夜の闇が、地獄の空に沈む。
ゴエティアの城の広大なホールでは、淡く揺れる蝋燭の灯りが、装飾品の金や紅の輝きを映していた。
その中心に立つのは、ストラス。
だが、彼の表情は、優雅とは程遠い。
彼は羽根を震わせ、ワイングラスを傾けながら、目の前の映像を睨みつけていた。
魔法で映し出されたのは、I.M.P.オフィスの様子。
そこには、ブリッツとオスカーが肩を並べ、いつものように軽口を叩き合っている姿があった。
「.........また仲良さげにしている」
ストラスは小さく呟く。
ブリッツがオスカーの肩をポンと叩き、オスカーが軽くため息をつく。
そして、何かを言った後、二人で笑い合う。
その光景を見ていると、胸の奥がチクリと痛んだ。
(何なのだ、これは……)
彼はワイングラスを置き、椅子に座ると、眉間に指を当てる。
これは.....嫉妬?
いや、そんなはずはない。
ブリッツとオスカーが仲良くしているのは、別に今に始まったことではない。
それに、彼が他の者と交友を深めるのを妨げる理由もない。
......だが、それでも気に入らない。
(どうしてあの男が……)
ストラスは映像の中のオスカーを見つめる。
ブリッツと並んで、皮肉を言い合いながら、それでもどこか気を許した態度を見せるオスカー。
ブリッツが困ったような顔をしながら、それでも笑っている。
まるで "親友" ではないか。
親友。
ブリッツにとって、オスカーはそういう存在なのだろうか?
ならば、自分は........?
ブリッツにとって、ストラスは "何" なのだ?
(.....恋人、か? それとも、ただの都合のいい存在?)
思考が、ぐるぐると渦を巻く。
彼はワイングラスを手に取ったが、それを飲む気にもなれず、再び置いた。
「おかしい........おかしいぞ.....」
苛立ちが、胸の奥で燻る。
ブリッツと一緒に過ごしている時の幸福感。
その幸福が、今は "苛立ち" に変わっている。
どうしてオスカーが、そんなに親しげにされているのか。
どうしてブリッツは、あんなにも自然に笑うのか。
どうして——
「........私では、ダメなのか?」
ぽつりと漏れた言葉に、ストラス自身が驚く。
(違う、そうではない.....)
彼は頭を振る。
オスカーがブリッツの "特別" というわけではないはずだ。
それは、ただの "友情" なのだから。
ならば、これは——ただの嫉妬ではないか。
(いや、違う.......違う違う違う!!)
自分はこんなことで、動揺するような悪魔ではない。
ブリッツのことは "愛しい" と思っているが、それが "所有欲" であってはならない。
だが、それでも、彼の目の前に映る光景に、胸が苦しくなるのは……
何故なのだろうか?
▼▼▼▼
一方、オフィスでは、ブリッツとオスカーが相変わらず言い合っていた。
「なぁオスカー、お前さ、俺のこと嫌いなのか?」
「はぁ?」
「いや、なんつーか、たまに冷たすぎねぇ?」
「お前の金の使い方がクソだからだろ」
「ファック(くそっ)!!!」
オスカーはコーヒーを飲みながら、呆れたようにブリッツを見る。
「まったく.....お前も、もう少し頭使えよ」
「うるせぇ!!! 俺は俺なりに考えてんだよ!!!」
オスカーはため息をつきながら、窓の外を見た。
「........まぁ、お前はバカだけどな」
「はぁ!? やっぱ嫌いなんじゃねぇか!!!」
「......でも、お前がいなきゃ、ここは成り立たねぇよ」
「…………」
ブリッツは言葉に詰まる。
オスカーは肩をすくめ、デスクに肘をつきながら、コーヒーをゆっくりと飲み干した。
「ほら、仕事しろよ、バカ」
「クソがぁぁぁぁぁ!!!!!」
オスカーの皮肉にキレ散らかしながら、ブリッツは書類を叩きつけた。
その光景を、ストラスは黙って見ていた。
.......なんだ、それは。
あのブリッツが、"私" には見せたことのない表情をしている。
まるで、"対等" のような関係。
それが、どこか.....耐え難いほど、妬ましかった。
「.......本当に、私では.......ダメなのか?」
ストラスはワイングラスを握る手に、無意識ながら僅かに力が入った。
そりゃ好きな男の近くに自分よりも親しくしてる同性がいれば嫉妬しますよね。