ジェーン・ウィローに花束を   作:疾風怒号

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ヴィーヴル、いいですよね。


暴風眺望
1:Towards Her Light/ヒロックの曙光


 

 

 ヒロック郡の朝は、霧が薄く立ち込める中かすかな喧騒が街並みに躍ることで始まる。そう大きくもない朝市には簡素な屋台がひしめき合い、焼きたてのパイや果物、チーズが色とりどりに肩を並べる。曇天の下ではその彩りも見劣りするが、それでも微かな眠気を纏った瞼を軽くしてくれた。

 

 ジェーン・ウィローは儀仗兵の制服を纏い、両手に籠を抱えて朝市を歩いていく。端正な顔立ちに長いブロンドのストレートヘア、ヴイーヴルの角が輝く。籠の中には焼きたてのバノフィーパイとショートブレッドがぎっしり詰まっていて、きびきびとした足取りも軽い。

 

「これで足りるかな……」

 

 ジェーンは独り言ちながら、パンの香りを確かめるように鼻を寄せる。儀仗兵の槍を腰に携えた姿は、周囲の商人たちに一瞬の緊張を与えたが、彼女の穏やかな笑顔でそれはすぐに解けた。

 

「買い出しか、精が出るな」

「うわぁ!?」

 

 男の声に、ジェーンが弾かれたように振り返る。枝分かれした額と側頭の角、鉄色の鱗に覆われた逞しい尻尾。曇り空越しの朝日を2メートル近い長身が遮って、包むように影を落とす。朝市の雑多な風景にはお世辞にも似つかわしくない存在感を放つ偉丈夫を見上げて……ややあってジェーンは頬を緩めた。

 

「なんだChariotか……、びっくりした」

「おはよう、ジェニー」

「うん、おはよう」

 

 Chariot(カリオット)と呼ばれた男も、ごく微かに笑みを浮かべて頭を下げる。

 

「今日は……パイとショートブレッドか」

「それと茶葉、お父さんから送って貰ったんだ!」

「そうか。悪いな、毎日」

「いいんだよ、私が好きでやってる事なんだから。君は……今日も巡回?」

「の、ついでにミルクの補充。シュレッダーかオリバーが当番をサボったから」

 

 青年が練乳缶の紙袋を憮然と揺らし、ジェーンは髪を揺らしてくつくつと笑った。太陽が遮られた街角が、陽光に照らされたようにさえ見えるのは錯覚だろうか。

 

「ああ、でも、どうしようかな。実は私も買っちゃったんだ、エバミルク」

「余るようなら君が持って帰るか。……持とう、貸してくれ」

「ありがと。宿舎には大きな冷蔵庫も無いし、飲みきれないかも」

「なら……俺が水の代わりに頂こうか」

「もう、お腹壊しちゃうよ?」

 

 彼は自然な仕草で籠を受け取り、ジェーンが「ありがと」と呟くのを待たずに歩き出した。

事務所までの短い道のり、二人は並んで歩く。朝市のざわめきが遠くに響き、時折吹く風がジェーンの金髪を揺らした。

 

「パイとブレッドだけじゃ物足りないかな?」ジェーンが切り出す。「蜂蜜をかけるのはどう?」

「故郷では蜂蜜とナッツを混ぜたものを乗せていた。懐かしい」Chariotは少し考え、郷愁に目を細めた。

 

「此処にいるロドスの皆は、君には心から感謝している。わざわざ量まで気にすることは……いや、気遣いを否定する訳ではないが」

「ふふ、分かってるよ。ほら行こう、立ち止まってたらパイが冷めちゃうよ」

「……ああ」

 

 旗手の儀仗兵の先導で、荒れた石畳の道を再び歩き出す。道を進む二人の足音が、朝市のざわめきと混じり合う。ジェーンの籠を肩に担いだChariotは、時折視線を落として彼女の歩調に合わせていた。黒衣の長身がそばにいると、ジェーンの金髪が風に揺れるたび、その動きが妙に際立って見えた。

 

「蜂蜜とナッツ、か。お母さんの味?」

 

ジェーンがふと口を開き、Chariotの返事を待つように目線を上げる。彼女の声には、背筋を伸ばした凛とした立ち姿とは裏腹な柔らかさが滲んでいた。

 

「いや、父さんの味だ」

「そうなの?」

「作っていたのは母さんだが、元は父さんの好物だった。あの人はカジミエーシュの出だから、多分親しんだ味だったんだろう。旅の中で糖分を補給する為に蜂蜜を使い、ナッツを入れるとかさ増しになり、腹持ちも良いからと」

「じゃあ今度作ってみようかな。君の分のサンドウィッチはピクルス抜きだから、どうしても薄くなって困ってたんだ」

 

 男は蜂蜜色の目を細め、遠くの記憶を辿るように小さく笑い、ややあって儀仗兵は良い事を思い付いたと言わんばかりにその表情に花を咲かせて言う。彼女の提案に、Chariotはわずかに足を止めて見下ろした。

 

「それは楽しみだ。確かレシピが残っていた筈だから、今度持ってくるよ」

 

 事務所の扉が見えてきた頃、朝市の喧騒が少しずつ遠ざかり、石畳に響く二人の足音が際立つ。ジェーンは籠の中をもう一度覗き込み、バノフィーパイの香ばしい香りに目を細めた。

 

「ねえ、Chariot。蜂蜜とナッツのレシピ、持ってきてくれるなら、私も何かお返ししないとね。何か好きなものある?」

 Chariotは一瞬足を緩め、彼女の言葉を吟味するように首を傾げた。鉄色の鱗が朝日に鈍く光り、彼の思索を映すように静かに揺れる。

 

「好きなものか……そうだな。昔、母さんが作ってくれたスープがあった。シチューに近いが、もっと素朴で、スパイスも控えめだ。木の実と根菜、それに少しの塩だけで煮込んだものだよ。寒い日に食うと、体の芯まで温まった」

「それなら……今度作れるかも!」ジェーンは目を輝かせ、まるで今すぐ匙を手に持つかのように繊手を軽く握り振った。「木の実って、ナッツと同じでいいよね? 根菜なら市場で新鮮なのが手に入るし……あ、スパイスはどれくらい控えめか分からないから、そこは教えてね」

 

「分かった。だが……無理はしないで欲しい。君の本分は他にあるだろう」

「大丈夫だよ。君が巡回で疲れて帰ってくる日に、温かいスープがあったら嬉しいでしょ?」

 

 Chariotは彼女の笑顔を見下ろし、蜂蜜色の瞳にほのかな温かさが灯る。口元に浮かんだ微かな笑みが、彼の答えだった。事務所に着くと、扉の前で二人は立ち止まった。Chariotが肩から籠を下ろし、ジェーンに手渡す。その瞬間、彼女の金髪に絡んだ風がふわりと舞い、朝の光に一瞬だけ輝いた。

 

 





・Chariot(カリオット)
折角のオリ主なのに種族被りってコレ良いんですかね?モチーフは某ウーラシールの黒竜と某遊戯王の神炎竜な前衛オペレーター兼駐在トランスポーター、武器は安直にでっかい剣とでっかい盾

・ジェーン・ウィロー
めちゃくちゃ可愛いですよね、今更9章読んでぶっ刺さりました。
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