【急募】元カノと喫煙所で遭遇してしまった時の対処法【助けて】 作:銀幕
「――悪魔すぎる」
11月、某日。
「やってられねえ」
ジリリリて鳴り響くアラームを止めて、俺はベッドから降りた。キッチンの換気扇を回して、タバコに火をつける。煙を肺いっぱいに吸い込んで、少し薄くなった煙を吐き出した。11月に入り、少し冷え込んできた朝方の寒さに身を震わせる。ポッドに水を入れてインスタントコーヒーの準備をする。
はぁ……思わずため息が溢れる。最悪な夢を見た。クソみたいな元カノにこっぴどく振られた夢だ。……いまだに夢に見るとは。もう引きずってないと思ったんだけどなぁ。
マグカップにコーヒーの粉末とお湯をぶち込んで混ぜる。暖かいコーヒーに一息をついた――って。
「やっべ時間だ」
7割方吸い終わったタバコを灰皿に擦り付けると、マグカップに残っていたコーヒーを飲み干す。うぇ、最後の方溶けきってなくて苦え。
パーカーとふっといデニムを履き、メガネを外してしょぼしょぼする目に四苦八苦しながらコンタクトをつける。
いつものように時間ギリギリのルーティン。最低限の身だしなみを整えて家の前に泊めていたチャリに跨った。しかして最終的には案の定遅刻するというのがもはやお決まりのルーティンと化していた。
まあ、仕方のないことでもある。サークルのダチとキャンパスが少し離れている上、ほとんど学部に友達もいなく、孤高を貫いてきた俺にとって代わりに講義のレジュメや出席を取って来てくれる友人なぞいなかった。一人寂しく大学に行き、授業が終われば誰とも喋らず帰宅する――そんな毎日で、講義の合間に行く喫煙所だけが俺のキャンパスライフに潤いを与えてくれていた。
うーむ。
せっかく地元を離れてそれなりの大学に入学したのにこのキャンパスライフとかいかに……。
結果大学生活の半分近くを暇な時間に当たるハメになってしまっている。……と。講義室につくと、自由席とはいえほとんど席の決まっている教室の、いつもの中腹あたりの席に着く。イヤホンを片耳にはめて、授業が終わるのをなんとなく待つのだった――
▽ ▽ ▽
煙草。
俺ら喫煙者にとって切っても切り離せぬそいつは、人類の歴史でもマヤ文明の時代にはすでに喫煙の習慣があったとされるほど昔から存在する嗜好品である。
特に世界的な広まりを見せたのは、かのコロンブスがアメリカ大陸を確認した後、ヨーロッパに伝わり、薬用や嗜好品として広まった――とされる。16~17世紀じゃあ、重要な換金作物の一つであり、三角貿易の一角を担った。
――今となっては、禁煙だ健康だと、さまざまな理由で追いやられている愛すべきタバコだが、そんな昔からある、由緒ただしきモノなのだ。
授業終わり、放課後。
ゼミへと向かうため、本学キャンパスにチャリを走らせた俺は、本学の端に設置された喫煙所へと向かっていた。端も端である。入学当初は本学の中に4、5箇所あったというのに、気がつけば北と南に二箇所とだいぶ追いやられていた。喫煙者は肩身が狭いぜ……。
昼下がりのよく晴れた秋空の下、近くのテニスコートでは俺と同じく暇を持て余したクソ大学生が珍しくテニスに励んでいた。槍でも振るのだろうか。とはいえ時々聞こえてくる快音や、掛け声にはさわやかな熱気が溢れかえっていた。テニスをするテニサーってあるんだな……。
「――あ」
「あ?」
――なにやつ。
この喫煙所にこの場にどれだけ人がは知らないが――というかこの大学外れの喫煙所を使う変わり者なんて俺くらいしかいないのだが――声をかけられた方を向けば――うぇ。
「さいあくじゃねーか」
「お、ひさびさだねー」
「なんだこいつ」
なんだこいつ。
特に何も言わずにずいっと手を出してきたそいつに、胡乱気な視線を浴びせながら、俺はポケットからBICを取り出した。カチカチとハードケースから出したタバコに火をつける。
もしかして逆ナンか!? と一瞬胸が弾んだ俺の純朴な心を返してほしい。まあ冷静に考えて、というか考えなくても喫煙所でナンパだなんてそんなはずがない。逆ナンされるほどイケメンではないことは自分が一番よく分かっている。
「なんでお前
「べつにー」
「ほーん」
なんでこいつはこんなにフツーの顔をしてるんだ。
「……で?」
「で?」
タバコの煙が冷えた秋空に溶けていく。俺は視線を逸らしながら、できるだけ平静を装う。ロクな別れ方をしてねーのになんでこいつこんな普通なんだよ。いみわからん。
「いや、なんか話すことある?」
「ねーよ」
「そっかー」
ゆるっとした空気で会話が途切れる。くっそ、どうする、この空気。なんとかうまいこと話題を変えて、俺はそっと立ち去りたい……!
――が、元カノはニヤニヤしながら俺を見つめていた。
「いや、そんな見つめるな。」
「いやー、久々に会ったからさ。相変わらずだね。」
「は?」
「いや、そんな感じだったなーって思って。」
「どんな感じだよ。」
「いや、なんかこう……“カッコつけてる感"?」
「だる……」
こいつ……相変わらずだな。
無性なイラつきを誤魔化すためにタバコを吸おうとするが、ちょうど吸い終わっていた。 クソ、なんてタイミングだ。
しかも、元カノは俺がフィルターだけになったタバコをくわえているのを見て、クスクス笑っている。
ヤケクソ気味に俺は新しいタバコに火をつけながらふと思った。
【急募】元カノと喫煙所で遭遇してしまった時の対処法【助けて】