少女☆歌劇レヴュースタァライト-obbligato-   作:RNKI

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第5話「親友よりも」

『今日一緒に寝よっか』

 

ーー何、言ってるの?

 

『私はまひるちゃんを置いていかないって言ったよね』

 

ーーあの言葉は嘘だったの?

 

神楽さんに抱きしめられて満更でもない様な顔を見せる雪乃ちゃん。

それを見るだけで、酷く胸の内が痛んだ。

ーー華恋ちゃんだけじゃなくて、雪乃ちゃんまで...

感じた事の無いドス黒い気持ちが、私の中に渦巻いていた。

 

 

 

「ひかりちゃん?!」

ーー何なのこの子!また私を気絶させる気?!

「....?」

「いやその、"何でみんな驚いてるんだろう"みたいな顔しないで」

純那ちゃんのツッコミに対して、イマイチ何か分かっておらず首を傾げるひかりちゃん。

そうして彼女は何事も無かったかの様に私から離れると、そのまま自室に歩き出した。

ーー何だったんだろう。

「....雪乃ちゃん!」

ひかりちゃんに続いて私も自室に戻ろうとしたその時、背後からまひるちゃんに話し掛けられた。

「どうしたの?」

「....わ、私も!」

「んえ?」

妙に気合の入った声色で私に飛び込んできたまひるちゃんは、そのまま私の胸に顔を埋めた。

ーーちょっ?!

「ま、まひるちゃ!!」

「...流行ってるのかしら?」

ーー星見純那さん、真面目に考察するのはやめてください。

 

 

 

あの後何故かななちゃんにも抱き付かれ、早くも朝から疲労困憊。

とりあえず休憩しようと自室に足を踏み入れた矢先、何故か荷造りをしているひかりちゃんが目に入った。

「え...?」

強烈な不安感が私を襲う。

「雪乃、丁度良かった」

そう言って荷物をまとめる手を止め、こちらに振り返るひかりちゃん。

ーーまさか...

「学校辞めちゃうの?!」

「辞めない」

早とちりでした。

だが、なら何故ひかりちゃんは自分の荷物をまとめているのだろう。

「じゃあどうして荷物まとめてるの?」

「...暫く華恋の部屋で寝る事にしたの」

「え....」

その言葉は先程考えていた物事よりは数段平和だが、それでも私に負の感情を覚えさせるには十分だった。

「...ごめん、私何か嫌な事しちゃったかな」

「そういう訳じゃないの、少しの間だから」

「昨日の事と関係あったりする?」

私の質問に対し、彼女は静かに頷いた。

ーーなら、私がとやかく言う事じゃないかな。

華恋ちゃんに対するひかりちゃんの気持ちは、少なくとも世界で2番目に理解出来ているつもりだ。

だからこそ、その彼女達が話し合った事柄に私が足を踏み入れるのは、本能的に違うと感じてしまう。

「それが華恋ちゃんの為になるんだよね?」

「...なる」

「そっか、なら良かった」

話がひと段落付き自らの机に向かおうとすると、今度はひかりちゃんの方が呼び止めてきた。

「雪乃は良いの?1人で」

「そりゃあ勿論寂しいよ?でもひかりちゃんの方が大事だから」

「....そう」

 

 

 

ーーとは言ったものの...

物音一つしない綺麗な室内に違和感を覚えて数時間、早くも私は限界を迎えそうになっていた。

ーーさ、寂しい!人に会いたい!!

「でもあんな事言った手前、ひかりちゃんに頼るのは...」

あれだけ格好付けておいて、やっぱり寂しいから駄目ですなんて言える訳がない。

だからといってこのまま過ごすのはーー

 

『ええ、別にいつでも来ていいわ』

 

ーー星見純那様!!!

私は急いで荷物をまとめ、そのまま純那ちゃんとななちゃんの部屋に直行する。

「ごめん、ちょっと入って良いかな」

驚かせない程度の大きさのノックと共に、私は中からの返事を待つ。

「...雪乃?別に良いわよ」

室内から聞こえる壁越しの声は純那ちゃんのみで、どうやら中にななちゃんは居ない様だ。

「入るね」

そう合図して扉を開けると、椅子に座ったまま上半身をこちらに向けた純那ちゃんの姿があった。

「その荷物、どうしたの?」

「実は...」

 

「そう、神楽さんが...そういう事なら平気よ、前にも言ったけど貴方とは色々話したいと思っていたから」

「あ、ありがとう!」

「大袈裟ね」

ーーやっぱり優しい...イケメン...

「えへへ、でもななちゃんの方は大丈夫かな?」

「なななら喜ぶに決まってるわ、彼女いつも貴方の話を....」

「あれ?雪乃ちゃんだ!」

個人的に興味のあるその言葉を遮る様に、話題の彼女が帰ってきた。

「お邪魔してます...というよりお邪魔させてください...暫く」

「えっ?」

「実は神楽さんが...」

 

「という訳で、私達の部屋に来たのよね?」

ーーまとめ方が上手い!流石は学級委員長!!

完璧に整理された経緯を聞いたななちゃんは、嬉しそうに笑顔を見せて私の横に座ってきた。

「私は勿論OKよ、一緒に寝てくれるならね?」

そう言って体を密着させてくるななちゃん。

ーーちょっ!

心地良い暖かさと柔らかさが同時に襲ってきて、身体中の体温が一気に上昇するのが分かる。

ーー...頼んでる側だし断れないよね。

「た、偶になら...」

「うふふっ、決まりね!」

「こんなにテンションが高いなな、久しぶりに見たわ...」

昨日お泊まりした時は何だかずっと考え込んでいた様子だったのに、今日は物凄く楽しそうだ。

ーーまあでもななちゃんが楽しそうならそれでいいかな!

「........よぉ....」

「ん?」

私達の話がひと段落ついた時、何処かから必死そうな声が聞こえてきた。

「この声、まひるちゃん?」

「だとしたら結構珍しいわね、覗いてみる?」

「うん」

私達が廊下に出ると同時に、華恋ちゃん達の部屋の扉が開いた。

そしてそこから出てきたのはーー

「なんだ華恋ちゃ...えっまひるちゃん?!」

華恋ちゃんにへばりついたまひるちゃんだった。

「あら〜、朝から練習熱心ね!」

「う、羨ましい...」

「いや絶対違うでしょあれ!あと雪乃は羨ましがらない!!」

純那ちゃんの連続したツッコミが入った所で、まひるちゃんは私達に気付いたのか華恋ちゃんから離れた。

いや、正確には....私?

「あっ!雪乃ちゃん!!」

「何があったの?」

「神楽さんが私達の部屋に住むって!!」

ーー嘘、相談してなかったの?!

私は驚いて華恋ちゃんの方を向くと、彼女は少し恥ずかしそうに頭を掻いた。

「あはは、実は私も今知ったんだよね〜」

ーーひかりさん?!?!

てっきり昨日華恋ちゃんと相談して決めたのだとばかり思っていたが、どうやら本当に思いつきだったらしい。

「あら〜...」

これには流石のななちゃんも若干呆れた声を出している。

私達が各々困惑していると、その張本人がゆっくりと華恋ちゃん達の部屋から出てきた。

「...あの〜、ひかりちゃん?」

「どうしたの」

「こっちが聞きたいわよ、どうしていきなり...」

疲れた様子で頭に手を当てる純那ちゃんに同情しながらも、現在ひかりちゃんの真意を知っているのは私だけなので何とかやってみる事にする。

「やっぱり幼馴染だから一緒の部屋が良いって思ったんじゃないかな...?!」

「あっ、だから雪乃ちゃんもこっちの部屋に来たのね!」

ななちゃんに変な勘違いを与えてしまったが、この際仕方ない。

「そ、そんな所」

 

 

 

「....また、幼馴染」

 

 

 

「今日はここまでね」

クロディーヌちゃんの一言で、私と双葉ちゃんは同時に尻もちをついた。

ーーこれが学年2位...凄すぎる...!

「つ、疲れたぁ!」

「はぁ....キツー!」

どうやら着いていくので精一杯だったのは双葉ちゃんも同じだった様で、私達は顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。

「お疲れ様」

「はぁ...クロディーヌちゃんは凄いね〜...」

「ふ、ふん、これくらい当然よ」

「クロ子、照れてんのか?」

「なっ!双葉!」

ーー照れ顔可愛い...!そして意地悪な顔してる双葉ちゃんも可愛い...!

そんな2人の顔に思わず見惚れていると、視線を感じ取ったのかクロディーヌちゃんがこちらに目線を向けてきた。

「どうかしたの?」

「え、あー、その...」

「言いたい事あんなら言えよ、同盟なんだからさ」

「同盟...?」

「3人でトップスタァになろう同盟!みたいな」

「そ、そうだね!私達同盟だもんね!」

「...で雪乃、結局なんだったの?」

同盟の話で逸らせる筈もなく、私は誤魔化す事を諦めた。

「それは....」

「それは?」

「....2人の顔が良過ぎて見惚れてましたっ!!」

「「.....」」

「すみませんでした...」

謝りながら頭を上げると、2人は私の想像とは違う反応を見せていた。

「....良くそんな事堂々と言えるわね...悪い気はしないけど」

「....ま、まぁありがとな」

ーーんん??

 

 

 

昨日に引き続き、私は純那ちゃんとななちゃんの部屋で生活していた。

自身の布団を敷き終えて一息吐くと、それをベッドの上から見ていた純那ちゃんが声を掛けてくる。

「雪乃ってもしかして綺麗好き?」

「んーと、まぁ...そうなのかも」

私の誤魔化した様な言い方に違和感を覚えた様子の彼女は、少し考える仕草を見せた。

「....露崎さんね?」

「え、何で分かったの?」

まさか言い当てられるとは思っておらず、動揺をきっかけに聞き返してしまう。

その反応が面白かったのか、彼女は静かに笑みを浮かべた。

「ふふっ、露崎さんも綺麗好きだから」

「まあ実際その通りだよ、まひるちゃんには色々お世話されたから」

「変わってないのね、露崎さん」

「変わってない?」

「うん、此処でも毎日華恋のお世話してるもの」

ーー華恋ちゃんのお世話...か。

「...へー、いっつも?」

ただ単に聞き返したつもりが、何故か声が低くなってしまった。

「嫉妬してるの?」

「...それを聞くのは意地悪だよ〜」

私は自分の敷いたベッドに寝転がり、そのまま顔だけを純那ちゃんの方向に向ける。

そうして何か話題を振ろうと口を開いた瞬間、部屋の扉が開きななちゃんが入ってきた。

「あれ?雪乃ちゃんもう眠いの?」

「ううん、ちょっと寝転がってただけ」

「へー....っ!!」

何故か私の方を見て顔を赤くしたななちゃんは、早足で自身のベッドまで歩いていく。

「どうしたのなな?」

「な、何でもないわ!本当に!!」

明らかに何でもなくないその様子を見て、純那ちゃんは目を細めた。

「....あっ、雪乃。服はだけてるわ」

「本当だ...っていっても別に誰も気にしないよね」

「そそそそそそそうね!!私はそのままの方が良いと思うわ!!!!ばなナイス!!!!!」

「.....直すね?ななちゃん」

 

 

 

ーー今日がオーディション4日目...私の予想通りならだけど。

日が変わって月曜日、純那ちゃん達の部屋で朝の支度をしながらそんな事を考えていた。

自室以外で服を着替えるのは初めてだが、こういう事は気にしても仕方がない。

だからそう、別の事を意識しない様に...

「....」

意識しない様に.....っ

「...ななちゃん?あんまり見ないで欲しいんだけど...」

「えっ?!あ!え?!へ?!」

「なな、動揺し過ぎよ」

私の着替えを凝視するななちゃんを何とか無視しようと心掛けていたが、結局声に出してしまった。

こうなったら思い切り揶揄ってみよう、そうしよう。

「そんなに面白い物じゃないと思うけど...見たいの?」

「〜〜〜ッ!」

動揺を隠せないななちゃんは、声にならない声を上げてそのまま黙り込んでしまう。

ーーかわいい。

それを見て溜息を吐いた純那ちゃんは、腰掛けていた自らのベッドから立ち上がった。

「まだちょっと早いけど...まひる達の様子も気になるし早めに行ってみない?」

「そ、そうね!!」

上手く誤魔化された気もするが、実際まひるちゃん達がどうなったかは気になる所でもある。

私達の様に上手くやれているだろうか、ひかりちゃんなんかはすぐに部屋を汚してしまうし心配だ。

私は素早く着替えを終わらせ、鏡の前で全身を確認する。

ーーよし、多分大丈夫。

そうしていよいよ出掛けようとした矢先ーー

「雪乃ちゃん!!」

「っ?!」

突如として扉が乱暴に開かれ、その勢いと共にまひるちゃんが私の胸に飛び込んできた。

咄嗟に彼女の背中に腕を回そうとするが、その異常さに気付きその手は宙に停止した。

「雪乃ちゃん雪乃ちゃん雪乃ちゃん雪乃ちゃん雪乃ちゃん雪乃ちゃん雪乃ちゃん雪乃ちゃん雪乃ちゃん雪乃ちゃん雪乃ちゃん」

戯言の様にひたすら私の名前を呼び続けるまひるちゃんを見て、密着され彼女の体温を感じているのにも関わらず背筋が冷たくなった。

「ま、まひるちゃん?」

「露崎さん、一体どうしたの?」

慌てて2人が駆け寄ってくるが、依然としてまひるちゃんの様子は変わらない。

ーー...前にも...こんな...

あやふやな記憶を頼りに、私は何とか彼女を落ち着かせようと頭を撫でてみる。

「大丈夫だよ、私なら此処に居るから」

すると彼女の体から強張りが抜け、こちらに体重を預けてきた。

ーー何とかなった...でも。

「....って時間!もうそろそろ行かないと」

「そうだね、まひるちゃん、行けそう?」

「....うん」

 

 

 

ななちゃんの後ろを追ってレッスン室に入ると玄関側には双葉ちゃんと花柳さん、そしてその中央には人影が2つあった。

ーー華恋ちゃんとひかりちゃん?

「開けたらもう居たんだ」

花柳さんを支えた状態の双葉ちゃんが、私達の困惑を感じ取ったのか説明の言葉を添えてくれる。

「あっ、おはよう!」

「...おはよう」

2人は私達を見つけると柔軟を中断し、揃ってこちらに向き直った。

「あの華恋が....日直でも無いのに?!」

「こんな華恋ちゃん初めて...」

とても失礼な事を言っている様に思える2人の言葉を信じるならば、この光景はそれ程までに衝撃的らしい。

ーー何かあったのかな?やっぱり...

「雪乃」

私の名前を呼ぶ声によって意識を戻すと、目の前には声の主であるひかりちゃんが立っていた。

「どうかしたの?」

「この後、良い?」

瞬間、未だ私に抱き付いたままのまひるちゃんが一層強く体を密着させた。

ーーどうしたんだろう...?

「うん、私は全然平気だけど...」

「なら後で」

 

 

 

何というか、華恋ちゃんのやる気が凄かった。

レッスン中は何だかきらめいて見えたし、一つ一つの動作が機敏で物凄くカッコいい。

最初は私が入学したばかりで華恋ちゃんについてそこまで知らない事による勘違いだと思っていたが、周囲の騒めきを見る限り皆同意見の様だった。

そんな風に先のレッスンを振り返りつつ、私は立ち位置と体重を預ける位置を変えた。

ーー...あっ。

いつもの場所で待つ事数分、目的の相手である神楽ひかりがやってきた。

最も用事があると言ったのは彼女の方なので、何だかおかしな気分だ。

「ごめん、遅れた」

「平気平気」

彼女自身もそれを感じ取ったのか、第一声に謝罪を選択していた。

「それでひかりちゃん、用事って何?」

「...昨日の事、やっぱりちゃんと話すべきだと思って」

ーー昨日の事...

昨日華恋ちゃんと何があったのか、それは確かに気になるが自ら聞こうとする程配慮が出来ない人間では無い。

「無理に話さなくても良いよ、何か事情があったんだよね?」

「それは....でもやっぱり」

とその時、突如として音楽が流れ始めた。

ーーこれは...?!

音の出所は勿論ひかりちゃんのスマホ、恐らくオーディションの通知だろう。

「...絶対話すから」

「うん、あの...怪我とかしないでね」

「....あと」

真剣な眼差しを私に向けたひかりちゃんが、一呼吸置いてから口を開いた。

 

「雪乃は絶対参加しちゃ駄目だから」

 

そう言われてようやく、その音楽が私のスマホからも流れていた事に気が付いた。

 

 

 

「雪乃ちゃん」

エレベーターを目指し早足で廊下を歩いていると、突然背後から声を掛けられた。

すっかり聞き慣れたその声が、今は何故だか恐ろしく感じてしまう。

「どうかしたの?まひるちゃん」

私が聞き返しても尚まひるちゃんは俯いたままで、その表情を読み取る事は出来ない。

「雪乃ちゃんは、ずっと一緒に居てくれるって言ってくれたよね」

「...うん」

得体の知れない緊張感、感じたくないその感情が私を支配する。

ーーまひるちゃん....なの?

吹っ切れた様にも見えるその表情は、一切変わらないまま私を見つめている。

「待ってて、私が」

「あれ?雪乃ちゃんとまひるちゃん?」

まひるちゃんの言葉を遮るその声の主。

「ばななちゃん...」

表情を歪めたまひるちゃんに対し、ななちゃんはいつものにこやかな表情を保ったままだ。

その異様な光景に、私は圧倒されてしまう。

「昨日はごめんね、寝相悪くて」

「ッ!!!.....そっか」

ななちゃんの言葉を聞いた途端、まひるちゃんは目を見開いてそのまま俯いた。

ーー何が...

おかしい、何かがおかしい。

これは明らかにーー

 

「雪乃ちゃん、もうちょっとだけ我慢してね」

 

まひるちゃんの発した言葉が、この長い廊下に響き渡った様な気がした。

 

 

 

「ッ〜!!」

声にならない悲鳴を上げながら、私は観客席に落下する。

3度目になっても全く慣れないそれは、あまりにも無い痛みのせいだろうか。

隣を見るとやはりキリンが立っており、中央の舞台はまだ暗い。

「オーディション、参加しますか?」

「また...前も言ったけど、私は参加しないです」

「分かります...でも」

その瞬間、舞台が光に照らされた。

「星屑溢れるステージに、可憐に咲かせる愛の華。生まれ変わった私を纏いキラめく舞台に飛び込み参上!99期生!愛城華恋!!みんなをスタァライト、しちゃいます!」

華恋ちゃんの口上が終わると、再び舞台は闇に包まれる。

そしてーー

「えっ?!?!」

ーーまひるちゃん...?

 

「キラめく舞台が大好きだけど、キラめくあなたはもっと好き、まわるまわるデュエットで、ずっとふたりで踊れたら!99期生、露崎まひる!ずっとそばにいたのは私なんだよ...」

 

三度ライトが消えると同時、舞台が動き始める。

そんな中でも、私は未だ心の整理が付いていなかった。

「まひるちゃんが....どうして?!」

「トップスタァになりたい、大好きなあの子の為に」

「それって...」

 

 

 

「うぅ、最近華恋ちゃんが私に構ってくれないよー...」

「大丈夫だよまひるちゃん、まひるちゃんには私が居るでしょ?私は絶対に離れないから」

「本当?...ずっと一緒に居てくれる?!」

「うん、一番大切な...君だからね」

「....ッ大好き!!大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き!!!.....愛してる」

 

「ま、まひるちゃん?」

「これが本当の私...!華恋ちゃんもほら、私と一緒に運命の舞台を!!」

 

「ええっ....」

舞台上の華恋ちゃんとこんなにも離れているのに気持ちが一致した気がした。

一人二役をするまひるちゃん、そしてその内一方は私....

ーーいやいや、私あんなにカッコいい事言ってないし!!

いつの間にか球場へと遷移した舞台装置で戦い始める華恋ちゃんとまひるちゃん。

が先手を取ったまひるちゃんの攻撃により、華恋ちゃんは文字通り吹き飛ばされて穴へと落ちていってしまう。

それをまひるちゃんも追いかけていき、舞台には誰も居なくなってしまった。

「あんなまひるちゃん、初めて...」

「....参加、しますか?」

「ッ!」

先程と全く同じ質問だが、それに対する精神状態は大きく異なっていた。

まひるちゃんがあそこまで私を想っていたなんて、今の今まで全く気付かなかった。

ーーこの機会を逃したら、この先ずっと分かり合えない...気がする。

「わ、たしは....」

ーー参加....参加....!

 

『雪乃は参加しちゃ駄目だから』

 

ひかりちゃんの言葉が、ふと脳裏に蘇った。

オーディションに参加し負けてしまったら、一番大切なものを奪われてしまう。

「....参加はしない....でもッ!!」

柵に足を掛け、そのまま体を前に倒す。

「これが私の在り方だ!!!」

私の体は、またしても宙に浮いていた。

 

 

「分かります」

 

 

 

「まひるちゃん!!」

私の声が届いたのか、鍔迫り合いをしていた2人はこちらに目線を向けてくれた。

「雪乃ちゃん?!」

「....」

驚きを声に出す華恋ちゃんと、無言を貫くまひるちゃん。

いつからか手に持っていた剣を強く握り締め、まひるちゃんを見つめる。

「ごめん華恋ちゃん!まひるちゃん貸してッ!!」

私は全速力でまひるちゃんにタックルすると、そのまま彼女を持ち上げて走り去る。

「ッ?!」

驚いた表情を見せたまひるちゃんは急いで身体を捻り、私達はそのまま舞台に倒れ込んだ。

「くっ....!」

今の私の衣装は制服に上掛けが乗っているだけの状態、動きの俊敏性は彼女の方が上だろう。

ーーだから勝ち負けは関係無い、参加はしてないから...!

体勢を整えたまひるちゃんと向き合って十数秒、私は意を決して口を開いた。

「まひるちゃんも参加してたんだね、このオーディションに」

「....雪乃ちゃん」

底冷えする様な声に、改めて身が引き締まる。

「何?...まひるちゃん」

「雪乃ちゃんも私の邪魔をするの?」

「えっ?」

「それはひかりちゃんのせい?それとも...ばななちゃんのせい?一緒に寝たんだもんね、そうだよね」

「ま、まひるちゃん?」

「....私じゃ駄目なの?」

「何を...っ」

「はあああああ!!!!」

突然メイスを振り翳してきたまひるちゃんに対し、私は何とか身体を後方へ下げる。

「....へ?」

まひるちゃんがメイスを叩きつけた場所を見ると、地面が割れて粉々になっている。

ーーや、やばっ!!あんなの当たったらヤバいでしょ!!

私は情けなくも逃げ出す事を選択した瞬間ーー

「まずッ

 

 

 

あの日、私は眠っている雪乃ちゃんにキスをした。

勿論この事は内緒だし、話すつもりはない。

ーー怖いから。

雪乃ちゃんに嫌われてしまったら、私はきっとおかしくなってしまう。

私はずるい人間だ。

 

雪乃ちゃんという人間を失った私に、きらめきを与えてくれた華恋ちゃん。

私は居場所を求めて、華恋ちゃんに惹かれていった。

私はずるい人間だ。

 

華恋ちゃんは幼馴染のひかりちゃんを優先する。

それはきっと、私よりも関係性が深いからだろう。

ーーじゃあ雪乃ちゃんは?

 

「私はまひるちゃんを置いていかないって言ったよね」

 

置いていかないって言ったのに。

ひかりちゃんに抱きつかれて嬉しそうな雪乃ちゃん、ばななちゃんと同じベッドで眠る雪乃ちゃん。

そんな想像をするだけでとても気持ち悪くなる。

私とは一緒に寝てくれなかったのに、ばななちゃんとは一緒に寝るの?

 

ーー私よりもばななちゃんの方が好きなの?!

 

「親友よりも幼馴染の方が良いの?!?」

「ッ!」

間一髪でメイスを食い止め、そのまま剣を逸らして体勢を立て直す。

「...雪乃?!」

ーーこの声...ひかりちゃん?!

どうやら私が吹き飛ばされて辿り着いたのは、ひかりちゃん達のレヴューステージだったらしい。

「今は私だよっ!雪乃ちゃん!!」

「痛ッ!!」

一瞬意識が向こうに行ってしまったせいか、間一髪ボタンは守れたが腹部に直撃してしまう。

勢いを殺す為に転がるが、だからといって痛みが消える訳では無い。

ーー痛たた...

「ご、ごめん雪乃ちゃん!!」

「へ?」

先程の態度からは打って変わって泣きそうな顔のまひるちゃんが迫ってくる。

「ごめんね!痛くない?!ちょっと見せてっ!」

「まひるちゃん...?一応今、オーディション中なんだけど」

「....!そ、そっか」

芯の部分にある優しさは感じ取れたが今はオーディションの真っ最中、あくまでも真剣勝負だ。

私達は互いに距離を取り、まひるちゃんは再び武器を構える。

私はオーディションに参加していないので、別に上掛けを落とそうとは思っていない。

もし落としてしまった場合、それこそ華恋ちゃんの様に飛び入り参加になってしまうからだ。

ーーそしてそれは逆も然り...

だからこそ私が今出来るのは、まひるちゃんと話す事。

「....まひるちゃん」

この学校に来て一つ気付いた事がある。

貴方の目に映るのは、私だけでは無かった。

ーーまひるちゃんの気持ちが嫉妬なら、こっちだって...!

 

 

 

息を整えた雪乃ちゃんは、突き刺さった剣に寄り掛かりながら口を開いた。

「まひるちゃんは華恋ちゃんの事、どう思ってるの?」

「っ?!そ、それは...」

一番聞かれたくなかった、私の核心。

「まひるちゃんは私の事見てって言ってたけど、まひるちゃんは他の子を見て良いんだ?」

ーー嫌、やめて...!!

「そんなの....」

「っ....」

「ずるいよ、まひるちゃん」

 

そう、私はずるい人間だ。

 

 

 

キツイ言葉を掛けたくは無かったが、この言葉自体はしっかりとした本心だ。

まひるちゃんが華恋ちゃんに対して好意を抱いていると思うだけで、無性に胸が苦しくなる。

だからこそ、同じ想いを持っている筈の彼女にこの言葉は届く。

 

「...ごめんなさい....っ!ぐすっ....ごめんなさい....」

メイスから手を離しへたり込んだまひるちゃんの目からは、大粒の涙が流れ出している。

私は彼女に近付くと、そのまま優しく抱きしめた。

「私....っ、雪乃ちゃんが居なくなって...華恋ちゃんに...!....でも、でも!私はっ!!」

「私だって嫉妬するんだよ...?まひるちゃん」

「....私、我儘だった...運命の舞台に、雪乃ちゃんだけじゃなくて華恋ちゃんも居たらって...!」

「ふーん...」

柄にもなく、私の中に悪戯心が生まれた。

「私と華恋ちゃん、どっちが大事なの?」

自分でもいやらしい質問だと感じてしまうが、私を嫉妬させるまひるちゃんが悪い。

「...それは...」

ーーやっぱり即答してはくれないんだ。

「そっか」

「あっ、でもッ!」

その瞬間私は背後から気配を感じ、急いでまひるちゃんから手を離す。

ーー来てくれた...

「っ....」

まひるちゃんが寂しそうな顔を向けてくるが、これは私の仕事ではない。

ーー悔しいけど、私じゃ気付かせられない事もあるから。

「後はお願いね、華恋ちゃん!」

そう言って、私は舞台から飛び降りた。

 

 

 

「舞台を、降りるんですか?」

「っ?!」

 

「雪乃ッ!!!」

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