久しぶりに一人で過ごす昼休み。
いつもなら誰かしら弁当を持ってやって来るが、全員なにか予定でもあったのだろう。
トレーナー室の中はしんとしていて、外ではしゃいでいるウマ娘たちの声がよく聞こえる。
──そうだ、昼寝をしよう。
弁当を食べ終えて大した仕事も残っていないし、天気は快晴で暖かい。昼寝の条件として最高だ。
思い立ったら即行動。
ソファに座り、ブランケットを膝にかけ目を閉じる。
楽しげな声をBGMに、窓から入ってくる風と日射しが眠気を誘う。
──気持ちが良いな……。
声が聞こえる。
聞きなれた声。
聞きなれたセリフ。
「カレンチャンは宇宙一カワイイ。カレンチャンは宇宙一カワイイ。カレンチャンは宇宙一カワイイ。カレンチャンは宇宙一カワイイ。カレンチャンは宇宙一カワイイ。カレンチャンは宇宙一カワイイ。カレンチャンは宇宙一カワイイ。カレンチャンは宇宙一カワイイ。カレンチャンは宇宙一カワイイ。カレンチャンは宇宙一カワイイ──」
「うわーーーー!!!!」
耳元でぼそぼそとひたすら繰り返される言葉に、思わず叫び声をあげる。
どうやら膝枕の体勢になっていたようで、起き上がろうとするもカレンに押さえられて身動きがとれない。
「いきなり大きな声出さないでよお兄ちゃんっ」
ビックリしちゃったと、片腕で両耳を押さえているカレン。
驚いたのはこっちもだよ……。
「それはゴメンだけど……なにやってるの?」
「お兄ちゃんがお昼寝してたから~、せっかくだから膝枕してあげようと思って☆」
「それはありがとう……耳元で囁いてたのは?」
「カレンが夢に出てきたら嬉しいでしょ?」
にっこりと笑って、当然であると言わんばかりの顔をしているカレン。
「そりゃ嬉しいけど、次からはやめてくれよ。ビックリするから」
「はーいっ」
人差し指を顎に当て「次はどうしようかな~♪」なんて言っているカレンを止めることは俺には出来ないのだろう。
そんな洗脳まがいなことしなくても俺は──
「俺は、カレンのこと宇宙一カワイイと思ってるよ」
腕を伸ばして、カレンの頬を撫でる。
普段からカワイイと伝えていたつもりだったけれど、こんなことをしていたのは不安に感じたからなのだろう。
膝枕の状態で格好がつかないだろうけど……。
「お兄ちゃん……」
カレンの顔がゆっくりと近づいてくる。気持ちが良いのか目をつぶって。
撫でやすくて助かる。
「あと、もうすぐ昼休み終わるぞ」
ピキッとカレンの方から音が聞こえた。
耳が猛烈に絞られているのが見える。
「カレン?その……」
「なんでカレンが怒ってるのかお兄ちゃんは解らないだろうし、今言ってもしょうがないから許してあげる。ただねお兄ちゃん──」
体が浮く。この体勢は……お姫様抱っこ。
「わかった?お兄ちゃん」
カレンはソファに俺を降ろし、また放課後にと告げトレーナー室から出ていった。
終始笑顔のカレンに圧倒された俺は一言も発せられず、ただ見送ることしか出来ない。
──全然わかんないよ……。
それからしばらく、ある日の昼休み。
またもや一人の俺は、またもや昼寝をしようとしていた。
前回の失敗は、恐らく膝枕されたことによるもの。となれば膝枕出来ない状態になれば……。
──そうだ、うつ伏せで寝よう。
うつ伏せの人間を膝枕するのは流石に恥ずかしいだろう。
自分の腕を枕にして横になる。
──おやすみ……。
いい匂いがする。
嗅ぎなれた、いつも隣にある匂い。
それと、後頭部を撫でられているような──
「御早う御座いますトレーナーさん」
この声はルビー?
ということは、もしやルビーに膝枕されてるのか?
この体勢は不味い。はやく起き上がらねば──
「御安心下さい。未だ時間に猶予はあります故」
そういう問題じゃないんだが……。
うつ伏せのせいで喋ることもままならない。
呼吸をするたびに、ルビーの匂いを感じる。
「こうしていると、サフィーを撫でているようです」
そうなのか。
俺には決して起き上がらせないという意志を感じるんだが……。
「御存知ですかトレーナーさん。犬はお尻を撫でられることを好む傾向があるのです」
いやいやいやいや。
流石に触らないだろ……触らないよね?
「トレーナーさんは如何ですか?」
お尻に手が迫っている気配を感じる。
全力で抵抗したいが、ルビーに怪我をさせるわけには……!
どうするかと逡巡していると、見計らったかのようにチャイムが鳴った。
手の押さえが緩んだ今なら起き上がれる……!
「──ルビー!ほらチャイムも鳴ったし急いで教室に戻らないと!」
「──ええ、そうですね」
ソファから立ち上がり、ルビーを廊下まで見送る。
なんだかルビーの視線がずっと下を見ていた気がしたが、きっと気のせいだろう。
──そう思いたい。
それから、またしばらく経った日の昼休み。
本日もまた一人。
だが、俺はもう学んだのだ。
──もう昼寝はしない。
スマホを手に取り、ウマスタやウマッターを眺め時間をつぶす。
どうやらカレンは、ルビーと食事をしていたらしい。
スカーレットは一緒じゃなかったのだろうか。写真を見る限りだと写っていない。
「ちょっと!なんで昼寝してないのよ!!」
「スカーレット!?」
噂をすればなんとやら。
いつのまにか背後にスカーレットが立っていた。腰に手を当て、ぷんぷんと怒っている。
「どうしたんだ?なにか嫌なことでも──」
「いいから来なさい!」
「ちょっ──スカーレット!?」
俺の腕を引き、ズンズンとソファに向かって歩いていくスカーレット。
座ったスカーレットに引っ張られ、なす術もなく膝枕の体勢へと移行した。
「どう?アタシの膝枕が一番でしょ!」
後頭部に感じる、今までの誰よりもボリュームのある太もも。
視界の大半を覆い、目と鼻の先に存在する巨大質量。
「デカ過ぎんだろ……」
「なんか言った?っていうかアンタの顔見えないわねこれ」
──意識が遠退いていく。
相も変わらず押さえつけられている俺は全ての抵抗を諦め、この感覚に身を委ねる。
──おっぱい遮光カーテン……。
カーテンではないじゃろ。
ということで膝枕回です。
最初の予定ではスカーレットの胸に驚いて床に転げ落ちる予定だったのですが、謎の単語を残して気絶してしまいました。不思議なものですね。
前回もたくさんの感想・お気に入り・ここすきをありがとうございます。
少し投稿の間隔も空いてしまって申し訳ないです。
また次回は早めに投稿出来るように頑張ります。
それでは今回も、最後まで読んでいただきありがとうございました。
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