少女☆歌劇レヴュースタァライト-obbligato- 作:RNKI
ーー...やわらかい...
微睡の中真っ先に感じたその感触。
「起きた?」
続いて聞こえてくる馴染みのある声、大好きな声。
「...まひるちゃん?」
「ごめんね、痛くない?」
「いたい?ううん」
あまり動いてくれない口でそう返事をして、一度目を閉じる。
そうして数秒呼吸をした後に目を開け、私は周囲を確認した。
ーー.....え。
場所は自身の最後の記憶通りリビングのソファー、上を見上げれば優しい顔でこちらを見つめてくるまひるちゃん、相変わらず顔が良い。
そしてこの柔らかい感触と、この視界。
つまり今の状況は。
ーー....膝枕じゃん?!?!
「あ、えと...重くなかった?」
「ううん、むしろ....」
「むしろ?」
「な、なんでもないの!」
まひるちゃんが何を言おうとしたかは気になるが、とりあえず私は眠気を振り払う為に名残惜しいが起き上がる事にした。
「あっ...」
「ありがとまひるちゃん、私何時間くらい寝てた?」
「30分くらいだよ、お水飲む?」
「うん....って、これじゃあ昔と変わんないね」
北海道に住んでいた頃も大抵私はお世話される側、いつもまひるちゃんに甘えていた記憶がある。
今思うと私も妹の1人だったのかな、なんて考えてしまうがそれは振り返れば幸福に感じられる程大切な思い出だった。
「でも私は幸せ...かな」
ソファーから腰を上げたまひるちゃんは、そのまま私の横を通り過ぎてキッチンの方に歩いていく。
ーー....
「まひるちゃん、お嫁さんみたいだね〜」
その姿を見て生まれた言葉が、まだ完全ではない意識のせいか思考を通り越してそのまま声として出ていった。
「へっ!...も、もう!」
その言葉が口振とは裏腹に嬉しそうだと感じたのは、自意識過剰だろうか。
1から9までの数字が順に記されたランキング表の前に、キリンは立っていた。
「舞台少女の乱入と...」
そのキリンの言葉と共に、ランキング表の空白部分が回転を始めた。
中学の頃、弟達に誘われておままごとをする機会があった。
「じゃあ雪乃お姉ちゃんがお父さんで...お姉ちゃんがお母さん!」
何気ない役振り、特に深い意味は無い筈だった。
でもその時確かに感じてしまった、私の中の隠れていた本当の思い。
「よし...まひる、ただいま」
「...っ!」
急激に心拍数が上がるのを感じ、一瞬にして顔が熱くなる。
ただしそれは私にとって、声が出なくなるモノでは無くむしろーー
「お帰りなさい!"貴女"!!」
より一層、自身の声が大きくなるモノだった。
高揚感と幸福感、その言葉を発する事が出来た喜び。
ーーああ、やっぱり私は...
「おっと」
「あっ、石動さん」
寮の廊下で鉢合わせたのは、休日なのに何故か制服を着た石動さんだった。
「冬咲...だったよな?」
「うん...ところで、どうして制服?」
「今から自主練しようと思って、うちの学校って登校する時は絶対制服着ないといけないからさ」
「へー、そんなルールあったんだ」
「そうそう、んじゃ行ってくるから」
そう言いながら軽く手を振って、寮の玄関に向かっていく石動さん。
ーーこれは...
確かな不安感があった。
それは今後共同生活をする上で欠かせない、人間関係に対しての不安感だ。
遅かれ早かれ話す機会はあるかもしれないが、それでも早いに越した事はない。
仲良くなるなら、きっと今だ。
「ま、待って!その...私も一緒に練習しても良いかな?」
「えっ?別に良いけど」
ーーやった!!
「ありがとう!すぐ着替えてくるね!」
承諾を貰えた為、私は石動さんを待たせない様にややペースを上げて廊下を歩いていく。
そうして自室に入り、壁に掛けておいたハンガーから自分の制服を取り外した。
ーー早く着替えないと...
石動さんを出来るだけ待たせないように着替えを急いでいると、ふと目線がひかりちゃんのベッドの方に向いた。
私が綺麗に畳んだ毛布の上に、彼女の私物は存在しない。
「...ひかりちゃん」
今朝から何一つ変わっていないそれを見て、やはり気分は落ち込んでいった。
ーー...まだ、帰ってこないのかな。
何処かで事件に巻き込まれていないだろうか、そんな不安を胸に抱えつつ、私は着替えを済ましてもう一度玄関に向かった。
「だからまあ、殺陣なら自信あるぜ」
学園の廊下を並んで歩きながら、私達は案外自然に会話を続けられていた。
尤も、その殆どは石動さんの人柄のお陰なのだが。
こちらを見て話すタイミングをズラしてくれる所とかは特に、彼女の優しさを感じられる。
「石動さんっていつも1人で練習してるの?」
「んー...まあ大体1人かなぁ、勿論手伝ってもらったりする事はあるけど」
「そうなんだ、私はてっきり花柳さんと...って、あれ?」
1階の第1レッスン室に近付くと、中から物音が聞こえてきた。
「...誰か居るのかな?」
私達は数秒顔を見合わせた後、互いに小さく頷いた。
そうしてレッスン室の扉を静かに動かして、中の様子を確認する。
「あれは...西條さん?」
物音の正体は勿論お化けとかでは無く、1人で練習していた西條さんだった。
一瞬安心して胸を撫で下ろし掛けるが、何やら様子がおかしい。
隣の石動さんも同様の事を感じ取ったらしく、彼女から目を離さずにいた。
ーー....何だかちょっと危なっかしい...?
「...はっ...!」
「危ない...っ!」
私達の不安は的中し、西條さんはその場で小さく尻餅を付いてしまう。
「フロア、ちゃんと拭かねえと怪我すんぞ、クロ子」
ーークロ子?!あだ名呼びなの?!
「双葉?...と、冬咲雪乃」
「わ、私だけフルネームなのはどうして...?」
これが空白の1年間の差らしく、早くも心が折れそうだった。
しかしこれで諦める訳にはいけない、既に苦手意識を持たれているであろう相手との距離を詰める方法は分からないが、とにかくやるだけやってみるしかない。
西條さんも居る、このタイミングで。
「冬咲、ほいっ」
石動さんは奥のロッカーまで歩いていくと、その中からモップを2つ取り出しうち一方を私に投げてきた。
「おっとっと」
私は何とかそれをキャッチして、そのまま床に接地させる。
ーーちゃんと拭かないと危ないって先生にも言われたし。
私は特に言葉を発する事も無く淡々とモップを動かしていると、座ったままの西條さんが口を開いた。
「どうして?」
「...なんかあった?天堂と」
その質問に更に質問を上乗せさせたのは、彼女に背を向けたまま掃除を続ける石動さん。
「えっ?」
「あんたが変になるっつったら、それしかねえもんな」
ーーそういえば...
『天堂真矢とはどういう関係なの?』
「今朝、天堂さんについて聞いてきたよね?」
「なら間違いねえな...ライバル、だっけ」
"ライバル"という言葉に反応した西條さんが突然立ち上がった。
「ちょっと、思い知らされただけよ」
「ふっ、弱気じゃねえか、天才子役!」
「成長したらただの人、ってね」
「?????」
ーー何の話してるのこれ?!?!
またしても空白の1年を実感してしまうが、このまま2人の世界に入らせてしまってはいけない。
私はとにかく頭を回し、西條さんの悩みの種を解き明かす事にした。
『あの天堂真矢が、なんであんたに興味を持ってるのかって聞いてるのよ!』
"あの天堂真矢"という言葉、そして石動さんのライバル発言。
つまり西條さんはーー
「自分だけは違う」
「?!」
どうやら図星の様で、西條さんの動揺した声が室内に響き渡った。
「だから私に聞いてきた、というか...」
「...届かなかった」
西條さんがそう静かに呟くと、石動さんが何処からともなく飴を取り出してきた。
「.....Merci」
「ほら、冬咲も」
「あ、ありがと...でもどうして飴?」
「良いだろ?うまいし」
ーーさりげない気遣いカッコ良すぎます....!
「...はい.....おいひい」
「ただいま〜」
練習を終え星光館に帰ってきた私達を迎えたのは、焦りの表情を全面に押し出したまひるちゃんだった。
「もうすぐ18時なのに、華恋ちゃん帰ってきてないの!」
「えっ?」
華恋ちゃんがひかりちゃんを探しに行ってからおよそ半日、未だに帰ってきてないという事はつまりーー
「まだ会えてないって事...?これって相当まずいんじゃ」
「連絡は取ってないの?」
隣で靴を脱ぎ終えた西條さんがそう尋ねると、まひるちゃんは首を左右に振った。
「昼頃までは取れてたんだけど...」
「そっか...」
俯いたまひるちゃんを何とか慰めようとした私の肩を、石動さんがそっと叩いてきた。
「まあとにかく上がろうぜ、詳しい話はそれからで良いだろ?」
「う、うん...とりあえず私はギリギリまで待ってみるね!」
そう言って私達はまひるちゃんの横を通り過ぎ、それぞれの部屋に戻っていく。
私も真っ暗な自室に戻り、若干手間取りながら電気を付けた。
室内には相変わらず変化が無く、それを見ているとやはり寂しい気持ちになってしまう。
「...お風呂入ろ」
気持ちを切り替える為にそう呟いて気合いを入れた瞬間、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
「冬咲?」
「はーい」
廊下に聞こえる様に意識して声を張り、中に私が居る事を相手に知らせる。
「ごめん、あたし。この後風呂か?」
ノックの正体はその声から薄々分かっていたが、やはり石動さんだった。
「うん、汗もかいたし」
「なら一緒に行こうぜ」
どうやらお風呂に誘ってくれている様だ。
ーーや、優しい!嬉しい!
私はわざとらしく物音を立てて素早く着替えを取ると、そのまますぐに扉を開けた。
「あっ、西條さん?」
扉の向こうに立っていた人の数は、想像より1人多かった。
「悪い?」
「これからあたしらを見てくれるんだから、別に良いだろ?」
実はあの後、石動さんが西條さんに頼み込んで私達にレッスンをつけてもらう事になったのだ。
「うん、私西條さんともっと話したいって思ってたからむしろ嬉しい」
「....そう」
顔を赤くした彼女を見て、少しは私を受け入れてくれたのだと分かり心の中でガッツポーズをする。
「なら...クロディーヌで良いわよ」
「へっ?」
「ならあたしも、双葉で良いぜ」
「....ありがとう、クロディーヌちゃん、双葉ちゃん」
ーー今日1日でここまで仲良くなれるなんて...2人とも優しいな...
いつの間にか持っていた不安感は消え去っていた。
昨日は天堂さん、今日はクロディーヌちゃんと双葉ちゃん。
3人で入浴してもまだお風呂のスペースは余裕があって、きっと星光館の10人が全員同時に入れるのだろう。
そんな未来を想像しつつ、私は身体をもう一段階沈めた。
「なあ雪乃、ばななとは幼馴染なんだよな?」
「うん、そうだけど」
「じゃあまひるは?」
「....親友、かな」
「どっちも似た様なものじゃない?」
「あはは、まあ実際どっちも同じだと思ってるよ」
クロディーヌちゃんに切り返され、私は今一度自身のその定義を見つめ直す。
幼馴染と親友、一般的には幼馴染の方が関係値は高そうに感じられそうだが、私に関してはどちらも同じとして見ている。
けれどこれが他の人から聞いた話だったら私も幼馴染の方を上に取ってしまいそうだから、きっと対象によるんだと思う。
「ばななにまひるかぁ...どっちもしっかりしてて良いなあ」
「ふふっ、まあ双葉の場合はね」
「...双葉ちゃんの幼馴染って花柳さんだよね?どういう感じなの?」
ーーやってみたかった幼馴染トーク!!
「どういうって難しいな...まあ手の掛かる奴だしあたしが居ねえと何もしないし...腐れ縁みたいなもんだよ」
そうまとめた双葉ちゃんは、その言動とは裏腹に微笑みを見せていた。
「でも膝枕とかしてたよね?何だかんだ仲良しって感じ?」
「....そう、かもな」
「双葉、照れてるわね」
彼女の顔をよく見ると、頬が先程より更に熱っている様に見えた。
「本当だ、顔真っ赤」
「うっ、うるせえ!」
ーーかわいい。
時刻は門限である18時をとうに過ぎ、私等が夕食を食べ終わってもまだ華恋ちゃんとひかりちゃんは帰ってこない。
そしてその影響で数十分毎にそわそわと廊下を行き来しているまひるちゃんを見ると、何だか胸が苦しくなった。
親友の悲しんでる姿は見たくない、それはあの時から全く変わらない認識で....
....
違う、これは建前だ。
本当は私よりも華恋ちゃんに意識を注いでいるという事実に、嫉妬している。
私という親友を優先しない彼女に対して、ただ一方的な願望を押し付けているだけ。
けれどそう理解して手を引く程、私は優等生では無かった。
ーー....よし。
私は発生しているモヤモヤした気持ちを、まひるちゃんに直接ぶつける事にした。
「まひるちゃん、ちょっと良い?」
「えっ?何tうひゃああああ!!」
私はまひるちゃんに抱き着くと、そのまま近くのソファーまで彼女を移動させた。
少しずつ体重を預けて彼女を押し倒し、自身の両足をソファーの上に乗せる。
「まひるちゃんっ」
「ゆゆゆゆゆゆゆゆゆきのちゃん?!?!?!?!」
「....私達、親友でしょ?」
「う、うん...!そうだけどいきなりそんな心の
「私はまひるちゃんを置いていかないって言ったよね」
「....!!」
まひるちゃんの腕が遠慮がちに私の背中へ伸び、そのままゆっくりと引き寄せられる。
その優しさ全開の行為に、私は胸を躍らせた。
「....ずっと一緒に居てくれる?」
「うん、私はまひるちゃんと一緒が良い」
「そっか、そうだよね...!雪乃ちゃんは私を置いていかないんだよね!」
「だから2人の事は一旦本人達に任せて、まひるちゃんはしっかり休んで」
「....うん」
「心配しないで、絶対大丈夫だから」
「....ありがと」
身体中の緊張が解けたかの様に、まひるちゃんの身体中の筋肉が柔らかくなっていく。
声色からして、このまま行けば間違いなく眠ってしまうだろう。
「寝ちゃって良いよ」
「....ん」
「おやすみ、まひるちゃん」
「.....」
ソファーの上で私の膝に横たわったまひるちゃんを見守りながらテレビを見る事十数分、リビングにななちゃんが入ってきた。
「あっ...ななちゃん」
今朝の事がある為、若干意識してしまうのは最早仕方のない事だ。
「雪乃ちゃん...何してるの」
「まひるちゃん疲れてるみたいで寝てるから、いつ起こそうかなって」
「ふーん、そっか」
そう呟いてまひるちゃんの寝ていない反対側に座ったななちゃんは、放り出された両足を静かに組んだ。
「今日は何してたの?」
「今日?....あ、双葉ちゃんとクロディーヌちゃんと自主練かな」
「.....下の名前、なんだね」
「うん、上手く馴染めるか心配してたけど...仲良くなれて良かった」
「....そう」
依然として俯いたままのななちゃんの表情は、こちらからでは確認出来ない。
ーー怒ってる...?
そう感じてしまうのは、離れていたとはいえ幼馴染だからだろうか。
何となくこんな彼女には覚えがある気がする。
「ななちゃん、大人っぽいよね」
「....そうでもないよ」
「うん、今そう思った」
「えっ?」
私は彼女の方を向き、そのまま膝の上に手を置いて目を合わせる。
「な、何?!どうしたの?」
「ほら、やっぱり変わってない」
「変わってないって...?」
「今日、一緒に寝よっか」
「う、うん....え?!」
そう、確かーー
「ふーん、雪乃ちゃん、今日はあの子と遊ぶんだ」
「ごめんねななちゃん...また今度あそぼ?」
「....」
「じゃあ今日、お泊まりする?」
「えっ!良いの?」
「えへへ、お母さんにお願いしてみるね」
怒らせてしまった時は、大抵こうして仲直りしていた。
ーーやっぱり変わってないね、ななちゃん。
ーー変わってるよ、私はもう。
でも私は、変えない為に変わった。
あの永遠の一瞬を、もう一度見たいから。
「それでこっちの部屋に来たって訳ね」
腕を組んでベッドに座っている純那ちゃんは、眼鏡越しに私達を見つめた。
ーー流石に急過ぎるよね〜
ななちゃんのルームメイトである純那ちゃんに話を通していなかった私は、とりあえず謝罪から入る事にした。
「純那ちゃん、急にお邪魔してごめんね?やっぱり...」
「別に良いわ、私も話してみたかったもの」
ーーへ?
流石にマイナスな言葉が来るかと思ったが、返ってきた言葉は私が想定していたより数倍良いものだった。
「えっ?良いの?」
「ええ、断る理由も無いし」
「ッ!!」
ーー顔も良いし性格も良い...!全身イケメンだ!!
「それで雪乃は何処で寝るの?」
「「それは勿論...」」
「敷布団」「私のベッド」
「「え?」」
途中まで意見が合っていたが、寝る場所に関しては意見が分かれてしまう。
どうやらそちらに関しても昔と変わっていないらしい。
「なな、流石に2人じゃ入れないんじゃない?」
「心配しないで純那ちゃん!私は大丈夫だから!!」
「いや私はってそういう問題じゃ...」
「純那ちゃん...?あれ、前は純那って...」
「そんな事より、雪乃ちゃんも私と寝たいよね?!ねえ!!」
「圧が凄いよななちゃん...」
結局敷布団で眠る事になり、あっという間に消灯前の点呼の時間。
案外ノリノリだった天堂さんとクロディーヌちゃん、それと双葉ちゃんと花柳さんの協力もあり何とか2人の不在を誤魔化す事が出来た。
「はぁ、あんな事もう二度とごめんよ...」
右側のベッドから純那ちゃんの疲れた声が聞こえる。
「そう?私は楽しかったなー」
左側のベッドからは当然ながら、ななちゃんの楽しそうな声が聞こえてくる。
そんな環境に新鮮さを感じながらも、眠気が私を支配し始めた。
「....今日はありがとう、おやすみなさい」
「おやすみなさい、雪乃」
「おやすみなさい、雪乃ちゃん」
既読と送られてきたメッセージからして、もうすぐ華恋がやってくる筈だ。
東京タワーの真下で彼女を待つ時間は、意外と短いらしい。
私はキャリーケースに身を預け、ただライトアップされた東京タワーを見上げる。
そうして思考の世界に入り、真っ先に思い出したのは今朝の記憶だった。
ーー...雪乃に謝らないと。
明確に悪い事をしたという自覚はあった。
雪乃の好意を華恋との約束の為に消費して、こんな時間まで連絡もせずに外出している。まあ雪乃とは連絡先を交換してないからどの道連絡は出来ないんだけど。
けれどもきっと心配している、今頃部屋で1人きりだ。
寂しがってる彼女の姿を思い浮かべ申し訳なくなり、自分の中で一つやらなくてはならない事が生まれた。
「ひかりちゃ〜ん!!」
聞き馴染みのない目覚ましの音は、いつもより早く私の眠気を覚ましてくれた。
そうしてすぐに此処が純那ちゃんとななちゃんの部屋だった事を思い出し、納得感と共に起き上がる。
まず右側を向けば、ほぼ同じタイミングで目覚めたであろう純那ちゃんが眼鏡を掛けていない状態でこちらを見ていた。
「そっか、おはよう雪乃」
「おはよう、純那ちゃん」
挨拶を済ませ今度は左側、ななちゃんのベッドに目を向けーー
「ッ〜!!」
「え?何、急にどうしたの?」
困惑した純那ちゃんの声が聞こえるが、寧ろ聞き返したいくらいだ。
「....ななちゃんっていつもこんな感じ?」
「ええ、そうよ?」
目の前のななちゃんは、大胆に脇やへそを出したまま眠っていた。
ーー刺激が強いですななさんッ!!!
最早眠気は微塵も残っておらず、逆に運動後かと錯覚してしまうくらいには顔が熱い。
「...はえ?」
「何それ超可愛いんですけど」
「雪乃、声漏れてるわよ」
「...あっ」
ななちゃんのお陰で朝から完全に目が覚めてしまったが、それはそれとして気になる事がある。
「そういえば華恋ちゃん達、まだ帰ってきてないのかな?」
少なくとも消灯までには帰ってきていない時点でだいぶ怪しいが、深夜に帰ってきた可能性も少なからず残っている。
「露崎さんに聞いたら分かるんじゃない?」
「そうね、まひるちゃん華恋ちゃん大好きだし」
「...そうなんだ」
「露崎さんもう起きてると思うし、聞きに行きましょう?」
「う、うん」
上手く動揺を隠しながら立ち上がり、まだ電気も付いていない廊下に出る。
5月の朝は程よい涼しさで、廊下に立っても特段寒いとは感じない。
そうして私はまひるちゃんの部屋に向かい、ノックと共に声を掛けた。
「まひるちゃん?もう起きてる?聞きたい事があるんだけど」
「.....」
数秒返事を待ちながら扉の向こう側に意識を集中させるが、中からは物音一つ聞こえてこない。
「...まだ寝てるのかな?」
「それは流石に無いと思うわ、まひるが寝坊した姿なんて見た事ないもの」
純那ちゃんがそう言うのなら、少なくともこの1年間まひるちゃんは規則正しい生活を送っていたのだろう。
「うーん、風邪とかかな?」
ーー風邪...?
あのまひるちゃんに限ってそんな事...と切り捨てそうになった可能性を私は再度拾い上げる。
2人を心配するあまり、夜遅くまで起きてしまったのかもしれない。
それなら寝坊の線も出てくるし、色々と納得が行く。
「...まひるちゃん、開けるね?」
私は一度断りを入れた後に、ゆっくりとドアノブを捻った。
そうして瞳に映り込んできたのは空いたベッドが2つ....
ーーえっ?
「あ、あれ?まひるちゃん?」
「...居ない、わね」
「華恋ちゃんも居ないね...」
想定外の出来事に狼狽えつつも、私達は室内へと入っていく。
2人のベッドはそれぞれ綺麗に整えられており、まひるちゃんがやったのだとすぐに分かった。
私はそのまま右側のベッド、ぬいぐるみからしてまひるちゃんが使用している方に近付き右手をシーツの上に置いた。
「まだあったかい」
「ならキッチン...?でも電気なんて付いて無かったし...」
「...外だったりして」
「外?」
星光館の玄関を開けてすぐ、目的の少女を見つける事が出来た。
「まひるちゃんっ!」
私は玄関前の階段に腰掛けたままのまひるちゃんに抱き付いた、そのまま彼女の顔を見つめた。
「....んん....あれ?」
「なんでこんな所で...寒くない?指先ちょっと冷えてるよ?」
「あ、え?ゆ、雪乃ちゃん?」
素早くまひるちゃんの手を包み込み、そのまま私の胸に持っていく。
「....はえっ?!」
「部屋に行っても見つからなくて...本当、心配したんだからね」
「ご、ごめんね。華恋ちゃん達が心配でつい」
ーー華恋ちゃん...か。
私が若干のモヤモヤを胸に抱えていると、遅れて玄関から純那ちゃんとななちゃんがやってきた。
「良かった」
「うんうん...でも、華恋ちゃんは?」
「あのね、実はまだーー
まひるちゃんの言葉が途中で止まり、ある一方向を向いたまま静止した。
私もその方向を見ると、見覚えのある2人の少女がこちらに向かってきているのが分かった。
「華恋ちゃーん!!!」
「うわっ、まひるちゃん?!」
私の胸から強引に手を引き抜いて走り出して行ったまひるちゃんを見て、私達も慌てて彼女を追い掛ける。
そうして橋の上で止まった2人の少女は、やはり華恋ちゃんとひかりちゃんだった。
「もうっ!貴方達、朝帰りなんて何考えてんの!」
息を切らしながらそう話しかける純那ちゃんに対し、ひかりちゃんは大きめの紙袋からぬいぐるみを取り出した。
ーー....クラゲ?
「お金、無くなった」
「え」
「でも!ちゃんと6時に帰ってきたよ〜!」
「朝6時って意味じゃない!どれだけ皆に迷惑掛けたか分かってるの?」
「掃除当番純那ちゃんが変わってくれたのよ?」
「....んん」
恥ずかしそうに目を逸らす純那ちゃん、かわいい。
「うわぁーっ!ごめぇーん!じゅんじゅん、次から10回分変わるからー!!」
「....全く」
目に涙を溜めながら純那ちゃんに抱き付いた華恋ちゃんは、そのまま数回ぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「それじゃあ2人も無事帰ってきた事だし、ご飯食べよっか!」
「賛成!お腹空いた〜!」
「ばななちゃん、朝ご飯何?」
「お豆腐の味噌汁とー...」
「...お豆腐、嫌い」
ーーひかりちゃん、結構好き嫌いするんだ...
「じゃあ...ばなな味噌汁!」
「「ばなな?!?!」」
先程走ってきた道を戻りながら、私達は会話に花を咲かせる。
たった1日会っていないだけでも、意外と話したい事は溜まるらしい。
「へー、雪乃ちゃん昨日はばなな達と寝たんだー!」
現実と同じく、話題も時系列に沿って朝から夜に。
ななちゃんから共有したそれは、しっかり華恋ちゃんに刺さった様だ。
「色々あったからね、ひかりちゃんも居なかったし」
何気なく放ったその言葉がひかりちゃんに何かを感じさせたらしく、先を歩いていたその足を止めこちらにUターンしてきた。
「....雪乃、ただいま」
「えっ?あ、おかえりなさい」
何故私にだけわざわざ言ってくるのか疑問に思いつつも、素直に挨拶を返す。
「あと独りにしてごめんなさい、寂しかったでしょ」
ーー....ん?
イマイチ会話が噛み合わないまま彼女の顔を見つめていると、何かを期待する様にーー
「っ?!」
「....」
私を強く抱きしめた。