入学式から数日。
もろもろの書類の提出を終えた俺は、スカーレットを連れ立って自らのトレーナー室へと向かっていた。
「そういえば、入学式のとき『もう担当がいる』って言ってたわよね」
「うん。嘘じゃないぞ」
「そう……どんなウマ娘なの?」
「んー……」
ここで教えても良いのだろうか。
俺の口から伝えるのは簡単だけれど、これからチームになるメンバーに対して先入観を与えてしまうのもあまり良くない気がする。
軽い説明くらいはトレーナー室につく前にしておいても良いか。
「スゴく優秀なウマ娘だと思う。俺にはもったいないくらい」
「……へえ、そう」
「もちろん、スカーレットだって一緒だぞ。君との出会いも、俺にとってスゴく幸運なことだった」
前回のことがあってから俺は学んだのだ。
隠し事はよくないことを。
スカーレットは怒ると怖いことを。
「──フフン!当然じゃない!なんたってアタシは、一番のウマ娘になるんだから!」
そう言って、その大きな胸を張るスカーレット。
すかさず目を逸らし、実家の犬に想いを馳せ心を落ち着ける。
どんなに固く決意したところで、人はそう簡単に変われないのだ。
「……ちょっと。また目逸らしてる」
「しばらくはこんな感じだと思う。許して」
「はあ……しょうがないわねえ」
少し機嫌が良さそうなスカーレットは、ますます胸を張った。
胸を張るの、禁止にしようかな……。
雑談をしながら、歩いて数分。
目的地へとたどり着いた。
「さあ着いたぞ!ここが俺たち、チーム『アンタレス』の城だ!」
トレーナー室の扉を開く。
大袈裟なセリフかもしれないが、チームとして初の顔合わせだ。これくらい盛大に初めてもバチは当たらないだろう。
「──トレーナーさん、そしてダイワスカーレットさん、ご機嫌よう」
そして扉を開けた先には、俺の初めての担当ウマ娘ダイイチルビーが、新人を歓迎するためにと紅茶とお菓子の準備をして待ち受けていた。
初対面であるスカーレットがいるからか、普段のルビー以上にうやうやしさを感じさせる態度。
こちらに向かって礼をするその様に、見慣れてきたはずの俺も見惚れてしまうが、ルビーの着席を促す声を聞き慌てて気を取り直した。
「紹介するよスカーレット。彼女はダイイチルビー、俺の初めての担当ウマ娘だ。──ルビー、こちらはスカーレット。君の後輩で今日からチームメイトになる」
「ご紹介いただきましたダイイチルビーと申します。貴女のことは度々トレーナーさんから伺っております。曰く、非常に卓越した才をお持ちと」
「初めまして、ダイイチルビー先輩。ダイワスカーレットです。──いえ、アタシなんてそんな……『華麗なる一族』と呼ばれ活躍されてるダイイチルビー先輩と比べたら、まだまだです!」
二人は握手を交わし、微笑みあっている。
良かった。どうやらファーストコンタクトは成功したようだ。
チームを組むと言ったときのルビーの反応があまり芳しくなく見えたので心配していたが、どうやら杞憂だったようだ。
「改めてありがとうな、ルビー。突然チームを組むなんて言ったのに」
「アタシからもありがとうございます!ルビー先輩」
「構いません。私のみでは活動の幅も限られてきますので、ここで受け入れなかったとしてもいずれチームを組むことになっていたでしょう。──ですが」
言葉を止め、こちらを見上げてくるルビー。
その頬はほんのりと赤らみ、その目はなにかこちらに問いかけているように感じられる。
大丈夫。
「任せてくれ、ルビー。たとえ担当が何人増えようとも、トレーナーとしての責務をないがしろにすることは絶対にないから」
「……そうですか」
冷めたような顔で、紅茶に口をつけるルビー。
少しの緊張感が茶会の和やかな空気を変えた。
「──先日、とある
瞬間、汗が噴き出した。
まさか噂になっているとは。
スカーレットの方を見ると、バッチリ目が合う。
どちらからともなく頷き、ルビーの方を向き弁明を始めようとする。
「ルビー。そのことなんだが実は──」
「説明は結構です。すべて把握しております」
もしかすると、ダイイチルビーはトレーナーを変えるつもりなのかもしれない。
「私は──トレーナーさんの仰る、魅力的な女性では御座いませんか?」
そう言うルビーの声は、少し震えていて。
ただでさえ小柄なその体躯が、さらに小さく見えて。
気付けば俺は席を立ち、ルビーのその細い肩を抱き締めていた。
「そんなことない!ルビーはとても素敵で魅力的な女性だ!」
「ですが……スカーレットさんに仰っていたことは、私には一言も……」
さらに強く抱き締める。
なにがトレーナーとしての責務だ。もう既に担当ウマ娘を傷つけてしまっていたんじゃないか!
「君の走りが、君の生き様が、今の俺の原動力だ。ルビー、俺は初めて君を見たときから──君のことが好きだよ」
「────」
ルビーは「もう、大丈夫です」と言い、トレーナー室から出ていった。
良かったのだろうか。結局のところ、一方的に俺の想いを伝えただけになってしまったが……。
「アンタ、いつか刺されるわよ」
「そんなドラマじゃあるまいし」
確かに、一般男性と一般女子高生として見たら明らかに距離感が近すぎるかもしれないが、トレーナーと担当ウマ娘として見たらそこまで近すぎるってこともないだろう。
一日一回以上ハグをするウマ娘とトレーナーもいると聞いたことがあるし。
じとーっと、こちらを見つめてくるスカーレットの視線を受け流しながら、ルビーが戻ってくるまで待つ。
「ただいま戻りました。見苦しいところをお見せしました」
戻ってきたルビーの目元は少し腫れており、やはり泣かせてしまったのだと自覚した。
「すまなかった、ルビー。これからはもっと言葉を尽くすよう努力していくよ」
「いえ、私にも至らない部分が過分にあったと自覚いたしました」
互いに頭を下げて謝りあった。
微笑んだルビー。これでもう、この話は終わりだろう。
「スカーレットさんも、申し訳ありませんでした。このような門出の日に、私の醜態をさらし……」
「い、いえ!そんな!大体トレーナーさんが悪いんですから!」
やはりチームを組んで良かったと思える。
担当とトレーナーの一対一だと、沈んでから戻るのがなかなか難しいときがあるからな。
ルビーにも友人はいるが、同じチームではない以上レースのことに関する相談などはしづらかっただろうし。
ぜひとも二人には、仲良くなって欲しいところだ。
「そうだ!今度二人で遊んできたらどうだ?俺抜きで──」
「トレーナーさん?」
微笑むルビーのその目は、笑っていなかった。
──どうやら俺は、また選択を間違えたらしい……。
もしかすると、ダイイチルビーの言葉回しはスゴく難しいのかもしれない。
ということで、ダイイチルビー回です。
ルビーを自分で選んでおいて、言うことじゃないですけど、使ってる漢字が難しすぎて、完全なエミュは自分には不可能だったので、雰囲気と勢いで誤魔化しました。
おかしなところがあったら、教えてくださると幸いです。
そして、一話を読んで、お気に入り・評価・コメントしてくださった方々、ありがとうございます。
正直、見切り発車で始めた作品が、ここまで評価をもらえると思っておらず、とても嬉しい気持ちです。
トレーナーの名前もなにも決まっておらず、後付けで設定が生えてくる本作ですが、読んでくださる皆さんの暇潰しにでもなれたなら、幸いです。
ルビーって別に胸小さくないよね……。
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