ジェーン・ウィローに花束を   作:疾風怒号

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想定よりもずっと高い評価、多いお気に入り登録を頂いており感激しています。そんなこんなで第四話。ちなみにセレクトでロゴ先とイネス引きました、ぶい。


4:Gospel of the Hostility/敵愾の福音

 

 

 Outcastが駐在事務所に訪れてから数日、悠々と資料を読み漁る彼女の態度と同様に、ヒロック群の雰囲気に変わりは無かった。そう、変わる事は無い。生気のない十七区の様子も、長く修繕されず風が吹く度にガタガタと揺れる窓枠も、時折何処からか聞こえる啜り泣く声も、住民___ターラー人たちを取り巻く状況には、微かな揺らぎさえ無い。

 

「そうか、ダミアンが」

「最初はラウリー、次はクリス、今度は……ダミアンだ!……なあ、レックス、アイツらは確かにいつ感染してもおかしくはなかったけどよ……、こんな……」

「ああ、分かっている。こんな事がいつまでも許されて良い訳が無い」

 

 Chariotの肩を掴む男の眼には、怒りと、屈辱と、やりきれない感情が混じりあって燃えていた。通常よく耳にするヴィクトリア語とは大きく異なるであろう、独特の古い訛りとスラングの混ざった囁き声が、この街では方々から耳に飛び込んでくる。

 

「やめてローナン、彼にこんな事を言ったって……」

「グルニエ、大丈夫だ。俺に話して少しでも気が紛れるのなら、それで良い」

 

 ヴィクトリア辺境における()()()()ヴィクトリア市民及び駐屯軍と、ターラー人を自認する市民との間にある軋轢はそう珍しいものではなく、また秘匿されているものでもない。薄氷に覆われた土の下で這い蟲が蠢動するが如く、それは足元に不快な震えを伝えている。

 

 ひとえに不快だった。状況そのものに対しては無論として、ある意味においてこの状況が継続する事を望んでさえいる自分の存在を自覚すればするほど、耐えがたい怒りが腹の底で煮え滾る。

 

「俺に出来る事は、これ位しか無いのだから」

「そんな事をいわないで頂戴、貴方たちには良くして貰っているわ。今日だってこんなに予防薬を持ってきてくれて……、ここいらの皆、感謝しているのよ」

 

 Chariotの進言は即ち、眼前の彼らを含むターラー人を取り巻く情勢の観測、及び記録を積極的に行うべきである。という旨のものだった。

 

 先代のアスラン王が弑された後、並居る大侯爵たちが手をこまねく内に摂生王率いるサルカズの軍勢が実質的にその空席を掌握した事も記憶に新しく、ヴィクトリアの情勢は混沌の一言に尽きる。

 双王家の片割れ、即ちターラーのゲル王に連なる一族は歴史の表舞台から姿を消して久しいが、彼は確証を持つかのように提言を記し、自らトランスポーターとして活動を重ね、遂にはそれがロドス・アイランドにとって無視する事の出来ない一要素である事を証明せしめた。

 

『ロドスは個人的な感情を、或いはその解決と解消を理由として進路を定める事はない』

『だが、オペレーター・Chariot。 君は自らの行動によって、自らの感情と危惧をロドスという一組織の行動に反映させる事の妥当性を、多くのエリートオペレーターに認めさせた』

『私は君の感情と危惧を否定したが、精査された情報と明確な今後の展望を前提とした"君達"の提言を支持しよう』

『……その過程で君が適切な休息と食事を放棄した事に対しては、三日間の休養を処分とする』

 

 脳裏によぎるのは、ロドス本艦でケルシーから発せられた言葉。情勢の観測とは大層な題目にも見えるが、実際に行われるのはこうした支援活動とコミュニケーションを通した情報収集と、それを各職員、各事務所間で共有し集積する地道な作業でしかなく、同時に彼個人がどれほどの熱意を持っていようと、彼の行動がこれらの業務から逸脱する事は許されない。

 

「……悪い、レックス。確かに、アンタにぶつけたって仕方ないな」

「謝罪するのは此方の方だ、余所者に出来る事など、気休めでしかないというのに」

「馬鹿言うなよ、アンタは古いターラー語の詩だって知ってるし、俺達をゴミみたいに扱ったりしない。この前だって兵士からクレイグを守ってくれたんだろ?」

 

 ローナンの眼はあくまでも純粋だった。彼は目の前のヴィーヴルが自らと同じルーツを持つ人物であり、自らが置かれる境遇に同じ怒りを燃やし、ひいては『職務』に支障の無い範囲であれば協力も惜しまない人物であると純粋に信じている。

 

「そう、かも知れないな」

「だろう?そうだレックス、今度暇がある時に俺の家に来てくれ、アンタにも話しておきたい事があるんだ、それに……」

 

 ローナンの信頼も怒りも理解した上で、Chariotは曖昧な言葉だけを発した。横に立つグルニエの視線が泳ぎ、遠くにヴィクトリア軍の制服が見えた事で発言を止めたローナンを見て、彼が何を伝えようとしているのかにも見当が付いている以上、耳触りの良い言葉を返せば、今以上の不快感に襲われる事は間違い無かった。

 

「悪い、先に行く。兎に角時間が出来たら来てくれ。グルニエも……分かるよな?それじゃあ」

 

 口早にそう言い切って小走りに去っていくローナンと入れ替わりに、ヴィクトリア軍の制服に身を包んだ女性が歩いて来る。この周辺では見た事の無い、鮮やかなクロムオレンジの髪。

 

「こんにちは!少し聞きたいことがあるんだけど、今いいですか?」

「……」

「構わない」

 

 明るい声を上げる兵士とは対照的に、顔を強張らせながらグルニエが一歩引き下がったのを見かねて、Chariotは割って入る形で歩み出た。兵士は言葉を探すように側頭から伸びる角を二、三度掻いて、続ける。

 

「バリー、ダミアン・バリーさんのご家族を知りませんか?」

「何故そのような事を?ダミアンは駐屯軍に連行されたと聞いている、其方のほうで調べは付いているのでは?」

「えー……と」

 

 訛りの無い発音で淀みなく聞き返されると、兵士は斜め上に視線を逃がして逡巡する様子を見せた。少なくとも、この移動都市に属する兵士ではないのだろう、そうであるならば、質問に答えなかった事に苛立ちを見せるか、市民には不必要な情報を聞き出そうとした事に憤慨するか、或いはその両方の反応を見せる筈だった。

 

(一定の機密性が求められる立場にあり、それらしい事情をその場で作り出す事にも慣れていない、比較的若輩の軍人。といった所か)

 

 後ろ手のジェスチャーでグルニエを下がらせつつ、Chariotはそう考えていた。推理というには乱雑な当て推量だが、先ほど見せた快活な声と真っ直ぐに向けられた輝かしい眼には覚えがあった。

 

「……此処の住民たちは皆そういった話題には過敏になっている。彼の家族ともなれば猶更だ。手伝う分には構わないが、彼らを刺激するような真似は控えて欲しい」

「うん、分かった。……って事は、君はヒロック群の人じゃないの?」

「此処に住んではいる、ロドス・アイランドという企業に外から派遣された身だ」

「成程、だからあのおねーさんも()()()お話してたんだね」

 

 Chariotが肩から提げている物が医薬品を収納するクーラーボックスである事に気付いたのか、合点が言った様子で兵士は頷く。

 

「Chariot」

「ん?」

「俺の名だ、レックスでも良い。『君』では呼び辛いだろう」

「うちはバグパイプ、よろしく、Chariot」

「ああ、よろしく。とは言っても、俺はダミアンの家族構成までは知らない、聞き込みを手伝う程度の事しか出来ないが」

「それで十分だべ!」

 

 弾けるような喜色を満面に浮かべて、バグパイプはChariotの手を取りブンブンと振った。袖越しの細腕からは想像もつかないような剛力で上体を振り回されながら、Chariotは自分にもこんな時期があったかと僅かに回想した。

 

 

 けたたましい警笛が鳴り響いたのはその数秒後だった。出歩いていた市民や、軍人に手を掴まれたChariotを心配してか窓から顔を出した者たちが一斉に音の出処に目を向ける。くすんだ鉄色は駐屯軍の制服、腰には物々しい制式クロスボウ。睨め付ける双眸は侮蔑と敵愾心に歪んでいた。

 

 




コードネーム:Chariot(カリオット)
性別:男性
戦闘経歴:8年
出身地:ヴィクトリア
誕生日:7月7日
種族:ヴィーヴル
身長:192cm
感染状況:非感染者
CVイメージ:石川界人さん(某青獅子の級長イメージ)

物理強度:卓越
戦場機動:標準
生理的耐性:優秀
戦術立案:優秀
戦闘技術:優秀(追記:限定条件下でのみ卓越相当とする)
アーツ適性:優秀

職業:前衛
職分:剣豪

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