「なぁ、聞いたか?あの話」
「ん?」
「ほら、あれだよブエナビスタの……」
「あー、凄いよな幼馴染みで~なんて」
「ブエナビスタもだけど、そのトレーナーも根性あるよな~」
「な~」
最近の中央トレセン学園は、いつも以上にふわふわした空気が漂っている。
理由は単純で、ブエナビスタとそのトレーナーが幼馴染みの仲だったということが判明したのだ。
青春と思春期の真っ只中にある少女たちは、それを聞いて黙っていられるはずもなく。
瞬く間に広まっていったその事実を、ウマ娘達は夢物語のように語り。トレーナー達はブエナビスタのトレーナーへ尊敬を込めて語るのだった。
そんな普段とは違った空気に包まれたトレセン学園で、我がチーム【アンタレス】はというと──
「お兄ちゃん♪」
「ちょっと!遅いわよ!」
「御機嫌よう。トレーナーさん」
トレーナー室に入った瞬間、カレンが飛び込んでくる。スカーレットからお叱りの言葉を受け。ソファに座ったルビーから挨拶される。
何も変わらない。変哲もない日常。
──に見えるが、俺は気付いているぞ!皆、あの話がトレセンで流れ始めてから、少し様子が変わったことに!
今のトレセンは、歩けば幼馴染みトークにぶつかると言っても過言ではない。そして、それは担当ウマ娘と共に歩いている時も変わらない。
カレンは、幼馴染みトークが聞こえてくる度にこちらに顔を向け自分の顔に人差し指を向けるのだ。まるで「ここに幼馴染みがいますよ」と告げるかのように。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん。昔のお兄ちゃんって──」
今もそうだ。こうして俺の腕に抱きついて、昔の思い出なるものを語ってくる。
カレンやめなさい。昔の思い出(カレン原作オリジナルストーリー)を語るのはやめなさい。俺そんなこと言ったことないから。
「…………」
そして、こんな風にしているとスカーレットが複雑そうな表情をするのだ。
いつものスカーレットなら、カレンに怒るか何も気にしないか。そのどちらかだと思うのだが。
正直、よくわからない。スカーレットのこの反応は何を思ってのものなのだろう。
単純に幼馴染みトークが羨ましいのだろうか。もしそうだったら、別に参加してくれても構わないんだけどな。このカレンのマシンガン幼馴染みトークに。全部ウソだけど。
……ルビーは……
ちらり、と横目でルビーを見る。
……やっぱり機嫌悪いよなあ~?
ルビーは、この話題が流行ってからというものの、微妙にうっすらと機嫌が悪そうに見える。
多分、付き合いがそれなりに長いやつしか気付いていないだろう。
果たして何が原因なのか。スカーレット以上にわからない。
この、浮わついたトレセンの空気が嫌なのだろうか。もしそうだとしたら、俺一人の力だとどうしようもないんだけど……
「…………」
ふぅと息を吐き、読んでいた本を閉じたルビー。
そのままソファから立ち上がり、こちらへと向かってくる。
その一連の動作だけで、この部屋の空気はルビーのものになってしまった。
「トレーナーさん、此方を」
「……これは?」
「小切手です。御好きな金額を御書きください」
「……え?」
なん、え?な、なにが?なんで?
「あの、ルビー?これは──」
「ちょっとちょっと!ルビー先輩ズルイよ!」
「そ、そうですよ!ルビー先輩!そんな、お金でなんて……」
「いえ、華麗なる一族として、これ以上の暴挙は許されざると」
「暴挙なんて!カレンの幼馴染み力を見せてただけだもん!」
「幼馴染み力ってなによ……」
わーきゃー、と話題の中心だったはずの俺を置いてけぼりに言い合いが始まった。寂しい。
だが、いつものことである。きっとスカーレットが落としどころを見つけてくれるだろう。
椅子に座り、ぼーっと言い合いを眺めていること数分。
どうやら解決したらしい。いつもより早いな。
「私達三人、幼馴染みとして本日から宜しく御願い致します」
ペコリ、と頭を下げる三人。
どうやら、今日から三人は俺の幼馴染みになったらしい。
なるほどね。
なるほどねじゃないが。
「……スカーレット?」
「しょ、しょうがないじゃない!二人とも幼馴染みになることを譲らないんだから……」
喋りながら、視線が横にそれていくスカーレット。
幼馴染みねぇ……
「なんでそんなに幼馴染みに憧れるんだ?」
「だってお兄ちゃん!将来の約束をした二人が、その約束を守って再会するなんてスゴくロマンチックだもん!それに、カレンとはトレーナーになる前に会ってるから実質幼馴染みでしょ?」
その実質理論強すぎるだろ。
「しかも、それが中央トレセンなんだもの。ウマ娘なら多少憧れるわよ」
「まあ、そうか……」
確かに、どんな確率だよって話だよな。ブエナビスタとそのトレーナー。
ウマ娘達が憧れるのもよく分かる。
だからといって、自分のトレーナーを後から幼馴染みにするのはちょっとよく分かんないけど……
「ルビーも、そうなのか?」
「──いえ、私は」
頬が染まり、ぴこぴこと耳が動く。
ちらちらとこちらを窺う目と、忙しなく動く尻尾。
愛の告白でもされるのだろうか。こちらまで、顔が赤くなりそうだ。
「ただ──そうであったら良いな……と。もし私の幼少期にトレーナーさんがいらっしゃったのなら──そんな夢想が止まないのです」
これは、恥ずかしい。
ルビーも恥ずかしいだろうが、言われる側もめちゃくちゃ恥ずかしいぞ。
思わず顔を背けてしまう。顔が熱い。鼻血出そう。
「ちょっと~!二人で良い雰囲気にならないで!」
「そ、そうよ!ワタシだって今日からお、幼馴染みになったんだから!」
二人が、両側から抱きついてくる。
二人の、それぞれの、異なるが確かに柔らかい感触が俺の触感と意識をハイジャック。
まずいまずいまずい。マジで出る。鼻血出ちゃう。
「そうですね。皆で幼馴染み──でした」
ルビーがゆっくりと近づいてくる。
ルビーがご機嫌そうで俺も嬉しいが、これ以上の刺激を俺に加えるのはどうか止めてくれないだろうか。
死が、近づいている。
「幼馴染みを名乗るのなら、トレーナーさんなどではなく、一層親しみを籠めた呼称を致しましょうか」
ルビーが、スーツの袖を摘まんだ。
「御兄様──など如何でしょうか?」
その言葉、その笑顔を見た瞬間。
俺の頭は茹で上がった。
それから数十分後。
三人からの看病により無事回復することが出来た俺は、三人の幼馴染み制度の廃止を告げ。そして、未だに解消出来ていなかった疑問を本人にぶつけることにした。
「なあ、ルビー。この小切手って結局なんだったんだ?」
「──トレーナーさんの幼馴染み権を購入させて頂こうかと」
お、幼馴染み権……?
知らん……何それ……怖……
流行に乗り遅れてるよね。
と言うことで、お久しぶりでございます。
単純にやる気が湧きませんでした。申し訳ない。
やる気が湧かない間にウマ娘は色々流行が変わっていってねえ。ソシャゲの一ヶ月は早いですね。
前回、お気に入り・評価・ここすきしてくれた方々ありがとうございました。
今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また、次回も宜しくお願いします。
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