新米Vtuberの神社運営生活@デスゲーム〜のんびり配信生活をするつもりが、なぜかNPCの皆さんに信仰されていました ~ 作:梯子田カハシ
ザワザワと魔樹の枝が揺れている。
私とこいちゃんが魔樹の窪みから外を見上げるなか、頭の中に声が響く。
《いなほ、鯉。エルフ達の御神木からは我々がどのような存在かは聞いているな?》
「はい、聞いています。えっと、世界樹は世界中の土地に情報を定着させるために存在している、でしたよね?」
《その通りだ。ちなみに、我との関係性については?》
「それも聞きました。同じ枝の先が分かれて存在している、って言っていました。」
《そうか。アイツ、見栄を張って自分を美化しやがって……》
魔樹から呆れが混じったような声がして……今、御神木をアイツって言った?
そう言えば随分御神木のことを気にしているみたいだけど、やっぱり同じ世界樹の枝として御神木のことは気になっちゃうのかな。それにしても、御神木が見栄を張ることなんてあるのかな?それはそれで人間っぽくて意外だけど。
「美化、ですか?」
《ああ。正確には、アイツ、エルフ達の御神木は我という枝から生えてきた若い枝なんだ。だから、どちらかと言うとアイツとの関係性は親子、もしくは兄弟的な関係なんだ》
「そうなんですね……え?ということは魔樹さんの能力を私に渡しちゃマズいんじゃないですか?」
「魔樹、お兄ちゃんなんだ」
《まあ、そう言えばそうなんだがな》
「魔樹は何の情報を定着させてるの?めっちゃ動く樹とか?」
《鯉、良い質問だ。我が司っているのはシンノ川より南、人が住む国までの全ての森だ。我の周りの樹が蠢くのは我と、癪だがエルフ達の御神木であるアイツを護るためだ》
「全ての森って、もしかして草原の丘の崖の手前まで、ですか?」
《その通りだ。いなほ、詳しいな》
あ、魔樹が褒めてくれた。嬉しい。
……じゃなくて、私達が居たマサキ村からここまで6時間くらいかけて飛んできた訳だけど、それまでの森全部をこの魔樹が管理しているってこと?だとしたら、かなり広大なエリアの情報を管理していることになるんだけど、これって普通なのかな? というか、なんだかんだ御神木を護ってるあたり、良いお兄ちゃん感があるな、この魔樹。
「なほちゃん、草原の丘の支配者。凄いでしょ?」
「こ、こいちゃん、恥ずかしいよ……そ、それにしても、この先の森全部って、凄いですね」
《そうであったか、それは失敬した。世界樹の枝というのは本来は国ひとつの情報を丸ごと定着させるような存在だからな、この程度の森林であれば訳もない。それこそ、アイツはまだ若い枝木だからエルフの里ひとつに収まっているがな》
「それで……なんで能力を引き継ごうなんてしているんですか?」
《ああ、それだが……実は我の魔力が何者かに奪われていてな。このままでは数日でアイツと共倒れだ。だから魔力の供給をアイツに絞って、その間に来訪者に何とかしようと思ってな。そんな矢先に現れたのがいなほ、鯉。お前達だ》
「それじゃあ、魔樹さんは御神木の為に犠牲に……?」
《これでも兄貴分とだからな。致し方ない》
……この魔樹、めっちゃいい人だった。
というか、今しれっと大事な情報を言ってなかった?魔力が奪われているのが御神木や魔樹が弱っている原因なんて御神木は言ってなかったし、そもそも簡単そうに言ってるけど魔樹がなくなるってことは広大な森エリアがなくなるってことだよね? それって大丈夫なのかな?
「森、消えちゃう?」
《この森の情報定着はアイツに託すからすぐに消えることはない。蠢く木々と我自身の身体を支えるのに使う魔力が大きいからな。これを削減すれば数週間は持つだろう》
「それで……何をすればいいんですか?」
《ようやく本題だな。先程も言ったように我へと供給される魔力が奪われている。その原因が消え去ればこの状態は元通りになる》
「それって……」
《数日前に我とアイツの間のどこかに謎の大穴が突如発現した。そこにはモンスターが生息しているらしい。そして、その大穴の底にいる何者か、それが恐らく我の魔力を奪っている》
「穴、ですか?」
《そうだ。どうせ、いなほと鯉の2人はアイツから変なヒントを与えられたんだろう。……やるべきことはシンプルだ。大穴を見つけ、そこに住まう何者かを倒せばいい》
えーっと、御神木が何だったんだってくらい教えてくれるじゃん……何だかあんなに勿体ぶってた御神木の好感度がぐんぐん下がっているのですが……
それでもフィエリテさんはじめエルフの里を護るために私達がやるべきことがハッキリしたのは良かった。あとは大穴?にいる魔力を奪っているヤツを倒せばいいんだろうけど……そもそも私とこいちゃんで倒せるのかな。私もこいちゃんもまだまだレベル低いんだよね。特に私は足を引っ張らないか、正直不安しかないんだよなあ……
「魔樹、そこまで言っていいの?」
《うむ。どうせ我は存在がなくなる身だからな。問題ない…………それでは、頼んだぞ》
そんな魔樹の声を最後に、刹那、ガラスが弾けて割れるような音が鳴り響いた。
急に視界が明るくなったかと思って上を見上げると、視界を漆黒に覆っていた魔樹がキラキラと輝く粒子となって弾け飛んで、消滅していた。同時に周囲がざわざわと蠢きまわっていた木々が動きを止めている。
〘アイテム獲得:漆黒の魔樹剣《世界樹の枝》〙
突然の展開に言葉を失っていた私の視界にメッセージが表示された。
私の手元には台座である根をなくした「真っ黒エクスカリバー」こと「漆黒の魔樹剣」が握られている。ここまで来るともう逃げられないね。こうなったら何とか大穴のモンスターを倒すしかない。
「………こいちゃん」
「? どうしたの、なほちゃん?」
「……絶対にフィエリテさん達を助けようね」
「当然。なほちゃん、覚悟出来た顔してる……こうなったら絶対大丈夫」
「うん。頑張ろう」
優しく微笑むこいちゃんの笑顔に背中を押された気分で私は魔樹剣を握り締める。
………まずは大穴を見つけないといけない。あとは……できれば34期生の先輩方も協力して欲しいな。