いやーついに始まりましたねハズビンホテルseason2、私も毎週の楽しみにしています。
最新話まで見て思ったのは良い意味でアラスターの見方がだいぶ変わったことですね
――薄暗いバーカウンターの照明が、琥珀色の液体を淡く照らしていた。
氷がグラスの内側を転がり、カランと乾いた音を立てる。
煙草の煙がゆるやかに上へ昇り、安酒と焦げた木の香りが混じる。
オスカーはその煙の向こうで、ぼんやりとした目をしていた....地獄の喧騒から離れたこの酒場は、彼にとっての数少ない“憩いの地”だった。
外の世界では怒号と血の匂いが絶えず渦巻いているが、ここだけは違う。
上級悪魔であるオスカーが常連――それだけで、地獄のチンピラどもも尻尾を巻く。
この店で騒げば、次の瞬間には灰になると知っているのだ。
バーテンダーの悪魔が無言で酒瓶を拭き、静かな音楽が小さく流れていた。
時計の針の音だけが、妙に鮮明に響く。
「よっ、色男さん。元気してるか?」
聞き慣れた甲高い声にオスカーは視線を向けた。
振り返ると、そこには派手な羽毛を揺らしたエンジェル・ダストが立っていた。
艶っぽい笑顔の裏に、どこか疲れた影を滲ませて。
「よう……なんだ?浮かない顔してるが」
「あー……いや」
エンジェルはバーテンダーから酒を受け取り、彼の隣に座るとグラスを回しながら曖昧に笑った。
普段の調子の良さはどこへやら、視線をカウンターに落としたまま口ごもる。
「……」
オスカーは黙って待つ。
やがてエンジェルが、観念したようにため息をついた。
「あーーーハイハイ、吐くよ吐くっての!」
グラスを軽く煽り、頬杖をついたままぼそりと続けた。
「オスカー、アンタって……ヴァr……うちの上司と同じくらい偉いんだって?」
「上級悪魔かってことか?まぁ、そうだな。それがどうした?」
「いや、それがどうもアイツがさ……俺がこうしてアンタと飲んでること知っちまったみたいでさ。
それが気に食わねぇらしくて、もう――バカほど鬼詰めされてんのよ。マジで参るぜ」
オスカーはグラスを傾け、静かに言った。
「そいつは災難だ……いや、そういえば俺も会議の時にあの蛾にお前のことを聞かれたが……そういうことか」
「そういうこと!」
エンジェルは笑い話をするように話し始めた。
「『テメェ、アイツと寝てやがんのかクソ野郎!?』だの、『誰がテメェのボスか忘れたのか?あァ!?』って殴るわ蹴るわ首絞めるわ……勘弁しろよなあのサイコパス野郎」
「……何だって?」
「挙句の果てには――」
「おい」
低く、鋭い声。
オスカーの瞳が一瞬だけ血のような光を帯びた。
「な、なんだよ……その顔。こえぇって」
彼の頭の中で、瞬時にいくつもの選択肢が浮かび、そして消えた。
関わらない方がいい――そう分かっている。
だが、友人が自分のせいで傷ついている。見過ごすこともまた、残酷なのだ。
「エンジェル……お前が良いって言うなら、俺があの蛾と話をつけるが……どうする?」
その言葉に、エンジェルの表情が一瞬固まった。
次第にその意味を理解し――安堵が浮かび――すぐに恐怖に塗り替わる。
「ばっ!? 何言ってんだよお前っ!!!?」
「正直な話、普段はこんな上級悪魔らしいことはしないタチなんだが――」
「やめてくれ!!!!!!!!!」
怒鳴り声が店内に響いた。
一瞬、客たちの視線が集中するが、オスカーが動じずに煙草をふかすと、すぐに空気は落ち着きを取り戻した。
エンジェルは慌てて笑顔を取り繕い、早口でまくしたてた。
「い、いや~~ヴァルからのDVなんていつものことなんだよ!! ほら、俺ってセクシーでキュートだろ♡ 要は“かわいがり”ってやつさ! あいつ、スゲー嫉妬深いんだよ!
アンタと飲んでるのにただヤキモチ妬いてるだけ! だから別にアンタがそこまでのことしなくていいって!」
オスカーは煙草を灰皿に押し付けながら、その笑顔の裏にある怯えを見抜いていた。
――“彼はヴァレンティノを酷く恐れている。”
彼が止めるのは、自分が傷つくのを恐れているからではない。
ヴァレンティノが何をするか、知っているからだ。
『おい、いいか?クソジジイ? アイツは契約した時から俺のもんなんだよ。顔も体も穴も魂も、"全部"だ。アイツが誰と寝ようが勝手だがな……老いぼれのテメェなんかに大事なペットをいいようにされるのはハッキリ言って虫唾が走るんだよ?」
――あの時、もし会議の場でなければ、確実に手を出していた。だがアラスターが場を収めた。その為、それ以上何かに発展することはなかった。
今、目の前にいるのはその被害者だ。
介入すれば、確実に面倒になる。それが契約破棄となれば猶更。
そしてもしヴァレンティノがI.M.Pの仲間たちを狙うようなことがあれば――。
頭の中で最悪の未来がチラつく。
“守るべき仲間”と“助けるべき友人”。
その天秤の上で、オスカーは静かに自問自答した。
もし自分のいない所でブリッツ達の命が狙われたら?.....では目の前の友人は見捨てるのか?
彼も彼等も守ればいい....という綺麗ごとはお世辞にもオスカーは言う事もやることも出来なかった。
どうしても最悪の結末がチラつくからだ。
では自分は目の前の友人にいったい何をしてやれる?
悩んだ末に出したオスカーの答えは…………
「……わかった」
小さな声だった。だが、重かった。
「そ、そうか? よ、よかったよ……分かってくれてさ」
「まぁ……でも、その代わり」
「な、なんだよ」
「なんかあったら話せよ、ここでならいつでも聞いてやるから。」
「……ああ。うん。サンキュー」
エンジェルは小さく笑った。その笑顔は、どこか壊れかけていたが、それでも救いの欠片が滲んでいた。
数秒の沈黙のあと、エンジェルが空気を変えるように言った。
「なんか妙な空気になったな。……飲みなおそうぜ? そうだ、またブリッツの話聞かせてくれよ?」
「…………そうだな。会社の金を馬の人形一体買うのに全部使いこんだ話でもするか?」
「アッハハハハハハハ!!! いいねぇ!!!」
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笑い声が再び、静まり返ったバーの空気を満たしていた。
エンジェルはわざとらしく声を張り上げ、グラスを軽く掲げる。
だが、その裏で彼の指先はわずかに震えていた。氷が触れ合う小さな音が、どこか悲鳴のように響く。
オスカーは黙ってその様子を見ていた。
口元には薄い笑みを浮かべているが、その瞳の奥では別の何かが燃えていた。
深く沈んだ紅の光――怒りとも、焦燥ともつかない色。
カウンターの上には、煙草の灰が静かに落ちていく。
炎の小さな明滅に合わせて、オスカーの表情が一瞬ずつ照らされるたび、
その眼差しの奥に潜む激情がわずかに顔を覗かせた。
――今はこれでいい。
そう自分に言い聞かせる。
彼を助ければ、エンジェル自身の立場が危うくなる。
そしてヴァレンティノが牙を向ける先は、きっと自分だけではない。
I.M.Pの仲間たち――ブリッツ、ルーナ、モクシー、ミリー。
奴が本気で報復に出たとき、彼らが無事でいられる保証はどこにもない。
「……チッ」
オスカーは低く舌打ちをし、グラスを軽く傾けた。
琥珀色の液体が揺れ、光を飲み込みながら静かに喉へと消えていく。
喉を焼くアルコールの熱さが、一瞬だけ思考を奪った。
――最低限、話を聞いてやることくらいしかできない。
そんな現実が、胸の奥で鈍い鉄塊のように重くのしかかる。
彼は灰皿に煙草を押し付け、深く息を吐いた。
白い煙が、赤黒い照明の中でゆらりと形を変えながら上昇していく。
まるで、怒りと無力さが溶けて消えていくように。
「……クソッたれが」
小さく呟いたその声は、酒場のざわめきに掻き消された。
エンジェルは笑いながら自分に何かを話している――その声を聞きながら、
オスカーはふと、グラスの底を見つめた。
まるで、そこに沈んだ自分の無力さを確かめるように。
とりあえずエンジェルは救われて欲しい