシカ、フィズロリ、ストラス、モクシー、ミリー、ルーナ……
彼らがブリッツを取り囲むように、闇の中から浮かび上がっていた。
——そして、一斉に口を開く。
「誰もお前を愛さない」
それは、何の感情も込められていない、冷たい宣告だった。
「……は?」
ブリッツの心臓が強く跳ねる。
「違う……違うだろ……!?」
「お前はクズだ」
「お前はいつも、自分のことしか考えていない」
「お前には愛なんて必要ない」
「やめろ!! ふざけんな!!! 俺だって……俺だって……!!」
「お前は愛される資格なんてない」
——その言葉が、決定的だった。
まるで心臓を鷲掴みにされたように、呼吸が詰まる。
周囲が歪む。
世界が、ひび割れる。
そして、その中央に立つオスカーが、最後に静かに口を開いた。
「お前はバカだよ。最悪の部類のな」
嘲るような微笑みを浮かべながら。
世界が崩れ落ちた。
「!!!!!っは!!」
ブリッツはガバッと飛び起きた。
荒い呼吸を繰り返し、額にはびっしりと冷や汗が浮かんでいる。
心臓がまだ激しく脈打っていた。
「……夢……?」
彼は息を整えながら、額を手で拭った。
そこへ——
「……お前、何やってんだ?」
不意に、低い声が響いた。
ブリッツはビクリと体を震わせ、顔を上げる。
——そこには、オスカーがいた。
「お前、変な寝言言ってたぞ。……悪い夢でも見たか?」
「………………」
ブリッツは一瞬だけ黙り込む。
「ハッ、なんだよ、気持ち悪い夢だったぜ」
オスカーはしばらくブリッツを見つめた後——
「……あっそ」
そう短く言い、煙を吐きながら、奥へと歩いていった。
——が、その足が、ふと止まる。
オスカーは無言のまま、ポケットから小さな銀のスキットルを取り出し、ブリッツの前に放った。
「……飲め。落ち着くだろ」
ブリッツは驚いたようにそれを見つめる。
「な、なんだよ、急に……?」
「別に」
オスカーはちらりとブリッツを見下ろし、静かに言った。
「……お前、たまに、そういう顔するよな」
ブリッツは返す言葉が見つからず、ただ黙ってスキットルを手に取った。
その中身は、オスカーがいつも飲んでいる強い酒だった。
割と内心ではブリッツのことをかなり心配しています。