新米Vtuberの神社運営生活@デスゲーム〜のんびり配信生活をするつもりが、なぜかNPCの皆さんに信仰されていました ~ 作:梯子田カハシ
MiDiAX所属Vtuberのデスゲーム監禁から3日後。
今回の事件の衝撃が冷めない中で、現実世界とVtuber達を繋ぐ糸は配信だけとなった。
当初は絶望や諦観に囚われていたVtuber達も、視聴者達の励ましや同期達とのコミュニケーション、颯爽と現れた伝説の1期生 宗近と神楽耶コンビのサポートによって何とか前向きに歩き出し始めている。—―—―—―唯一、事務所最若手69期の稲取いなほと水滸鯉の2人だけを除いて。
彼女達2人のみが事件発生から約2日以上経っても配信を行っていない。
完全な音信不通状態の中で、デスゲーム初の脱落者となった可能性も含めて視聴者達の不安と心配が募っていた。彼らの望みはプロジェクトAST及び事務所MidiAXから彼女達の脱落の正式アナウンスが流れていないことだけだった。
そんな世間の注目がピークに達しようとする3日目。
ついに彼女達のYourtubelアカウントが動きを見せたのだった。
△ ▼ △
「こいちゃん~!! 起きて~、もうすぐ10時になっちゃうよ~」
「……あと3時間」
「それ、5分とかの感覚でいうセリフだからね。はい、起きる!!」
「あぁ、おふとん……」
布団を引っ剥がして押し入れに仕舞うと、こいちゃんが名残惜しそうな表情で目を潤ます。……かわいい顔したってダメなんだから。というか、昨日は12時前に寝たはずなのによく10時間も寝続けられると思う。
「ほら、もう10時……え?」
「なほちゃん? どうし……」
私達は同時に動きを止めて宙を眺める。……実際は表示されているポップアップメッセージを見ているんだけど。10時ピッタリ、【警告】と書かれたいかにも重要そうなメッセージが私達の視線を奪った。
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【警告】配信時間不足アラート
βテスターには週14時間の配信義務があります
規定配信時間に到達しない場合、当該テスターは脱落となります
【個別アラート】
稲取いなほ∶あなたは2日間に渡って配信を行っていません
残日数:5日間 不足配信時間:14時間00分
――――――――――――――――――
「……ねえ、こいちゃん?」
「……うん。寝てる場合じゃなかった」
丘に転移してから色々あり過ぎて完全に記憶から抜け落ちてたけど、たしかにルールでそんなことが書いてあったのを憶えてる。
……というか、配信ってどうやってやるんだっけ?もしかしなくても本当はガイドの天使が教えてくれるやつだよね。ホントに何やらかしてくれてるんだ、過去の自分。
「と、とりあえず配信しなきゃだよね」
「……まだ大丈夫。14時間通し配信なら1日掛からない」
「それはそうだけど……でも間に合わなかったら死んじゃうんだよ?」
「5日もあれば余裕で間に合う。なほちゃん、落ち着く」
浮足立つ私とは対照的にこいちゃんは冷静で落ち着いている。
たまに配信のコメントで視聴者に「大物感がある」ち言われることもある私だけど、こういう時のこいちゃんの方がよっぽど大物感があると思う。……おかげで少しだけ心に余裕が出来た。
「……たしかにそうだね。こいちゃん、ありがとう」
「うん。焦るの、分かる」
「それじゃ、せっかくだし最初の配信は2人で一緒にしよっか。リスナーさんも心配してくれてると思うし」
「こいもそうしたい」
「イロハやスイくん、アッシュくんに赤兎くんも紹介したいし、スキル披露とかゲームっぽいこともしたいよね」
「なほちゃん、いい調子」
「そんなこと言ってないでこいちゃんも考えて!!」
「わかった」
そう言って頷くこいちゃんの表情は柔らかく、どこまでも楽し気だ。
これまで何度も助けられてきた、いつでも変わらないマイページなこいちゃんへの感謝を胸に私は随分久しぶりに感じる配信に向けたアイデアを考えるのだった。
△ ▼ △
「みなさま!! お久しぶりです!! 稲取いなほでしゅっ!!」
「やほ~、こいだよ~……なほちゃん、緊張しすぎ」
「うう、恥ずかしい……だって、なんか久しぶりな気がするんだもん……って、へ?」
配信を初めて第一声、思いっきり噛んだ。
反省しながらカメラに向かって下げた頭を上げると、視界の端のコメント欄が動き出す。
【いなほちゃんああああああああああああ】
【生きてる!!生きてる!!】
【よかった】
【うわあああああああああああ】
【夢じゃないよな……】
【よかった……】
【心配した……】
【また声が聞けた……良かったよ、ほんとに】
【あかん、涙止まらん】
【こいちゃんも生きてる】
【よかった、良かったよ……】
【もはや甘噛みですら愛おしい……】
【本当に、日常のかけがえなさって失ってから気付くよな……】
【感謝、感謝、感謝】
【マジで心配してたんだからな……】
メニュー画面を調べれば配信のやり方は割とすぐに分かった。
それよりもコメントの勢いが凄すぎる。デビュー配信の時も相当なコメントが流れてたけど、今回は文字が認識できないくらいにコメントの流れが速すぎる。それでも「よかった」や「安心した」というコメントが見えるから、多分だけど心配してくれていた視聴者さん達が来てくれたってことなんだと思う。
「こ、コメントが速くて全然読めない……」
「視聴者さん、心配してくれてた」
「そうだよね。皆さん、ご心配をおかけして、すいませんでした!!」
「みんな、ありがと。こいもなほちゃんも元気」
【稲穂ちゃん、鯉ちゃん、良かったああああ】
【これで一先ずは全員の生存確認OKだな】
【コメント速過ぎる】
【生きてるだけで十分だよ……】
【それだけみんなが心配してるってことだな】
【てか同接多すぎだろ】
【相変わらず鯉ちゃんマイペースでかわいい】
【稲穂ちゃんも相変わらずライバーらしからぬ真面目さ】
【やば、稲穂ちゃんと鯉ちゃんが配信してるのニュースになっとるww】
【そりゃ注目度マックスだからなww】
コメントはとどまることなく、むしろ加速している。チラッと同接を確認すると、今までの最大同接人数の3倍近くの数字が目に飛び込んでくる。……もしかして、私たちが思ってる以上に心配されてた? なんか怖くなってきた。
「どうしたご主人、急に顔色が強張ってるぞ」
「あ、イロハ。ごめんね、ちょっと視聴者さんが多くてびっくりしちゃって」
「そうなのか? 良いことじゃないか、ご主人」
「そうだね……って、イロハのこと紹介しなきゃ」
「なほちゃん、グダグダ」
「いじわる言わないで~」
のどかな青空広がる草原の丘に私の悲鳴が響く。そんな私の様子をみてニマニマするこいちゃんとイロハにジト目を向けつつ、私は何とか配信を継続するのだった。