朝日が昇る辺境の街ガンツバーグ。
エリーこと元エリシア・フォンブルームは宿の鏡の前で最後の確認をしていた。短く切った黒髪、質素な冒険者風の服装。もう誰も彼女を高貴なフォンブルーム家の令嬢だとは思わないだろう。
「完璧ね!」
彼女は満足げに微笑んだ。
「今日こそ、私の真の力が評価される日よ!」
鏡の前でポーズを決め、拳を握りしめる。
「チート能力者エリー、いざ参る!」
鏡に向かってウインクして、彼女は颯爽と宿を後にした。
***
ガンツバーグ冒険者ギルド。入口で一度深呼吸してから、エリーは堂々と中に入った。
(ふふふ、これから始まるわ。転生チート冒険者の伝説が!)
中は活気に溢れており、様々な冒険者たちが行き交っていた。筋骨隆々とした男たちや、鋭い目つきの女性冒険者たちが、彼女を一瞥して興味なさげに視線を戻す。
(みんな、すぐに私の凄さに気づくことになるわ!)
エリーは肩を揺らしながら受付に向かった。
「こんにちは!冒険者登録をしたいのですが」彼女は明るく声をかけた。
茶色い髪の受付嬢は、ため息と共に顔を上げた。「はいはい、また新人さんね。名前は?」
「エリーです!覚えておいてくださいね、すぐに有名になりますから!」彼女は自信満々に胸を張った。
受付嬢は無表情で紙に書き込む。「年齢は?」
「十七です!若くして頭角を現す天才型ですの」(実際は16だけど)
「出身は?」
「東の国から来ました。詳しくは言えないんです」エリーは神秘的に微笑んだ。「身分を隠して修行の旅をしているので」
受付嬢は「はぁ…」と長いため息をついた。「冒険者になりたい理由は?」
「それはもちろん!」エリーは演説を始めるように声を張り上げた。「私の特別な力で人々を救い、魔物を退治し、この世界に平和をもたらすためですわ!」
周囲の冒険者たちがクスクス笑い始めた。受付嬢は眉間にしわを寄せる。
「わかったから。それじゃあ鑑定室に行って」
***
鑑定室は薄暗く、中央に単純な魔法陣が描かれていた。老鑑定士ガストンが椅子に座って待っていた。
「また新人か。まあ座りな」
エリーは堂々と入室し、鑑定士を見下ろすように背筋を伸ばした。
「はじめまして!まもなくS級冒険者となるエリーと申します!」
ガストンは無反応で、机に置かれた水晶に手を置いた。「この水晶に触れるだけでいい。能力がすべて測定される」
「なんと簡単な!」エリーは笑顔で言った。「準備はいいですか?私の力を見せますよ?きっと測定器が壊れちゃうかもしれませんわ!」
ガストンは鼻で笑った。「さっさと触れなさい」
エリーは自信満々に水晶に手を置いた。
(ふふふ、今こそ私のチート能力「真実視」と「魔力変換」の真価が発揮される時!)
「いきますよ…!」彼女はドラマチックに宣言した。「我が力、解放!」
水晶が微かに光った…が、すぐに消える。
ガストンが眉をひそめる。「もう一度、ちゃんと魔力を通しなさい」
「え?今、流してましたよ?」エリーは混乱した表情を見せた。
「全然感知できない。本気で流してみな」
「…む、むむ!」
エリーは額に汗を浮かべながら、力んで水晶に魔力を流そうとした。水晶がかすかに赤く点滅したが、またすぐに消えた。
「あれ?あれれ?」
彼女が混乱するのをよそに、ガストンは紙に何かを書き込んでいく。
「体力E、敏捷性F、筋力G、知力D、魔力量…F」
「えええええっ!?」エリーの悲鳴が鑑定室に響いた。「F!?冗談じゃないわ!私の魔力はチートレベルのはずよ!」
「水晶は嘘をつかない」ガストンは淡々と言った。「ただ、面白いのは魔力の質だな…通常とは違う波形を検出している。まあ、量が少なすぎて実用性はないが」
「そんな…そんなはずは…」
エリーはショックで膝から崩れ落ちた。
「なお、魔力制御能力は…測定不能。おそらくG以下だな」
「な…何ですって!?」
***
ギルドのホールで、エリーは打ちひしがれた様子で座っていた。手元には新しく発行された冒険者カード。
「冒険者:エリー、ランク:見習い(最下級)、特殊能力:なし、戦闘能力:危険度低」
受付嬢が声をかけてきた。「はい、これであなたも正式に見習い冒険者ね。最初は簡単な依頼からこなしていって」
「なぜ…」エリーは虚空を見つめた。「私のチート能力は…なぜ…」
「ああ、鑑定士から聞いたけど」受付嬢が説明する。「あなたの魔力、確かに普通とは違う種類みたいね。でも量が少なすぎて何の役にも立たないって」
「役に立たない…チート…」エリーは言葉を反芻した。
「それと、初心者にはこれをどうぞ」
受付嬢が差し出したのは、ボロボロの木の棒だった。
「な、何これ…?」
「練習用の杖よ。魔力が少なくても、これで少しは魔法が使えるかもしれないから」
エリーは呆然と杖を受け取った。周囲の冒険者たちがクスクス笑っている。
「さっきまで『すぐにS級になる』とか言ってた子でしょ?」
「魔力量Fって、一般人レベルじゃん」
「チートとか言ってたけど、ハッタリだったのね」
笑い声を背に、エリーは頭を抱えた。
「こんなの…こんなのおかしいわ…異世界転生なのに…」
彼女はボロボロの杖を見つめ、涙をこらえた。
「チート能力者の無双ライフは…どこ?」
真のチート能力者への長い道のりは、思わぬ挫折から始まったのだった。