裂空の調停者   作:和ん子

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 前々から考えてた話を投稿。
 バンギをサボって何書いてる?それはそう。
 
 他にもブルアカ世界で描きたいやついっぱいあるんですよ!!!
 
 
 というわけで見切り発車どーん!!!


第1話

 

 

 「ホシノ」

 「なぁに〜ミカド」

 

 「どうシて俺を見捨てたンだ?」

 

 

 「うわあああああ!?」

 対策委員会の隣の備品室でやっと寝れたはずの小鳥遊ホシノが悲鳴を上げながら飛び起きた。

 その声を聞いて、丁度隣にいた梔子ユメと奥空アヤネが急いでホシノへと駆け寄った。

 ユメは抱擁で過呼吸になっているホシノを優しく包み込み、幼子をあやす様にゆっくりと息を吐くよう促す。

 アヤネはその隣でひたすら「大丈夫です」と声をかけ続け、ホシノの手を握っていた。

 

 彼女達アビドス学校の生徒達は全校生徒数六名の小さな学校であり、街自体が謎の砂漠化により過疎化が進んでいる為、彼女達が中心となって生徒数の増加、前生徒会が残した砂漠化に対応しようとしてできた巨額の借金を返済する為日夜活動している。

 小鳥遊ホシノは三年生であり、最年長として実質的な彼女達のまとめ役なのだが、年齢にそぐわない外見の幼さに加え、普段からのめんどくさがりな性格や言動が目立ち後輩から注意される姿も見受けられた。

 だが、それも過去の話。

 元々教室に枕や布団を持ち込んで趣味の昼寝をしていたホシノだったが、よく魘されてまともな睡眠が取れておらず、目が覚めたかと思えば過呼吸を引き起こしパニック状態に陥っており、常に生徒の誰かが学校に残り彼女の対応をしている。

 ホシノは悪夢や原因についてあまり話したくないのか、後輩達に弱音を滅多に吐かないが、唯一先輩のユメと入学前から付き合いのある十六夜ノノミはその理由を察しており、彼女の入学前に起こった悲痛な事件が関係していると確信していた。

 

 「ユメ先輩……聞いてもいいでしょうか?」

 「……ミカド君のことかな?」

 「はい……その方は、ホシノ先輩にとってどんな方だったんですか?キヴォトスでは珍しい男性だったと聞いてはいるんですが」

 「そうだねー。そろそろあの時期だし、皆にも話しておいた方がいいのかな?」

 アヤネともう一人の一年生黒見セリカ。そしてノノミと同級の砂狼シロコも交えてホシノの過去、上無ミカドについて共有することを決めた。

 

 

 

 

 

 ──どうやら、長く眠っていた気がする。

 微睡みの中から意識が浮上し、重い瞼を開けたが何か液体の入ったカプセルに入れられていたようだ。

 かと言って息苦しくはないし、目を開けても染みたりもしない。口を開けてもみたが流石に喋れないようだ。

 

 コツッコツッコツッコツッ。

 「目が覚めたようですね」

 「……」

 黒服……そうか、思い出した。

 「これで私と貴方の契約を一つ完了とします。少々アフターサービスを加えましたが、それに見合うだけの観測ができましたので私としましても満足です」

 「……ゴポ」

 「ああ、そのままでは話せませんでしたね。体の修復は終えています。今出しますね」

 黒服が手元のリモコンを操作すれば液体で満たされていたカプセルから水が抜けていき、ガラスも格納された。

 濡れたまま何も身につけずにその場に降り立つと、黒服はアビドスとは違う白い制服をよこした。

 「連邦生徒会……いや、シャーレか」

 「おや?眠っている間も意識があったので?」

 「似たような物を見たことがあるだけだ……それで?アビドスじゃないって事は次の契約を消化するつもりか?」

 こくりと亀裂の入った黒服の頭が揺れる。いつ見ても痛くないんだろうか?

 「クク……貴方は知っているでしょうが、デカグラマトンはまだ稼働しています。自己修復機能があったのでしょう。貴方の決死の一撃で長い間休眠状態に陥っていたようですが……」

 「そうか。なら今度こそぶっ壊すだけだ」

 「クックック……それでこそ貴方ですよ。裂空の暴龍。神秘とも崇高とも違う恐怖の大王。貴方と手を結べたのは幸運でした。今後も期待していますよ」

 「お前らが契約を違えなければな、ゲマトリア」

 俺の返事に対し、笑いながら闇に溶けるように姿を消した黒服から視線を外し、現在地を確認する。既にアビドス自治区ではなくゲヘナのアビスか。

 今は外に出ることを優先してゲマトリアの研究所の外を彷徨く廃棄されたガードロボや、キヴォトス特有のスケバンやヘルメット団など不良集団でリハビリをしながら、この制服が示すシャーレがあるDU区に向かおう。

 

 

 カレー系は食べられなさそうな純白の制服に身を包み、ゲヘナ自治区を歩く。道中何度か不良達に絡まれたが今の所問題なく迎撃できている。

 「ここも久しぶりだな」

 長い眠りにつく前はよく学校の借金返済の為、ゲヘナに跋扈する賞金首を狩りに来たものだ。そのせいでゲヘナ所属と勘違いされてトリニティの一部生徒とはいざこざがあったが。

 身体も温まって来たのでシャーレに向かう前に腹拵えとして激辛料理の店を探していれば、目の前のビルが爆破して何人かのゲヘナ生徒が飛び降りて来た。

 下に停めてあった給食部と書かれた車に乗り込み走り出していく。

 「食い逃げか?」

 少し速度を上げて爆走する車と併走する。

 「もう追っ手が!?」

 「うわあああん!誰でもいいから助けてぇぇ!!」

 「なんか知らないがわかった」

 個性が強そうな連中の中で一人だけ顔面を崩壊させながら助けを求められたので、車ジャックからの誘拐かと思い捕まっていたエプロン姿の少女を神速で奪い取り肩に担いだら、車の後ろに回り片手で上に跳ね上げる。

 「シートベルトをきっちり絞めとくんだったな」

 跳ねてからの浮遊感に道路交通法も守らないゲヘナの連中は、まとめて外に放り出されて近くの川へ落ちていった。

 車を極力傷付けないよう落下の衝撃を殺しつつ、受け止めて道路に降ろす。素早く運転席に乗り込んでパーキングブレーキを踏み停車。

 「大丈夫か?」

 「……へ?あ、車!?無事だ、どこも壊れてない!ありがとうございます!」

 「おう、苦労してるんだな。俺は上無ミカドだ」

 「愛清フウカです!本当にありがとう!」

 給食部らしいフウカは何度も美食研究会という連中に拉致されたり、車を壊されたりと不憫な目に遭っており少し同情してしまったが、ゲヘナには珍しく善良の塊で御礼に食事をご馳走になった。

 事前に辛い料理を注文したが、これが本当に美味しかったので彼女の給食部が忙しいのは承知でいつもいるだろう場所と連絡先を交換してもらった。

 

 腹も満たして漸くシャーレに到着したが、こんな高いタワーいつの間に建てられたんだか。まだここの主人は着任していないようで、鍵は持っているが元々黒服が指定してきたからな。

 ちゃんと連邦生徒会には話が通っているんだろうか?

 中に入れば様々な施設が存在し、会議室からトレーニングルーム、コンビニによく似た購買やカフェまで存在する。

 執務室の仮眠室は別として、居住スペース以外は何でもあるようなそんな施設だった。

 テーブルには連邦生徒会からの書類が積み上がっており、これを処理するのがここの主人の役割なのだが今は俺しかいない。

 つまり、俺でもできるものとそうでないものを選別しながら仕事をこなさないといけない訳で。

 「恨むぞ黒服……!」

 

 

 すっかり陽が落ちた頃、積み上がった書類に吐き気を催しながら仕事を終えた。頭を使い過ぎて頭痛すらする。

 少し仮眠して気晴らしに体を動かす為に窓から外に出る。

 小さな竜巻を起こしてそれに乗って空へ飛び上がる。

 下の街明かりでわかりづらいが、星空が見える。

 まだ試していなかった自分本来の力を意識すれば、黄色く輝く頭上の鎖型ヘイローが回転しながら輝きを増していく。

 「雷」

 DUの上空に突如発生した黒雲から更に上空に向けて稲妻が迸る。謎の異常気象として翌日クロノスの飛行船からデカデカと報道されたが、俺だとバレていないようなので問題ない。

 キヴォトスに来てからこの手の力は使っていなかったからな。使えるとわかったのも眠りにつく直前だったし、仕方のないことだが。

 問題なく使えるのがわかり満足して仮眠室に戻り、眠りについた。

 

 翌朝。

 追加されていた書類を早めに片付け、DUを含めた近隣地区の治安維持活動に出ようと思う。

 あ、トリニティは余計に問題が起きそうだから無しで。仕事放棄とかじゃない、適材適所だ。

 まずは、昨日も行ったゲヘナ自治区から。

 やはりキヴォトスでも特に治安の悪い場所だからか不良の数は多い。それに加えてゲヘナ生徒すら他自治区の生徒を見つけるとカツアゲしてくるんだから手に負えない。

 正当防衛として絡まれたら全て風で吹き飛ばしていき、このまま学園内の給食部にお邪魔しよう。

 と思ったら知り合いとばったり出会ってしまった。

 「うそ、ミカド……?」

 「ん?」

 カイザーの配下らしい半グレ共をアジトごと風で吹き飛ばしていたら白黒のグラデーションが綺麗な髪の鬼方カヨコが俺の名前を呟いた。

 「カヨコか、奇遇だな。ゲヘナ自治区だから当然か……どうした?また不良に絡まれていたのか?」

 「いや、今回は借金取りに囲まれて……って違う。今までどこに……!」

 「貴様ら!タダじゃ返さんぞ!」

 アジトに乗り込めば、本丸のカイザーPMCの兵士達が武装してゾロゾロと湧いて出てくる。

 「ハン、まるで虫ケラだな。カヨコ、再会の抱擁はまた後だ。今はこいつらをぶっ飛ばすぞ」

 「はぁ……まあいいや。頼りにしてるよ」

 「背中は頼んだ。鋼タイプにはやっぱこれだよな?火炎放射マルチショット」

 鉄屑共は纏めて溶解させて再利用した方がエコだし環境にも優しいよな。前方を四つの火炎放射が同時に敵ごとアジトの壁や足元を焼き尽くす。

 「ミカド、やり過ぎ」

 「ああすまん。カイザーって名前嫌いなんだ。暑かったか?──電撃波」

 カヨコはきっちり見えていた敵を倒していたが、唯一瓦礫に隠れていた者を手から放った雷撃が貫通し、内部回路がショートしたのか煙を出して動かなくなった。

 「あ、ごめん」

 「カヨコはちゃんと仕事してたろ?悪人の癖に恐怖で逃げようなんて、俺が許さん」

 「……そうだ。うち、会社の社員になったんだ。紹介するよ」

 「会社?……それよりちゃんと食ってるか?これから昼でもと思ったんだが。奢るぞ」

 昨日今日と不良やアジトに溜め込んでいた金を回収したし、懐は温かいしな。会社の仲良い連中なら一緒にどうだと誘う。

 「じゃあ、社長に相談してみるね」

 「おう」

 カヨコが電話を取り出して会社まで先導してくれる。

 俺も給食部のフウカに連絡してまた攫われてないかの確認と、今日の昼に寄ることを告げた。向こうは騒がしくてもいいならと一応了承してくれたが、やっぱゲヘナだから食堂も治安が悪いのか?

 道中、後ろから違法戦車乗りが幅寄せして来たので電話に夢中で気付いていないカヨコの腰を引き寄せて避ける。

 車長席のヘルメット団がこちらを睨んでいたが、こちらも怖い顔で睨み返せば縮み上がっていた。

 「……どうしたカヨコ?」

 「……し」

 「?」

 「腰!」

 「あ、ああ。悪い」

 「いい。はぁ〜〜、絶対からかわれる」

 どうやら会社の仲間とは仲が良いらしい。電話口からは笑い声が微かに聞こえてくる。その笑い方、その声に不思議と聞き覚えがあり、会社のメンバーを想像した。

 ゴーストビルが集まる地区に入り、ビルの二階を借りて事務所にしているらしい。

 「入って。帰ったよ」

 「ふっふっふ。ようこそ便利屋68へ。私は社長の陸八魔あ……る」

 「久しぶりだな。アル。何時風紀委員会から独立したんだ?」

 「ななな、なな!?ミ、ミカドさん!!?何で!?」

 「驚いた。カヨコと知り合いだったんだね。センパイ」

 「まあな。久しぶりムツキ。相変わらず軽いな。ちゃんと食ってるか?」

 「くふふ、まあ、最近はちょっとね」

 陸八魔アル。浅黄ムツキ、鬼方カヨコ。そして新たに入社したらしい初めましての伊草ハルカの四名と自己紹介をし、束の間の団欒を楽しんだ後。アルの腹の虫が鳴って顔を真っ赤にし出したので。

 「話に夢中になって昼飯を忘れてた。カヨコには言ったが一緒にどうだ?奢るぞ」

 「いや、私達は」

 「いいのー?」

 「ありがとうございます!ありがとうございます!」

 「私は賛成」

 「ちょっとー!」

 「多数決で決定っと。ほらアルも行くぞ」

 「あーもー!いいわよ行くわよ!破産するまで食べてやるんだから!!」

 

 

 便利屋68の面々を引き連れて訪れたのは給食部の食堂。ゲヘナ自治区は例の如く、ここでも争いが起こっていた。

 「とりあえず〆るか」

 「「「え」」」

 「て、手伝います!」

 「いや、すぐに終わる。スピードスター」

 必中する追尾の星が食堂を我が物顔に占拠していた生徒達に命中し、全員が即倒した。眠ったままの生徒達は流石に邪魔なのでアル達に給食部の介抱と窓を開けるよう頼む。

 「あ、開けましたァ!」

 「ありがとう。ふん」

 邪魔な生徒の首根っこ、足、頭などを掴み空いている窓から外へ力任せにぶん投げる。ようやく広くなった。

 「あ、アウトローだわ!」

 「災難だったな、フウカと……」

 「給食部のジュリと申します。助けて頂きありがとうございました」

 「また助けてもらって、料理しか出せないけどゆっくりしていって」

 「ああ。アル達もそれでいいか?フウカの飯は美味いぞ。あの美食研究会が認める程だからな」

 「あの美食研究会が?うーん、ミカドさんの誘いだし、フウカだったかしら?いいの?」

 「大丈夫。むしろ今暇になっちゃったから」

 「あー、なら頼むわね」

 話がまとまったようで。料理を待つ間便利屋とは昔話をする事になった。

 「そういやアル。お前風紀委員辞めたのか?」

 「へ?ええ、きっちり辞表を叩きつけてやったわ」

 「そうか、まあ元々今の会社がやりたかったことだしな。仕方ないか」

 「ちょっと、風紀委員会を辞めてほしくなかったって聞こえるのだけど?ミカドさん言いましたよね?成長したら私の会社に入ってくれるって」

 副社長の席は空いてるのに、と頬を膨らませながらそっぽを向いて拗ねるアル。膨らんだ餅の空気を抜くムツキ。

 「俺としてはヒナと二人で切磋琢磨してゲヘナ自治区の治安を守ってほしかったが、君達が選んだ道だ。俺はその選択を祝福するこそすれ、否定したりしない」

 「何よもう……」

 「センパイってば、随分とアルちゃんを買ってたのねぇ」

 「そりゃな。アルだけじゃないぞ。ムツキもカヨコも信用してるし背中を任せられる実力者だと思ってる」

 「あはは」

 「照れるね」

 「ハルカだってそうだ」

 「わ、私がですか?そんな私如きにお世辞なんか」

 「俺は世辞が苦手でな。思ったことは口に出す様にしてる。俺を前にしても怯まない度胸、何よりアルに対する絶対に裏切らないという信頼が見える。それを俺は評価してる。初対面で何をと思うだろうが、これがハルカを信用信頼している理由だ」

 「ありがとうございます……ぐす」

 俯いて顔は見えないが、ボタボタと大粒の涙が落ちているのが見え、俺は黙って見守ることにした。彼女の周りに便利屋の仲間が集まりハンカチを渡したり頭を撫でたり、いい仲間に出会えたようで何より。

 「お待たせしましたー!」

 少し鼻声なフウカの料理が届き、アル達とゆっくり食事を堪能した。

 

 

 陽が傾いてきた頃、DU区の見回りを済ませて後はもうシャーレに帰るのみだったんだが、帰路の途中あの連邦の超人生徒会長が行方不明というニュースが飛び込んでくる。

 以前に面識があった人物が失踪したのは少し気になったが、黒服との契約に抵触する可能性がある為俺は探しにいけないし、行く気もない。

 あの少女の事だ。考えもつかないような方法と場所で再会することだろう。

 失踪した連邦生徒会長の事などすぐに思考の隅に追いやり、シャーレの仮眠室で簡易ベットに寝転がる。

 偶然だが懐かしい奴らとの再会で、俺が眠ってから約二年の時が経っていたことに気が付いた。童話にあった浦島太郎のような感覚だ。

 この分だとアビドスに戻れるかわからないな。あの時はユメ先輩を助けるのに必死だったし、黒服との契約もあった。二年も行方不明なら退学処分になっていても不思議じゃない。

 二年ということはユメ先輩は卒業しているだろうし、ノノミがいるとはいえ新しい後輩がいてくれたらいいのだが……。

 心配になってきた。見に行ってみるか?いや──それはできない契約だったな。

 仕方ない。シャーレの先生が正式に着任するまで、アビドスの借金返済の為賞金首を捕まえに行くとしよう。

 

 

 それから数日が経った頃。漸くというか、シャーレにキヴォトスの外から先生が就任した。

 だが、先生本人はシャーレがあるサンクトゥムタワーから30kmも離れた、連邦生徒会の拠点があるビルを先程出発したようだ。

 正直待ちくたびれていたのだが、今来られても困るというか、シャーレに包囲網を敷く矯正局からの脱走者達が周辺を屯していた。

 キヴォトスの外から来た先生はヘイローもなく武力もない。その指揮能力は買われているが体力もないので状況によってはお荷物になってしまう。

 「流石に護衛くらい連れて来てるんだろうな……?」

 そんなキヴォトス最弱生物が不良達に囲まれる前に、俺が下に行って再度矯正局に送り返してやるとするか。

 「誰か出て来たぞ!おい!私達は連邦生徒会に断固抗議する!要求を呑まなければ……ひぃ!」

 

 「ミンチになりたい奴から前に出ろ」

 

 

 屯していた不良達は例外なく地に伏しており、それぞれ切り傷、火傷、凍傷、感電などなど、様々な傷を負っており、負傷者積み上がった小さな山の上で腰掛けていればスーツ姿の大人一人とミレニアムのセミナー生、トリニティの正義実現委員会副委員長、トリニティ自警団、ゲヘナ風紀委員が姿を見せた。

 「護衛ご苦労。正直俺が迎えに行きたかったが、こいつらの相手をしていてな。手間が省けた」

 「君は……?」

 「挨拶がまだだったな。はじめまして先生。俺はつい最近発足した連邦捜査部シャーレ唯一の生徒、上無ミカドという。よろしくな」

 「よろしく」

 「そういやワカモに会わなかったか?」

 「厄災の狐!?貴方の差金だったの!?」

 「……何の話だ?俺は彼女に道中の掃除を頼んだだけだが?」

 「そんなキヴォトスの七囚人の一人を家政婦みたいに……」

 「犯罪者に変わりないが、おかげでスムーズに来れただろ?まあその様子だと多少おいたはしたようだが、俺に免じて許してやってくれ。代わりに今回使用した弾薬や他の補填はシャーレが受け持つ。で、いいだろ先生」

 「うん、ここまでありがとう皆」

 「はぁ……仕方ありませんね。ですが、貴方を信用した訳じゃないので」

 「先生に怪我がなくて良かったです。何かあればできる範囲でご協力します」

 「ゲヘナへ来る時は事前に連絡をくれると助かります」

 

 先生を連れ、建物の中へ。階段を降りて地下へ向かっていると、入口辺りで人の気配がする。少し遅れて連邦生徒会が到着したらしい。

 「ワカモがすまなかったな、先生」

 「いや、大丈夫だよ。それよりミカドはどうしてシャーレに?」

 「元々は違う学校に所属していたんだが、俺の目的を叶えるのにここにいた方が最善だったからだ」

 「目的?」

 「俺の話はいい……また機会があれば話すとしよう。それよりも、このサンクトゥムタワーは完全に目覚めていない。不完全に稼働している状態だ。先生にはその掌握を頼みたい」

 「わかった。どうするの?」

 「今こちらに向かって……来たな」

 「あ、リンちゃん。さっきぶりだね」

 「リンちゃんはやめてください。それと、先生に渡す物がありました。こちらを」

 連邦生徒会長代行の七神から先生へタブレット端末が譲渡された。

 手渡されたタブレットの画面をひと撫でして、先生はシッテムの箱のパスを呟いた。

 

 「……我々は望む、七つの嘆きを。……我々は覚えている、ジェリコの古則を」

 

 あれが、あの女が言っていた神と人との契約書、いや、契約の箱か。

 代行が先生に渡したと言ったが、元々あれは先生の物で故意に盗もうとしなければ何も起こらないか。

 サンクトゥムタワーが本来の主人の帰還に呼応する様に全機能が解放された。

 そして、地下のこの部屋にある万物を創造するクラフトチェンバーもまた、シッテムの箱を通じて起動した。

 「へ?」

 一人でに起動したチェンバーに驚きを隠せない先生だが、彼女の視線を追った俺もその後同じ表情になる。

 クラフトチェンバーが創造したのは、瑞々しい色が眩しい萌葱色の宝玉だった。

 何故それがここにある?俺の存在自体がイレギュラーだからか?本来ならキヴォトス終焉シナリオまで目覚めていないはずの俺が先生の就任時に同時に存在するからこその救済処置とでもいうのだろうか?

 先生が徐ろにそれ拾えば、宝玉は僅かに淡い光を放ち、掌から先生の体内へと吸い込まれる様に消えた。

 「え?え?どういう事!?」

 「マジか……」

 俺は一度退室し、同性である七神による急遽ボディチェックが行われた。

 「もういいですよ」

 「失礼する。大丈夫か先生」

 「うん。なんか右手の甲と首に変な刺青ができた事くらいかな?それとさっきから何だか身体が軽いんだよね!」

 アチョー、とよくわからない構えを取る先生を無視して体内にあるだろう宝玉を探る……が、結果は芳しくない。

 これは完全に先生の肉体と同化していると見ていいだろう。それに俺にしかわからない程度に先生の周囲を空気の層が覆っており、ヘルメット団やスケバン程度の銃弾なら軽く弾きそうだなと逆に安心する。

 シッテムの箱にどういった機能があるのか把握できていないが、先程まで防弾装備もなく前線へ生身のまま出撃した自殺志願者に保険が付くなら寧ろいい。

 ただ、俺はずっと冷や汗をかくことになる。まだバレていないが、完全に先生の首を一周する刺青の模様は俺のヘイローにそっくりだったからだ。

 

 多少のハプニングもあったが、概ね順調に先生のシャーレ就任は各学園自治区へ宣言された。

 「これからよろしくね、ミカド」

 「こちらこそ。これから忙しくなるから覚悟しとけよ」

 「あはは、お手柔らかに頼むよ」

 先生に与えられたシャーレでの初仕事は俺が数日にかけて整理し溜まった書類の山を片すことだ。

 案の定翌日まで終わらずデスクで呻くしかないゾンビと化した先生を無理矢理仮眠させて、俺はシャーレの部室を後にする。

 

 

 「……お前から来るとはな。何の用だ?黒服」

 「クックック。いえ、まずはシャーレ就任おめでとうございます。これはつまらない物ですが」

 そう言いつつ闇夜に溶けながら顔面の罅のみが黒服の場所を教えてくれる。そんな彼の手には銃を入れる為の大きいケースがあり、それを受け取って開けば無くしたと思っていた俺の愛銃二丁が大切に保管されていた。

 「これは……いいのか?契約には」

 「これは私の誠意ですので、信じられないならば貴方の観察により得られた成果からの追加報酬とさせて頂きます」

 「それなら……ありがたく貰っておく」

 「ククッ。どうぞ。それと、ついでに、世間を騒がせている来訪者……先生とやらの様子を見に来ました」

 だろうな。というか黒服の性格からしてそっちが本命だろ。

 「それで?どうだった?」

 「非常に興味深い方ではありますが、今の所は何も。ですが同じ大人として、近い内にこちらから招待させて頂きますよ。その時は是非貴方も同席して頂けると」

 何故俺が?と疑問に思うが、あの善性の塊である先生と倫理観を理解していながら破綻した純粋な悪意の黒服の対峙。対立は避けらないだろう。

 最初から気を揉むくらいなら近くで護衛した方が良さそうだと結論付けて、その提案を了承する。

 「クックック。ありがとうございます。裂空の暴龍……いえ、正式にシャーレへ就任した事ですしこれからはミカドさん、と呼ばせていただきます」

 「好きにしろ。呼び出す立場、理由はそちらに任せる」

 「はい。ではご機嫌よう」

 現れた時と同じく、闇夜に溶けて消えていく黒服は既に俺の知覚範囲から逃げ仰せている。その技術に少し厄介さを抱きつつも、既に意識はこれから先生をどうアビドスへ誘導するかに切り替えられていた。

 

 

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