ジェーン・ウィローに花束を   作:疾風怒号

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2話と3話のサブタイトルは某超人的シェアハウスが元ネタです。分かった読者諸氏はコメント欄で僕と握手!(?

本当はもっと複数人でワイワイしている感じを表現したいが3人以上を同時に喋らせる難易度が高すぎる……


3:Outcast/ツマハジキモノ・ジャンボリー

 

 

 

「ほらみんな、座って座って!お茶を入れますよ~!」

 

 温めたティーポットを持って紅茶を注ぎ直す彼女の姿にChariotが目を細めたのは、後光のように差し込む陽の光だけの所為では無かった。ジェーン・ウィロー、愛称はジェニー。ヒロック群駐屯ヴィクトリア軍・儀仗兵。レックス・クロウが彼女について把握している事柄は、その細い肩に背負う背景の何パーセントにあたるのだろうか。

 

「はい、Chariotの分。砂糖は二つで良かったよね?」

「ありがとう」

「パイはいる?」

「是非頂こう」

 

 ミルクティーよりも甘やかで、高塔の鐘楼のようによく通る声。腰の下まで伸びた金糸の髪。宝石めいて光る青い眼は自然に反った長いまつ毛が縁取り、精錬な衣服に包まれた肢体は石膏像のように白く艶めいている。

 

(……可憐だ)

 

 Chariotという男は、実の所周囲が思っている程冷徹でも冷静でもない。

 

 

###

 

 

「お!また俺の勝ちじゃないっすか?」

「おいウィル、あんまり調子に乗るんじゃねえぞ。このままいけば今夜の当番はお前だからな」

「え、なんでまた!?」

「それが勝者の義務ってもんだろ、買った奴が書類整理と掃除をして……」

「その心配はない」

 

 駐在事務所の午後はカードゲームと共にある、端的に言って余暇が多いからだ。彼らの職務と言えば医薬品の卸し、提携企業や周辺を通過するロドス・アイランド製薬社員との連絡、簡素な巡回と、それにより蓄積する資料の整理が挙げられるが、それすら五人で余裕を持って捌ける範疇に収まっている。

 

 それでも此処に五人ものオペレーターが在籍しているのは一重にヴィクトリアという国家の性質を加味した考慮の結果であり、他ならぬChariotの進言の結果でもある。ウィルに助け船を出す形でストレートフラッシュを叩き付け、チップ代わりの瓶蓋を尻尾でかき集めたヴィーヴルは、ややあってその先端を背後に向けた。

 

「Outcast、到着が早いのは結構だが、……ノックはしてくれ」

「なんだい坊や、気付いていたのか」

 

 彼がそうするまで、その背後にサンクタの翅と光輪を備えた老女が立っている事に誰も気付かなかった。

 

「ほんのおふざけだろう、付き合ってくれてもいいじゃないか」

「それはすまない、次からは善処する」

「この前もそう言っていたじゃないか……。うん、美味しい、遠い旅路を急いできた老いぼれの身体に沁みるようだ」

 

 Outcastと呼称されたサンクタはそう言ってウインクをすると、持ち上げていたティーカップをChariotのコースターに降ろす。ジェーンを含めその場の全員が呆気にとられる中、Chariotだけが平然としたいつもの表情のままで空き椅子の背を引いた。

 

「そ、それはどうも!ところで……貴方は?」

「皆は私をOutcastと呼んでいるよ、そこのChariotのようにね。ああ失礼、君が淹れた紅茶を勝手に飲んでしまった事については謝罪するよ、この痩躯に免じてどうか許して欲しい」

「えっと……大丈夫ですよ!よろしければパイも切り分けましょうか?今朝焼いたのでまだ温かいと思いますよ、少し甘すぎるかも知れませんが……」

「ありがとう是非頂くよ。私はスイーツには目がなくてね、ヴィクトリア風の繊細な菓子は特に大好物なんだ」

「あははっ、それは良かった。こちらこそ誉めて頂いて光栄です。……はいどうぞ、えっと、Outcastさん」

 

 いくらか調子を取り戻したジェーンが手早く切り出したパイを受け取って、Outcastが揚々とフォークを突き刺す。『さん』付けはしなくてよい、とあくまで軽やかな口調で訂正を入れる様を眺めて、ようやく職員たちも気を取り直したようだった。

 

 

 

「君が部外者を事務所に入れる事を許すとは意外だった、少し見ない間に丸くなったのかな、Chariot」

「感情は時として規律や権威をハックする、俺一人ではそれに抗えなかっただけだ」

「確かに、彼女がいなければこの事務所は蛍光灯を切らしたようになってしまうかも知れないね」

 

 Outcastはロドスにおいて数少ない『エリートオペレーター』の肩書を持つ事を許された職員であり、Chariotを含め駐在オペレーターから見れば大の先達にあたる。Outcastは既に事務職員に席を移して久しいが、それでも若かりし彼女の伝説___相当腕の立つガンマンであったらしい___を知らぬ職員は少ない。その彼女が辺境の一事務所を訪ねるという事態に、僅かな緊張が資料室に立つヴィーヴルの脳裏に走る。

 

「資料の受け取りという事だったが、火急の用か」

「そう老いぼれを急かさなければいけないものでもないよ、今はね」

「ロンディニウムの事か」

「……その為でもある。再三だがそう急くものではない、君にとってはそうも言っていられない事だろうがね」

 

 Chariotが目を眇める、老天使はそれが動揺の表出である事を知る数少ない人物だった。

 

「レックス、君の意欲や責任感は皆が知っている。私も、他のエリートオペレーターたちも、ケルシーもだ。だからこそ君には今暫く忍耐を要求したい」

「……理解している」

「君の主導で纏めて貰っている資料も当然確認させて貰う、協力してくれるだろう?」

「ああ、了解した。今夜には渡……むぐ」

「明日以降で良い。正確性を重視してくれ、作業は巡回の合間でも構わない」

 

 早速と棚から幾つかのバインダーを掴み出したChariotの口に冷めかけたパイを押し込んで制止すると、Outcastは扉越しにカードゲームを続けるジェーン達を見やる。Chariotの表情筋は強張りを維持したままだったが、暫くすると観念したのかバノフィーパイを受け取って咀嚼し始めた。こういう時、彼が目の前の天使を言い負かした事はない。

 諦めてイニシアチブを握られていた方が良いという事を、数年の付き合いで彼は理解しきっていた。

 

「そうだな、今は……久方ぶりに君の話を聞きたい」

「俺の話?」

「ああ。定期連絡は毎回目を通していたけれど、君は毎回ケルシーのような報告書しか書かないだろう?こうして直接会うのも数年ぶりだ、積もる話の一つや二つあるんじゃないか?」

「あまり、分からない。俺はBlazeやLogosのように饒舌にはなれないから」

「ふむ……、今日君達を見ていた限りでは、君は随分にこやかでおしゃべりになったと思ったんだが」

「……冗談だろう」

「本当さ」

 

 僅かに眉根を寄せるChariotを他所に、ティースプーンがついと空間を撫ぜる。

 

「私の知っている君はもっと仏頂面で、表情の硬さだけならそれこそケルシー以上だったが、今はそうでもないよ」

「貴女がそう思うのなら、そうなのかもしれない」

「君の事だ、此処の環境があっていたという事は無いだろう。寧ろこの土地は君に緊張を強いている筈だ。それを踏まえるなら……やはり()()()のお陰かい?」

「……ジェーンの事を言っているのか」

 

 Chariotがまた片目を細めた。図星なのか、無自覚なのか、どちらにせよ余りにも分かりやすい。ふいと顔を横向けて甘いクリームを頬張る姿は、Outcastには幼い教え子がむくれたようにしか見えなかった。

 

「彼女は確かに俺達に良くしてくれている、俺自身も助かっているが……それだけだと思う」

「思う?自分の事だろう」

「意地の悪い事を言わないでくれ、本当に……分からないんだ」

「君ぐらいの年頃ならこう、あるだろう?無性にドキドキして苦しいとか、ポッと上がってしまうとか。それに、今朝もデートしてきたそうじゃないか」

「デー……ッ!?」

 

 そっぽを向いていたChariotの上体が跳ね戻り、思わず喉元まで出かかった大声を抑え込んで派手に咽る。その背を撫でてやりながら、この若者には少し早い話題だったかと老天使は苦笑した。

 

 

 





ラブコメを書きたい……書き方が分からなさすぎる……。

・Chariot
 恋愛は未経験。

・Outcast
 正直純粋なキャラクターとしては9章で一番好きかも知れない、オタクの好きな要素だけで構成されたいいキャラだと思っている。
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