ダンジョンに身勝手な英雄がいるのは間違っているだろうか 作:ありがとうはなまる
前回からの続きです。
独自設定ありです。
「おら飲め!俺様がお前みたいなゴミに恵みを与えてやるよ!感謝して飲め!」
そう言って男は俺の口に何かを無理やり注ぎ込んできた
「うゔ!…ガボッ…!!」
強烈な酒の匂いに喉が焼けるような感覚に体が拒否反応を起こし、口にある液体を吐き出そうと咳き込むが、男はそれを許さず液体の入った容器で俺の口を塞ぎ排出を防いできた
結果、窒息を防ぐため俺は嫌々酒を飲まされた。飲み終えた頃には鼻や口からは飲めきれなかった酒が垂れ流れ、顔中が酒によってベタベタになってしまった
「汚ねぇーんだよ!」
俺の飛ばした水滴で汚れたことが気に入らなかった男は俺が飲み終わると、容器を地面に放り投げ俺の顔面に拳を叩きつけてきた
叩きつけられた俺は吹き飛び、路地の壁へと激突。そのままズルズルと重力に沿って地面へと落下した
「かっ……!」
「はっ…極上の酒だろう、もしもう一度飲みたかったら俺のところに来るんだな、飲ませてやるよ。ただし、たんまりと金を持ってこいよ?でないと、うっかり殺しちまうかもしれねぇからな…ヒャハハハハハ!!」
そう吐き捨てると、男は高笑いを出しながら狭い路地へと消えていった
「ゔ……うぉ゙ぉ゙ぉ゙!!」
男に殴られた痛みよりも体内にある
「はぁ…はぁ…はぁ…」
胃の中の全てを吐き出した俺は体を仰向けにし、排出によって乱れた息を整える
空は雲に覆われ薄暗く、近くに人の気配は感じられない。意識を取り戻して初めての1人の空間で、俺は振り返る、あの男に蹴られる前の自分を…
俺の名前…思い出せない
住んでいた場所…日本という場所に住んでいた、はず
家族、又はそれに近い身内…思い出せない
ここが何処か…分からない
何でこんな目にあったのか……分からない
仰向けになって思考を巡らせるが、あの男に蹴られる前の記憶が殆どないと言っていいほどない。唯一分かったのは俺は日本に住んでいて気づいたら見知らぬ場所にいたということ
しかも若返っている。俺の中の記憶が正しいなら俺はあの男に近い年齢のはず、だが今の俺の背丈から考えると一桁程度の年齢しか無い事が分かる
あの男が俺を誘拐して若返りの薬を飲ませた、という線もあるが、それをするメリットがない
色々と考えたが、仰向けになっていても現状を打破する算段は思いつかず、俺は体を起こし路地を散策することにした
理由は、特に無い。と言ってもこの場の情報が殆ど無いため、出来ることが周囲の散策程度しか現状思いつかなかっただけである
周囲を歩き散策してみると、石造りとも木造りとも言えない建築物があり、どれほど文明が発展しているのかが伺える
それに、何やら周囲の雰囲気がやや暗く感じる、そう活気がないのだ。あれほどの建築物が立ち並ぶならここは街と呼べるほどの大きさのはず、当然流通やらも盛んに行われているはず。なのに、人の気配がなさ過ぎ………誰かいる
一言で言うなら怪しい黒装束集団、が何やら話し合っている場面を路地を抜けた俺は視認する。はっきり言ってまともな人間には見えない、善良とは程遠い格好をしている
ここは気付かれずこの場を離れるのが吉だな
そう考え後退りする俺だったが、運が悪いことに偶然こちらに目を向けた黒装束集団の1人と俺の目が合ってしまった
目を合わせた黒装束の男は、他の仲間に俺の存在を伝えるやいなや腰にさしていた剣を抜き、仲間と共にこちらに襲いかかってきた
やばい。そう感じた俺は、踵を返し全速力で逃走した。だが、大人と子供、走る速度も体力もあちらに軍馬があり徐々に距離を詰められた
後ろを振り返る頃には迫りくる男との距離はもうほとんどなく、剣を振り被る男の姿が見えた
殺られる。そう思った頃には、剣は目先ほどの距離に迫り、避けることも防御することも出来ない距離にあるのを、スローモーションになった世界で捉えた
瞬きする時間すら無い刹那で死を覚悟した瞬間、不思議なことが起こった
全てがゆっくりに映る世界で、本来動くはずのない俺の体は、自然と、そして勝手に動き出し、目先まで迫る剣を避けて見せた
『『!?』』
「!?」
剣を避けた俺の体は、黒装束の男たちと距離をとるように勝手に後ろへと下がる
「なんだこの子供は、体が光っているぞ!?」
「先ほどの動きもあの光のせいか!?」
「あの子供、スキル持ちか!?」
男たちの言葉に俺はすぐに自身の手を見る。薄っすら光っている、青色に…白色か銀色かの色が手を、いや体全体を包み込むように光り輝いていた
男たちも俺の変わりように慌てているが、変わった張本人であるはずの俺自身が一番困惑してきた
俺は動いていない、動けるはずがなかった。あの一瞬、何もかもがゆっくりに見える世界で俺は死を受け入れ動くことすら思考に入っていなかった
誰かが俺の体を操作して避けさせたとしか言いようのない現象……いや、1つ…1つだけ心当たりがある
俺が自身に起きた現象について思考している内に、俺を殺そうと黒装束の男は剣を振り下ろしてきた
だが、先程同様に俺の意思とは関係なく俺の体は動き出し、振り下ろされた剣を最小限の動きだけで避けて見せた
やはりアレだ
2度目の現象で確信した。この体が勝手に動き身を守る動き、そして体が青と銀の色に光り輝く現象。記憶の中にある1人の戦士の姿が思い浮かぶ
これは、「身勝手の極意」。神ですら容易に習得することが出来ない神の御業にして最強の護身
何故俺がこんな大それた力を扱えているのかは定かではないが、今この状態を打破するにはこの力に頼るほか道はない
そうこうしている内にも2度目の攻撃が繰り出されるが、恐れることなく身を委ね敵の攻撃を回避し、拳を握る
攻撃を避けた俺は男の懐に潜り込み男の腹へとジャンプ、そのまま全力で男の腹に拳を叩き込む
「カッ……!!」
男は口から唾液を吐き出しながら後方へ吹き飛び、地面へと転がり込み、気絶した
凄い。男を殴った俺の感想がそれだった。相手は二十代は軽く超えた成人男性、対してこっちは5歳を超えているかどうかすら分からない子供、なのにその成人男性を全力で殴っただけで軽々と吹き飛ばし気絶まで追い込んだ
回避力といい攻撃力までも飛躍的に上昇している、やはりこの力は「身勝手の極意」で間違いない
俺が仲間である男を殴り飛ばしたことに驚愕した様子の男たちだったが、すぐに切り替え剣を構えこちらに近づいてくる
このままビビって逃げてくれればよかったのだが、やはりうまくは行かないか。だが、この力があれば何人来ようと勝て……あ?
「ぐっ!……あっ…!?」
体中が、痛い! 筋肉痛を数倍酷くしたような痛みが、体中に駆け回る、物凄く痛い!
「ハァ…ハァ…ハァ……くっ!」
俺の現状などお構い無しに、男たちは俺に剣を振り被りこちらを仕留めようとしてくる
しかし、「身勝手の極意」はまだ発動しているようで、それら全てを最小限の動きで避けきり男たちと距離を取る。だが、体の痛みは未だ残っており、動いたせいで余計に痛みがひどくなってしまった
「身勝手の極意」も俺の現状などお構い無しに体を動かしてくる。頼もしいはずなのに…凄く、怒りが湧いてくる
おそらくこれは「反動」、確か「身勝手の極意」は無我の領域に立って初めて威力を発揮する技
たぶん、攻撃の際に無意識に思考してしまったせいで「身勝手の極意」が逆に肉体の負担になってしまったんだ
「身勝手の極意」を使っていた戦士もこれ程じゃないがリバウンドを起こしていたはず、俺と彼じゃ鍛え方が違いすぎて身勝手の極意の「反動」に肉体が耐えきれない。不味いぞ、黒装束たちはまだまだいる、こっちはあと一発本気で攻撃したら多分「反動」で動けなくなる
これは……逃げるしかない!
俺は「身勝手の極意」のお陰で上がった身体能力を活かし、黒装束たちからの逃走を図る
この身体能力ならいくら身長差があっても入り組んだ路地に逃げ回れば撒けるはずだ。そう考え踵を返し走り出そうとした瞬間…
「え…?」
偶然、路地からこちらを覗き込む1人の小柄な女の子と目が合った
「掴まれ!」
俺は見知らぬ少女を抱き抱え、走り出す
「ちょっ…え?…は、離してください!リリを巻き込まないでください!」
抱き抱えた少女は理由もわからないといった様子で離すよう俺に促すが、俺の答えはNOだ
あんな危ない連中のいる場所に置いていったら殺されるかもしれない、それを見す見すの見逃すほど俺は腐っていない
だが、やはり「身勝手の極意」で上がった身体能力でも少女1人を抱えての逃走は難しいらしく、「身勝手の極意」のお陰か、後ろを振り返らなくても黒装束の気配が何となく分かり、徐々に黒装束の男たちとの距離が近づいてきているのを背中越しに感じ取る
これでは先程の再放送である。何とかしないと俺もこの子も死ぬ……………………………これなら逃げ切れるはずだ
「……名前も知らないお嬢ちゃん、これからお空の旅に出る。振り落とされないようしっかりと捕まっていてくれ」
「はい?」
「本気出すぜ!」
俺は足に力を入れ、全力で踏み込み上空へと飛んだ
「きゃぁぁー!!」
黒装束の男たちとの距離はぐんぐんと離れていき、視認することが困難な上空まで飛んだ俺は周りを見渡す
「これが、ここの全貌…」
上空から見るこの街、いや都市とも呼べるほどの大きさ、そしてそれを囲う城壁があり、その中で一際目立ったものは、都市の中心にそびえる雲より高い塔
外見は中世に出てくるような石造りに加え、神秘的な雰囲気を醸し出している摩訶不思議な建物、それを見た俺は言葉が出てこず、つい見入ってしまった。やがて俺の体は重力によって落下を開始した
「あーすまんお嬢ちゃん…落下のこと、考えてなかったわ」
「は?…はぁぁーー!!」
少女の絶叫と共に体は重力に沿って落ちていき、その速度を上昇させていく
「しっかり掴まれー!」
俺は落下の衝撃から少女を守ろうと強く抱きしめ、女の子が上になるように体勢を変える
落下し、硬い地面へと叩きつけられると身構えていた俺たちを待っていたのは、硬い地面、ではなく、誰も住み着いていないボロボロの廃墟の屋根だった
壊れかけの屋根や床がある種のクッションとなり、体全体が痛いが何とか生きて生還することが出来、そこで俺の意識は途切れた
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主人公君の記憶は断片的に前世の記憶を持っている状態。自分や自分の肉親、知人などの記憶はないが、それ以外の常識的な知識や、アニメ知識は覚えている
主人公君が本気を出す時は、気(オーラ)が膨張、高まる演出がある。が、主人公君は気(オーラ)の存在をまだ認識しておらず、無意識的に気(オーラ)を跳ね上げ戦闘力を高めている
極限まで鍛え上げた肉体を持つ孫悟空と、ろくに修行もしてない非力な子供ならこれぐらいの反動が返ってくるかなと思い、このような設定にしました。異論、疑問点は受け付けます。ただ、変える気は今のところありません。