通過済みまたは視聴済みの方のみお読みください。
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潮騒の歌がきこえる。
夏の日差し。海の青。私を見つめて笑う君。眩しくて、美しいもの。私の心を焦がすもの。
どうして、君だけが 『特別』なんだろう。
私たちはあの時、確かに。 恋をしていたのだ。
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ウチ、田中正子。女子校生!
携帯の電波も通ってない山の中の村から、高校へと進学するタイミングでこの町『汐凪町』に引っ越してきた。元々、東京の高校に行きたかったんだけど、我が家で一番発言力のあるお祖父ちゃんの一声でその希望は却下され、少し不貞腐れながら迎えた入学式。たぶん外からきたウチが物珍しいみたいで、周りの人からは変な目で見られたり、なんだったら妙に絡んできたりする人もいて……。
「ひゃぁぁぁ……疲れたぁぁ……」
放課後、職員室前にて。ウチは盛大にため息を吐いた。外部から入ってきたってこともあり、先生に言われた書類を書いていたら、いつの間にかこんな時間。そりゃ誰だって疲れるっしょ……。
「って、イヤイヤ! 『ギャルたるもの、常に明るくハイテンションでいるべし』! 教えを守らなきゃね!」
ウチが憧れるカリスマギャルインフルエンサーの言葉である。ギャルマインドを取り戻そうと、ポケットからスマホを……って、ん?
「ありゃ? ウチのスマホ……どっか置いてきたかな?」
右にも左にも、カバンにもない。ってことは、職員室かどっかかな? と記憶を思い返していると、1ヶ所心当たりがあった。
「んあー、教室かな」
そういえば、生徒指導の先生が話が長くて、机の中でスマホいじってたんだった。早速、ウチは自分の教室へと戻る。机を漁れば、無事スマホを発見!
「あ、あった。よかったぁ……」
依存症とか言われるけど、ギャルにはスマホは必需品だしね。ただでさえ、家はそれなりに窮屈だし、ゴラクは大切大切!
「~~~~~~~~」
「ん?」
まずウチの耳に入ってきたのは声。歌声だった。たぶん隣の教室からで、ギターの音も聞こえる。
「……歌声と、ギターの音? なんだろ……?」
誰もいないはずの教室から聞こえる歌声とか、ちょっと不思議現象っぽいけど、それよりもその歌声にウチは強く惹き付けられたんだ。早くこの歌声の主を知りたいって。
まるで導かれるみたいに、隣の教室のドアを開ける。目に入ってきたのは、窓際でひとりたたずむ女の子の姿。透けるような白い肌、夜風にさらさらとなびく柔らかい髪。窓の外を見つめながら、小さな声で歌っているその娘の姿に、ウチは……。
「………………」
「~~~~っ、あっ」
「あ、えっと」
ウチが見ていたのに気づいたようで、その娘は演奏を止めてしまった。もうちょっと聞いてたかったのに…………じゃなくて!?
「……あ、あなたは…?」
「え、あっ、え、えっと、ウチはしょーこ、隣のクラス!
「え、ええと……」
「ごめんね、なんか歌とギター聞こえてきたから、つい、誰かいるのかなぁって……へへ」
「…あ、聞かれちゃって、ましたか…?」
そう言うと、彼女は俯いてしまった。白い肌が少し赤い。もしかして、照れてるのかな? でも、そんなの知るか。『ギャルたるもの、いいものはいいと褒めるべし』だ!
「うん! すっごい上手いね! あ、えっと……名前……」
ウチが名前を訊ねると、その子はあわあわと慌てながら答えてくれる。
「わ、私は、南 祐希って、いいます。よ、よろしくおねがいします!」
南 祐希。彼女はそう名乗った。
「あ、こっちこそ! よろしく! ゆーきって呼んでいい?」
「は、はい! 正子さんって、呼んでもいい、ですか?」
「んんっ」
「?」
さん付けに思わず身動ぎしてしまう。ぞわぞわするっ!?
「しょーこでいいよ! さんもいらないってー! だって、タメでしょ? ……あれ? タメ、だよね?」
「た、多分……?」
「うん! なら、さんもつけなくてよし! てか、さん付けとか背筋がぞわぞわするぅぅ」
「なら、しょーこ、でいいですか……?」
むぅ、敬語もむずむずするけど、まぁ、いいとしてやろう。いきなり距離詰めすぎるのもよくないだろうし! と、それはそれとして!
「てか、ゆーきはなんでここでギターしてたん? 趣味?」
「ギターは、今のところ趣味、です……」
「今のところ……?」
そう聞くと、ゆーきはさらに顔を赤くして言う。
「うぅ……/// 将来は、お仕事にしたいと、思っては……いる、んです、けど……」
「!!」
ゆーきのその発言に、ウチに衝撃が走った。
「え、すごいじゃん!! てか、うんうん! ギターも歌も上手かったしなれるって!」
「うぅぅ……人に聞かせたのは、あんまりないんですけど……」
「えー! 勿体ないって! ほら、あれだ! TikTokとかにあげよ! 絶対バズるから!!」
今はそういう時代なのだ! なんだったら、ウチがプロデュースして万バスを狙うのもアリかも?
「……ああいうの、怖くないですか…?」
「そう? ウチもあげてるし、ふつーふつー! ウチの見る? ほら、ネイルをのせてるんだよねー」
早速、ゆーきにスマホでウチのアカウントを見せる。過去一盛れてるやつ! 万バスしてるやつ!
「ふふん! すごくない?」
「す、すごいです! って、ネイル付けたことないですけど……」
「今度してあげよっか? て、ギター弾くのには邪魔かぁ……あ! なら、足とかどう?」
「あ、足……!?」
手の指だけじゃないんですね。と少しビックリした様子のゆーき。ちょっとかわいい。
「ゆーきのギターもまた聞かせてよ! そんときにやったげる!」
「は、はい!」
楽しみにしてますね。そう言って、ゆーきは笑う。そして、
「えっと、これからよろしくお願いします、しょーこ」
ウチにその笑顔を向けてくれた。その笑顔はあまりにも儚げで、でも弾けるようでもあり。
「っ、あ、ははぁ……う、うん…よろー」
自分の返答が、妙にしどろもどろになったのを自覚していた。ゆーきの受け答えは、ウチ以上にたどたどしい。でも、時折見せるその笑顔に、ウチの胸は高鳴った。
思えば、ウチの恋はこの時に芽吹いたのだろう。今から1年前の、春の夕方。これがウチとゆーきが初めて出会ったときの思い出だった。
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