自卓うちよそ小説   作:藍沢カナリヤ

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2 52ヘルツのナハトムジーク【甘い日々】

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 ウチがこの町にやって来てから1年が経ち、季節は夏を迎えていた。朝でもアスファルトが超絶暑くなってて、窓から吹き込む風には、潮の香りが混じった熱風になってる。

 ただ、そんな中でも今日のウチの心は軽い。なぜなら、長い長い1学期が終わる喜ばしい終業式の日! 先生たちの退屈な話を聞き、生徒総出の大清掃が終わったら、待ちに待った夏休みが始まる! ただ、この大清掃と言うのがイヤーな感じで、午前どころか午後までかかるらしくテンションが下がる。ま、どうやら学校の伝統行事らしい。

 学校へ向かう支度を済ませて、朝食をとるためリビングへ向かうと、お母さんが慌ただしく出勤の準備をしているところだった。あの家を出る時に、お母さんも一緒に出てきていた。きっと閉塞した雰囲気が嫌いだったんだろうなぁ、なんて想像する。お母さんはお見合い結婚だったらしい。だからか、事あるごとにお母さんは言っていた。

「正子、あんたは大恋愛の末に結婚するのよ。お母さんはどんな相手でも応援するからね」

 今までのウチは、恋愛に対して、所謂トラウマ的なやつがあり、そうだね、なんて流していた。だけど、今のウチとしては、こんなにありがたい話はない。

「あ、しょうこ! おはよう。そろそろ朝ご飯食べなさいって、呼びに行こうと思ってたの。お母さん、そろそろ出ないとだから。ちゃんと食べていってね!」

「はい、分かりました。気をつけてくださいね」

「まーた、喋り方……」

「あっ、アハハ」

 元の家での癖で、家族に対しても丁寧語で話しちゃう癖。お母さんの指摘に、ウチも苦笑いを返すしかない。

「あと、今日は仕事で早く帰れそうにないから……夜はどこかで食べるか、お惣菜とかですませてもらってもいい? いつもごめんね」

「分か……った。お友達と食べてくるね!」

「はいはーい! あ、それ! ごめんだけど……」

 お母さんは申し訳なさそうに手を合わせながら、机の上を指差す。そこには朝食のベーコンエッグトーストと、綺麗に包まれたお弁当箱、そしていくらかの現金が置かれていた。

「お金、もし余ったら、そのままお小遣いにしていいから。じゃあ、あたしもそろそろ出るね! いってきます!」

「いってら~!」

 バタバタと廊下を走っていき、玄関の鍵が閉まる音がした。ウチもキッチンの椅子に座る。時計を見れば、登校するにはまだ少し早い。朝食を食べ、メイクをかるーくしたとしても、ゆっくりと朝の時間を過ごせそう。

 ふと流れていたテレビに意識を向ければ、朝のニュース番組で、クジラについての特集を放送してる。沖縄のホエールウォッチングの話題。最近、クジラが入り江に迷い込む原因。

 そして、52ヘルツの声を持つクジラについての話。

 他の2つはよく聞く話だけど、声の話は珍しくて、なんとなく目がいく。

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『海を自由に泳ぐ、大きなクジラ。彼らは声を使うことによって、お互いにコミュニケーションを取っていると考えられています』

『その周波数は 10 から 39 ヘルツであることが一般的で、声の大きさは人間が聞いたら鼓膜が破られてしまうほど大きいのだとか!』

『しかし、これよりはるかに高い周波数で声を発するクジラが存在すると言われています』

『そのクジラは 52 ヘルツの周波数で歌い、同じ声で歌う仲間がいないため、「世界で最も孤独なクジラ」と呼ばれているそうです』

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「ふーん、孤独なクジラねー」

 群れに属さず、その声を聞いてももらえない。少しだけ引っ掛かったけど、それだけ。そのまま、ウチはお母さんの置いていったお小遣いが入ってる封筒に手を伸ばした。中を見ると、お札が2枚。

「おぉ、2000円! んー、家で作ってもいいけど、あの言い方だと冷蔵庫の中もないんだろうなぁ……。なら、やっぱり食べてくるかぁ」

 そのまま机の上に、放ってある新聞を見る。汐凪町についてのニュースがまとめられている地方新聞だから、それなりに身近な内容で、流し見でも情報が入ってくる。町で評判の定食屋さんの特集や近々整備される観光スポット、この夏注目のイベントなどについて書かれていた。『8 月の第二日曜日は花火大会!』という見出しが特に目立ってる。

「お、ご飯屋さんの特集あるじゃーん! あとは……花火大会……か。ふーん」

 不意に頭を過る1人の女の子。その娘の浴衣姿を想像して、にやけるのを自覚した。って、いやいや! ブンブンと頭を振り、時間を確認する。もうそろそろ時間だ。

「っと、そろそろ出なきゃねー」

 準備を整えたウチは、鍵をかけ、家を出る。家から学校まではそれほど遠くはない。自転車に乗ればあっという間に着く距離。ウチはヘルメットをちゃんと被り、自転車をこぎだした。

 

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 通学路を半ばまで進むと、バス停が見えてくる。時刻表と小さなベンチ、心ばかりの屋根がつけられた質素なバス停。潮風でさびついたベンチには、海を眺めながら缶ジュースを手に座っている人影があった。

「あっ」

 ゆーきがそこにはいた。夏の朝日で少し汗ばんだ様子の彼女は、ウチに視線を向けると笑顔で手を振ってくれる。

 

「あ、しょーこ!おはようございます!」

 

「はよはよー、ゆーき! 待ったー?」

「今来たところ、です!」

 表情を見ると、出会った時とは全然ちがう。ウチに心を許してくれてる笑顔で。このやり取りもいいなぁ、なんて。

「って、今来た割には汗ばんでない?」

「あ、汗かいちゃってますか……?」

「ちょっとねー、ゆーきもJKなんだから、そういうのはちゃんと対策しなきゃ!」

「う、うん…」

「とは言っても、夏も夏だからなぁ、どこまで効くか分かんないけど、制汗スプレー使う?」

 バッグから制汗スプレーを取り出し、使え使えと渡す。ゆーきはちゃんと受け取ってくれる。よかったよかった。

 そもそも、ゆーきはビジュがいいから、少し汗かいてるだけでも、うん……目の毒だ///

「ありがとうございます、しょーこ」

「ん。じゃ、いこっか」

「はい!」

 ウチも自転車を降り、2人並んで通学路を歩く。しばらくすると、学校が遠目に見えてくる。そして、それに伴って、生徒の姿もチラホラ増えてきた。ふと同じ制服をきた女子何人かが追い越していく。こちらを見ながらひそひそと、何かを話している。

「………………」

 ゆーきは気づいてないみたいだけど……。

「田中と南、また一緒にいるじゃん」

「あのふたり、なんなんだろうね。ず~っとつるんでるじゃん」

「さあ? 付き合ってんじゃないの?」

「マジ? まあ、『ヨソ者』と『ハミゴ』のカップルならお似合いかもね~」

 そいつらの顔を見なくても分かる。きっと悪意のある笑みを浮かべているんだろうなって。だから、ウチはゆーきには顔が見えない角度で、そいつらを睨み付け言う。

「……なに? ウチらに何か?」

 こちらに聞こえていたと思わなかったのか、それとも反撃はしてこないと思ったのか、そいつらは一瞬たじろいだ表情をしていた。

「……? しょーこ、どうかしましたか?」

「ううん、なんでもないなんでもない! ほら、いこいこー」

 ゆーきに睨むような表情を見せたくなくて、ウチは無理矢理笑顔を彼女に向けた。ウチの反応が気に食わなかったみたいで、そいつらはご丁寧に舌打ちをして、去っていく。

「………………」

 今みたいに、ウチとゆーきに向かって、あからさまな態度を取る人は少なくない。どこか浮世離れした彼女と「ヨソ者」のウチ。こんな小さな悪意は日常茶飯事だった。

「しょーこ」

「え、あっ、ごめーー」

 不意に肩をとんとん、と叩かれる。思わず、そちらを向くと、

「えいっ」

 むに、とゆーきの人差し指が柔らかく刺さる。彼女はイタズラに成功した子どものみたいに、無邪気に笑っていた。

「フフッ」

「っ、なにすんのさ…」

「ごめんなさい。でも、なんだかしょーこ、考え込んでるみたいだったから、つい…」

「っ」

 そこでやっとウチは自覚した。らしくない顔をして、らしくないことを考えちゃってたみたい。あー、もう! ゆーきに気をつかわせちゃった……失敗失敗。『ギャルたるもの、常に明るく満点スマイルで!』だよね!

「んー、ちょっと今日の夜のこと考えてただけー! 実は今日さ、お母さんいなくて、どっかで食べてーって。だから、どこで食べようかと思ってたんだよね!!」

 別に嘘は言ってない。半分は本当のことだしね。もしよかったら美味しいお店とか教えてよと伝えようとして、

 

「あ、あの……私と一緒に食べる、とかどうですか……?」

「……へ?」

 

 予想外の提案に止まる。フリーズして固まっていると、ゆーきは誤解したのかあわあわと慌て出してしまう。

「あ、ご、ごめんなさい! いや、でしたか?」

「い、や……」

「あ、やっぱりーー」

 

「いやいやいやいや!! そんなことないし!? 食べる食べる食べる!! ゆーきと食べる!」

 

 ちょっと食い気味でウチはそう言っていた。身を乗り出して、ゆーきの方に詰め寄る。思ってもなかった幸運が舞い込んできたんだもん。そうもなるよね!?

「やった!」

 ゆーきも笑顔。ホントかわいいんですけど。そんなこんなでゆーきとご飯が決定したのだった。わーっ、まじかぁぁ! 急にそんな……お母さんっ、ありがとう! 心の中でお母さんを拝み倒していると、目の前に見え出した校舎から予鈴が鳴り響いた。

「げ!? ヤバ!? じゃ、夜のことはまた授業中にLINEするから!」

「は、はい!」

 響きだした予鈴に追われるようにして、ウチらはダッシュして、校門へと駆け込んだのだった。

 

ーーーーーーーー

 

「では、皆さん。また始業式にお会いしましょう」

「夏休みだからといって、羽目を外しすぎないこと。あと、課題は計画的に進めるように」

 淡々と話す担任の声とチャイムの音を聞きながら、ウチはひとつ伸びをした。大掃除の最中も頭にあったのは、この後のこと。結局、掃除でLINEしてる暇なかったし。フフフフフ、ゆーきとご飯かぁ……どこ行こっかなぁ!

「では解散」

「よっし!」

 担任の言葉と同時に、ウチはダッシュで教室を出る。すぐに隣のクラスへ。見ると、ゆーきのクラスも騒がしい。そんな教室の中で、ゆーきはどこか所在なさげ。けど、ウチに気づいたみたいで、瞳を輝かせ、笑ってくれる。手には、鞄とギターケース。

「おまたせ、ゆーき!」

「あ、しょーこ! さっきは大丈夫でしたか? 遅刻とか」

「ダイジョブダイジョブ! ゆーきもダイジョブだった?」

「は、はい」

「なら、よし! って、大掃除のせいで、結局、どこで食べるか決めらんなかったねー」

 どこにするか聞くと、ゆーきはウチがどこがいいかと訊ね返してくれる。

「うーん? 正直、こっち来てからまだ1年しか経ってないし、外食できるとこよく分かってないんだよねー。いつもはお母さんが作ってくれるし、1人なら自炊しちゃうし」

 強いて言うなら肉かなぁと伝える。もちろん、ゆーきが食べたいので全然いいけど!

 

「……じゃあ、私が作るとか、どうですか?」

 

「!?!?!? ま、まじ!?」

 朝に続き、またもや予想外のラッキーがウチを襲う! ゆーきの手料理ってこと!?!? それは、やばすぎる……っ!!

「……ごめんなさい、嫌、でしたか?」

「いやいやいやいや!! 嫌じゃないし! むしろ神だし!」

「いいんですか…?」

「うん! てか、ウチも一緒作ろっかなー?」

 2人で一緒にキッチンに立って、とか、ヤバイよね!? めちゃくちゃサイコーじゃ…………あ。

「でも、今日のネイル出来がいいから……うーむ、ぐぬぬっ!?」

 いつもあんまり上手くいかないのに、なんで今日に限ってぇ! ここはバズを諦めて外して一緒に料理するべきか!? ど、どーする、ウチ!?

「ぐぬぬぬぬ!?!?」

「え、えぇと、しょーこ? 無理をしなくても……」

 ゆーきとの料理。万バズ。その2つを天秤にかけ、ウチはーー

「…………ゆーき、ウチも一緒に料理する! いっしょにつくろ!」

「!! はい!」

 花が咲いたような笑顔。その笑顔に、ウチの心は高鳴る。

 うぅぅ……/// ほんとにゆーきの笑顔は反則だと思うんですけど……。

「あ、でも家に食べ物なかったから、スーパー行ってもいいですか?」

「あ、う、うんっ、もちろん! てか、お母さんから夕食代に2000円もらってるから、それで買お!」

「でも、しょーこに悪いです、よ! ここは私が……」

「元々、ウチの夕御飯に消えるお金だからいーの!」

 遠慮しない! と言うと、ゆーきは一応納得してくれたみたい。まったくもう、ゆーきだって食べるんだし、買った食材がとか考えなくて、も…………ん?

「……て、あ、あの、ゆーき?」

「なんですか?」

「もしかして、買い出し終わったら、ゆーきん家行く感じ……?」

「そうですね。あ、汚かったらごめんなさい」

「あ。それは心配してないけどさ……ゆーきん家、今日親御さんって……」

 

「あ、私一人暮らしだから、大丈夫ですよ!」

 

「あ、そ、そそそそ、そうだったっけ!?」

 思わず声が裏返るウチ。そんなこちらの様子に気づかないゆーきは、首をかしげて言ってなかったですっけとのたまう。知らない知らない! 聞いてませんっ!

「てか、ゆーきん家も初めて行く、かも?」

「……たしかに、というかあんまり人を家に上げたりもしたことないです。友達だと初めて、です」

「っ……ふーん、そうなんだぁ///」

 そわそわ、そわそわ、モンモン、モンモン。なんか、なんかさっ!? そんな風に落ち着かないウチを見て、ゆーきはふと顔を覗き込んできた。

「しょーこ、どうかしましたか? あ、もしかして熱あるとかですか!?」

「へ……? そんなことないし!?」

「念のため、熱、測りますよ?」

「ちょ!? ちょっちょっちょっ!?!?///」

 おでこをつけようと、近づいてくるゆーきの顔。整ったビジュがよすぎるゆーきの顔。あ、ああ、近い近い近い近いっ、近いってぇぇ/// 固まるウチに構わず、ゆーきのおでこは無情にもウチのおでこにくっついた。

「んっ……あ、そんなに熱く……いやでもちょっと熱いですかね…?」

「…………あ、ぅ……///」

 息が、顔にかかる。あああ……/// ぷしゅーっと顔から火が出るくらいに熱く、赤くなるのが分かる。無理はしないでくださいとか、早く買って帰ってゆっくりしましょうとか、色々と言ってくれた気はする。だけど、ゆーきの言葉はウチの右耳から入って左耳へ抜けていってしまう。だって、しょーがないじゃん!? ゆーきの顔、ちかかった……/// 睫毛長いし、鼻筋通ってるし……。

 あうあうあーっ! ずるいって……ゆーきぃぃ///

 

ーーーーーーーー

 

 オーバーヒートした頭の制御をどうにか取り戻しながら、ゆーきに連れられてスーパーへ。

「毎日買い物に行くのも大変だから、こうしてたまに買いだめするんです。冷凍しておけば、しばらくは持ちますから」

「案外生活力高いね、ゆーき。勝手な偏見だけど、音楽の人って生活力ヤバいイメージがあるけど」

「否定はできませんね……」

「でしょ?」

 少しは落ち着いたから、話せてはいる。それにゆーきが主婦のようなことを言いながら、おつとめ品や割引シールのついた商品とにらめっこをしている様子も見て、少し微笑ましい気持ちになってきた。助かった。

「あ、しょーこ、何か食べたい物とかありますか?」

「お肉……ハンバーグか生姜焼きかなぁ?」

「んー…なら、生姜焼きにしましょう!」

「おっけー!」

 献立もすんなり決まり、改めてスーパーを回る。

「豚肉と玉ねぎがあればとりあえずいいかなー?」

「はい!」

「キャベツも欲しいかも?」

「たしかキャベツは家にあったはず、です」

「ん、なら、豚肉と玉ねぎだねー、買ってこ!」

 特売のお肉。まとめ売りされてる玉ねぎ。それからせっかくだからとジュースやお菓子もかごに入れ、会計をする。スーパーを出ると、日が傾きはじめていた。

「んしょ、っと。しょーこ、コレ半分持ってもらってもいい、ですか…?」

「っ、お、おう! 任せときなさい!」

 かごのかたっぽを持つ。ゆーきの普段のものも買ったとはいえ、そこまで品物も多くない。重いから、っていうのが口実だっていうのは察してる。

「ふふっ……」

「な、なに? どーかした?」

「いえ、ただーー」

 

「夕日に照らされたしょーこ、綺麗だな、って思って……」

 

「~~~~~~~~ッ//////」

「あ、き、急に変なこと言って、ごめんなさい……///」

「いや、う、ううん。あ……りがと……///」

 照れるなら言うなし! いや、言ってもらってうれしいけどさ!

「そ、その…………ゆーきも……きれいだと思うけど……///」

 やられっぱなしじゃ、なんとなく癪で。だから、そんな風に言い返す。とはいっても、もちろん本心だし、ウチも照れながら。

「………っ、ありがとう、ござい、ます…///」

「あ、う、うん……///」

 お互いに照れて、でも、この空気が嫌いじゃなくて。1歩だけ、ゆーきに寄る。タイミングよく、ゆーきもこちらに寄ってきて、結果的にペタッとくっつくことになってしまう。

「…………///」

「…………///」

 恥ずかしい。けど、離れたくない。そのまま連れ添って、ウチらは歩いた。

 

ーーーーーーーー

 

 幸せな時間はすぐ過ぎちゃう。けど、そのあとも幸せだからよしとする!

 ゆーきの家につく。目の前には、小さな日本家屋があった。中に入ると、畳の床に、ちゃぶ台、シンプルな座布団。おしゃれに言うなら『レトロでノスタルジック』!

「ここがゆーきの家かぁ……」

「あ、あまり見ないでください……」

「あ、ごめんごめん!」

 流石に人の部屋をじろじろ見るのは悪いもんね。これはウチが悪い。謝って、そのままカバンを部屋の隅に置く。

 2人で台所に立ち、手を洗った後、うでまくりをして準備する。よーし、やるぞぉ!!

「しょーこ、ご飯はあるから、おかず作っちゃいますね」

「りょーかい! ウチもいっしょやるよ! そうだなぁ、とりあえずキャベツ切って、水でさらしとく?」

「あ、お願いします。私はお肉切っときます」

 

~~~~~~~~

 

 2人で協力し、生姜焼きを作り終わった。指を切ることも火傷することもなく、ツツガナク料理は終了。役割分担したり、声をかけ合ったりしながらした料理はとっても楽しかった。

「あ、しょーこ。あとは盛り付けるだけだから、先座ってていいですよ!」

「はーい! じゃ、お箸とか運んどくね」

 ゆーきに返事を返して台所を後にしようとしたその時ーー

 

「……あ、コレ、はじめての……共同作業……///」

 

ーーそんな呟きが聞こえてしまった。

「っ///」

「あ、えと、早く食べないと冷めるから食べちゃいましょう!」

 聞こえてないと思ってるのか、ゆーきはなんてことない表情でそう促してきた。あー、もうっ、なんでウチだけ意識してるのさっ! 意識はしながらも、せっかくゆーきと作ったご飯が冷めるのはヤだし、どうにか平静を装って、いただきますをして食べ始める。出来? そんなのめっちゃよかったに決まってるじゃん?

 ゆーきの家にはテレビは置いていないみたいで、聞こえるのはウチらが話す声だけだ。それがとても心地よかった。

 

「あ、あのっ、しょーこ……!」

「うん、なに、ゆーき?」

 食べ終わって、一息吐いた時に、ゆーきはウチの名前を呼んだ。ちょっと緊張してるっぽい?

「今年も隣町で花火大会、あるみたいで。ほら、8 月の第2日曜日に」

「あ、そーいえば! ウチも今朝、新聞で見たかも!」

「き、去年の夏、この町の浜で花火がよく見える場所、見つけたんです。多分、まだ誰も知らないと思います。だからーー」

 ゆーきは唾を飲んで、言う。

 

「そ、そこで一緒に花火を見ま、せんか……?」

 

「! え、行く! 絶対行く!! 見たい! ゆーきと一緒に花火見たい!!」

 もちろん即答。そんな楽しくて、ヤバい提案断るわけない! 気づけば、ウチは思わず身を乗り出して、ゆーきの手を両手で取っていた。ウチが提案に頷いたのがうれしかったみたい。ゆーきはやった!と満面の笑顔。

「浴衣! 浴衣で行こ! あとはネイルもやったげる! お揃いにしてこ!!」

「い、いいんですか……? わかりました!」

「えへへ! 楽しみだぁ」

「えへへ」

 2人、見つけ合い笑う。あー! ほんっとに、たのしみ!!

 

ーーーーーーーー

 

 今日あったことをお喋りしたり、バズった投稿を見せたり、2人で穏やかな時間を共有して、そうこうしているうちに夕食の後片付けが終わるころには、20時を過ぎていた。すっごく、ゆっくりしちゃったなぁ。ウチが時計を見ていると、ゆーきはそれに気がついたみたい。少し表情を曇らせる。けど、それも一瞬で、すぐににこりと笑う。

「そろそろ、帰る時間、ですよね……」

 どこか寂しさを感じる笑顔。それを見て、うーん、まぁそうなんだけどさ、とウチも煮え切らない態度を返してしまう。そうしていると、ゆーきは口を開く。

「しょーこ。今日はご飯、食べに来てくれてありがとうございます。すごく楽しかったです! また一緒に、食べましょうね」

「うん…………って、あっ! ねぇねぇ! 今度はウチん家に来なよ! そんときはウチがメインでごはん、作るからさっ!」

「はい! あ、えっと、お見送り行ってもいい、ですか……?」

「…………うん」

 ウチは荷物を持って、ゆっくりと立ち上がる。

「………………」

「………………」

 ゆっくり、ゆっくり玄関へと向かう。そして、靴をはいて、

「……あ、あのさ!」

 ウチは切り出した。

「どうか、しましたか……?」

「え、えっとね? そのぉ……ゆーきがダイジョブなら……なんだけど、お泊まりとか…………だめ?」

「!!! いい、ですよ!」

「ほ、ほんと!?」

「あ、着替えとか私のでも大丈夫、ですか?」

「もち!」

 そうと決まれば、早速行動しなきゃ! まずは今日泊まるって、お母さんにLINEして~! 次は着替え貸してもらって~! へへっ、楽しくなってきたー!!

 

ーーーーーーーー

 

「……………………ど、どうしよ///」

 

 テンションが爆上がりしていたウチだったけど、先にお風呂に入ったことで実感してしまった。いつもと違うお風呂場や脱衣場。ウチが選ばない香りのするシャンプー。いつもゆーきからしてる香りのボディーソープ。すべてがウチに実感させてくる。

「お泊まり、かぁぁぁ///」

 家が、まぁ、主におじいちゃんだけど、ともかく厳しかったこともあって、友達とのお泊まりってのも、実は初めての経験だったり。しかも、それがーー

「ゆーき、だし……///」

 ゆーきの寝室にいて、ゆーきのパジャマを借りてる。だから、嗅ごうとしてなくても、匂いが鼻に入ってくる。落ち着かず、キョロキョロと周りを、ゆーきの寝室を見渡す。透き通った青色のビーズカーテン。窓際のガラスの置物、浜辺で拾った貝殻たち。キラキラと輝くゆーきの宝物たちの中に、ウチとの写真なども飾られているのを見ると、顔のにやけが止まらない。

「あーっ、もう! 落ち着かないなぁぁ」

 1人でブツブツ言いながら、ウチは立ち上がったり、座ったり。そんな中、ふと机の上にあるものが目に入った。1冊の本と1冊のノートだ。本の方は……。

『ドキドキ☆あの子を振り向かせるには?』

「ワ、ワァ……」

 ゆーきが読んでそうにないタイトルの本に、思わず変な声が出た。興味本位でパラパラと見てみる。なにやら付箋とか貼ってある。しかも、なんかちょっとエッチなところにも!?

「うぅぅぅ、あぁぁぁ……/// なに読んでんのさぁ、ゆーきぃ///」

 読んじゃったその内容を頭から飛ばそうと、ウチはノートの方を手に取った。無地のノート。内容が気になって、ペラっとそれを開く。どうやら日記みたいだ。悪いかなぁとは思った。けど、

「…………ち、ちょっとだけ……ごくりっ」

 どうやらゆーきが幼い頃からつけている日記みたい。小学校に通うより前から書かれてて、日付は飛び飛びで、気が向いたときにつけているっぽい? 子供の頃の日記には殆ど文章がなくて、海や魚の絵がたくさん描かれている。

「………………かわいいなぁ」

 夢中で読んでいく。どんどん絵から文へ。そうして、1年程前からは定期的にその日あったことを書いているようだった。内容はーー

 

「うわぁ……ウチのこと、多いし…………ゆーき、ウチのことめっちゃ好きじゃん…………///」

 

 ウチと遊んだ思い出、ウチと話した他愛のない話のメモなどが書かれていた。ズルなのは分かってるけど、こうしてゆーきの本心が知れて、ちょっと安心。これなら、ほら……コクっても……うん、いい感じかもしんない……///

「……………って、ん?」

 読み進めていくと、ふと気になる内容が目に入る。それは少し気色の違う内容で。

~~~~~~~~

×月×日

 最近、海から声が聞こえる気がする。波の音や、海鳥の声じゃない。何を言ってるのかはわからないけど、私を呼んでる気がする。

×月×日

 また、声が聞こえた。誰かがずっと、私のことを呼んでる。

 これは幻なのかな? 夢なのかな?

 隣を歩いているしょーこは、いつも通りだった。教室にいる、クラスメイトもきっと、誰にも聞こえてないんだ。私だけなんだ。

×月×日

 今日も声が聞こえた。声に釣られて、海の近くまでやってくることが増えた。 元々、海が好きで、しょっちゅう遊びに行ってるけど。

×月×日

 声が聞こえることは、あまり気にしないことにした。原因はわからないし、体調が悪いわけでもない。もしかしたら私、霊感に目覚めたのかな?  海の神さまや、妖精の声が聞こえるようになったのかも。

 なんてことを言ったら、町中の人から ヘンな目で見られるに違いない。でも、しょーこは笑わないで聞いてくれるかも。

……ううん、別に笑われたっていいんだ。しょーこに嫌われなければ、それでいい。

~~~~~~~~

「……なんだろ、これ。声……?」

 気になる文ではある。でも、

「笑うわけないし……それに嫌うなんてあり得ない……」

 ぽつりと呟き、日記を置いた。その直後、パタパタと足音がして、ゆーきが戻ってきた。

「た、ただいま、です」

「お、おかえり! ちゃんとあったまったー?」

 日記を見ちゃった罪悪感もあって、少しだけ変なテンションでそう返す。ゆーきはその様子には気づかないみたい。お風呂長くてごめんなさい、と謝ってて。だから、余計に罪悪感……うっ。

「ううん! その分、ちゃんとあったまったんだからいいことだよー!」

 えへへと笑うゆーき。

「って、そうだ! そろそろ寝よう!」

 誤魔化すみたいに、ウチは話を進める。まぁ、そろそろいい時間だしね。

「は、はい! って、あ……あのベット、1つしか……」

「え、あっ…………/// う、ウチは床でもいいよ?」

「……しょーこが、嫌じゃなかったら、そのーー」

 

「一緒に、寝ませんか…?」

 

「…………………………ん」

「………!」

「いい、よ。いっしょ、ねよ///」

「う、うん///」

「えと、ウチ、壁側でいい?」

「は、はい」

 ゆっくりながらもゆーきのベッドへ。ぽすっと音を立てて壁を向いて横になると、ゆーきも横になった雰囲気を感じた。背中合わせ。そのまま口を開く。

「…………ね、ゆーき」

「ど、どうした、の?」

「冷房効きすぎてない……?」

「私はだいじょうぶだけど……」

 そんな遠回しな言葉はどうやらゆーきには通じないみたい。1つ深呼吸。意を決して、ウチはゆーきの方に向き直る。

「しょーこ……?///」

「…………あの、ね。私、ちょっと寒いからさ……くっついてもいい?」

「あ………………うん」

 ゆーきはそのままウチのことを優しく、抱きしめてくれた。

「………………あったかい」

「……しょーこ、もあったかい、ですよ」

「うん…………ゆーき……」

 ああ、ダメだ。ゆーきの香りに、ゆーきのぬくもりに包まれてしまったら、もうウチはダメだ。困らせたくなくて抑え込んでた想いが溢れだしてしまう。

 

「……………………すき」

「私も、好き、ですよ」

 

「……ほんと?」

「うん。ほら」

 ゆーきはそのままウチの体をぎゅーっと抱きしめてくれて、言葉を、『好き』を返してくれた。トクットクッと鼓動が聞こえる。とっても速い心臓の音。それはゆーきもウチと同じくらい、ウチにドキドキしてくれるんだって教えてくれる。

「ん……」

 いっぱい話したい。まだこうしていたい。そんな強い想いとは裏腹に、本心を受け入れてもらえた安心感で、ウチの意識は徐々に遠退いてく。

「手、出してくれても、よかった、のに……」

 夢うつつ。そんな言葉が聞こえた気がして。でも、抗えない睡魔に負けて、ウチは意識を手放してしまった。

 

「おやすみ、なさい、しょーこ」

 

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