カレイドスター夢の翼   作:雨居神宮

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13話 

 

 

「固いことはこのくらいにして~! とりあえず今日は食え! 飲め! 騒げ! 乾杯だ~!!」

 

 マリオンの乾杯の掛け声により歓迎会は本格的に始まった。

 会場では三台のBBQセットの上に所狭しと並べられた牛肉をメインに、テーブルにはオードブルとソフトドリンクが豊富に揃えられている。

 

 参加者は各々がマリオンに答えるように手に持つカップを掲げて、満たされた液体を口にした。コーラの者もいる。オレンジジュースだった者もいる。ワインや、ビールの者もいた。好き好きで注がれた飲み物は別々でバラバラだ。

 

 しかし、グラスの中身は、込められた気持ちは全て同じもので。マリオンの掲げたカレイドステージへの想いを皆ここに飲み干して、己の中に取り入れる。

 

「……え? や、メイさん? ちょっとなにしてるんです?」

 

 だが、やはり例外というのはあるもので。どこにでも空気の読めない人間というのはいるもので。乾杯の掛け声とは裏腹にビール瓶の口を指で塞いで上下に振るメイの姿が。

 

「これがうちの乾杯なのよ。ホラホラホラどんどん行くわよー!」

 

 今だに乾杯をシャンパンファイトと思い込む彼女は、未成年相手にも容赦なくアルコールを振り掛ける。

 

「あ! やりやっがった。誰だよメイにビール渡したの!」

「メイ! 今日は駄目! 未成年相手はさすがにまずいから! コーラ、やるならコーラね!」

 

 ビールを片っ端から噴出させる気なのか、早くも一本目を消化して二本目に手をつけようとするメイに、駆け寄る二人。

 

 アンナ・ハートとミア・ギエムだった。背後から動きを封じるアンナと、酒瓶を奪い取るミアのコンビネーションは手馴れたもので、今まで何度も繰り返してきた様が窺える熟練の動きだ。

 

「ちょっと何よアンナ? 乾杯するんでしょ? 放しなさいよ~」

 

 動きを封じられてガウガウと威嚇を始めるメイ。アンナとミアは被害を拡大しないように必死に彼女をなだめるが、そんな様子を眺めて、遠巻きにマリオンが愉快そうに笑う。

 

「あははは。メイなら絶対やると思った」

 

 良いのか悪いのか、マリオンが笑うならば、場は笑っていいという空気になる。

 たとえ狂犬が吼えていようと、ビールが目に入り転げまわる大女がいようとだ。ムードメーカーはリーダーの大事な素質である。

 

 感情は伝播するものであることを、リーダーのマリオンはよく理解していた。

 舞台前の緊張も、練習での集中も、公演での失敗も、彼女の感情しだいで場の空気は大きく変わってしまう。

 

 だからとりわけマリオンは良く笑う。こんな事はなんともないと、余裕をもって呵呵大笑してみせる。

 

「はい。このタオル使って。いきなり災難だったね。あれでも本人は歓迎のつもりらしいから許してあげてね」

 

 そうしてマリオンがタオルを手渡したのは175センチ以上はある背の高い子だった。 羽織るパーカーまでもびしょ濡れであり、顔は下がる前髪により隠されている。

 

「ありがとうございます。テレビとかだと楽しそうだけど実際やられると結構きついんですねコレ。ビール超目に滲みる」

「ふふふ。ようこそカレイドステージに。これで君達も家族だ」

 

 暴君による洗礼を味わった少女はマリオンの言葉に苦笑いを浮かべると、渡されたタオルを頭に被って、まずはびしょ濡れになった黒いパーカーを脱いだ。

 

「へぇ」

 

 濡れたタンクトップは肌に張り付いて、くっきりとボディラインを映していて、少女の身体を見たマリオンは素直に感嘆の声を漏す。

 

 男の隆起する筋肉とはまた違う、脂肪と共に無駄を削ぎ落としたかのような洗練された筋肉である。アスリートというには細く、バレリーナというには膨らんだ筋肉が、なんとも自然な仕上がりで高い背と長い手足に馴染んでいた。

 

「綺麗だね。格好いい身体だ。何やってたの?」

「一応ジャグリングを各種。トスは勿論、バウンスとコンタクト。あとディアボロとデビルスティックなんかもやります」

 

 タオルで髪をガシガシと拭きながらそれとなく答える少女。

 その答えに、マリオンはなんとも言えない顔する。きっと筋肉隆々の男の趣味が刺繍だと知ったら同じような顔をするだろう。

 

「すげぇなおい。見かけによらず器用だね」

「はは、わりと言われますねそれ。アタシ、スポーツマンに見えるみたいで」

 

 そう言い少女はビールで濡れた髪を無造作に掻き揚げた。

 大雑把ながらも様になる仕草で、水滴が細くも起伏に富んだ輪郭をなぞる。

 

 透き通るような白い肌に、切れ長の目と吸い込まれるような青い瞳。卵型の形の良い輪郭とスッと筋の通った高い鼻、薄紅色のふっくらとした厚い唇。個々でも形よい部品が、緻密に配置されまるで芸術品だ。

 

 一見して少年のように凛々しく、そして確かに少女の愛くるしさを持った中性的な顔はステージに美形の相棒を持つマリオンでもドキリと息呑むほどで。

 

「やだ。この子イケ面……」

 

 感想を言い終わる前にはパシャリと携帯で写真を撮るマリオン。

 

「ねぇねぇ、名前なんて言うの君。(パシャリ)あ、写真映り良いね~。うん。すごく良い! (パシャリ)なんだよ、ミアったら隠してたなもぉ(パシャリ)」

「クロエ・カートリッジっていいます。ええっと、マリオンさん……ですよね? カレイドスターの」

「は~い。カレイドスターのマリオンでーす。宜しくね、クロエン♪」 

 

 返事しながらもしっかりとクロエとのツーショットを収めるカレイドスター。

 

「イメージがぁ……」

 クロエは凛々しいマリオンと、ミーハーなマリオンのイメージ差に戸惑っているようだった。なにせ反応は軽く、言動すらもひたすらに軽いからのだから仕方がない。

 

 まるでハリウッドスターでも見つけた女の子のノリのマリオンは、ファンの子の幻想を一撃で粉砕しかねないものだ。

 

 眉間に皺を寄せるクロエの顔にカメラのフォーカスを合わせて恍惚するマリオンだが、クロエの後ろに彼女が立っていることに気づいて携帯を降ろす。

 

「お説教は終わりかな? 未成年にお酒なんか掛けちゃあポリスに捕まっちゃうぞ?」

「ふん。コーラじゃ盛り上がるもんも盛り上がらないでしょ。この国は酒にうるさ過ぎるのよ。自由の国が泣くわ」

 

 会場にいるのは舞台を終えたばかりの寮生達。久々のお祭り騒ぎに酒を飲み肉を食い、獣のように料理に群がっているにもかかわらず、このコンロだけがやけに人気が少ないのは獣さえも避けて通る恐怖の寮長がいるからに他ならないだろう。

 

 あまりに自由すぎる彼女は法律にすら縛られない嫌いがあり、落ち着いたとはいえ隣でミアが監視の目を光らせている。

 

「アンタ。昼にあの子と一緒に居たわよね?」

「えっと。アタシですか? 誰だろう。ユメかエリー?」

 

 クロエもあまり近づきたくはないのだろう。背後を取られた今はなるべく刺激しないように直立不動にしていた。おそらくは死んだふりの一種だ。

 

「あれよ。ほら……あのちっこい奴。ソラの、妹の」

「おお? ははーん。なんだ、珍しく歓迎会に参加してるし、妙にご機嫌だなとは思っていたけど、まさかまさかメイも妹ちゃんが来るのを楽しみにしてたとはね」

 

 茶化すマリオンと照れるメイ。苗木野そらといえば、メイ・ウォンの仇敵であり天敵だ。 ぶつかり合うこと数知れず、役を取り合うこと幾数年に渡る不倶戴天の間柄である。

 

 執念と怨念とわずかな尊敬を込めて苗木野そらに送る熱烈なラブコール(決闘状)

 激しい情熱と悪魔的な絶技は、時に苗木野そらを脅かすほどのキレと魅力を持っていて。事実、光の時代を崩し新たなる風をステージに吹かせたのはロゼッタ・パッセルとメイ・ウォンのコンビに他ならない。

 

 メイは、ロゼッタのように憧れの存在としてではなく、色眼鏡の無い一人のアスリートとして唯一争ったからこそ、ある意味は誰よりもソラ・ナエギノというプレイヤーを認めているのである。

 

 嫌えども負けれども、憎けれども悔しけれども、それでもずっと苗木野そらを追い続けた彼女。とても一言で表すなど出来ないソラへの思いも、まずは憧れを無くしては語れない。

 

「うっさいわね~! ええ。そりゃ少しは興味あるわよ。だから何!? ハローと優しく声を掛けてご機嫌でも伺えっていうの!?」

「ねぇ知ってるクロエン? こういうのツンデレって言うんだよ。不器用だよね~」

「プッ……。た、確かに不器用ですよね。ユメへの第一声が失格だったあたりがまた」

 

 事情を聞いて思わず噴き出すクロエ。

 昼のアクシデントはともかくとして、楽屋から会場への牽引や合格後のプレゼン等、数多い新人との接触が、まさかコミュニケーションをとろうとしていたとは、あまりにいじらしい。

 

「新人の分際で笑ってんじゃない!」

 

 クロエに笑われて、マリオンに弄られて。頬を引き攣らせながら赤面するメイは、八つ当たりとばかりにクロエに巻き付く。文字通り、巻き付いている。

 

 メイに背後を晒していたクロエは、左足を絡めとられて、背後に圧し掛かられた。

 ツタのように半周して右脇下からメイが顔を出すと勢いのままにクロエの首を押さえ込む。気づくと支点は全てメイにあり、まるでクロエがメイに巻き付いているかのような不思議。

 

「アンタは素直に吐いてりゃいいのよ。ヘブン・イン・ザ・クラ~ッチ!!」

 

 プロレス技のコブラツイストだった。メイが身体を伸ばせば絡まるクロエの身体も伸ばされて、しかし極まる関節に伸びる余地などない。腰から始まり首筋におよぶまでの全て。とりわけ肩、背中、アバラを痛めつける大規模な関節技である。

 

「でる~! それ言葉意外のものも出ちゃいます~! ユメの事なら身長でも体重でもスリーサイズでも教えますからぁ~それ、らぁめぇぇえ!」

 

 メイが前寮長サラから引き継いだのは実のところ寮長の役職だけではなかった。

 お茶目な前寮長は引越しの際に部屋にあるサンドバッグなどの格闘グッズをそのまま残していったのだ。

 

 サラ・デュポンが学んでいた胡散臭い武術は、その人の底抜けに明るいキャラクターの一部として考えれば可愛いものであったが、メイのプレイヤーとしてなかば極まった身体能力は、その胡散臭い武術を必殺の殺人術へと変えて、本人の荒い気性も含めれば、なんとやらに刃物という状態だ。

 

「ばっかじゃないの。スリーサイズなんて知ってどうしろってのよ。ただ、なんていうの? なんか変なものが視えるとか……言ってなかったわけ?」

「今この瞬間を目撃されたらそう言われそうですね」

 

 締め付けが弱ったところで息を絶え絶えに皮肉を言うクロエ。しかし、その様子を面白がって写メ拡散するマリオンが反応をしめす。

 

「メイが言うのはたぶんステージの精のことだね。彼が視える者は舞台に選ばれた証であり、天性の華を持った舞台の申し子ってね。んふふ。果たしてクロエンは彼と出会うことができるかにゃ~?」

「はぁ……マリオンさんにも視えたりするんです?」

「メイいいぞ、もっとヤレ!」

 

 突然湧いて出たオカルト話に胡散臭そうな顔で対応するクロエは、空気を読めない質問をした罰に再びぎりぎりとメイに締め付けられる。

 

 そのたびに蛙の潰れたような声で鳴くクロエだが、つまりそれはカレイドスターであるマリオン・ベニーニですら舞台に選ばれていないということを意味していた。

 

「私が知ってる中じゃあ、ソラとロゼッタ。あとレイラさんも視えたとか聞いたかな。どうだい、納得の豪華メンバーでしょうよ。これでも疑う? 私の言ったこと超本当!」

「でもそのメンバーで言うとなおさらマリオンさんも視えないと……」

「メ~イ~?」

 

 やっておしまいとばかりにマリオンが嗜虐的な視線を向けるものだから、空気の読める子クロエはゴメンナサイゴメンナサイと涙目に平謝りする。それでもやはり、どこか得心のいかない顔だ。

 

「実際その妖精が視えるとどうだって言うんです? 才能があるっていうのはわかりましたけど、視えないマリオンさんだってカレイドスターやってるわけじゃないですか」

 

 そして核心を衝いた。

 突然メイはクロエのクラッチをきって、技を解く。突然放されたクロエは前につんのめりながら二歩三歩と勢いを殺し、何があったのかと後ろを振り返れば、そこにはすでに踵を返すメイの背中が。

 

「クロエだったっけ? とりあえず聞きたい事は聞けたわ。邪魔したわね」

 

 去り際にビール瓶の口元を手刀で切断し、スッと瓶を揺らしてからミア達の元へと向かっていく。メイなりに改めて乾杯したのだろう。

 

「アタシ……なにか不味いこと言いましたかね?」

「いんや。ただメイが勝手に負い目を感じてるだけだよ。うん。クロエンの言うとおりカレイドスターは私だからね。ステージの精なんてしょせん噂なのさ。だいたい視えたところで風呂を覗いてくるだけらしいし」

「ステージの精の話ですよね!?」

「当然じゃないか。ちなみに名前はフロ・ハイールみたいな感じだった。たしか」

「それはもう完全にステージ関係ないですよね!? ただのセクハラの精ですよね!?」

 

 マリオンは話題を煙に巻くように反らしていく。あえて馬鹿な話をすることで感心を無くそうというのだろう。

 

 なにせステージの精がそのような変態であるはずがないし、ステージの精が幻の大技を行うための資格を与えるということをマリオンは口にしなかった。

 

「けどさぁクロエン。別にステージの精じゃなくてもいいんだけど、貴女には才能が有って貴女には才能がありませんって分かっちゃうものがあったらどうするかね?」

 

 ロゼッタ・パッセル。メイ・ウォンをパートナーに風の時代を築き上げた前カレイドスターでありディアボロマスター。

 

 ロゼッタ・パッセルの夢はソラ・ナエギノと幻の大技を再演することであり、そのためにロゼッタはトラピスプレイヤーになったと言っても過言ではない。

 

 しかし、現在に至るまでカレイドステージで幻の大技は再演していなかった。

 ソラとロゼッタ。二人の有資格者が居たあの時ならば、恐らくは再現できたであろう幻は実現していない。それはロゼッタのパートナーがメイだったからだ。

 

 資格がなければ演じられないという理不尽は、資格がなければ失敗するという意味でもあり、幻の大技の失敗はすなわち死である。

 

 ロゼッタには間違っても演じたいとは言えなかった。メイに力不足だとは言えなかった。

 良き指導者として、良き相棒としてメイを慕っていたからこそ、大切にしていたからこそ、ロゼッタという女の子は己の夢を胸に封じ込めたのだ。

 

「クロエン的には、やっぱり才能ある事やりたいですね。でもクロエンは楽しくないと続かないんで才能とか関係なく、なんだかんだ好きな方をやると思います」

「模範的回答ありがとう。君のノリ嫌いじゃないぜ。そう、好きな事に才能があれば理想だよね。けどさ、好きな事やってて自分の底が見えたらどうよ? 努力だけじゃどうにもならない壁があったらどうよ? 底まで来て初めて才能が無いって知っちゃたらどうよ?」

 

 おそらく彼女は最強だった。

 出来る限りの努力を尽くしてその結果を着々と積み重ねる彼女は、己の才を決して疑うことはない。事実として世界で頂点を争うレベルに彼女はおり、並み居る天才と呼ばれる者達と腕を競ってきたからだ。

 

 しかし彼女は真の天才というものを知ってしまう。

 幼き才能はあっという間に彼女に追いついてしまったのだ。己をもの凄い勢いで追ってくる少女に彼女は戦慄する。

 

 もっと上を目指さなければ。向上心の固まりである彼女は身体に鞭を打ち一層の努力に勤めるが、彼女はもう極まってしまっていた。

 

 どう模索しようとも上は無く、しかし追い上げられる重圧。

 なおも彼女は天井を叩き続けるが、気づけば少女は横に居て。あろう事か少女は壁を破って上にいく。

 

 その段になって初めて、自分が凡人だったと彼女は気が付いた。

 

「あ~悲惨ですね。自分のハートはガラスほど固くないので、たぶん立ち直れないです。けど、普通そこに行く前に気づきますよ。アタシ、今日もコイツには敵わないわーって奴に会いました。金髪でした」

「なんか誘導尋問でもしてる気になってきたよ。どうしてそう欲しい台詞をくれるかね。もしかしてエスパーか?」

「わぁお。期待に沿えてなによりです。ならお次は要望通り小粋なジョークを挟みましょう」

「ぜひとも聞いてみたいが、その振りで面白い事を言った奴を知らないから遠慮する。うん、挫折だね。才能ないから諦めるって話だね。そこで最初に戻るわけだ。才能有ることやりますか? 才能無い事やりますか? ってな感じに」

 

 適当にぺらぺら答えていたクロエもここで初めて顎に手を沿え思考する。真面目な顔から察するに小粋なジョークを考えているわけでもないだろう。

 

 好きだろうと、才能の無いことを突き詰めての挫折か。

 好きでもないが、才能の有ることを突き詰めての優越か。

 

 嫌らしい二択だった。それは普通好きな事をやりたいだろう。だがその才能は無いと分かっている。

 

 別に好きでもない事には才能があるとして、案外才能があれば楽しいかも知れない。

 そも、一流と呼ばれる者はだいたいが幼少の頃から才能を伸ばす教育を受けるのだ。世界レベルとは見方を変えれば技術だけではなく才能を競い合う場でもあるのではないか。

 

 ならば。ならば、ならば?

 クロエ・カートリッジはどちらを選択するのだろうか。

 

「考えました。合法ロリババアなんて糞ですね。法律的にアウトだろうが、いつかストライクゾーンから外れてしまおうが、私は今の幼い可愛い少女を愛でましょう!!」

 

 小粋なジョークどころではなかった。真面目な顔でこの女は何を考えているのだろうか。

 

「うん。何言ってるのかさっぱり分かんねーけど、勢い的に良く言った! ハードモードかイージーモードを選べるって言うなら断然ハードの方が燃えるよね。ただしポリスには気をつけて?」

「マリオンさん。メイさんは……やっぱりユメに視えて欲しかったんですかね?」

「おっと喋りすぎたか。うん。そりゃソラの妹だもん期待するよ。でも視える視えないなんてのは正直おまけだね。直接会って、興味が湧いたから欲がでたんでしょ。メイは自分で見たものしか信じないよ」

 

 クロエがそこで遠い目をするのは自分がコブラツイストの掛けられ損だと気づいたのだろうか。しかし、元を正せばメイを笑ったクロエが悪いようで、やはり八つ当たりをしたメイが悪いのだった。

 

「まぁあのナエギノですもんね。エリーといい、みんな凄ぇや……」

「大丈夫。そりゃあ保障なんてどこにもないけれど、大丈夫。カレイドスターは胸を張ってカレイドステージが好きって言える人間が成るべきだ。君達がカレイドステージに来たことだけは私が後悔させないよ。さ、邪魔はいないしもう一度乾杯し直そう。今日は君達の歓迎会なんだぜ?」

 

 大丈夫。そんな根拠のない言葉でも、マリオンの口から出ればどうして大丈夫な気がして。

 

 気づけばクロエの前には、ミーハーな女など居なかった。その代わり、憧れの天才スターも居なかった。居たのは凡人なれども百戦錬磨、強く逞しい最強(カレイドスター)の女。

 

 壊れたイメージを直して有り余るリアルの魅力は、それだけで後悔という言葉を消し去るものだ。

 

「んーそうだな。アホウドリに!」

 

 構えられたジョッキにはビールが注がれて、クロエのコーラの入ったジョッキを待ち受ける。

 

「アホウドリに!」

 

 勢いよくぶつかるジョッキはキンと高い音立てて、黒と金が弾け合った。

 

 

 

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