新米Vtuberの神社運営生活@デスゲーム〜のんびり配信生活をするつもりが、なぜかNPCの皆さんに信仰されていました ~ 作:梯子田カハシ
お夜食を食べ終わった私は手を合わせて軽くお辞儀をする。
お盆に載った食器を抱えて台所に入った私はウメさんと目が合う。
「そ、それでは教えて頂いてよろしいでしょうか」
「ええ。それじゃあ、まずはこっちに来てくれるかしら」
「は、はい……!!」
「ふふふ。そんなに緊張しなくても大丈夫よ」
緊張する私にウメさんは優しく微笑むと台所の奥の方へと向かう。
私もそれに付いていくと、視界にピコンとメッセージ画面がポップアップする。
〘サブジョブ:薬師 解放クエストを開始します〙
ウメさんに促されて台所の奥に向かうと、そこには何やら怪しげな道具が並べられている。なんだか理科実験室に置いてあったようなガラス製のビーカーみたいな、そんな器具がたくさん置いてある。
そんな器具に視線を奪われている私にウメさんがコホンと咳払いしてから話しかけてくれる。
「それじゃ、最初に薬師という職業について説明するわね」
「はいっ!!」
「うん、いい返事ね。」
ウメさんによると、薬師とは薬草などの素材をもとに体力回復やMP回復、異常耐性やステータス強化などの所謂ポーションと呼ばれる様々な薬を作る職業、とのこと。
似たような生産職の他職種として鍛冶師や錬金術師、さらには木工職人、裁縫師などの職業もあるみたいだけど、このマサキ村は自然豊かな環境と綺麗な水が流れる川が近くにあることで伝統的に薬師を多く輩出していることで有名なんだとか。
「とは言っても小さな村だから王都の大きな商会には敵わないのだけど。それでもマサキ村産のポーションの品質は確かよ」
「そうなんですね」
「さて、それじゃ簡単にポーションの作り方を教えるわね」
そう言いながら、ウメさんは小鍋やビーカー、フラスコみたいな器具1式を取り出して台所に置いて私の方に視線を向ける。私がお夜食を食べている間に外に出ていたみたいだったけど、もしかしたら器具を取りに行ってくれていたのかもしれない。
「これは前に私が使っていた薬師セット。お古で良ければだけど、いなほさん、貰ってくれる?」
「い、いいんですか?」
「大丈夫よ。もう私が使うことはないだろうし、いなほさんが使ってくれるのなら本望よ」
「そ、それではお言葉に甘えて……ありがとうございます」
「ええ。その代わりしっかり使ってあげてね」
「は、はいっ!!」
ウメさんは足元に置いてあった壺を持ち上げると、そっと蓋を外して私に中身を見せてくれる。壺の中には深緑色の葉っぱが敷き詰めてあって、じっと目を凝らすと「魔力草 品質-高」という表示が出現した。
「さて、それじゃポーションの作り方を伝授するわよ。大まかな流れはシンプルで、すり潰した魔力草を鍋に入れて水と煮込んで魔力を抽出して、それをろ過して不純物を取り除いて完成するのがポーションよ。やることはこれだけ。作業行程自体は本当に簡単なのよ」
「行程自体は、と言いますと……?」
「難しいのは素材と水の品質を高めること、あとは抽出の加減とどれだけ不純物を取り除けるか。その辺りがポーションの品質を左右することになるわ。……まあ、難しく考えずに、まずはやってみましょう」
「お願いしますっ!!」
「いい返事。まずはこの石臼で魔力草をすり潰すわよ」
「はいっ!!」
今度は小学生の頃に体験授業で見たことのあるような石臼が登場する。上に空いている穴に薬草を入れてから石臼をゴリゴリと回していく……うん、結構な力仕事ですね。とは言っても妥協したくもないし、一生懸命に石臼を回す。
必死に石臼を回転させること約5分。石臼が50回転したところでウメさんが頷く。
「そろそろ大丈夫ね。今度は【純化】スキルを使って水から不純物を取り除きましょう」
「はいっ!!」
〘ジョブスキル:純化 を解放します〙
何もわからないまま返事だけするとシステムメッセージが起動してスキルが解放される。……特にスキルポイントとかは必要ないみたいだから、既に獲得した〘調薬〙スキルの一部なのかもしれない。私は少し緊張しながらウメさんが用意してくれた桶に入った水を見つめる。こちらも私がじっと目を凝らすと「シンノ川の水 品質-高」という表示が出現する。
桶の水をビーカーで掬って、そっと手をかざす。
「それでは……【純化】」
小さく呟くと掌が温かくなり魔力が流れているのを感じる。
温かみが収まってからビーカーの水を覗き込む。目で分かるような変化はなさそう。
またまた水をじっと見つめると「精製水 品質-低」と表示される。
「失敗しちゃった?」
表記が精製水になっているけど、まさかの品質が下がっている。
少し落ち込みながらウメさんの方を見ると、私の表情が面白かったのか笑っている。
「……なんで笑うんですか」
「うふふ。いや、表情がころころ変わるのが可笑しくって」
「むう。だって品質が下がっちゃったんですもん」
「そんなことないわ。そもそも精製水自体が何回か純化しないと作れない物なんだから上出来よ」
「そういうものなんですか?」
「そういうものなの。さあ、もう何回か【純化】をしてみましょ」
「分かりました」
そのあと、結局5回の【純化】を経てようやく品質が高い精製水が完成する。
気になってMPを確認するとこの過程だけで全体の2割くらいのMPが消費されていた。
「それじゃあ、いよいよ煮詰めていくわよ」
ウメさんに渡された金属鍋に先程すり潰した粉末魔力草と精製水を投入して火にかけて蓋をする。そっと覗いてみると、じわじわと魔力草の成分が抽出されて精製水が緑色の液体に変化していた。見てるだけだと完全に緑茶を淹れている感じ。何を隠そうこの稲取いなほ、静岡県民としてお茶にはうるさいのです……お茶じゃなくてポーションなんだけど。
「これってやっぱり魔力草と精製水の分量とか、煮詰める時間とか決まっているんですか?」
「そうよ。ええっと……ああ、これね」
ウメさんは薬師セットをごそごそと探すと厚紙と砂時計を取り出す。
見せてもらうと、ポーションの作成量に合わせた分量比率と煮込み時間に使う砂時計が描かれている。
「すっごく分かりやすいですね、これ」
「そうね。私達は子供のころから飽きる程見てるから覚えちゃってるけど、子供でも分かるようになってて教える時に便利なのよね、このシートと砂時計」
「……気になったんですけど、魔力草が多かったり、煮込み過ぎたりするとどうなるんですか?」
「一般的には不必要な成分まで抽出されて、本来必要な効能の効果が下がってしまうわ。他にもポーションの魔力が濃くなりすぎて魔力酔いの状態になってしまうのと……あとは純粋に苦くなりすぎてまともに飲める代物じゃなくなってしまったり。やりすぎても余り良いことはないわ」
「なるほど……そうなんですね」
「さて、そろそろ時間よ」
「はい」
急いで火を消してから蓋をゆっくりと取ると、モワッと湯気が立ってからドロッとしたポーションの原液が視界に入る。……お茶っていうよりは、青汁っぽい感じかも。失敗してないと良いんだけど。
そんなことを考えながら私は鍋を見つめるのだった。