昼間も上着が必須になってきた、今日この頃。
中央トレセン学園は、近頃浮かれた空気に包まれていた。
「ハロウィンか~」
イベント好きのウマ娘たちが主催する仮装パーティー。
毎年行われているそれに、俺とルビーは一度も参加したことがない。
まぁ、ルビーの性格を考えたら当たり前なんだけど……。
学生時代に勉強ばかりやっていた身としては、興味があったりなかったり。
とはいえ、本人にも確認を取らないとな。今年はスカーレットとカレンも居るし。
ガラリとトレーナー室の扉を開ける。
と、そこにいるのは……
「ばぁ、カレンゾンビだぞ~☆」
「おぎゃー!?」
突然目の前に現れたナニカに押し倒され、俺は尻餅をついた。
「いってぇ~……って、カレン?その格好は……?」
「えへへ~、カワイイゾンビナースだよ♪お兄ちゃん♪」
「ちょっとカレン!なにやってるのよ!」
「スカーレット?」
お腹に抱きついているカレンから視線を外し、トレーナー室の中を改めて見ると、スカーレットがルビーにメイクを施されている最中だった。
「三人とも、その格好は……?」
「見てわかるでしょ~、ハロウィンの予行演習だよ!」
「予行演習?」
「それぞれメイクの練習してるのよ。ワタシがカレンにやって、カレンがルビー先輩に、それでルビー先輩がワタシにって」
なるほど、それでルビーはあんなに真剣な顔でスカーレットにメイクをしているのか。
まるで、レース前のような空気を纏っている。
「それにしてもその衣装、なんというか……」
かなり際どいな……
太股も胸元も、かなりの露出だ。
スカーレットは特に不味い。安物のコスプレ衣装では、とても心配なパツパツ具合だ。
これ以上見続けるのは危険。刺激物から視線を外し、ぶーぶー言っているカレンをどかして立ち上がる。
「それにしても、よくルビーも参加するって言ったな」
「ふふっ、それは~カレンの交渉力☆の見せどころっ♪」
カレンは微笑み、ウィンクするとスカーレットたちの方へ歩いていく。
どうやらメイクが終わったらしい。
「ありがとうございます!ルビー先輩!」
「いえ、此方の練習に付き合っていただきありがとう御座いました」
互いに礼をしあっている二人も、なんだか普段と違って浮かれているように見える。
……それにしても、カレンがルビーに持ちかけた交渉とは一体なんなんだろうか……?
「それじゃあ、お兄ちゃん♪お兄ちゃんも座ろっか♪」
「え」
グイグイと背中を押してくるカレンに逆らえず、座らせられる。
席に着いた俺を待っていたのは、怪しい顔をして化粧品を手に俺を取り囲む三人だった。
「いやいやいや!急にナニ!?」
「ルビー先輩が、お兄ちゃんも一緒に来て欲しいんだって♪」
「チームとして参加するのですから、トレーナーさんの参加を望むのは当然のことです」
「さあ、大人しくメイクされなさい!」
「ちょっと待って!何のコスプレか教えて!」
どうやら、俺の言葉ではもう止まってくれないらしい。
三人のウマ娘に勝てる筈もなく、俺は身ぐるみを剥がされるのであった……。
「って、このコスプレかい!」
「あははははっ!全然似合ってないわねっ!」
「え~、カレンはカワイイと思うけどな~」
「……!……!」
スカーレットたちと全く同じメイクとコスプレをさせられた俺は、今では立派なゾンビナース。
スカーレットには大ウケ、カレンはお気に召し、ルビーは何か興奮してる。
「まさか、当日でもこの格好しろって言わないよな?」
「ふふふ……んんっ、大丈夫よ。流石に他の衣装も用意してあるから」
「お兄ちゃんもゾンビナースで行こうよ~」
「絶対やだ」
「……!……!」
……ルビーは何でこんなに興奮してるんだ。今までルビーと付き合ってきて、感じたことのない悪寒を感じるんだが……。
「……そろそろ着替えていい?」
「ダメだよっ、お兄ちゃん。ルビー先輩との約束があるから」
「約束って、さっき言ってた……?」
「──お写真を、撮らせて頂けませんか」
「写真って俺の!?」
「コスプレに撮影会は付き物だと伺いましたので」
ルビーはどこから取り出したのか、とんでもなく値の張りそうな物々しいカメラを手に、こちらを見詰めてくる。
「ちょっとくらい良いじゃない。観念しなさいよ」
「トレーナーさん……」
「お兄ちゃん……」
「──はぁ、分かったよ。けど、絶対に他の人に見せたらダメだからな!」
「ありがとう御座います。それではセッティングを」
「セッティング?」
ガララとトレーナー室の扉が開き、入ってきたのは大量の黒服さんたち!?
瞬く間にトレーナー室の内装が変わっていき、黒服さんたちは出ていった。
「──さぁ、準備は整いました。此方へとお願い致します、トレーナーさん」
俺も色んなルビーを見てきたと思っていたのに、こんな目の色をしたルビーは初めてだ。
カレンとスカーレットは先ほどの黒服さんたちに圧倒されたのか、未だにポカンとしてしまっている。
やるしかない──
「それでは、此方のポーズをお願い致します」
「えっ」
「──撮影を始めさせて頂きます」
「ちょっ」
どう考えても、成人男性がやるようなポーズじゃないものを提示され思わず絶句してしまったが、そんな俺を気にせず撮影が進む。
次々と提示されていくポーズを羞恥を感じながらこなそうとする俺は、皆からどう見えているのだろう。
あとスカーレットが笑ってるのと、カレンもスマホで撮ってるの見えてるからな!
「あの、ルビー?」
「……!……!」
「……ルビー?」
「……!……!」
「せめて、何か言ってくれよぉ……!」
「……!……!」
返事はない。ただ、バシバシと尻尾を叩き付ける音が返ってくる。
……どんどんローアングルになってない?
「──満足致しました。ありがとう御座いましたトレーナーさん」
「それなら……良かった……」
羞恥心と普段することのないポーズを繰り返したせいで、息も絶え絶え。
格好を気にする余裕もなく、床に座り込む。
「ワタシにも見せて下さい!ルビー先輩!」
「カレンもカレンも~☆」
「──えぇ、勿論。私の写真の腕前は未だ未だ不出来ですが、この素晴らしいトレーナーさんの姿は大画面に写すべきです」
和気あいあいと話す三人。
どうやらルビーの家のシアターで俺の写真の鑑賞会を行うらしい。
…………………。
もうコスプレなんてこりごりだよ~!!
ゾンビは感染するもの
ということで、シーズンネタのハロウィン回です。
ルビーがどんどんトンチキお嬢様になっていってしまっているのは、気のせいじゃないでしょう。
ルビーファンの皆さまお許し下さい。
前回、お気に入りをしてくれた方々ありがとう御座います。
それでは今回も最後まで読んで頂きありがとう御座いました!
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