新米Vtuberの神社運営生活@デスゲーム〜のんびり配信生活をするつもりが、なぜかNPCの皆さんに信仰されていました ~ 作:梯子田カハシ
「この先が御神木じゃ」
シルさんに続いて里長の館の奥へと進んでいくと急に開かれた空間が現れた。縁側構造の館から張り出して造られた板敷きの通路がコの字型に御神木を囲んでいて、中庭のような空間の中心に1本の大木が佇んでいる。その姿は……日本でも見かけたことがある、松の姿だった。
太い幹が螺旋構造に渦巻いて上に伸びていき、その途中途中で溢れ出す奔流のように枝が広がって全体を俯瞰で見ると大河の流れにすら見えてくる。……随分前にお祖父ちゃんの部屋に飾られていた盆栽の姿がそのまま大きくなった、そんな感じがする。
「これが……御神木?」
「そうじゃ。葉がついておればさらに見栄えが良いのじゃがな」
「そう、なんですね」
想像していた背の高い姿ではないけど、それでも威風堂々とした佇まいには間違いない。
軒を降りて御神木に近づくと、狙ったかのように御神木に太陽光が降り注いで根元の苔がキラキラと輝く。
……触ってもいいのかな?
「……シルさん?」
「ああ、構わないぞ。もともとお主を呼んだのは御神木の意思じゃからな」
「ありがとうございます……それでは、失礼します」
私はゆっくりと手を伸ばすと、そっと掌を御神木の幹に当てる。
ゴツっとした感触とともに、どこか暖かな感覚が掌を通して身体の中に流れ込んでくる。
〘接触成功:エルフの聖樹《世界樹の枝》〙
「……へ?」
刹那、メッセージが視界にポップアップした。
……え? 世界樹?の枝? この御神木が? まって、全然理解できない。
「なほちゃん、どうしたの?」
「あ、こいちゃん。えっと……こいちゃんも触れてみて?」
「分かった。……こう?」
私に促されてこいちゃんも御神木に触れて、すぐにフリーズした。やっぱりこいちゃんにも私と同じメッセージが表示されたのか、こいちゃんは宙を見つめて固まっている。……私もこんな感じだったのかな?
「こいちゃん? こいちゃんもメッセージ出てきた?」
「あ……ごめん」
私に声を掛けられてハッとしたこいちゃんが恥ずかしそうに赤面する。
うん、今日も私の親友はかわいいなぁ……じゃなくて、今は御神木のことだった。
《……来訪者達よ、良く来てくれたね》
「へ?」
「なほちゃん、これって……」
「うん、御神木の……声?」
《その通り。声が届いているようで嬉しいよ》
捉えどころのない、でも優し気で中性的な声が頭の中に響く。慌てて振り返ってみると、シルさんとフィエリテさんの様子に変化はない。……ということは私とこいちゃんだけに声が聞こえている、のかな?
「……あの、聞こえています」
《うん、呼応してくれてありがとう。結界を張るから少しだけ待ってね》
「……結界?」
何かが凍るような音がして不思議な感覚が全身を包む。
一瞬の浮遊感、そして何かを通り抜けるような感触がして……何も聞こえなくなる。
《もう大丈夫。この場所を少しだけ空間と時間から隔離しただけだから気にしないでね》
「空間と時間を隔離? す、凄いですね」
《これでも世界樹の一部だからね》
「それって……?」
《来訪者の中で最初に接触してきたご褒美に教えてあげよう。君達にはお願い事もあるしね》
「あ、ありがとうございます?」
「世界樹って、鯉たちが最初にいたとこ?」
《その通り。世界樹はこの世界の何処かに存在する、この世界を支える存在さ》
「……この世界を支える」
《その言葉には2つの意義が内容されている。その意義は……知りたい?》
「……もったいぶらないで教えて」
「こ、こいちゃん、失礼になっちゃうよ」
《構わないよ。君達はこの世界が“作り物”であることを知っている。世界樹とはこの世界を形作るためあらゆる情報をこの大地に定着させている存在であり、これが1つ目の世界樹の存在意義なのさ……難しいかな?》
「むずかしい」
《そうだよね。もう1つの存在意義は……今は言えないかな》
「やっぱりもったいぶってる」
《申し訳ないね。“枝”としてはここまでしか言えないんだ》
ざわざわと御神木の枝が揺れて、なんとなくお辞儀しているみたいに見える。
なんというか、木が意志を持つとこんな感じなのかな?っていう感じ。違和感は凄いけど。
《さて、君達にはお願いがあるんだ》
「はい。えっとクエスト名は……聖樹復活、だから貴方を治療すればいいんですか?」
《その通り。話が早くて助かるね》
「治療しないと、どうなるの?」
《いい質問だね。僕がこのまま力を失うと、このエルフの里が滅ぶことになるよ》
「え……この里が? そしたら……この里の人達は」
《消滅することになるだろうね。さっきも言った通り、世界樹は世界中の土地に情報を定着させるために存在している。世界樹の枝である僕は、この場所に“エルフの里”という情報を定着させるために存在していることになる。》
「ということは、情報を定着させる世界樹の枝の消滅は、そのままエルフの里の建物や、そこに住む彼女達の情報もろとも消滅してしまうということだ。端的に言えば、この里の存在ごと消滅する、ということだね」
「そ、それならすぐに治療を……何をしたらいいですかっ!?」
《それは言えないことになっているんだ。ごめんね……ああ、それと、僕の正体はこの世界の住民には秘密だからね。それを彼女達が知った時には、それを知った存在はこの世界から消されてしまう》
また御神木の枝がざわざわと揺れる……もうっ、もどかしいっ!!
しかも御神木を助けないとエルフの里が消滅しちゃうって、人質取られているみたいで気持ちが悪い。
昨日の夜、フィエリテさん達と関わった時から、こうなることは決まっていたんだと思う。
「……分かりました。やってみます」
《ありがとう。それじゃあ、許されている範囲で、ヒントを授けよう。》
「ヒント?」
「はやく教えて」
「……こいちゃん」
《最初のヒント、僕は世界樹の枝だけど、川の先にある魔樹と呼ばれている存在も僕と同じく世界樹の枝だよ。2個目のヒント、僕と魔樹と呼ばれている存在は同じ枝の先が分かれて存在しているよ。3個目のヒント、僕が弱っているのと同じように、どうやら魔樹も弱っているようだ。4つ目、これが最後のヒント。すでに君は僕達を治癒する解決策を持っているはずだ。それでは、よろしく頼むよ》
そんな言葉を最後に、カランと氷が解けるような音がした。
刹那、再びの浮遊感に襲われて、一気に周囲の音が聞こえてくる。……結界が解除された、ってことは御神木と話せる時間はここまでってことなんだと思う。とにかく、どうにかしてでもクエストをクリアしないと。
「……こいちゃん」
「うん。私達で守る」
私とこいちゃんは視線を交わして頷き合う。
ヒントからして絶対に魔樹が関係しているはず。まずはそこに行ってみよう。