Hellbound Echoes   作:ゲット虚無

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ヘルヴァボスのどんちゃん騒ぎが大好きです。


ルールーランド事変

 

 I.M.P.のオフィスは、いつも騒がしい。

だが、今日の騒ぎはいつも以上に酷かった。

 

オスカーはデスクに座り、無数の書類とにらめっこしながら、ペンを走らせていた。

彼の目の下には、いつものようにはっきりとした隈が浮かんでいる。

 

(クソッ……この書類整理さえ終われば、少しは楽になるのに……)

 

カチャカチャとキーボードを叩く音が響く。

久々に集中できる時間が訪れた——はずだった。

 

しかし、その静寂は一瞬で破られることになる。

 

 

『I.M.P.集合!!! ルールーランドに行くぞ!!!』

 

拡声器の爆音が、オフィス全体を揺るがした。

 

オスカーの指が止まる。

ペン先が書類の上にブスリと刺さった。

 

「……は?」

 

オスカーは、耳がキーンとするのを感じながら音の出どころを探す。

 

 

それはブリッツの部屋から響いていた。

 

しかも、拡声器のボリュームは最大。

 

「ルールーランド?」と、扉の向こうから顔を出したのはモクシー。

 

「ルールーランド!!!!」

 

ミリーが勢いよく扉のガラスをぶち破りながら顔を出す。

その目は、完全に興奮で輝いていた。

 

『ルールーランドだ!!!!!!』

 

そしてまた、部屋からブリッツの拡声器を通した、叫び声が聞こえる。

 

オフィス全体が地震のように振動するほどの音量だった。

 

あまりのやかましい声に、オスカーはビキビキとこめかみを引きつらせる。

 

彼の中に、何かが弾けた。

 

「「うるせぇ、黙れ!!!!!」仕事に集中できねぇだろうが!!!!!!」

 

ルーナが、オスカーの怒声に負けず劣らずのキレ声を叩きつける。

 

ほぼ同時に二人の怒鳴り声が響いた。

 

ズドン!!

 

オスカーが拳をデスクに叩きつけ、ルーナはスマホを壁に投げつけた。

 

二人の殺気に、モクシーは顔を引きつらせる。

しかしミリーとブリッツに至っては、まったく気にしていなかった。

 

△▼△▼△▼

 

 — ルールーランド / 入り口付近 —

 

「……はぁ、なんで俺まで」

 

地獄の遊園地「ルールーランド」の入り口に立ちながら、明らかに不満を隠しきれない顔の男がいた。

 

彼の隣には、同じように不機嫌そうな顔をした少女。

彼女もまた、まったく乗り気ではない様子で、腕を組みながら溜め息をついている。

 

一人は、無理やりストラスに連れてこられた娘・オクタヴィア。

もう一人は、無理やりブリッツに連れてこられたオスカー。

 

二人は一瞬だけ互いに視線を交わす。

 

「…………」

 

((ああ、こいつ無理やり連れてこられたんだな))

 

言葉を交わさずとも、互いの境遇を察した。

 

今回の遊園地訪問の裏には、ゴエティア家の貴族悪魔・ストラス侯爵からの依頼があった。

ブリッツ曰く、

 

「仕事だ!! ストラスが『娘とルールーランドに行くから護衛してくれ」だとよ!!」

 

ということで、I.M.P.は護衛の仕事を請け負うことになった。

 

しかし——

 

「いや、お前も来るんだよ?」

 

そう言われた瞬間、オスカーの足が止まった。

ちょうど、車に乗った皆を見送って、仕事に戻ろうとしていた矢先だった。

 

「……はぁ?」

 

眉をひそめながら、ゆっくりとブリッツを見る。

 

「貴族の護衛だぞ? お前がいれば百人力だっての!!」

 

そう言いながら、ブリッツはオスカーの腕を無理やり引っ張る。

 

「ほらさっさと車に乗れって!!」

 

「ちょ、おい……待て!」

 

オスカーが反論する間もなく、車の後部座席に押し込まれた。

こうして、彼はストラスとオクタヴィアの護衛という"余計な仕事"に駆り出されることとなったのだ。

 

(.....クソッ、せめて心の準備ぐらいさせろ)

 

外を眺めながら、オスカーは内心で悪態をついた。

 

遊園地のゲートをくぐると、目の前には古びたボロボロの看板が立っていた。

ペンキが剥がれ落ち、文字の一部はかすれて読めなくなっている。

看板の上には、不気味な笑みを浮かべたマスコットが客を歓迎している。

 

(……ここ確か、ルールーワールドのモロパクリって聞いてはいたが……アウトだろこりゃ)

 

オスカーは眉をひそめながら、この明らかに"合法"ではなさそうなテーマパークの様子を見回し、心の中で毒づいた。

 

奥から聞こえてくるのは、子供たちの笑い声や絶叫マシンの轟音。

だが、それが純粋な歓声なのか、それとも"悲鳴"なのかは判別がつかない。

 

「さて、お仕事開始だな!」

 

ブリッツが腕を組みながらニヤリと笑う。

 

オスカーはため息をつきながら、一応、護衛としての指示を確認する。

 

「俺はストラスの周りを警戒してるから、お前はお嬢様の周りを警戒してろ」

 

「了解」

 

 オスカーは短く返事をすると、オクタヴィアの後ろに回り、三歩ほど距離を取って歩く。

警戒の目を光らせながら、周囲を見回した。

 

——普段の彼であれば、外を出歩くのに一般人(悪魔)に驚かれたり、悲鳴を上げられるのが面倒な為、眼鏡やサングラスをつけ、多少の変装をする。

 

だが、今回は何もしていなかった。

 

(.....自分だと分かるようにしておけば、バカな連中は現れないだろ)

 

 彼はそう考え、あえて目立つことを選んだ。

それでも、バカな連中が現れるなら、その時は始末するだけのこと。

 

ちなみに到着してすぐ、モクシーとミリーは遊びに行った。

 

「監視は俺たちだけでやるから、お前らは遊び行ってこい」

 

ブリッツがそう告げると、ミリーの顔がパッと輝いた。

 

モクシーは驚いたような顔をし、オスカーの顔を不安げに見るが......

 

「ここ最近忙しかったろ? 楽しんでてくれ」と言われたのもあって素直に従った。

 

モクシーはミリーの手を引かれ、すぐにその場を離れていく。

 

オスカーは、二人を見送るとき、ほんのわずかに微笑みを浮かべた。

 

(まぁ……あの二人が少しでも気晴らしできるなら、それでいい)

 

こうして、モクシー&ミリーは夫婦仲良く遊園地へ向かい、オスカーは護衛としての仕事に戻った。

 

 

オスカーが周囲を警戒しながら歩いていると、不意に袖を引っ張られた。

 

「……?」

 

視線を落とすと、そこにはオクタヴィアの姿があった。

 

「あの、貴方……オスカーだったわよね?」

 

 彼女は少し戸惑ったように、しかし興味を持ったような目でオスカーを見上げる。

 

オスカーは、一瞬、何の話かと考えたが、すぐに落ち着いた声で応じる。

 

「どうされました? オクタヴィア様、何か問題でも?」

 

オクタヴィアは軽く首を振り、少しバツの悪そうな表情を浮かべた。

 

「いえ、そうじゃないの……正直言って、私ここに来たかった訳じゃないのよ。パ...父さんに無理やり連れてこられただけだし.....仕事は程々でいいから」

 

 言葉の端々に、不満とため息が混じっている。

 

それを聞いたオスカーは、ふむ、と小さく頷いた。

 

(まぁ、そりゃそうだろうな……)

 

 無理やり連れてこられた身として、彼もオクタヴィアの気持ちは痛いほど分かる。

 

とはいえ、護衛の仕事に手を抜くわけにはいかない。

 

「そういう訳にはいきません。お嬢様はもちろん、ストラス侯爵の身になにか起きることは決してないのでご安心ください。私が命に代えてでも、お二人をお守りしますので。」

 

 オスカーは、オクタヴィアの前で腰を折り、毅然とした口調で言い切った。

 

オクタヴィアは、彼の言葉に少し驚いたような表情を見せたが、すぐに「はぁ……そう」と呆れたように肩をすくめた。

 

「わかったわ。でも、本当に程々でいいから。」

 

 そう言い残し、彼女は再びストラスの隣へと戻っていった。

 

オスカーは、それを見送りながら、小さく息を吐いた。

 

(……まぁ、貴族の護衛なんて、こんなもんだよな)

 

彼は、引き続き周囲を警戒しながら、静かに歩き始めるのだった——。

 

△▼△▼△▼

 

 仕事は順調だった。

 

ーいや、順調すぎるくらいだった。

 

 変な輩が現れようものなら、オスカーがギロリと睨みつけるだけで蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

強面の悪魔やならず者たちが近づいてきたとしても、オスカーの視線が一瞬合った途端に顔を真っ青にして退散する。

 

"上級悪魔のプレッシャー"は、言葉を使うまでもなく十分に効果を発揮した。

 

 それでも、馬鹿というものはこの地獄にも一定数存在するらしく、恐れ知らずにもオスカーの威圧を意に介さず近づいてくる者もいた。

 

しかし——

 

 そいつらの末路は二通りしかなかった。

 

 一つは、ブリッツのライフルによって即座に射殺されるパターン。

もう一つは、オスカーが指を鳴らし、骨も残らないレベルで燃やし尽くすパターン。

 

 一度だけ、勇敢にも"こいつ、大したことねぇじゃん?"と粋がった悪魔がいたが、その悪魔は次の瞬間、跡形もなく消え去った。

 

 観客の誰もが、何が起こったのか理解する間もなく、空気が一瞬だけ高熱で歪んだだけだった。

 

それ以降、オスカーの周囲に近づこうとする愚か者はいなかった。

 

 いつもは帳簿に数字を書き込み、理不尽な経費の増加にイライラしている彼だったが、今回はなんとも簡単な仕事だった。

 

 彼は珍しく気楽な気分になっていた。

 

現在のオスカーは、遊園地の外で待機していた。

 

これはブリッツの指示だった。

「中の護衛は俺だけで十分だから、外を見張ってろ!」

 

オスカーは「面倒くせぇ」と思いつつも、大してやることもないならそれでもいいか、と従うことにした。

 

——が、今のところ異常は何もない。

 

「.........暇だな」

 

周囲の様子を眺めながら、オスカーはぼんやりと立っていた。

 

 普段は、数秒でも油断すれば、モクシーとブリッツの口論やミリーの爆発的な暴れっぷりに巻き込まれるという、地獄のような職場にいる。

 

しかし、今はただの監視任務。

 

周囲を警戒しながらも、特に動きはなく、退屈な時間が過ぎていく——はずだった。

 

 

突如として、遊園地の奥から人の走る気配がした。

 

オスカーはすぐに視線を向ける。

 

そこには、全力で駆けてくるオクタヴィアの姿があった。

 

 その表情は、涙を浮かべていたものだった

すぐ後ろを、ストラス侯爵が慌てた様子で追いかけている。

 

(......何があった?)

 

オスカーは眉をひそめ、彼女の視線を追った。

 

「.........ブリッツの姿がない」

 

 異変に気づいた瞬間、オスカーの警戒心が一気に高まる。

ストラスのような上級貴族が、何かに焦って走るなど尋常ではない。

 

(あのバカ........何をやらかした........?)

 

疑念が浮かんだその瞬間——

 

 

ボッ!

 

 

 

 小さな爆発音がした。

 

オスカーの背筋がピクリと震える。

 

次の瞬間——

 

 焦げ臭い匂いが、風に乗って流れてきた。

 

オスカーは、一瞬だけ思考を止めた後、素早く振り向いた。

 

視界に飛び込んできたのは、燃え上がるサーカスのテント。

 

 観客たちが、悲鳴を上げながら四方八方へと避難していく。

火の粉が宙を舞い、炎が布地を瞬く間に飲み込んでいく光景は、まさに"地獄"のそれだった。

 

「……あのバカ!!!!!!」

 

オスカーは思わず叫ぶ。

 

「本当に何やった!!!!! つーか、またかよボヤ騒ぎって!!!!」

 

まさかの"また"である。

 

 そこへ、遅れて現れるブリッツ。

何かを相手にしているのか、銃を乱射しながら走ってきた。

 

「おい今度はなんだ!!!」

 

オスカーが問い詰めるが、ブリッツはそれどころではなかった。

 

「悪いが二人を追ってくれ!!!!!!」

 

その言葉と同時に、オスカーは目を剥いた。

 

「ハァ!!?」

 

だが、ブリッツの様子からして、冗談ではないことは明らかだった。

 

 火の手はさらに大きくなり、サーカスエリアの一角が次々と崩れ落ちていく。

観客たちは逃げ惑い、混乱は広がるばかりだった。

 

(クソッ……!)

 

 オスカーは舌打ちをしながら、迷っている暇などないと判断した。

 

ブリッツに悪態をつきながら、彼はストラスとオクタヴィアを追って駆け出すのだった。

 

 オスカーは走りながら、混乱の最中にモクシーとミリーと合流した。

二人とも、明らかに状況に巻き込まれた側で、モクシーは息を切らしながらオスカーに向かって言う。

 

「……なんでまた火事が起きるんです!?」

 

「知るか。聞いてねぇよ」とオスカーは肩をすくめながら答えた。

 

ミリーは興奮気味にナイフを構え、周囲を警戒している。

 

「もう、なんで私たちが護衛じゃなくて消火隊みたいになってんのよ!」

 

「護衛は護衛でやってるだろ」とオスカーは呆れながら言った。

 

 その時、視線の先に、ひときわ異様な建物が目に入る。

 

ミラーハウス。

 

そこには大きく描かれた顔があった。

 

「……これ、完全にルシファーの顔じゃねぇか?」

 

オスカーは思わず口にする。

 

 モクシーも、そのデザインを見て絶句する。

確かに、ルシファーに似ている。というか、ほぼルシファーそのものだ。

ミリー曰く、昔からこんなデザインと言っている。よく訴えられていないものだ。

 

「……いや、これはさすがにアウトじゃ?」

 

モクシーが困惑しながら言うが、すでにストラスとオクタヴィアはその中へと入っていった。

 

「……どうします?」とモクシーが尋ねる。

 

オスカーは短く「行くぞ」とだけ告げると、モクシーとミリーは銃を構えながら建物の中へと足を踏み入れた。

 

 ミラーハウスの中は、不気味なほど静かだった。

無数の鏡が迷路のように張り巡らされ、どこを見ても自分たちの姿が映り込む。

しかも、鏡の配置が絶妙に歪んでいるため、距離感が狂いそうになる。

 

「……チッ、こういう視覚を狂わせるのは厄介だな」

 

 オスカーは舌打ちしながら、慎重に足を進める。

 

ミリーは「うっわぁ……これ絶対、敵の待ち伏せに向いてるやつじゃない?」とつぶやいた。

 

そして——

 

案の定、中には下手人がいた。

 

 ミラーの隙間から、ストラスに忍び寄る影があった。

明らかに殺気を滲ませた悪魔が、ストラスの背後にまとわりつこうとしていた。

 

 オスカーは、一瞬で動いた。

 

モクシーが銃を構えるよりも速く、オスカーの姿がブレるように消えた。

 

次の瞬間

 

「ギャァッ——!?」

 

悪魔の悲鳴が響く。

 

 オスカーは、すでにストラスの背後にいた。

その片手で、相手の身体を文字通りバラバラに引き裂いていた。

 

能力や魔力を使うまでもなく、ただの物理的な腕力だけで。

 

 血の飛沫が床を汚し、肉片が鏡にへばりついた。

反射する無数の鏡が、その凄惨な光景を何度も何度も映し出していた。

 

「……お見事」とモクシーは顔を引きつらせながら言った。

 

 ミリーは「すっごーい!!」と無邪気に拍手を送る。

 

「いや、お前らな……」とオスカーは呆れたように返した。

 

 それを見たストラスは、血塗れのオスカーを見下ろしながら、冷静に服についた肉片を払った。

 

「ブリッツィはどうしたのかね? 彼が私の白馬の騎士だ。君らは違う。」

 

 ミリーは苦笑いを浮かべながら答える。

 

「ボスは……えーと、多忙で」

 

 モクシーは、銃の弾倉を確認しながら呆れたように言った。

 

「バカやってます」

 

 ストラスは眉をひそめた。

 

「どんなバカだね?」

 

 オスカーは、冷めた目でストラスを見つめ、淡々と答えた。

 

「大火事です。しかも今回で二度目の大馬鹿です。」

 

 ミラーの中で無数に反射するオスカーの表情は、完全に「いつものことだ」と言わんばかりの冷淡な顔をしていた。

 

△▼△▼△▼

 

 ルールーランドの一角を燃やし尽くした大火事。

 

 その原因を調べてみると、どうやらブリッツが「偶然にも」因縁のある相手を模したロボットと鉢合わせし、そこから発展した殺し合いが原因だったらしい。

 

(……いや、偶然ってレベルじゃねぇだろ)

 

 オスカーは眉間に皺を寄せながら、火事の詳細を聞き出した。

 

 最初は「しょうがねぇだろ!」と開き直っていたブリッツだったが、しつこく問い詰めるうちに、ついに決定的な証言が飛び出した。

 

「ま、いたなら殺し合うしかねぇよな!」

 

「やっぱり、テメェが原因じゃねぇか!! ドアホ!!!!」

 

オスカーの怒号が響く。

 

 ブリッツは「うおっ」と身を縮めながら苦笑いを浮かべるが、オスカーは容赦しない。

拳を固め、こめかみに血管を浮かせながら睨みつけた。

 

「つーか、そいつはどうなった?」

 

「さぁな! あの爆発と炎に巻き込まれてたんだ! 粉々になってるだろ!」

 

「……本当に、お前は....いやもういい」

 

オスカーは、疲れた顔でブリッツを睨みながら、改めて深くため息をついた。

 

一方で、ストラスとオクタヴィアの親子はというと、サーカスの中でどうやら親子喧嘩をしてしまったらしい。

 

喧嘩の原因は詳しく聞いていないが、どうやらミラーハウスの中で仲直りをしたとのことだった。

 

オスカーは、それを聞いて少し安心した。

 

「……まぁ、結果オーライってとこか」

 

 混乱に巻き込まれながらも、二人の関係に亀裂が入ることはなかったようだ。

それなら、今回の護衛任務も、ある意味では成功と言える。

 

「では、さらばだ諸君! そしてブリッツィ!!! 私に会いたくなったときはいつでも連絡をしておくれ!!!!!」」

 

「……あーもう、勘弁して父さん……」

 

 オリヴィアが心底うんざりした声を漏らす。

 

ストラスはその言葉を気にも留めず、上機嫌のまま家の扉まで向かって行った。

 

 そしてオスカーたちはI.M.P.の車へと戻った。

 

「……さて、帰るぞ」

 

だが、ボロボロになった三人(ブリッツ・モクシー・ミリー)は、既に座席でグッタリと沈んでいた。

 

「悪いが運転.....頼む......」

 

「マジで......疲れた......」

 

「ん.......もう動けない.....」

 

(......仕方ねぇなこいつら)

 

 オスカーは軽く肩をすくめ、運転席へと乗り込もうとしたその時——

 

「あっ、待って」

 

 不意に背後から声がかかる。

振り向くと、そこにはオクタヴィアが立っていた。

 

「……どうされました? オクタヴィア様」

 

彼女は、少し言葉を探すようにして、そっと視線を落とす。

そして、顔を上げると、僅かに照れ臭そうな表情を浮かべながら言った。

 

「今日は……その、ありがとう。多分、貴方も元々来るはずはなかったのよね? でも……私たちのために働いてくれて……ありがとう。」

 

その言葉に、オスカーは一瞬だけ驚いた。

 

(……感謝なんてされるのは、久しぶりだな)

 

彼は静かに彼女を見つめると、いつもの無表情を保ったまま、落ち着いた声で答える。

 

「ああ……いえ、私は勤めを果たしただけですので。」

 

オスカーは少し間をおき、ちらりと後部座席の方を見た。

ぐったりとしたブリッツが、シートにだらしなくもたれかかっている。

 

「それよりも、すみません。ウチのこの馬鹿(ブリッツ)のせいで、台無しにしてないか不安ですが……」

 

そう言いながら、軽くこずくと、ブリッツは「グフッ」と情けない呻きを上げた。

 

オリヴィアは、その様子を見て小さく笑った。

 

「そんなことは……分からないけど、貴方たちが私や父さんのために働いてくれたのは本当だから。今日はありがとう。お疲れ様。」

 

彼女は、丁寧に一礼すると、ゆっくりとストラスの元へと戻っていった。

 

オスカーは、彼女の背中を見送りながら、車のドアを開けた。

 

「………ええ、オクタヴィア様もお疲れ様です」

 

 そう呟き、運転席へと乗り込む。

 

エンジンをかけ、静かに車を出す。

 

(純粋な感謝を伝えられるのも、悪いもんじゃねぇな)

 

ルールーランドでの騒動を振り返りながら、オスカーはそう思うのだった——。

 

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