新米Vtuberの神社運営生活@デスゲーム〜のんびり配信生活をするつもりが、なぜかNPCの皆さんに信仰されていました ~   作:梯子田カハシ

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序章 アストリア・オンラインβ
第1話 Vtuber:稲取いなほ


2046年 日本 東京

とある高層マンションの一室にて

 

部屋着を着た黒髪の少女が軽いストレッチをしている。ピンクと白の部屋着はいかにも女の子らしいデザインで、ショートボブの黒髪からは優しげな瞳が覗く。少女は最後に伸びをして深呼吸をすると、ゲーミングチェアに座ってデスクトップPCへと視線を向ける。マウスを操作する音が静かな部屋に響き、少女はもう一度深呼吸をする。

 

 

▲ ▽ ▲

 

 

ゲーミングチェアに座った私は逸る気持ちを抑えるように一度深呼吸をしてから、PC画面に映る「配信開始」ボタンをクリックする。

 

お決まりの配信待機画面が終わって、私はゆっくりと声を発した。

 

「皆さま、こんこん、こんにちは~。MiDiAX所属、バーチャルライバー兼稲取稲荷巫女の稲取いなほです~。今日も見に来てくれてありがとうございます!!」

 

【いち】

 

【いち】

 

【きた!】

 

【こんちわ~】

 

【いなほちゃん!!】

 

【かわいい】

 

【こんこん!!】

 

【こんにちは!!】

 

「さてさて、今日は待ちに待った待望の新作ゲーム『アストリア・オンライン』の試作版にMiDiAXのライバー全員で参加させて頂けるということで、その様子をお届けする企画となっています!! まずは企画の概要説明するね………運営さんが用意してくれた台本を表示知ってっと………そ、それじゃ読むね?読むからね?」

 

【遂に来たか……】

 

【βテスターになれるの羨ましい】

 

【全員参加なんか】

 

【明らかに緊張してて草】

 

【めっちゃ確認するじゃんwww】

 

「うう、緊張する。えっと………」

 

 

PC画面に映るのは紅白を基調とした巫女の格好に白狐をモチーフにしたマフラーを着た黒髪短髪少女のバーチャルアバターと、縦に流れていくコメントの数々。画面に映るアバターはPC前に座る私の動きをトレースして画面上で動き、表情を変える。

 

そう。私は今、いわゆるVtuberとして配信をしている。少しの緊張感とともに、私はコメント欄に目を向けつつ、配信画面に表示された文章をなるべく丁寧に読み上げていく。

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

メタバースという概念が生まれてから50年。先進国・発展途上国を問わず多くの人々がバーチャルアバターを所持するようになった。それに伴い、日本の主要産業は最先端の技術と独特な世界観で世界を牽引するゲーム産業となっていた。

 

そんな日本ゲーム業界を激震させているプロジェクトがある。業界大手3社が参画、新規のフルダイブ型の超大型VRMMOゲームの開発を目的に合弁会社を設立し、さらに政府の補助も入って製作を進めている、それが通称“プロジェクトAST”。つい先日、その“プロジェクトAST”チームから、β版の運用開始の発表がされた。

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

少し堅苦しい文章を読み上げて私は一息つく。音読なんて小学校でやって以来だ。って、そんなこと考えてないで、配信中なんだから話を繋がないと。

 

 

「と、これが私達が参加する企画の概要って感じです。なんというか、規模感がすごくて、他人事な感じがしちゃうな~」

 

【嚙まずに読めてえらい】

 

【声カワイイ】

 

【最近のゲーム関連ニュースはASTのことばっかだった】

 

【国がここまでゲーム産業に資金いれるようになるとはね……】

 

【ひと昔前はマンガもアニメもゲームも干されてたからなあ】

 

【初期クールジャパンの悪夢ww】

 

【国策としてクリエイターへ金落とすようになったのはほんと最近だよな】

 

【政治家が若くなったんだろ。良い変化や】

 

「……なんかコメント欄も話が大きくなってない? まあ、クリエイターさん達の活動を後押ししてくれる環境になったのはいいことだと思うよ?」

 

 

すこし話題を変えてエンタメの話。

 

00年代中盤にサービスが始まった”Yourtubel”は、いまや世界第1位の利用者を誇るソーシャルメディアとしてエンタメの中心になっている。テレビ?なにそれ、美味しいの?……と、冗談はさておき、とにかくメディアの中心はテレビからYourtubelに移行していった。

 

 

「そしてYourtubelを中心に活動するインフルエンサーや配信者さんが増えて、私ことVtuberの“稲取いなほ”もお陰様で元気に今日も配信させてもらってます。しかも憧れのMiDiAXからデビューできたわけだし」

 

【Yourtuber多すぎ問題】

 

【そもそもみんなYourtubel見すぎ問題】

 

【ぶっちゃけゲームするかYourtubel見るくらいしかやることないww】

 

【まあ昔みたいに毎日働きまくってる人なんかいないからな】

 

【そういう意味では日々配信をして俺達に娯楽を与えてくれる配信者には感謝】

 

【なんだかんだ稲穂ちゃんもミディからデビューしてんだから大したもん】

 

【分かる。何度オーデションを落とされたことか……】

 

【倍率エグイらしいからな。狂ってないと入れんよ】

 

「でへへ。褒めても何にも出ないよ~。でも、ホントにYourtubel漬けの生活になっちゃうよね。昔のテレビ会社も今はYourtubelの大手スタジオになってるもんね。ドラマとかバラエティーとかは普通に好きな層には刺さりまくってるし」

 

 

ある学者さんはこの状況を「一方向的メディアからの情報発信の民主化」とか言ってたけど、私は単に暇な人が増えただけだけだと思う。……だって最低限の仕事はAIと機械がしちゃって人間がすることないんだもん。それに働かなくたってベーシックインカムで生きていけるし。そりゃ暇になったらYourtubelを見たくなるよね。わかる。

 

これまた学者さんの言葉で「奴隷なきアテナイ市民化した社会においては“エンタメの発信者と消費者”という新しい格差が生まれる」っていうのがあるんだけど、今の日本はまさにそんな感じ。生活が保証されて暇になった人達は昔のギリシア人みたいに哲学は始めなかったけど、エンタメの発信者になり受信者になった。

 

そして、日本がゲーム産業とは別に最先端を走っているもう1つの産業がVtuber技術の分野。たった今、私は東京のマンションからYourtubelの配信をしているけど、仮想空間からバーチャルアバターで配信することもできる。これは日本の持ってる特許技術。今では全体のYourtuber の約7割が完全にではないけどバーチャルアバターを使って活動をしてる。そして、そんなVtuber大国である日本のVtuber業界で最大手のライバー事務所、それが私の所属するMiDiAX。

 

 

「つまり、MiDiAX所属ライバーである私はラッキーってこと。とは言っても先月デビューしたばっかりの駆け出しも駆け出しだけどね。いつも見てくれて、ありがとうございます」

 

【ラッキーで済ましちゃう辺りが稲穂ちゃんっぽい】

 

【最近のミディの新人は初配信前に登録者80万人は行ってるからヤバい】

 

【まあ、そのあと人によっては登録者減るんだけどねwww】

 

【いつの間にかYourtubelもシルバーの盾作らなくなったよなww】

 

【逆にミディはよく狂人を700人も集めたわ】

 

【狂人扱いは草】

 

【てかミディのライバーって700人もいるんか……】

 

【そんな狂人集団の中で割と普通っぽい稲穂ちゃんの違和感が凄い】

 

【1人だけ落ち着いてる感じ。なんというか大物感あるよね、この子】

 

【伝統と王道の狂人集団。それがMiDiAXだ】

 

「あの……一応ライバー皆さん全員先輩なので反応に困るんですけど。確かに凄い人達ではあるんですけどね。というか狂人って言われて喜びそうな人ばっかりな気がする……」

 

 

さてさて、長すぎた前置きはこの辺にして今日の企画に入りましょう。

 

今日はMiDiAX所属ライバー計697人全員が参加する超大型企画。それが、前段の超大型プロジェクトの試作版への先行参加企画という全てのゲーマーの注目が集まる激アツ案件。…………注目度が高すぎて私の配信も普段より同接人数が4倍くらいいる。いつもよりコメント欄が自由奔放なのもそれが原因かも。

 

 

「まあ、偉大な先輩方の話はおいおいするとして、あと30分くらいで10時になるので、そろそろログインの準備をします!! ちょっと休憩&仮想空間に移動するから10分くらい待っててね」

 

【ほーい】

 

【りょ!!!】

 

【待ってる!!】

 

【初めからVA(バーチャルアバター)で配信すればよかったのでは?】

 

【ロボカスwwwww】

 

【お前のこと誰が好きなん?】

 

【懐かしっ!! どっちも随分古いネタだなww】

 

【10年もつんだから良いネタだよ】

 

 

私はコメント欄を眺めながらライブ2Dのバーチャルアバターとの同期を解除する。

音声がミュートになっているのを確認して、伸びをすると緊張が解けたのか欠伸をしてしまう。

 

 

「ふぁああ~」

 

 

気の抜けた声が部屋に響くけど、誰に聞かれる者でもないから気にしない。

私はゲーミングチェアから立ち上がって、ゆっくりと部屋の片隅へと向かうのだった。

 

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