少女☆歌劇レヴュースタァライト-obbligato-   作:RNKI

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第7話「大場なな」

「ななちゃん、いっしょにあそぼ!」

これは、初恋の記憶?

それとももっと前?

ともかくの事実は、定かではない程前から大好きだという事。

私の大切で大好きな幼馴染。

この関係より上に行ける人間は、私だけだ。

 

 

 

「ゆ、雪乃はん!うち捨てて帰りはるなんて...裏切りもん!!」

「うぅ...あたしとの関係は遊びだったって事かよ?!」

 

「....元の部屋に戻るだけなんですが」

香子ちゃんと双葉ちゃんが無事仲直りに成功し、双葉ちゃんが部屋に戻ってきた。

つまり、自ずと私の居場所は無くなる...と思ってたんだけど。

ーー何故か2人に引き止められています...

「そ、そもそも私!自分の部屋あるから!」

「でも使ってないだろ?」

双葉ちゃんの素早い返しに対応出来ず、私は大ダメージを受けてしまう。

「うっ....い、いや!2人の間に挟まるのは何か申し訳ないというか何というか...」

ーー幼馴染の間に挟まる女なんて需要ゼロだよ!!!

「うちらがええって言うてますのに?」

そう言って可愛らしく顔を傾ける香子ちゃん。

「ぐっ....」

「あたしらと同じ部屋、そんなに嫌だったのか..?」

次いで寂しそうな顔を見せる双葉ちゃん。

「ぐぐっ....」

精神的ダメージがいよいよ耐えられないラインに近付いてきた為、私は頭をフル回転させてこの場を逃れられる言い訳を考え始める。

別に泣く程嫌という訳でも無いしフラットな気持ちなら確実に受け入れているのだが、それはそれとしてやはり2人への申し訳なさの方が勝ってしまっている。

ーー何か...何か....あっ!!

「香子ちゃん!!」

「へ?」

「元々私がこの部屋に来たのって、双葉ちゃんを嫉妬させよう作戦の為だったんだよね?」

「はぁ?何だそれ」

「え、あ!ちょお雪乃はん!!」

ーーやっぱり伝えてなかったんだ...行ける!

「双葉はんを嫉妬させよう会議の始まりや〜、ってね」

自分で言ってて恥ずかしくなるレベルの京都弁だったが、どうやらそこを気に留める人物は居なかったらしい。

「香子ぉ〜?」

「うぐぐぐぐぐ、そ、そもそもぉ!!」

ーーよし、今のうちに...ごめん香子ちゃん!

そうして言い合いを始めた2人を横目に、私は部屋から気付かれない様に脱出した。

 

 

 

「という事で、もう一度お邪魔します!」

最早何度目か分からないお邪魔しますを伝えると、ななちゃんは少し時間を置いてから口を開いた。

「...デートの件は継続よね?」

「勿論です」

「ならよろしい」

謎のキャラになっているななちゃんからは無事許しを得られ、残るは純那ちゃんのみ。

「断る選択肢は無いわ、ただ...」

「ただ...?」

その濁した様な言い方に、一抹の不安を感じてしまう。

「...そうね、明日は一日私と過ごさない?」

「....へ?」

「えっ?!」

「前にも言った通り、私は貴方の事を知りたいの」

「...は、はひっ」

ーーそんな真剣な顔で近付かれるとこま顔良すぎ!!!!

「純那ちゃん???」

 

 

 

という訳で、本日は純那ちゃんと手を繋ぎながら登校しています。

 

ーーいやいやいや、え????本当に??????

隣を見れば、少し嬉しそうな顔の純那ちゃん。大変可愛い。

ともあれ純那ちゃんの誘いを受けた私は、動揺しつつも何とか正気を保てていた。

登校中から2人きりな所を見るに、割と本格的なものらしい。

ーー....そういえば。

今日の授業は午前中のみ、午後からは完全にフリーになる。

ーーもしかしてここまで計算して今日に...?いやいや、まさか...

「午後も2人で出掛けましょ?行きたい所があるの」

「あ、うん。全然大丈夫だよ」

ーー...まさかね。

あまりの用意周到さに若干恐怖を抱きながらも、私達は足並みを揃えて歩いていく。

考えてみれば、こうして純那ちゃんと2人きりで過ごすのは初めてかもしれない。

勿論何度か2人きりになったタイミングはあったが、それでもここまでの長時間では無かった。

だから、至近距離で彼女の横顔を拝む機会も初めてな訳で。

ーー...綺麗だな...

「....へっ?!」

突然、純那ちゃんが素っ頓狂な声を上げた。

「えっ?」

「きゅ、急に変な事言わないでよ!」

顔を赤らめた彼女を見て、私は瞬時に自分の行いを察する事が出来た。

ーーもしかしなくても声に出ちゃってた?!

「ご、ごめん!つい本音が」

「本音?!」

 

 

 

「星見、なんで雪乃と手繋いでんだ...?」

ーーその困惑、痛い程分かります。

「雪乃はんも罪な人やなぁ、星見はんにまで手出しはるなんて」

「ご、誤解だって!!っていうか私そんな悪い女じゃないから!!」

「え?」

「え?」

「そうよ、私はただ純粋に雪乃と一緒に居たいだけなの」

「言葉が足りて無さ過ぎますよ純那さん?!」

「へぇ....ほんまに浮気もんやなぁ」

途端に声のトーンが下がる香子ちゃんに、私は身震いする。

「ひっ....な、ななちゃん助けて...」

どうしようもなくなった私は、頼れる幼馴染に助けを求めた。

「純那ちゃん、雪乃ちゃんの事が知りたいから今日一日一緒に過ごすんだって」

ーー流石ななちゃん分かりやすい!

「えーっ!良いなぁ〜!」

と、ここで首を突っ込んできたのは華恋ちゃん。

ーーまあ純那ちゃんみたいな人と過ごせるのは羨ま「私も雪乃ちゃんとデートしたい〜!」????????

変化球をもろに喰らってしまい、一瞬で頭が真っ白になる。

確かに華恋ちゃんとはあまり話せてないし、私の知らない1年間、特にまひるちゃんの様子を教えて欲しいという思いはある。

私は思考の流れでまひるちゃんに目を向けると、彼女はぶつぶつと何かを呟き続けていた。

「......かれゆきゆきかれかれゆきゆきかれかれゆきゆきかれ」

ーーま、まひるちゃーん?!帰ってきてーっ!!!

 

 

 

「今日は付き合ってくれてありがとう、雪乃」

夕日に照らされた純那ちゃんは、それに負けないくらい眩しい笑顔を見せてきた。

午前の授業を終え、そのまま2人でショッピングをする事数時間。

公園のベンチに座りながら、私は今日の出来事を振り返っていた。

 

正直.....

ーー本当に楽しかったです!!!!

単純に知識がある為雑談しているだけでも楽しく、その上気遣いも出来る完璧人間ときた。

これでつまらなかったと言える程、私の感情は尖っていなかった。

「こちらこそ、色んな場所に連れていってもらって...」

隅々まで計算し尽くされた、所謂デートルートは楽しさを通り越し最早罪悪感を覚える程。

「私なんかの為にここまで準備してくれて、本当にありがとう」

だからこそ、感謝の言葉は何の恥じらいもなく口に出す事が出来た。

暖かい風が吹き付ける。

「....雪乃はどうして、舞台に飛び込んできたの?」

「えっ?」

「2回目のオーディション...真っ先に向かってきたじゃない」

心配だったから、そう答えるのは簡単だ。

けど....

 

『舞台少女として、一番大切な物を失う』

 

ひかりちゃんとの事は話せない。

でも、嘘は吐きたくない。

「心配だったんだ、純那ちゃんが」

「心配って?」

「舞台装置が倒れてきたでしょ?あの時、咄嗟に飛び込んじゃって...気が付いたらオーディションが終わってたんだ」

これは紛れもない真実だ。

実際私は2人を想って飛び込んだし、目が覚めたのも決着が付いてからだった。

「....ありがとう」

「でも気絶したまま2人の勝負を見逃すなんて、私って本当ダサいよね〜....あはは」

「雪乃」

自虐した私を咎めるかの様に、純那ちゃんの鋭い声が耳に入ってきた。

「そうやって自分を下げるの、辞めてくれない?」

怒りの感情が混じったその言葉。

「....ごめん」

 

『煌めきが足りないとオーディションには選ばれない.....それは確か』

 

無意識にあの言葉を受け入れていたのだろう。

同じ日に転校してきたひかりちゃんはオーディションに呼ばれたのに、私は呼ばれていなかった。

その事実によって、私は私を下げていた。

「あっ違うの、別にそういう叱る意図があった訳じゃなくて」

すぐにそれをフォローするかの様な言葉を被せられる点が、彼女の優しさなのだろう。

「ううん、私も良くなかったから」

「....その....貴方が思っている以上に、貴方は凄いわ」

「あ...りがとう」

しかしそう言われてもなお、私は感謝の言葉を何とか絞り出す事しか出来なかった。

「....私は」

その時、聞き覚えのある音楽が純那ちゃんのスマホから流れた。

「純那ちゃん...!」

「....ごめんなさい、行かないと」

「大丈夫だよ、頑張ってね」

「ええ」

眼鏡のフレームから見える彼女の瞳は、既に舞台少女のモノだった。

ーー...羨ましいな。

 

 

 

「.....っ」

最早落下の衝撃にも慣れ、私はまだ闇に包まれた舞台に目を向けた。

ーー今日の組み合わせは...

同時進行でオーディションが行われているのなら、これから私の目の前で始まるレヴューには誰が現れても不思議じゃない。

「目を背けたい事実」

「?!」

隣を見れば、いつの間にかキリンが立っていた。

「分かります」

その瞬間、舞台に光が灯った。

 

 

「強く掲げた手のひらすり抜け奈落に落としたあの日の誓い、再び登る運命の舞台、例え悲劇で終わるとしても!99期生!神楽ひかり!!全ては、スタァライトのために!!」

 

口上と共に舞台に現れたひかりちゃん、そして彼女と相対するのは....

 

「....なな....ちゃん?」

 

舞台上にはななちゃんとひかりちゃんの姿。

ぐちゃぐちゃになった感情が、私こ心を支配する。

ーーどうして、なんでななちゃんが....?!

「幼馴染、特別な存在」

舞台の上で剣を構えるななちゃんは、今まで見た事の無い冷たい表情をしていた。

ーーあんな顔...するなんて...

「信じられませんか?大場ななさんが」

「...だって....だって、そもそもななちゃんは」

「トップスタァを目指している、ただそれだけの事です」

ななちゃんは俳優育成科じゃなくて舞台創造科じゃないか、という言葉はキリンの一言で掻き消された。

ーー...そうだ!オーディションは?!

慌てて舞台上を見ると、わずか一瞬で戦況が理解出来てしまった。

建造物の上で剣を交える2人。

ひかりちゃんが、明らかに劣勢だ。

武器のリーチ差は勿論、何よりななちゃんの戦闘には一切の無駄が感じられない。

まるで何年も、何十年も戦って身につけた様な完璧過ぎる動き。

「ひ、ひかりちゃん!!」

危ない、という意志を込めて私は精一杯彼女の名前を叫んだ。

しかしここからでは距離が遠すぎるのか、声は届いてくれない。

押され加減の彼女の後ろにもう足場は無く、踏み外したら無傷では済まないだろう。

ーー危ない...!

「神楽ひかりさんのピンチ、今は愛城華恋さんも居ませんねえ」

キリンの意図はすぐに理解出来た。

そこまでして、私を舞台に上げたいのか。

 

ーーどうして?

 

その疑問を胸に、私はもう一度舞台に目を向けた。

全く身体の芯がブレないななちゃんに対し、ふらつきながらも何とか攻めを継続するひかりちゃん。

このままでは、ひかりちゃんが負けてしまう。

けど....ななちゃんにも負けて欲しくない。

2つの矛盾した感情がぶつかり合い、私は立ち尽くす事しか出来ずにいた。

「あなたは、どうしますか?冬咲雪乃さん」

 

ーーひかりちゃんか、ななちゃんか...

 

『...私だったとしても、飛び入りした?』

 

『勿論、ひかりちゃんも大切な人だから』

 

「!!」

あの言葉を、嘘にしたくない。

ひかりちゃんは私を何度も心配してくれていた、そんな彼女に対して裏切る様な真似は....っ!

 

「....ごめん、ななちゃん」

そう言い残し、私は舞台へと飛び込んだ。

 

 

 

「悲しみ、別れ、挫折...舞台少女を苦しめる全てのものから、私の再演で守ってあげるッ!」

「っ!!」

ばななに弾き飛ばされ、私は舞台セットに叩きつけられる。

ーー....負けられない....約束したんだから...!

「...再演って何?」

「?!」

聞き馴染みのある声が響き、ななは慌てた様子で周囲を見回す。

そして同様に、私の思考も掻き乱された。

「....雪乃?」

「ごめんっ!」

「えっ?!」

視界に入ってきた彼女は、素早く私を抱えて走り出した。

「大丈夫?!ひかりちゃん?!」

「...ど、どうして?!」

「言ったでしょ!ひかりちゃんの為なら飛び込めるって!!」

「ッ!!」

その真っ直ぐな瞳に、目が奪われる。

心のどこかでは、信じつつも実際にはやらないだろうと思っていた。

ーーやっぱり、雪乃は...

「待って!!」

私達に向けて、ななの必死な声が突き刺さる。

雪乃は私を地面に下ろすと、静かに振り向いた。

「....ななちゃん」

2人が向き合って、数秒の沈黙。

「ど、どうして雪乃ちゃんが」

私と戦っていた時とは全く違う、焦りで顔を歪ませたななの顔。

一体どちらが本心なのか、浮かんだ疑問はすぐに消えた。

「...ひかりちゃんが、心配だったから」

その言葉を聞いた途端、ななは底冷えするような顔を見せた。

鋭い瞳で無表情。

ーー...どっちも、本心...

「どうして私じゃないの?」

「約束したんだ、助けるって」

「そういう意味じゃない」

怒りを含んだ声色の後に、刀が地面に叩きつけられた。

「どうして私を優先してくれないの?雪乃ちゃん」

「...えっ?」

「私、幼馴染だよ?」

「うん...」

「普通は幼馴染を選ぶでしょ?!」

瞬間、ななが刀を振る予備動作が見えた。

「ッ!雪乃!危ない!!」

私は倒れ込む様に雪乃に抱きつき、その勢いのまま地面を転がっていく。

「大丈夫?!」

必然的に雪乃を押し倒す形になった私は、目線を自身の左手に向ける。

ーー...えっ?

短剣が、発光している。

そしてその光は段々大きくなり....

 

 

目の前から、雪乃消えた。

 

同時に私の武器が変形した。

 

「どうして冬咲雪乃という舞台少女が登場しなかったのか....分かります」

 

 

 

ーーまた、これだ。

目を覚ますと同時に、私は理解する。

この後の展開は....

「....っ!雪乃ちゃん!!」

そう、横に居るまひ....ななちゃん?!?!

ななちゃんに抱きつかれ、一気に動揺が襲ってきた。

「な、ななちゃん?!」

「ごめんなさいっ!ごめんなさい....!」

ただひたすらに謝罪を繰り返すななちゃんに対して、私はどう声を掛けていいのか分からず為されるがまま。

頭が追いつかないというより記憶が無い、という方が正しいだろう。

それでも、大好きな幼馴染の泣いている姿は見たくない。

「...どうしたの?」

可能な限り優しい声で、彼女に語りかける。

「...私が悪いの....本当にごめんなさい...」

がしかし、返ってくるのは先程と同じ謝罪の言葉のみ。

次第に声も小さくなり、大粒の涙も次第に小粒へと変わっていく。

「....もう、迷惑は掛けないから」

「えっ?」

ゾッとする程に低く恐ろしい声。

彼女はこちらを振り返る事なく、俯いたまま保健室から出て行ってしまった。

ーー何だったんだろう...

湧き上がる疑問は、すぐにぼやけて消えてしまう。

そうして代わりに浮かんできたのは、あまりにありふれた、しかしななちゃんに対しては初めて抱く感情だった。

「....気まずいな」

 

 

 

保健室を出て、日が落ちかけた廊下を歩く。

そうして中庭を通りかかると、1人の生徒が目に入った。

「...華恋ちゃん?」

ーー....なんで素振り?

一定の間隔でバットを振り続ける彼女は、何故だかとても様になる。

ーー声を掛けたら邪魔になるかなぁ....うーん....

「....ん?あっ、雪乃ちゃん!」

私の足音か、それとも丁度終わるタイミングだったのか、私が悩んでいるうちに、彼女の方から声を掛けてきた。

「邪魔しちゃった?」

「ううん!丁度辞めるところだったから」

ーーうっ、良い笑顔....!

華恋ちゃんの優しい笑顔に眩しさを感じていると、彼女は小走りでバットを片付け私の隣にやってきた。

「帰ろっか」

「うん」

短いやり取りの後、私達は互いに歩幅を合わせながら校門に向かっていく。

ーーそういえば華恋ちゃんと二人きりって、あの時以来だな...

「....何かあった?」

「えっ?」

あまりにも鋭い質問に、私は驚きよりも先に疑問の感情が出てきた。

「...うん、でもどうして?」

「んーと...ひかりちゃんに似てるから?」

「私とひかりちゃんが?」

「あーそういう事じゃなくて、えーっと....悩み方?」

「...顔に出やすいって事?」

「そう!それ!」

どうやら幼馴染の華恋ちゃんからすると、一見無表情に見えるひかりちゃんの感情をも読み取れるらしい、流石幼馴染。

「...なんか、ななちゃんと気まずくなっちゃって」

「ばななと?...あ、幼馴染なんだよね?」

「うん、こんな事初めてで...というか再会してからのななちゃん、私の知ってた頃と違うっていうか...」

「一緒だね、私と」

「華恋ちゃんと?」

隣を歩く華恋ちゃんに顔を向けると、彼女は少し恥ずかしそうに微笑んだ。

「私も時々思うんだ、ひかりちゃんあの頃と同じだけど、何か違うなーって」

その表情は何処か嬉しそうで、でも寂しそうでもあって。

「久しぶりに再会した幼馴染を持つ者同士、意外と通じ合っちゃったりして」

「そうかも!」

そう言うと、彼女は突然私の両手を掴んできた。

ーーへっ?!なになになになに?!?!

「ねえ雪乃ちゃん!今日はこっちの部屋で寝てみない?!」

「....んん???」

 

 

 

「はい!!雪乃ちゃんの布団はこっちね!!!!」

「...私の時と反応が違う」

謎にハイテンションなまひるちゃんと、それをジト目で見つめるひかりちゃん。

「ありがとうまひるちゃん」

「えっ!えへへへへ」

ーー可愛い。

まひるちゃんに癒されながら、私は一度部屋全体を見渡した。

中央の空間に布団が二つ敷かれているが、スペース的にギリギリなのか床は見えない。

「隣だね、ひかりちゃん」

「うん、それに近い」

そう、近いのだ。

恐らく寝返りを打てば、彼女に密着する寸前の距離になるだろう。

何となくひかりちゃんの布団に手を置いた瞬間、真後ろのまひるちゃんが大声を上げた。

「あーっ!!!」

「まひる、うるさい」

今日一番を更新する声量に対し、冷静にツッコミを入れるひかりちゃん。

これまでの会話を聞く限り、2人は何やかんやで上手くやれている様だ。

「どうしたの?」

「やっぱり狭いよね!布団!!」

「私は気にしない、雪乃は?」

「...まあ私も、ひかりちゃんが大丈夫なら」

「いやでもきっと狭いよ!!!ううん、狭いに違いない!!!」

ーーあ、圧が凄い...

「じゃあどうするの?」

ひかりちゃんの疑問を受けて、まひるちゃんは一度大きく深呼吸をした。

 

「.....わ、私のベッドで寝る?」

 

ーー....んんん????

 

「余計に狭いと思う」

ーーひかりちゃんあまりにも冷静過ぎない?!?!

対照的な2人に翻弄されていると、突然大きな音を立てて部屋の扉が開いた。

「....ななちゃん?」

「どういう事?」

底冷えする様な声色。

その言葉と共に、一瞬にして和やかな空気は消え去った。

「何が...」

「どういう事って聞いてるの!!!!」

「ちょ、ちょっとばななちゃん!落ち着いて!!」

「どうして私から離れるの?!ねえ?!どうして?!?!」

まるで私以外眼中に無いと言わんばかりに、淡々と近付いてくるななちゃん。

そんな彼女の怒号は廊下まで届いたのか、すぐに遠くから扉の開閉音が聞こえてきた。

「何かあったのか?!」

「どうかしましたか?」

真っ先に双葉ちゃん、それに続いて真矢ちゃんが室内に入ってくる。

こうなってしまっては、もう収拾の余地は無く。

無言の末に、澱んだ空気が残るだけとなった。

 

 

 

「あんなばななちゃん、初めて見た」

ベッドの上に座っているまひるちゃんが、小声でそう呟く。

「....ごめんね、雪乃ちゃん」

「か、華恋ちゃんは悪くないよ!」

「だって、私が誘ったせいでこうなったから...」

ーー違う。

「ううん、きっと華恋ちゃんが誘ってくれなくてもこうなってたと思う」

「....それってさっき言ってた気まずくなったって話?」

その疑問に対する答えは、明確に存在する。

しかしそれを話す事はつまり、オーディションの事を話すのと同じ。

ちらりとひかりちゃんに目をやると、彼女は静かに頷いた。

「....キリンの、オーディション」

私がその言葉を発した途端、2人の息を飲む音が聞こえてきた。

「今日、私とばななでオーディションがあって...雪乃が私を助けてくれたの」

ひかりちゃんが噛み砕いて説明してくれたお陰か、2人はスムーズに状況を飲み込んでくれたらしい。

「あっ、そういえばあの時、私どうなったの?」

ふと思い浮かんだ疑問。

私はひかりちゃんの短刀が光ってからの記憶が丸々飛んでいる、その為その後の話を聞くならレヴューをしていた本人に聞くのが手っ取り早いと考えたのだ。

「....合体した」

「合体?!?!?!」

ーーま、まひるちゃん?!

私自身の驚きよりも先に、まひるちゃんが大声を上げた。

「うーん...それも舞台の影響なのかな?」

「....分からない」

華恋ちゃんの言葉に対して、ひかりちゃんは首を横に振った。

舞台上で2人が一つになるなんて話、入学する前の私ならきっと真面目に受け取らなかっただろう。

ーー....あれ?

 

 

 

入学する前って、何してたっけ?

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