少女☆歌劇レヴュースタァライト-obbligato-   作:RNKI

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第2話「舞台の上」

これはまひるちゃんと出会うもっと前の話。

私には幼馴染と呼べる程の仲の良い少女が居た。

彼女の名前は大場なな、おっとりしていて引っ込み思案の女の子。

「ゆきのちゃん、わたしたちずっとともだちだよね?」

 

 

 

「いやっ!嫌だよっ!!」

そう、あれは引っ越しの日。

私の知っている大場ななのイメージとはかけ離れた彼女の姿を見る事になった。

「雪乃ちゃんが居なくなるなら私....」

胸に縋り付くように体を密着させたななちゃんを見て、酷く悲しくなった。

私のせいで彼女を泣かせてしまった、彼女を悲しませてしまった。

だから私はーー

「.....約束だよ!」

 

 

 

「....え?....雪乃....ちゃんが?」

 

 

 

「.....なな....ちゃん?」

「久しぶりだね、雪乃ちゃん」

ーー間違いない、ななちゃんだ。

「えっ?2人共知り合いなの?」

困惑した様子のまひるちゃんをちらりと見たななちゃんはそのまま私の胸に飛び込んできた。

「.....ふふっ、懐かしい」

「あ....えあ....そう、だね」

あくまでも冷静な彼女とは違い私の頭はパンク寸前、これではまるでななちゃんの方が何歳も歳上みたいだ。

ーーでもこの感じ、なんだか懐かしーー

「スーハースーハースーハースーハー」

「ちょ、ちょっと?!」

「ふふふっ、久しぶりの雪乃ちゃんだ〜!」

「いやあのー?!ななさーん?!ななさーん?!?!」

「ばななちゃん!!」

私の胸に引っ付いて離れないななちゃんに困惑していると、側に居たまひるちゃんが間に割り込んできた。

「ゆ、雪乃ちゃんは渡さないから!!!」

ーーえっ...!?キュンってきちゃったんですけど?!

「....」

「....」

「...これ、一体どういう状況どす?」

「後ろに同じく」

「...修羅場」

 

 

 

久しぶりに聞いた雪乃ちゃんの声、久しぶりに嗅いだ雪乃ちゃんの匂い、そして久しぶりに感じた雪乃ちゃんの温もり...

もう2度と会えないと思っていた大好きな少女との再会。

今の私にはそれが何よりも嬉しくて。

だからこそ、気付かないフリをする。

 

 

 

転入2日目とは言っても、特に自分だけ何かをするという事は無く。

昨日に引き続き俳優育成科の皆に混ざって授業を受けていた。

そして今はレッスン室でダンスの授業、私も本当に楽しみだったんだけど...

「じゃあ前半組、適当にペア組んで」

適当にペアを組む、それは私が一番恐れていた状況だった。

入学したばかりなのに相手なんて居る訳ないじゃない!!先生の鬼!!

ーーそうだひかりちゃん!...は後半のグループなんだった...

前半のグループで知っている人といえば首席の天堂さんに次席の西條さん、今朝バイクで通学していた石動さんと花柳さんにまひるちゃんくらいだ。

ーーもう天堂さんとか石動さんとかは組んじゃってるし...

残る知り合いはまひるちゃんただ1人、親友なのだから気軽にお願いすれば良いと考えがちだが、親友だからこそ逆に慎重になるべき場面なのだ。

自慢じゃないが私が頼めばまひるちゃんはほぼ確実にペアを組んでくれるだろう、しかし私と違ってまひるちゃんはこの1年間で築き上げた交友関係がある、そこに割って入ってしまったら自分はまだしも彼女にまで悪い影響を与えかねない。

ーーここは一度様子を...

「雪乃ちゃん、一緒に組もう?」

「うん!!!」

まひるちゃんは天使で、私はその優しさに甘えてしまうダメ人間でした。

 

 

 

ーーはぁ〜緊張した...

手を繋いだ状態でまひるちゃんとあんなに接近するなんて...これは早急に他の友達を作らないと心臓がもたないぞ。

私は左右に座っている同級生をチラッと確認し、既にダンスを始めている後半組に目を向けた。

ーーななちゃん、ひかりちゃんと組んでるんだ。

いつの間に仲良くなったのか不思議に思っていると、周囲から小さく歓声が沸いた。

「へぇ〜、キレッキレじゃんあいつら」

「キレてるだけ違います?」

その注目を集めているのは、華恋ちゃんと星見さんの機敏なダンス。

ーー確かに凄い....けど、何か言い合ってる?

「そこまで!」

先生が2度手を叩き、それが終了の合図となった。

2人は気まずそうに目を逸らすと、そのままこちらに歩いてきた。

少なくとも良い方向の話ではない事は察せられたが、その中身までは分からない。

2人の共通点なんて昨日転入してきたばかりの私には分からないし、それこそ昨日のーー

 

「純那ちゃん?!」

 

一瞬の出来事だった。

「星見!」

物思いに耽っていた為突如として身体中から力が抜けた様子の彼女に反応出来ず、そのまま床に叩きつけられるのを見る事しかできなかった。

彼女が掛けていた眼鏡が床に転が落ち、周囲の空気が一瞬にして変わる。

「私、純那ちゃんを保健室に!」

「なら私も!」

慌てて駆け寄ってきたななちゃんと華恋ちゃんが、それぞれ協力して星見さんを運んでいく。

とその瞬間、授業の終了を知らせるチャイムが鳴り響いた。

「星見が心配なのは分かるが今は移動しろ」

先生の指示と共に、ざわめきが収まらないながらもクラスメイト達はそれぞれ室内から退出していく。

私もそれに続こうとすると、いつの間にか隣に居たひかりちゃんが声を掛けてきた。

「...雪乃、良い?」

「えっ?」

 

『明日....説明するから』

 

「あっ、うん」

何の事かと思考を巡らせ、該当する記憶を思い出す。

ーーあの舞台が何なのかを教えてくれるって言ってたっけ。

靴を履き替え更衣室に向かい、出来るだけ急いで制服に着替える。

その最中更衣室の中を軽く見回すが、まひるちゃんの姿が見当たらない。

ーー保健室に行ったのかな?

心では星見さんを優先するのは当たり前だと理解しながらも、やはり私の元に来てくれない事に軽く胸が痛くなる。

それに私とペア組んだ時、まひるちゃんは慣れてる様な顔してた気もするし。

ーーあれ、私ってこんなに嫉妬しいだったっけ...?

「雪乃」

制服に袖を通し終えると同時にひかりちゃんが呼び掛けてきた。

「待たせちゃってごめん」

「別に平気、行こう」

歩き出したひかりちゃんに歩幅を合わせ、やや後ろの位置で着いていく。

少し歩くと中庭に出た為てっきりベンチで話すのかと思ったが、足先は木陰に向いていた。

そうしてある程度の場所で立ち止まったひかりちゃんはこちらに向き直ると、慎重に周囲に目を配ってから口を開いた。

「選ばれた舞台少女によるレヴュー、それがあのオーディション」

ーー選ばれた舞台少女によるレヴュー...?

「...ごめん、ちょっと整理させて」

昨日の記憶と照らし合わせ、混乱しつつも何とか情報を整理していく。

つまり昨日の戦いはオーディション、誰かが1日目と言っていた事から恐らく昨日が初日だったのだろう。

「...ひかりちゃんと星見さんはオーディションに参加してるって事で良い?」

「そうよ、呼ばれたの」

ーー呼ばれた...?じゃあ...

「華恋ちゃんは?実は私達一緒にエレベーターに乗ったんだけど」

私が見た限り、彼女にそういう素振りは一切無かった。

それにそもそもひかりちゃんの行き先を知らなかった時点でオーディションとは無関係の筈。

「エレベーター...そもそもなんで学校に?」

「華恋ちゃんがひかりちゃんを探してたの、それで私が学校じゃないかって」

「だから華恋は...でも」

「選ばれてないんだよね?」

私の問い掛けに、ひかりちゃんは少し表情を歪めた。

「煌めきが足りないとオーディションには選ばれない.....それは確か」

私達は直前まで一緒に行動していたが、結果的にオーディションに参加出来たのは華恋ちゃんだけ。

「ところであのオーディションは何のオーディションをしてるの?」

「....オーディションに勝てばトップスタァになれる」

「トップスタァ...」

「...そして負ければ舞台少女として一番大切な物を失う」

そう言い切った彼女は複雑そうな表情を浮かべ、そのまま一度目を閉じた。

舞台少女として一番大切な物?

どうにも創作の世界の話に聞こえて仕方ないのだが、この目で見てしまった以上信じるしかない。

「トップスタァになれるのは1人だけ、だから華恋には」

「参加して欲しくなかった?」

彼女の見開いた目を見るに、どうやらそれが本音の様だ。

オーディションに勝った者はトップスタァになれるが、それ以外の参加者は一番大切な物を奪われてしまう。

つまりひかりちゃんと華恋ちゃんはいずれ戦う事になってしまうのだ。

もしあの時私がーー...いや、どの道華恋ちゃんは一人でも行っていたに違いない。

「ありがとうひかりちゃん、色々教えてくれて」

トップスタァとかレヴューとか、正直まだまだ分からない事だらけだ。

それでもひかりちゃんが教えてくれなければそこにすら立てなかったのだから、感謝してもしきれない。

そしてひかりちゃんがこれだけ色々知っているという事は、オーディション参加者の星見さんも同様にある程度の知識は持っているのだろう。

ーー...そういえば星見さん、大丈夫だったかな。

思考の流れで星見さんの容態が心配になり、私は正面のひかりちゃんと目を合わせた。

「あの、星見さんがどうなったか心配で...行ってもいいかな」

それに対して静かに頷いた彼女を見て、私は再度感謝の言葉を伝えた。

「ありがとう、じゃあまた後でね」

 

 

 

「....ごめん」

去っていく雪乃を眺めていると自然に謝罪の言葉が溢れ落ちた。

私にとってこのオーディションは初めてではない、ただその事実を伝えなかっただけ。

けれども何故か、私の胸には小さな痛みが走っていた。

これはきっと華恋に対しても起こる痛みだ。

ーー...どうして?

疑問の答えは、既に出ていた。

 

彼女と私は、"何か"が同じ。

 

「運命」

 

一言呟いてみると、漸く胸の痛みが治まった。

 

 

 

保健室の扉を開けると奥のベッドに星見さんが横たわっており、その隣の椅子にななちゃんが座っていた。

「星見さん、その...大丈夫だった?」

一応初対面なので声を掛けながら近付くと、彼女は上半身を起こしてこちらに体を向けた。

「もう平気よ、ありがとう。冬咲雪乃さん、だったわよね?ななから聞いてるわ」

「えへへ、自慢しちゃった」

「自慢する事なんて何も無いと思うけど...」

「ななったら一日中貴方の事ばっかり、そのせいで倒れちゃったのかも?」

冗談めかしてそう言う姿を見るに、どうやらもう体調は万全らしい。

「星見さんってななちゃんと仲良いの?」

私の何気ない一言に、何故かななちゃんが反応した。

「どうだと思う?」

「そりゃあ下の名前で呼んでるから、仲は良いんだろうなって」

ーー私はまだちゃん付けなのに。

「ふふふっ」

その答えに笑みを浮かべたななちゃんを見て、星見さんが口を開いた。

「まあ同室だから仲は良いわね」

「ねーっ、純那」

「ッ?!」

「なな?どうして急に」

 

 

何処かから不気味な音楽が聞こえてきた。

「...ごめんなな、冬咲さん、私用事が」

スマホを見ながらそう呟く彼女の顔は、少なくとも楽しい用事ではない事が伝わってきた。

「じゃあ私も行こうかな、またね"雪乃ちゃん"」

「っ....うん」

強調された様に聞こえたのは、私の嫉妬心からだろうか。

ーー....純那....呼び捨てか....

2人が退出してから数十秒後、私も遅れて廊下に出ると大きな足音と共に華恋ちゃんが走ってきた。

「華恋ちゃん?どうしたの?」

「オーディション!」

「えっ?!」

「ごめんね!急いでるから!」

そう言ってあのエレベーターがある方角へと走っていく華恋ちゃん。

ーー....もしかして。

私の中に生まれたとある仮説。

「確かめる価値は....」

 

 

 

「ふふふっ....ふふっ...」

ベッドに寝転がり、掛け布団を思い切り抱き締める。

思い出すだけで笑いが溢れてくる。

 

『ねーっ、純那』

『ッ?!』

 

『じゃあ私も行こうかな、またね"雪乃ちゃん"』

『っ....うん』

 

ーー嫉妬してた....!雪乃ちゃんが雪乃ちゃんが雪乃ちゃんが雪乃ちゃんが雪乃ちゃんが雪乃ちゃんが雪乃ちゃんが!

嬉しい、嬉し過ぎて感情が隠せない。

幸い純那ちゃんはオーディションの為、暫くは帰ってこない。

「あんな雪乃ちゃん...初めてっ!」

胸が締め付けられる、幸せな痛みだ。

好き、大好き、愛してる。

私の一番になりたいというその想いが、私の心を満たしてくれる。

やっぱり私達は愛し合う運命、もっと、もっと見たい。

雪乃ちゃんが嫉妬して、私の一番になろうとする姿が見たい。

その時の事を考えるだけで、私はーー

 

 

 

「っ!!」

結構な衝撃と共に、私は観客席に落下した。

周囲を軽く見渡せば、少し離れた席にあの時見たキリンの姿があった。

「煌めいてますね、分かります」

「.....」

ーーキリンが喋った?!それにこの声って...

いや、そんな事はどうでも良い、それよりも...

私が中央に目をやった瞬間、照明が一瞬にして消え去った。

 

「星屑溢れるステージに、可憐に咲かせる愛の華。生まれ変わった私を纏いキラめく舞台に飛び込み参上!99期生!愛城華恋!!みんなをスタァライト、しちゃいます!」

 

ーーこの声...やっぱりあの時と同じ!

 

「人にはさだめの星がある。きら星、明け星、流れ星。己の星は見えずとも、見上げる私は今日限り!99期生!星見純那!!掴んでみせます自分星!」

 

ーー星見さん!って事は!

私の建てた仮説は極めてシンプル、保健室で聞こえた音楽は星見さんのスマホから流れておりそれを聞いた彼女は急いでこの舞台へ。

そしてその後遅れて走ってきた華恋ちゃんは明確にオーディションと知った上でエレベーターに向かっていた。

つまりあの音楽はオーディションに呼び出す為の通知音、華恋ちゃんも同様の通知を貰っているならば、華恋ちゃんの正式なオーディション参加が認められたという事になる。

そしてーー

「貴方も、参加しますか?」

「えっ?」

装置が勝手に動き出し、メガネと遺跡が融合した様な舞台に変容するのを見ていると、突如として私の思考を惑わせる言葉が飛んできた。

「愛城華恋さんは飛び入りでの参加でしたが、トップスタァに相応しい十分な煌めきを見せてくれました」

「...でもあの時私は」

あの時選ばれたのは華恋ちゃんだけ、つまり私は選ばれなかった筈。

「2人同時の飛び入りを認める訳にはいきません...しかし貴方の煌めきなら、トップスタァへの道も開かれるでしょう」

ーー煌めき....私が、オーディションに?

 

『舞台少女として、一番大切な物を失う』

 

いや駄目だ、もし私が参加してしまったらひかりちゃんをもっと悲しませてしまう。

彼女は華恋ちゃんをオーディションに参加させたくなかった、つまりオーディションはそれ程危険だという事。

「....嫌です、誰かを悲しませるなんてしたくない」

一番大切な物を失うという言葉の重みとひかりちゃんへの想いが、私を踏みとどまらせた。

「分かります...ただしこのオーディションは極秘につき郊外無用、誰かに話せば罰金です...それはお忘れなく」

「...なら私は」

「では次のオーディション、もう一度こちらに来てください」

「えっ?それって」

 

「ふッ!!」

「負けない!負けられないッ!!」

 

2人の声が唐突に耳に入り、私の視線は一気に舞台上へと戻される。

剣と弓で鍔迫り合いを起こしている彼女達は、そのまま一歩も譲らない構えだ。

ーー....?!やばっ!!

私の目に映ったのは彼女達の後ろ、舞台装置が2人に向かってゆっくりと倒れてきている。

「2人共逃げて!!!早く!!!」

必死に声を出すが、彼女達には届いていない様子。

「どうしますか?」

その言葉の最中、既に私の体は宙に浮いていた。

 

 

 

「痛....っ!」

全身に鈍い痛みが走り、思わず体を左右に揺らす。

ーー....そうだ!2人は?!

 

「私はひかりちゃんと2人で、スタァになるッ!!」

 

華恋ちゃんの剣が、星見さんの上掛けを静かに落とした。

ーーあ、あれ〜?

一先ず無事だったみたいだが、こうして私が舞台に降りてきた理由が無くなってしまい若干の羞恥心を感じ始めてしまう。

「ポジションゼロ!!」

華恋ちゃんの宣言と共に、赤いカーテンが私達に降り注ぐ。

「オーディション2日目、終了します」

ーーこれ、華恋ちゃんが勝ったって事で良いんだよね...?

 

『一番大切な物を失う』

 

「ッ!!」

嫌な予感がした。

私はカーテンを強引に退かしながら、星見さんが居た場所に向かって走っていく。

華恋ちゃんと星見さんの再戦、何故勝負が付いた組み合わせをもう一度行うのか。

良く考えてみればその理由はすぐに浮かび上がってきた。

 

愛城華恋の飛び入り参加。

 

ーーもし前回のオーディションが無効になってるとしたら、今回は...!

「星見さん!!」

「えっ?冬咲さん?!」

カーテンを両手で退かすと、そこには特に変わった様子の無い星見さんが座っていた。

ーー大丈夫そう...?

「あれ?雪乃ちゃん?!」

遅れて歩いてきた華恋ちゃんは、私を見つけてその歩くスピードを上げた。

「....考えすぎかな」

そう呟いた星見さんは、私が持ち上げたカーテンの隙間を一回転して通り抜けるとそのまま立ち上がった。

「これで終わりじゃないもんね」

何処か吹っ切れた顔の彼女とその言葉を聞く限り、私の心配は杞憂に終わった様だ。

「そう言えば、どうして冬咲さんが此処に居るの?」

「あーえっと...つい?」

「分かるよー!私も飛び込んじゃったし!」

飛び込みという面で謎のシンパシーを感じている華恋ちゃんを横目に、星見さんへ顔を向ける。

「それにしても星見さん、見かけによらずアグレッシブというか」

「何それ、っていうか....純那、で良いよ」

ーー....えっ?!

「分かった!じゅーんじゅん!」

「いきなり?」

「あっ、こっちも華恋で良いよ!」

ーー馴染むのが早過ぎる...!

華恋ちゃんのコミュニケーション能力に改めて驚愕していると、星見さんがこちらに近付いてきた。

「改めてよろしくね、雪乃」

ーーあっ、カッコいい、好き。

「う、うん!純那ちゃん!!」

顔には勝てなかった。

 

 

 

「ただいま」

部屋の扉を開けた途端、座っていたひかりちゃんが物凄い勢いで詰め寄ってきた。

「雪乃?まさかオーディションに?!」

ーー顔近いっ...!

「さ、参加した訳じゃないよっ!ただ...」

「ただ?」

「....舞台には、降りた」

 

「絶対に参加しないでって...言った」

 

「っ....ごめん」

怒りの感情を含ませた声色でそう言われてしまったが最後、もう弁明の言葉を用意する気は無くなった。

「....もう、いい」

「....あっ、私お風呂入らないと」

わざとらしくそう口にして、この空気から逃げる様に荷物をまとめ始める。

ーー....部屋、ちょっと汚れてるな...

そんな事を言える状況では無いので、あくまで無視を決め込みそそくさと部屋を出ーー

「わっ」

扉を開けた瞬間現れた人影に対応出来ず、私は倒れ込む形でその人に抱き着いてしまう。

「ご、ごめんなさい!」

「こちらこそ不注意でした、冬咲さん」

「はい....天堂さん?」

「こんばんは、どうされたんですか?」

「えっと、今からお風呂に入ろうと」

私が若干の緊張を混ぜながらそう言うと、天堂さんは静かに目を細めた。

「なら、ご一緒しても?」

「はい....えっ?」

返事をした後に聞き返すという失礼な事をしてしまったが、それでも今の感情は驚きの方が大きかった。

「な、何故でしょう」

「転入してきたばかりのクラスメイトと親睦を深めたい、それだけでは足りませんか?」

「あ....いえ」

「では参りましょう?」

ーーオーラがあってカッコいい...まさに舞台女優って感じ。

天堂さんに先導されるまま大浴場に向かっていると、1人の少女がこちらに近付いてきた。

ーー確か、次席の西條さんだよね。

「天堂真矢...その子」

「転入生の方と親睦を深めようと、いけませんか?」

「貴方....ふんっ」

ーーカッコいい...けど敵視されてる?

スタスタと早足で去っていく西條さんを数秒見た後、私達はまた大浴場へと歩き出した。

 

 

 

ーー居ない...

華恋ちゃんと雪乃ちゃんの姿が見当たらず、若干の焦りを胸に持ったまま部屋に戻る。

やはり室内は暗いままで、そこに華恋ちゃんの姿は無かった。

「今日はあんまり話せなかったな...」

 

 

 

身体を洗い浴槽に入って数十秒、依然として対面に居る天堂さんはゆっくりと目を開けた。

「...それで」

「冬咲さんは、露崎さんと仲が宜しいんですか?」

「え?はい、まひるちゃんとは一時期家が近くだったので」

「では大場さんは?」

彼女は鋭く目を光らせた。

「ななちゃんは幼馴染です、家の事情で離れちゃったんですけど」

「この学校で久々の再会、という事ですね?」

「まさか2人がこの学校に居るなんて思いませんでしたけど」

ーーでもななちゃん、随分大人っぽくなった気がするな。

あの時のななちゃんを知っているだけに、今の落ち着き払った彼女にはまだ違和感を拭いきれていない。

流れる水の音をバックグラウンドに、私は数秒間目を閉じる。

そうして眠気が襲ってきそうになる少し手前で目を開き、お風呂から腕を出す。

「確か、神楽ひかりさんと同室でしたね」

「そう...ですけど」

「私にはあの方の心が見えません、恐らくそれは今の愛城さんでさえも...」

ーー心が見えない?確かに不思議な子だけど...

何処か引っ掛かる言い方をした彼女は、静かに笑みを浮かべていた。

「ひかりちゃん...」

「けれど貴方にはそんな彼女の心を知る力がある、そう思えてなりません」

「私が?まだ知り合ったばかりなのにそんな」

と、自分で否定しながらも、私の中の僅かな違和感がその言葉に同意している感覚があった。

「誰の心にも、それ相応の闇はある」

「...それは、天堂さんにも?」

「さぁ?どうでしょう」

そうはぐらかす彼女の笑顔からは何も感じ取れず、ただ分からないという思いのみが残った。

 

 

 

自室に戻っても、変わらずひかりちゃんとは気まずい雰囲気が続いたまま。

話題を振るとしてもそれは私からで、彼女からの返事は大抵一言だった。

このままではいけない、時間が経てば経つ程悪い方向に進んでしまう。

そんな私の想いを嘲笑うかの様に、眩しい朝日が私を照らしていた。

ーーもう朝...?

溜め息と共にベッドから起き上がると、既にひかりちゃんが朝の支度を始めていた。

まずい、ひかりちゃんはこのまま1人で行くつもりだ。

「お、おはよう」

「...おはよう」

返事はしてくれたものの、依然としてこちらに顔を向けてはくれない。

今を逃したらきっと本当に話せなくなってしまう。

ーー謝るなら...今。

「ひかりちゃん、本当にごめんなさい」

「....」

「私はキリンに誘われたけど断った、これは信じて欲しい」

私の話し始めと共に手を止めてくれた所を見るに、とりあえず話は聞いてくれる様だ。

「でも純那ちゃんと華恋ちゃんに向かって舞台装置が倒れてきて...私呼び掛けたんだけど、声届かなくて...だから、飛び込んだの」

「それで?」

「約束する、私は絶対オーディションには参加しない!飛び込んだりもしない!」

「....」

「だから、だからっ...」

「...分かった」

「!本当?!」

「雪乃が本気だって分かった、それに華恋を助けようとしてくれたんでしょ?」

「結局何の役にも立てなかったんだけどね...」

気が付いた時には華恋ちゃんが勝ってたし、格好付かないな私って。

「...私、早くしないと先行くわよ」

その言葉に一瞬焦りを感じるが、ひかりちゃんの顔を見てすぐに安堵する。

「ご、ごめんね!すぐ準備するから!!」

笑顔のひかりちゃん、初めて見たかも。

 

 

 

「ひかりちゃん、プルプルした物苦手だって聞いたから。ばななマフィン!美味しく焼けたの」

ーーひかりちゃんプルプルした物苦手なんだ...プルプルした物って何?

「今日は一緒に...「ま、間に合った〜!!!」

ななちゃんの声を遮る、というより教室全体に響く声が扉側から聞こえた。

「ギリギリセーフね〜、2人共!」

その声の主は、華恋ちゃんを左腕で支えたまひるちゃんだった。

ーーう、腕組み...!羨ましい...

「す、凄かったの!凄かったのっ!今日の華恋ちゃん!!」

「凄かった?!」

「雪乃、多分それ勘違い」

「あんな事しても、こんな事しても...あんな事までしたのにっ!全然起きなくて!!」

「どんな事?!?!」

「雪乃、絶対勘違い」

私の言葉に冷静なツッコミを入れたひかりちゃんは、横目で漸く目覚めた華恋ちゃんを見て小さく溜め息を吐いた。

「はぁ...バッ華恋」

「ふふっ、バッ華恋って何か可愛いね」

「そう...?」

「うん、小さい頃のあだ名?みたいで」

「正解」

「えっ」

ーーそんな昔から使い続けてるんだ...それ。

やっぱり気に入ってたりするのかな、語呂とか響きとか。

 

 

 

「はぁッ!!」

オーディション3日目、華恋ちゃんと天堂さんのレヴューが今目の前で繰り広げられている。

いや、でもこれは...

必死に剣を振る華恋ちゃんに対して、終始余裕の表情を見せる天堂さん。

舞台装置は全て天堂さんに傾いており、それが今の状況を完璧に現していた。

これはあまりにも...

 

ーー相手にされてない...っ

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