快晴。
まさしくトレーニング日和と言える今日、チームとして初めてのトレーニングを行う。
とは言ってもそんなに本格的なトレーニングをする予定は無く、スカーレットの走りを確認するのが主だ。
「トレーナーさんは、どうしてサングラスなんか着けてるんですか?」
「ん?ああ、これは──」
さて、どう説明したものか。
サングラスを着ける理由は単純明快。ウマ娘が走ることによって高確率で発生する現象──乳揺れ──に、無抵抗で挑むのはマズイと判断したからなのだが、これをそのまま伝えるのは流石にセクハラが過ぎる。
なんて言おう……。
「初めて私のご指導をなさる時からこのような格好ですので、お気になさらず」
「へー、そうなんですか」
なにか言いたげな表情を向けてくるスカーレット。
それに応えられず苦笑しながら逃れるように視線を下に向けると、なにやらご満悦そうな表情をするルビー。
しっぽも持ち上がって、よっぽど調子が良いのだろう。
頼もしい限りだ。
「それじゃあルビー。お願いできるか?」
「はい。『華麗なる一族』として、そして『アンタレス』のリーダーとして、相応しい走りをお見せします」
軽い足取りでスタート位置に向かうルビー。
開始の合図を送れば、素晴らしいスタートを切りあっという間にターフを駆けていく。
やはりルビーの走りには安心感がある。
サングラスを外し、その素晴らしい走りを眺める。
「やっぱりスゴいわね、ルビー先輩……ってアンタ、サングラス外してるじゃない!?」
「ああ、ルビーを見るときは基本的に外してるよ。ルビーは…………安心感があるからさ」
「安心感?確かに、ペース配分も完璧でフォームもスゴいキレイだけど……」
もちろんそれらも素晴らしいが、どちらも今の俺に安心感をもたらす要素ではない。
俺の言う安心感。
──ルビーは揺れない。
決して、ルビーの胸が極端に小さいわけではない。体格から考えたら充分以上はあるだろう。
しかし、目に見えて揺れるサイズではない。
これが俺が安心してルビーを見ていられる理由。
ルビーにとって不本意かもしれないが、不甲斐ない俺をどうか許して欲しい──
「アタシの時もサングラス外しなさいよ」
「え、いやスカーレットこれには──」
「ただいま戻りました」
「お疲れさまです!ルビー先輩!」
ルビーに駆け寄り、さっそく感想を述べていくスカーレット。言い訳は聞いてくれないらしい。
タオルとドリンクを持ち、俺もルビーの傍に向かおうとすると会話を止めこちらに顔を向ける二人。
圧が強い。
「えっと、お疲れさま。相変わらず素晴らしい走りだったよ」
「……ええ、しかし後半少々ペースを乱しました」
「わかった。後で確認しよう」
「はい」
スカーレットが言っていた通り、ペースもフォームもいつもと変わらなかったように見えたけれど。走った本人が言っているのだ、確認するに越したことはないだろう。
さて、問題はスカーレットの方だ。
俺は彼女の暴力的なまでの胸囲を、サングラスというフィルターを失くし耐えられるのだろうか。
当の本人はこちらに威圧的な笑みを浮かべた後、小走りでスタート位置へと向かっていく。
ひっっっっっじょうに困った。
この数年、ルビー以外のウマ娘を見るときはサングラスを着用していた。いわば、俺の目はルビー以外に慣れていないのだ。
そんなところにスカーレットのような刺激を与えてしまったら、アナフィラキシーでも起こしてしまうんじゃないか。
準備を終えたスカーレットを確認し、俺も意を決してスタートの合図をスカーレットに送る。
ルビーの洗練されたスタートとは違う。荒々しく、その恵まれた体躯を活かした豪快なスタートダッシュ。
今後のスカーレットの可能性を感じさせる走りに負けず劣らず豪快に揺れる──胸。
俺は!
俺はトレーナーなのに!胸ばかりを注視してしまう!
なんて最低なヤツだ……。
しかし、担当ウマ娘の願いを無下にするには……。
そうだ!
「ルビー!申し訳ないが、俺を振ってくれないか!」
「……振る?トレーナーさん、なにを言って──」
「頼む!ルビーにしか頼めないんだ!俺をスカーレットの走るペースに合わせて、上下に振ってくれ!」
理屈は簡単。
スカーレットの乳揺れに気がとられるのなら、俺も一緒になって動けばいい。
この場には同じウマ娘のルビーもいるのだ、頼らない手はない。
「──分かりました。トレーナーさんが仰るのなら、何か深い意義が有ってのことなのでしょう」
「ああ、頼む」
俺の腿あたりに両腕を回し、がっしりと抱え込むルビー。
流石はウマ娘だ、かなり安定している。
「それじゃあ、ルビー」
「──はい。スゥ──ハアアアアアア!!」
「うおああああああああああ!!!???」
スゴい!乳揺れが気にならないなんてモンじゃない!
この世の全てがどうでもよくなるような。
とにかく生きることを目的としていた、原初の頃に戻るかのような──
「ちょっと!ちょっと!ルビー先輩!ストップ!」
「え──」
「死にかけてますよ!トレーナー!」
揺れが止まる。浮遊感が消え、身体に重力が戻ってくる。
この腹の底から湧いてくる感情は、そう──吐き気。
「ルビー!スカーレット!離れ──おえええええええ」
「きゃああああ!?」
意識が……。
それから、数時間後。
ゲロまみれになった俺を担いで運んでくれたスカーレット。
俺の気絶している間に掃除をしてくれたルビー。
この二人には感謝と謝罪、埋め合わせの約束をして、なんとか許しをもらった。
理事長とたづなさんにはことの顛末を説明した結果、始末書と反省文の提出で許してもらえることとなった。
なお、サングラスの着用はルビー、スカーレット二人の要望により許されなかった……。
そうはならんやろ。
ということで、一話からわかってたと思いますが、変なトレーナーですね。
皆さんは、こんな経験あるんでしょうか。
僕は無いです。
そして、前話を見てお気に入りしてくださった方、ありがとうございます。
まさか、百件を越えるなんて思ってもみませんでした。
今後も、自分なりのペースで投稿させていただくので、あまり期待しすぎないでお待ちいただけると幸いです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
※サングラスに、乳揺れフィルター機能が本当にあるかは不明です。
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