新米Vtuberの神社運営生活@デスゲーム〜のんびり配信生活をするつもりが、なぜかNPCの皆さんに信仰されていました ~ 作:梯子田カハシ
「ふう~、お腹いっぱいだね、こいちゃん」
「うん。ごはん美味しかった」
「ホントだね。まさかいきなりお米が食べられるとは思わなかったよ」
「食の国、日本がつくるゲームは伊達じゃない」
「この村だけかもだけど、雰囲気は完全に和風だよね、このゲーム」
晩御飯を終えた私とこいちゃんは、用意してもらったお部屋で2人くつろいでいる。宿で出してもらった晩御飯はかなり豪華だった。村の人たちが作ってるお米に、採集してきた山菜の天ぷら、仕留めてきた鹿肉のステーキや捕まえてきた白身魚の塩焼き、などなど。現代の生活で舌の肥えた私達でもびっくりするくらい美味しかった。
「ほんとに旅館に来たみたい。あとは温泉があれば完璧」
「そうだね~。そう言えばこいちゃんとお泊りするのは温泉旅行以来だね」
「うん。あれは最高の思い出」
そう言ってこいちゃんがボフンとお部屋に敷かれた布団に仰向けに倒れる。満足げに鼻を鳴らしているこいちゃんを見て私は小さく微笑む。
Vtuberとしてデビューしてから1ヶ月しか経っていない私達だけど、付き合いはそれよりも遥かに長かったりする。私達が出会ったのは高校生の時、中高一貫の女子高にそれぞれ中途入学していた私達は、いつからかお互いに一緒に過ごすようになっていた。
「なほちゃんのお婆さま、優しかった」
「そうだね。きっと私達を見守ってくれてるよ」
私の父方の祖母は静岡県で温泉宿を営んでいた。
むかしは有名人がお忍びでくるような高級旅館だった温泉宿も、移り行く時代の中で段々とお客さんが来なくなって、最後はお父さんが旅館を継がないことを決めた。………そして、そんな歴史ある旅館の最後のお客さんが私であり、こいちゃんだった。
「色々あったし、遠くに来ちゃったね」
「でも、今もなほちゃんが傍に居てくれてる」
並んだ敷布団に仰向けになって、2人で天井を眺める。こうしていると、色々なことを思いだしてくる。
「……これから、どうしよっか」
「なほちゃんと一緒なら、こいは大丈夫。なんとかなる」
「…………」
「…………」
束の間の静寂。敷布団と肌が擦れる音がして、こいちゃんの手が私の手に触れる。お互い何も言わずに、ただ手と手を繋いで天井を眺める。ふいに旅館の最後の日の朝に祖母が私の頭を撫でながら話してくれた言葉を思い出す。
“これまで歩んできた人生の、集大成として今日を生きなさい。これまで経験した山も谷も、それを超えた貴女の誇りになるのだから。胸を張って今日を生きなさい”
そうだよね。胸を張って行こう。私を信じてくれる友達だっている。絶対に生きて、生き延びてやるんだ。
「ねえ、こいちゃん?」
「なに?」
「こいちゃんが嫌じゃなかったらさ、お互いにステータスを共有しない? もしかしたら2人で何かできるかもしれないし、いいアイデアが浮かぶかもしれないし」
「いいよ」
こいちゃんは一切の躊躇いなくステータスを表示させると私に見せてくれる。私もステータスを開いてこいちゃん共有する。…………今更だけどパラメーター低すぎて見られるの恥ずかしいかも。
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●基礎情報
〘名前〙水滸 鯉
〘種族〙ヒューマン
〘職業〙青龍見習い
〘性別〙♀
〘年齢〙20歳
〘称号〙アストリア/天使殺し
〘武器〙
〘装備〙
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こいちゃんの職業もVtuberとしての設定を活かして“青龍見習い”になってる。
これは名前の“鯉”が元になった設定で、「Vtuberとしての活動を通した修行で滝を昇りきった鯉が龍と成って梁山の麓に集う英傑達の力を手にする」という裏ストーリーがあったりもする。………その設定まで引き継いでるんならこいちゃんは相当な強キャラになると思う。
「なほちゃんも天使殺しの仲間」
「いきなりそんな物騒な仲間になるつもりはなかったんだけどね」
「これも何かの運。あんな天使いらない」
「こいちゃんってそんな過激だったっけ?」
「なんか気持ち悪かった」
「そうなんだねえ。まあ、それなら仕方ない、のかな?」
普段はのんびりしている雰囲気のこいちゃんだけど、昔からここぞというときの直感やセンスは怖いくらいに正しいことが多かった。あと、シンプルに運動神経がよくて好奇心旺盛。すらっとした美人さんな外見との性格のギャップがこいちゃんの一番の魅力だと思う。
「そういえばミニドラのスイ君もイロハと一緒で装備扱いなんだね」
「うん。最初にリスポーンした時に喋り出した」
「スイ君もイロハもすっかり寝ちゃってるね」
部屋の片隅、横向きに眠るアッシュ君のお腹でイロハとスイ君が寝ている。
なんとも微笑ましい光景に思わず自然と口角が上がってしまう。
「えっと、つぎはステータスね……」
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●ステータス
〘LV〙3
〘SP〙39
〘HP〙1183/200 :体力×10
〘MP〙300/300 :体力×魔力
〘物攻〙40 :体力+筋力
〘魔攻〙35 :体力+魔力
〘物防〙40 :体力+敏捷
〘魔防〙35 :体力+精神
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想像はしてたけど、やっぱりこいちゃんの方がステータスが高い。見た感じ各ステータスの構成要件は同じみたいだから、あとは純粋に初期パラメーターとレベルの差なのかもしれない。………というか、こいちゃんもうレベルが3になってる。途中でモンスター倒したりしたのかな。
「こいちゃん、もうレベルアップしたんだね」
「ん?なんのこと?」
「あれ? こいちゃん、レベル3になってるよ。モンスターとか倒したりした?」
「天使しか倒してない」
「そーなんだね。……ちなみに私のレベルとか上がってたりしない?」
「ん…あがってない」
「そっか……」
私の淡い期待を返してほしいです……。
それにしても何でこいちゃんのレベルが上がったんだろ?もしかしたら職種スキルが関係あったりして。とりあえず、次は基礎パラメーターっと。
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●基礎パラメーター
〘体力〙20
〘筋力〙20
〘魔力〙15
〘敏捷〙20
〘精神〙15
〘運命〙10
〘振り分け可能Pt〙20
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パラメーターに振り分けポイントがあるってことは、レベルアップするとポイントがもらえるって仕組みなんだと思う。だとすると、こいちゃんと私のステータス差はお互いにレベル1の時の比較になるから、やっぱり初期パラメーターの時点で差があったことになる。もうこうなったら、LUCK値の“大吉”の恩恵に期待するしかない。
「こいちゃん、レベルアップのおかげでステ振りできるようになってるよ」
「そうなの? 全然気が付かなかった」
「うん。ほら、20Pt振り分け可能だって………でも、レベルアップしたなら教えて欲しいよね。ただでさえガイドがいなくて………あっ」
「なほちゃん? どうしたの?」
「もしかして、あの天使ガイドがいたらレベルアップとかステ振りの仕組みとか教えてくれてた感じ? だとしたら凄い不便なんだけど……」
「なほちゃん、過ぎたことは仕方ない」
力無く項垂れる私の肩にこいちゃんが励ますように手を乗せる。
仕方がないのは分かってるんだけど………なんかもったいないことをした気分だ。でも、下を向いてクヨクヨしててもダメだよね。さあ、最後までステータスを見ちゃおう。
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●特殊パラメーター
〘登録者〙983,216:登録者数の0.1%をHPに加算
〘同接数〙0 :同接人数の0.1%を攻撃に加算
●職種スキル
〘
〘
〘
●スキル
〘-----:未設定〙
〘-----:未設定〙
〘-----:未設定〙
〘-----:未設定〙
●ホーム
〘水滸梁山:未設定〙
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……職種スキルの欄になんかすっごいこと書いてあるんですけど。
自身に向けられたNPCやモンスターの感情値が経験値に反映?こいちゃんのレベルがあがった原因って絶対これだよね。私の職種スキルにも同じようなスキルの〘信仰〙があるけど、私のスキルポイントと違ってレベルに直結する経験値が貰えるって、完全にチートな気がする。
「あれ? ってことは、もしかして私もスキルポイント増えてる?」
「うん。なほちゃんのスキルポイント、70まで溜まってる」
「え、やったあ!!」
「なほちゃん嬉しそう。かわいい」
やった、やった。スキルポイントが使える。
まだスキルも未設定だったし、試しにスキル習得してみようかな。えっと、獲得可能スキル一覧を確認してっと………結構スキルって沢山あるんだね。
「なほちゃん、急に難しい顔」
「う~ん、獲得可能スキル見てみたら思ったより沢山あって迷ってる………」
「そなの? こいもまだちゃんと見てない」
「攻撃系から生産系まで、すごいいっぱいある……どうしよ」
スキルスロットは4枠ある。戦闘に振るなら攻撃2枠、回復1枠、防御か回避1枠みたいな割り振りにするのが常道な感じもするけど……正直、基礎ステが低いのと視聴者さんの多い他の先輩方に比べたらスタートから不利になってるから、感覚的にも感情的にもあんまり戦闘に特化したスタイルになりたくない。
「だとすると……この辺かな?」
私は生産系スキルを中心に候補を絞っていく。
ウェブ小説で一時期流行ってた“生産系チート”路線がまだあるかもしれないし、DEX値が本当に高いなら最適な選択肢と言えなくもない。とは言っても、回復系スキルか回避系スキルは安心の為にも入れておきたいし……やっぱり難しい。
「…………ん?」
スキル一覧を一通りスクロールしたところで、一番下に興味深い文字が見えた。そこには「仲間が獲得可能なスキル」という文字。これは、アッシュくんにもスキルを付与できるってことだよね。これは……結構大事な発見かもしれない。
「なほちゃん、今度はニヤニヤしてる………」
「うわっ!?」
こいちゃんの声に顔を上げると、こいちゃんの大きな瞳が私をじっくりと見つめていた。…………もしかしてスキルを選んで一喜一憂してたの全部見られてた?
「なほちゃんの観察、おもしろい」
「こ、こいちゃん性格悪いよ………」
「そんなことない。気づかないなほちゃんが悪い」
こいちゃんのジト目に気付かないふりをして私は2つのスキルを選択する。
チラッとアッシュくんを確認して……特に反応はなかった。私が選んだスキルは「三弾掌底《さんだんしょうてい》」と「噛突《かみつき》」という名前の攻撃系スキル。自分のスキルの前に試しにアッシュくんにスキルをプレゼント。……明日試してみよっと。
「……なほちゃん、そろそろ眠い」
「あっ、そうだよね。ねよっか?」
「うん。灯り消す」
欠伸をしたこいちゃんが眠そうに目を擦る。せっかく初日にも関わらず布団で寝られるんだ。今日の所はここまでにして明日に向けてしっかり休息を取ろう。
「それじゃ、こいちゃん。おやすみ」
「なほちゃんも、おやすみ」
フッと息を吹きかけて蝋燭の炎を消すとへやが真っ暗になる。
布団に潜り込んだ私は仰向けになって眼を閉じる。なんだか、とっても長い1日だった。それでも、なんとかこいちゃんと合流できて良かった。
となりで眠るこいちゃんの息遣いを感じながら、私も眠りに落ちていくのだった。