新米Vtuberの神社運営生活@デスゲーム〜のんびり配信生活をするつもりが、なぜかNPCの皆さんに信仰されていました ~ 作:梯子田カハシ
「さあ、いよいよ大詰めね」
「ええっと……この原液をろ過するんですよね?」
「そうよ。まずはこれをセットしてっと……」
そう言ってウメさんがフラスコみたいな器具にろうとをセットする。
やってることだけで言えば完全に理科の実験だけど、逆に身近な感じがして面白い。
「いなほさん、この紙をセットしてみて?」
「はい!! ドリップ珈琲みたいな感じですね!!」
「ドリップ……? よくわからないけど、やり方はあってるわ」
「あ、そうですよね。すいません」
「いいのよ。それじゃ、ゆっくり鍋から原液を移してみて?」
「はい!!」
私はろうとの淵に注ぐようにゆっくりと鍋を傾ける。
少しずつフラスコに緑色の液体が溜まっていく。……まだ少し濁っているけど、それっぽくなってきたかも。
「うん。良い感じね。いなほさん、本当に初めて?ものすごく手慣れているわ」
「あ、ありがとうございます。むかし似たようなことを習ったことがあって」
「そうなのね。さあ、最後にもう一回【純化】スキルを使って、ポーション完成よ」
「はい。それでは……【純化】」
掌が暖かくなる感覚と一緒に魔力がフラスコのろ過されたポーション原液に流れ込んでいく。
しばらく魔力を流し込んで……ゆっくりと手を放す。初めてのポーションが完成した。
恐るおそるフラスコを持ち上げると緑色の液体が透き通っている。
「……で、できた」
「お疲れ様、いなほさん」
「あ、ありがとうございます」
「不純物が入る前に瓶に入れちゃいましょう」
「そ、そうですね」
フラスコのポーションを眺める私を微笑ましげに見ていたウメさんがガラス製の瓶を用意してくれる。いかにもポーションが入ってそうな趣のある瓶にろうとでポーションを移し替えて、しっかりと蓋をする。
最終的に瓶5本に収まったポーションが翡翠色に輝く。
〘サブジョブ:薬師 解放クエストが完了しました〙
〘新たな称号:薬師見習い を獲得しました〙
視界にメッセージが表示される。
「おめでとう。これで貴方も薬師見習いよ」
「ありがとうございます!! また教えてください!!」
「そうね。素材が溜まったらまた声を掛けてね」
「はい!!」
「うん。それじゃ、私はそろそろ寝るわね」
「遅くまでありがとうございました。おやすみなさい」
「ええ、おやすみなさい」
私は頭を深々と下げてウメさんを見送る。
ヤスケ君とヤヨイちゃんが寝る前の時間だろうし、忙しい時間に付き合って貰ってしまったのかもしれない。……でも、棚から牡丹餅的な流れだったとはいえ、とっても役に立つ時間になった。ラッキー。
「自分で作ったポーションかあ」
私は改めて瓶に入ったポーションを持ち上げて眺める。
ジッと見つめると稲取いなほ作ポーションの情報が表示される。
――――――――――――――――――
●HPポーション(小)
使用者のHPを100回復させる
作成者:稲取いなほ
特性:豊穣神の加護
溶液にした場合に下記の効果を得る
・栽培物の成長促進・栄養素魔力強化
・入浴者の身体的・精神的回復効果
――――――――――――――――――
……ん? なんか特性なるものが付いてる。これって他のポーションにもあったりするのかな?
というか、肥料にもなるし、温泉の効能みたいな効果が合ったり、ポーションって意外と色々な活用方法があるのかもしれない。むしろ戦闘しない人からすれば特性の効果の方が有難かったりして?
「ご主人、こんなとこにいたのか?」
「あ、イロハも起きちゃったんだ」
「ご主人がいなくて焦ったぞ」
「ごめんね。寝てたから起こすの悪いかなって思って」
「……」
私がポーションを見ながら色々と考えていると台所にイロハが入ってくる。
少しジト目を向けてくるイロハは黙ったまま私の肩に登ると首元に巻き付いてくる。
「ふふ、撫でてあげるから許してね」
「……」
「拗ねちゃって……少し外に行ってみる?」
「……分かった」
フワフワしたイロハの真っ白な毛並みを撫でつつ、ポーションをインベントリにしまう。
何故か少しだけ拗ねているイロハを首に巻き付けたまま私は台所を出て宿の入口に向かう。
……せっかくだし夜の丘を歩いてみるのもいいかもしれない。
▼ △ ▼
「わあ。満月だよ、イロハ」
「そうだな、ご主人」
夜の草原には満天の星空が広がっていた。
VRゲームの中とは思えないくらいには美しい景色に思わず見とれてしまう。本当にこのASTOの世界は良く作られている。五感はほとんど現実と変わらないし、NPCも現実世界と違和感がないくらいに表情も自然に感じる。それこそ、もう1つの異世界に飛ばされているような感覚に陥ってしまう。
「はあ~~」
大きく息を吐いて草原に仰向けに倒れる。
敢えて考えないようにしているけど、それでもこの世界は現実ではなくて、デスゲームであることに変わりはない。でも、よくよく考えてみれば現実世界だって事故に遭ってしまえばデスゲームと変わりはしない。ただ単にこのゲームの中の方が危ない場面に遭遇確率が高いってだけ。
「引き籠っちゃえば、危ない目に合わなくて済むのかな。」
どこかに住処を見つけて、冒険なんてしないで引き籠っていれば危険な目に遭う確率は下がるだろう。
もちろん何かしらで食い扶持は稼がなくちゃいけないけど、それこそマサキ村の一員として薬師になるのもいいかもしれない。少なくとも、引き籠ってのんびり配信生活をしていれば、やってること自体は現実世界にいる頃と変わらない生活習慣に戻れる。
「……こいちゃんに相談してみよかな」
少し冷たいそよ風が吹き抜けて身体が震える。
薄白く輝く満月を眺めると、どこか寂しそうに見えてくるから不思議だ。
それはまるで、私の感情を映す鏡のように感じられる。
「……ご主人」
「ん? どうしたのイロハ?」
「大きな魔力が近づいてくる。魔物かもしれない。気を付けろ」
「魔物……あ~、魔物だね」
イロハの声で周囲を警戒した私は、少し諦め混じりに呟く。
どうやらこのゲームは私に安寧の時間を与えたくないみたいだ。
満月を背にこちらに飛んでくる大きな鳥型の影を見て私の口角は皮肉気に上がるのだった。