新米Vtuberの神社運営生活@デスゲーム〜のんびり配信生活をするつもりが、なぜかNPCの皆さんに信仰されていました ~   作:梯子田カハシ

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第11話 草原の支配者:稲取いなほ

 

草原の丘を赤兎君が駆け抜けていく。

こいちゃんの背中にしがみついた私は遠くに見える大狼の姿を見て声を張り上げる。

 

 

「おーい、アッシュくーんっ!!」

 

≪む、いなほ。遅かったぞ≫

 

「ごめん、ごめん。でも、アッシュくん、知らない間にいなくなってるんだもん」

 

≪それは……まあ、すまない≫

 

「それにしても、アッシュくん、ちょっとカッコよくなったね」

 

≪そうか?≫

 

 

少しだけ得意げな表情を浮かべたアッシュくんが胸を張る。

 

昨日までは全体的にくすんだ灰色をしていたアッシュくんの毛並みが光沢のある銀色に変わっている。バトルログに書いてあったシルヴァーウルフへの成長の効果なんだと思う。

 

 

「それで、なんで夜中に出て行っちゃったの?」

 

≪それは……これの為だ≫

 

 

そう言うとアッシュくんは鼻先で直刀、それと真鍮製のペンダントを私の前に差し出してくる。鉄製の直刀には鋭い爪で切り裂かれたような跡が残っていて、ペンダントにも牙で噛みつかれたような穴が刻まれている。

 

 

「これって……」

 

「……あの兄妹の名前」

 

 

ペンダントには両親と兄妹の4人家族の名前が刻印されている。

 

 

「もしかして、アッシュくん……」

 

≪うむ。いなほのおかげで新たなスキルを得たからな。それに随分と成長速度が速くなっている。ヤツがのさばるようになったのも俺の力不足が原因だ。≫

 

「それであの子達の敵討ちを?」

 

≪スカーフェイスは倒した。もう草原に人喰い狼は存在しない≫

 

「そうだったんだね。そのスカーフェイス?がこの草原のエリアボスだったってことだよね、イロハ?」

 

「そうだな、ご主人。この丘も含めて、この先の草原は全てご主人のものだ!!」

 

「やっぱりなほちゃん、一国一城のあるじ」

 

≪本来は俺がエリアボスだっのだ。さて、いなほ。せっかくだ、お主の領地を視察してみないか? この俺が案内するぞ≫

 

「うーん……こいちゃん、どうする?」

 

「せっかくの機会。なほちゃん、いこう」

 

「そうだねっ、こいちゃん!!」

 

≪ならばいなほは俺の背に乗れ。赤兎、だったかな。それなりに足は速いようだが、くれぐれも俺に置いていかれないようになっ!!≫

 

 

私を背中に乗せてアッシュくんが一気に走り出す。それに付いていくようにこいちゃんを乗せた赤兎君も駆けだして、青空の下で2つの風が颯爽と草原の緑を吹き抜ける。

 

……通り過ぎていく風が、ちょー気持ちいいっ!!

 

 

▼ △ ▼

 

 

「うわぁ!! 良い景色!! ね、こいちゃん!!」

 

「うん、まさに絶景」

 

 

目下に広がる絶壁の上に立って、その先に広がる景色を眺めてこいちゃんと2人で深呼吸をする。心地の良い風が私達を通り過ぎて真下の森、さらにその先の険しい山々へと吹き抜ける。一緒にいるアッシュくんとイロハも気持ち良さそうにしてる。

 

 

「それにしても、思ったより広かったね、この丘」

 

「東京ドーム20個分くらい」

 

「その例え、逆に分かりづらくない? でも、草原だけじゃなくて洞窟とか湖とか、おっきな樹もあったよね。アッシュくんと赤兎君の脚だから早かったけど、全部見るのに結構時間かかったよ~」

 

「たのしかった」

 

「そうだね~、こいちゃんっ!!」

 

「うん」

 

 

私達が思っていた以上に草原の丘は広かった。

 

草原の丘はお茶碗をひっくり返したような形をしていて、南側にマサキ村と平原が、北側には断層活動でできたであろう断崖絶壁とその下に広がる森林が、西側には北の山脈から続く大きな川が、東側は森林に囲まれている。

 

 

「さて、こいちゃん。そろそろ行こうか」

 

「うん。日が暮れる前に村に戻る」

 

「アッシュくん、帰りもよろしくね?」

 

≪承った≫

 

「赤兎も負けない」

 

「よし、行こうっ!!」

 

 

アッシュくんの背中に跨って草原を北側に向かう。

少しだけ傾きはじめた日の光の下で銀と栗色の疾風が駆け抜けていく。

 

 

「ひゃ~、いい風~。めっちゃ気持ちいい~」

 

「なほちゃん、楽しそう」

 

「だって~、こんな体験なかなか出来ないよ〜」

 

「……なほちゃん、前」

 

「へ? どうかしたの……って、え?」

 

 

こいちゃんの声のトーンが少し下がって、私が視線を追うように前を向く。そこには私達を待ち構えるように集まっている狼の群れの姿があった。狼達の数は20匹を少し超えるくらいで、囲まれたらと思うと少しぞっとする。

 

 

「アッシュくん、これって?」

 

《……かつての群れの仲間達だな。俺がエリアボスの座をスカーフェイスに奪われる前の話だが》

 

「ってことは、私たちの仲間になってくれるかな?」

 

《分からんな。少なくとも、彼らは主を失った群れなのは確かだが》

 

「仲間になってくれるといいけど……」

 

《ふっ、心配なさそうだぞ》

 

「へ?」

 

 

私とアッシュくんが狼達に近づくと、群れの先頭にいた狼から順番に頭を下げて跪くような態勢を取っていく。なんというかライオン〇ングの冒頭のシーンみたいだ……狼しかいないけど。これって少なくとも敵意はないよね?

 

 

「なほちゃん、王様みたい」

 

《あながち間違っていないな。今日からはいなほがこの草原の支配者だ》

 

「へ? これってそういう意味なの?」

 

《その通りだ。この狼達は俺を通していなほの仲間になった。仲間と言っても立場的には部下に近いけどな。この草原を支配しているのは実質的には俺達の群れで、そのトップの主人がいなほだ》

 

「私、寝てただけで気付かないうちに支配者になってたんだけど。そもそも、いつからアッシュくんの主人になってたの? 私的には同格というか、むしろ後輩くらいの気分でいたつもりなんだけど?」

 

《神輿は軽くて馬鹿が良いっていうだろう?》

 

「なっ!? 馬鹿って言った!!」

 

《ふっ、いなほと居れば何かと面白いことがありそうだ。これから頼むぞ、主人》

 

「む~。なんか納得いかない~」

 

「ふふっ、なほちゃん、おもしろい」

 

「こいちゃんまでちょっと馬鹿にした笑い方してる~」

 

 

日が傾き、少しだけ夕焼けがかった草原に私の声が響き渡る。

とりあえず仲間になった狼達には解散して貰って、私たちはマサキ村に戻ることにする。ヤスケ君たちにお父さんの形見を渡さないといけないし、アッシュくんも村の人達に紹介しないといけない。私の職業をテイマーってことにすれば納得してもらえるかな?

 

 

▼ △ ▼

 

 

昨日と同じ宿屋の部屋で私とこいちゃんは布団に仰向けに寝転がる。

外はもうすっかり暗くなっていて、遠くからは狼の遠吠えが聞こえてくる。

 

 

「はあ~~~疲れたあ~~~」

 

「うん。もうねむい」

 

「村に戻ってからが大変だったね~」

 

「でも、あの兄妹が笑顔になれてよかった」

 

 

アッシュくんを連れてマサキ村に戻った結果、村は大パニックになった。

私の職業をテイマーってことにして何とか事情を説明して納得してもらい、そのあとにヤスケ君達のお父さんの形見を渡すことができた。村長さんにもウメさんにも感謝してもらえて、ヤスケ君とヤヨイちゃんの笑顔を見ることもできた。NPCとはいえ少しでもあの2人の力になれた気がして嬉しかったなあ。

 

 

「そうだね。こいちゃんもありがとう」

 

「こい、なにかした?」

 

「いつも一緒にいてくれて、心強いなって」

 

「うん。こいはいつでも一緒」

 

 

今日も2人で手を繋いで天井を眺める。蠟燭の灯と月明かりが薄っすらと部屋を照らし、既にイロハ、アッシュくん、スイ君のペットたちは眠ってしまっている。なんというか、穏やかな夜だ。

 

 

「そういえば、村長さんが近くに家を建ててもいいって言ってたね」

 

「ホーム、設置してみたい」

 

「そうだね~。私が“稲取稲荷”でこいちゃんが“水滸梁山”だよね?」

 

「うん。どんな感じか想像つかない…」

 

「そうだね……こいちゃんはどんな家がいい?」

 

「温泉がある家。なほちゃんの家みたいな」

 

「それ家ってよりは温泉宿だよね……でも、楽しそうかも」

 

「………」

 

「こいちゃん? って、もう寝ちゃったか」

 

 

横を見るとこいちゃんがスウスウと寝息をたてていた。

昔からこいちゃんはよく寝る子で、基本的に早寝遅起きの生活をしている。……だから色々と育っているのかもしれない。……うん、私も早く寝よ。

 

フッと蝋燭の灯を消して、こいちゃんに布団を掛けてあげる。

 

 

「おやすみなさい」

 

 

布団にもぐり込んだ私は、そっと目を閉じるのだった。

 

 

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