梅雨。
雨が多くジメジメとして、少し憂鬱な気分になりやすい時季であると同時に、季節の変わり目として変化を示す時季でもある。
そんな今日この頃、我がチーム──アンタレス──でも変わったことが一つある。
ルビー暴走事件以降、明らかに二人──ルビーとスカーレット──の仲が以前よりも親しくなった。
今もトレーナー室にあるソファに隣り合って座り、読書をしている。
ルビーが何故あのような行動をとったのか。結局なんの説明もされていないが、チームの結束が固まったのなら良しとしよう。
まさしく雨降って地固まるだな!
この感じなら、スカーレットも受け入れてくれるかもしれない。
「二人とも、ちょっといいか?」
二人はそれぞれ読んでいた本をテーブルに置き、こちらに顔を向けた。
同じような動作で行われたそれは、なんだか姉妹のように見えて微笑ましい。
思わずニコニコしてしまうが、一つ咳払いをして意識を切り替える。
重要な話し合いだ。
「今年の夏合宿だが、俺たちは山に行くぞ」
「山!?海じゃないの!?」
中央のトレーナーは海を選びがちだ。
もちろん海を選ぶことによるメリットも承知しているが、俺には選べない。
特にスカーレットがいる今回からは。
「ルビーの家は山を持っててな、そこの別荘を貸してもらうんだ」
「設備に関してはトレセン学園のものと変わらない品質を約束するので、ご心配なく」
「でも……それだとアタシの計画が……」
計画?
「なにか予定でもあったのか?」
「え、ええと……ちょっとルビー先輩!こっち来てください!」
「?──はい」
トレーナー室の隅っこに行って、ヒソヒソと話し合いを始める二人。
なんだか疎外感……。
しばらくして、ソファに座り直す二人。
心なしか耳をピンとしているルビーと、ドヤ顔のスカーレット。
なにを話してたんだ?
「今回の夏合宿──海を希望いたします」
「ルビー!?なんでそんな急に──」
ルビーが心変わりした元凶であろうスカーレットに目を向ける。
大きな胸を張り、腕を組んで足まで組んでドヤァ感がさらに増していた。
俺は視線をすぐさまルビーに戻した。
「ルビー、去年の山での合宿でレベルアップ出来たじゃないか。それに、君は大勢のウマ娘がいる場所よりも……」
「ええ、トレーナーさんの仰ることも確かに理がありますが──私は『華麗なる一族』として多くを証明しなければなりません。その為には、今まで無用と切り捨てていたものすらも受け入れていかねばならないのです」
真っ直ぐこちらを見据えるその瞳に、思わず納得してしまいそうになる。
しかし、今回ばかりは折れるわけにはいかないのだ。
水着姿のスカーレットを耐えられる自信が、今の俺にはない。
トレーナーとして担当ウマ娘の要望は全て受け入れる心意気ではあるが、まだ早い。時期尚早だ。
ようやく制服姿のスカーレットに慣れてきたのに、水着姿なんてラスボスじゃないか。
今の俺では圧倒的にレベルが足りていない。
しかも海合宿となると、必然的に他のウマ娘たちもいることになる。
スカーレット以上の娘たちもいるわけで……。
やはりムリだ……。
「すまん!二人ともやっぱり海は……」
「アンタねぇ……。海だからって絶対に水着着てトレーニングしなきゃいけない訳じゃないのよ?」
…………確かに?
言われてみればそうだ。海だからって水着の必要はない。
別に体操服やジャージでも良いじゃないか。
「そうですよね?ルビー先輩」
「ええ、ヘリオスさんは去年の合宿でほとんど泳がせて貰えなかったと」
「そうだったのか……」
どうやら、海と言えば水着という固定観念に囚われていたようだ。
俺たちは遊びに行くわけじゃない。
秋と冬のため、鍛えに行くのだ。そのためには水着など不要!
「よし!じゃあ、二人が希望するなら海にしようか」
「やったー!やりましたねルビー先輩!」
「はい」
二人とも嬉しそうだ。
ルビーは山合宿ばかりでマンネリを感じていたのかもしれないし、スカーレットは仲良くなったと言っても、先輩との一対一はまだ不安だったのかもしれない。
やはり決めつけは良くないな。
ウンウンと頷き、少し反省。
すると、衝撃的な言葉が聞こえてきた。
「それじゃあルビー先輩、合宿で着る水着買いに行きませんか?」
「そうですね。この日なら予定は──」
ワイワイと盛り上がる二人。
まるで世界に置いていかれたかのように時が流れていく。
「えっと、水着は着ないんじゃ……?」
「別にアタシたちが着ないなんて、一言も言ってないわよ?」
「…………たしかに」
敗北。完膚なきまでに。
完全に手玉にとられてしまった。
床に突っ伏し、項垂れる。
なんと情けのないことか、気分は今日の空模様。
「……しょうがないわねぇ。それじゃあ、トレーニング中は着ないであげるわよ」
「本当か!?」
よし!
それだったらトレーニング以外のときは部屋にこもっていればなんとかなるぞ!
「しかしスカーレットさん、それでは──」
「大丈夫です、ルビー先輩。──その代わり買い物に付き合って貰うわよ」
「そのくらいお安いご用だ!任せてくれ!」
トレーニング中に水着姿でいられるのに比べたら、買い物に付き合うのなんてどうってことはない。
そう、どうってことは……
あれ?
「もしかして買い物って……」
「アンタが水着を選ぶのよ」
圧倒的敗北。
「それは、少し恥ずかしくありませんか?」
「大丈夫ですよルビー先輩!自信持ってください!それにこれくらいやらないと、合宿中ずっと部屋にこもったりしますよ?」
だから先に見せた方がいいなんて言うスカーレットは、俺をどうしたいのだろうか。
トレーナーとして、試されているのだろうか。
──そうだ、俺はルビーとスカーレットのトレーナー。
この二人に相応しくあるためには、俺も成長しなければならない。
ルビーの言っていた、不要だと思ったものも受け入れる心意気を──
今の俺に必要なのは、経験。
誰よりも知っているという自負。
立ち上がり、膝を払う。
もう俺には前しか見えない。
「すまない、二人とも。少し予定が出来た」
「トレーナーさん?」
「ちょっと、逃げようとしてんじゃないでしょうね」
「いや、俺は逃げないよ。真っ向から立ち向かうさ」
「?──よくわかんないけど、合宿は海で買い物も付き合うのよね?」
「ああ」
扉に手を掛ける。
「それでは、どちらに?」
「ちょっと水着グラビア買ってくる」
「は?」
ヒヤリとした空気を感じ、廊下へ飛び出す。
走るのだ。
この先にはきっと、虹があると信じて──
多分トレーナーは虹にたどり着けていないと思います。
ということで、山派?海派?回でした。
皆さんはどちらでしょうか。僕はプール派です。
前回から、たくさんのお気に入り・評価・感想・ここすき・しおり諸々いただきまして本当にありがとうございます。
まさかランキングに載るだなんて思っておらず、しかもこんなに長い間十位あたりをうろちょろとさせてもらって現実味があまりないですね。評価も赤色を保てているのが正直驚きです。
ランキングというもののパワーを実感しました。
これからも、読んでくれる方がいるんだということを忘れず、定期的に更新できるように頑張ります。
本日は、皆さんに感謝を伝えたくて書かせていただきました。
今回も読んでいただきありがとうございました。
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