新米Vtuberの神社運営生活@デスゲーム〜のんびり配信生活をするつもりが、なぜかNPCの皆さんに信仰されていました ~ 作:梯子田カハシ
「はあ~、緊張するなあ」
配信用に暗くしていた部屋の電気をつけて冷蔵庫を開ける。ペットボトルのお茶をグラスに注いで、一気に飲み干すと冷たい感触が喉を通り過ぎていくのを感じる。空になったグラスを軽く洗って乾燥台においく。
改めて深呼吸。
「……よし、みんなを待たせ過ぎちゃ悪いし、行きましょう!!」
誰にも届かない独り言で自分を鼓舞してベットに行く………その前に、私は部屋の端っこに鎮座する神棚に向むかう。今時はほとんど見かけることもなくなった神棚が私のお部屋には設置されている。
鮮やかな朱色の鳥居が特徴的な小さな神棚は私が大学に通うために引っ越したときにお父さんがつけてくれたもの。外資系企業に勤め、日本支部を通り越してアメリカ本社籍の役付きになっているお父さんは、普段は優しいけど、かなりの堅物。実家と私の引っ越し先の氏神様が同じお稲荷様と分かると、知らない間に神棚が設置されていた。………ちなみに実家にはこれより大きい神棚があったりする。
「宇迦さま、頑張ってきます。見守っていてください」
手を合わせてお稲荷さまにお参りする。
小さい頃は不気味で怖かったけど、今は慣れてきた。子供の頃に本棚に置いてあった漫画にお稲荷さまのキャラクターが登場する少女漫画があって、それを読んでからは毎日しっかりお参りするようにしている。………ちなみにお正月は家族そろって毎年京都の本宮に初詣に行ってたりもします。
「……今度こそ、行ってきます」
神棚に一礼して、私はフルダイブ機器のあるベットへと向かう。
普段は仮想空間酔いがあるからバーチャルアバターでの配信は少なめだけど、今回は事務所総出の案件企画だから仕方がない。ベットに腰掛けてフルダイブ機器のヘットセットを被る。
「ふう~。………よし、それじゃ、ログイン!!」
ベットに横になった私は目を閉じて仮想空間へと意識を飛ばす。
少しの浮遊感とともに視界が真っ白に染まって、そこから徐々に仮想空間が構築されていく。気が付けばメニュー画面が表示され、私は最初のポータルにマイルームを選択する。
「ちょっと準備運動」
仮想空間に移動してマイルームに入った私はアバターを間隔に馴染ませるように軽く伸びをして深呼吸する。私の動きに合わせて紅白の巫女服の袴がはためく。
メタバース社会の進歩で殆どの日本国民が自分の分身であるバーチャルアバターを持つようになった。同時に国の法整備も進んで、1人当たりバーチャルアバターは1体までというルールができたりもした。基本的にはマイナンバーにアバター識別番号が紐づけられる仕組みになっている、とは言ってもアバターは性別含めて幾らでもカスタム可能だから不自由は殆んどない。
「えっと、まずは配信を再開しないとだから………」
私はメニュー画面を展開してYourtubelにサインインする。すぐに視界の左端にコメント欄が流れ始めて、配信同期の確認画面がポップアップされる。同期許可のボタンを押すと浮遊カメラが起動して私の
「さてさて、仮想空間にログインしましたよってことで。みんな、さっきぶり~」
【きちゃ!!】
【おかえり〜】
【待ってた!!】
【いよいよ始まるのか……】
【ドキドキ】
「待っててくれてありがと~。それでは皆のお待ちかね、プロジェクトASTこと、アストリア・オンラインβ版にログインします!! ええっと……」
事前にMiDiAX運営スタッフさんから配布されたアプリを起動してゲームへのログインボタンを押す。視界が真っ白になって思わず目を瞑る。フルダイブゲームにログインするときにお馴染みの浮遊感が身体を襲ってきて…………目を開けるとそこは真っ白な大理石でできた石畳の円形の広場だった。
「うわあ、すごい景色!!」
【すご。めちゃ綺麗】
【めっちゃフィールド広いやん!!】
【まじめに関東平野くらいあるんじゃない?】
【山あって海あって、詰め込みセットみたいなフィールドしてんな】
【グラフィック超綺麗】
【ヤバ。推しとは言えテスター羨ましすぎる】
【結構他のミディの人も来てるね】
思わず声が出ちゃった。
広場の端からは広大な大地に満天の青空、そびえたつ山々、海やそこに浮かぶ島が見える。どうやらかなり高い場所にいるみたい。振り返ってみれば既に沢山の事務所の先輩たちもログインして思い思いの感想を視聴者さん達に伝えている。
「あっ、なほちゃ~ん」
「こいちゃん!! やっほー」
「やほ~。今日もなほちゃんはちっちゃい。はい、ぎゅ~」
「こいちゃ~ん? 毎回私に会うたび抱き着かないで~」
「コメント盛り上がる。問題ない」
「こ、狡いよ、こいちゃん……」
私のことを“なほちゃん”と呼んで、たったいま私に抱き着いているのはMiDiAX第69期の同期である鯉ちゃん。水滸 鯉と書いて、「すいこ こい」と読む。私は「こいちゃん」って呼んでる。長身の美人さんで歌が上手い彼女はお母さんが中国出身のハーフ。読んでの如く中国の物語がキャラ設定のモチーフになってる、らしい。そして、彼女の行動で私のコメント欄が大絶賛、現在進行形で加速している。
【いなこいてえてえ】
【てえてえ】
【いなこいをすこれ】
【てえてえ】
【こいちゃんすこ】
【すこすこ】
ほら、大盛り上がり。配信的には助かるんだけど、毎回恥ずかしさが勝つ。……というか、なんでみんな急にひらがなしか使えなくなるの?
しばらくの間こいちゃんに抱き着かれて、満足したのかこいちゃんが私を解放してくれる。その表情は満面に笑みだ。
「ふふっ、なほちゃん真っ赤。コメントでからかわれた?」
「こいちゃん…………そろそろ怒るよ?」
「……ここはイロハに免じて許して欲しい」
そう言ってこいちゃんは私のアバターが首に巻いている白狐のマフラーを撫でる。
この尻尾が長い白狐のマフラーは、私が初めて配信した時にその場のノリでイロハと名付けた。それ以降、同期からイロハはこうして絡まれている。ちなみに、こいちゃんも龍がモチーフの青いマフラーをしてる。名前はまだない、らしい。………ん? こいちゃんに撫でられたイロハが一瞬動いた気がしたけど……気のせいか。
「許してくれる?」
「もう、仕方ないなあ」
「なほちゃん優しい。好き」
「だからあ!! 抱き着くなあ!!」
「あ、そういえばフレンド登録とかできるのかな?」
「きゅ、急に真顔になるのやめてよ、こいちゃん。普通のゲームならフレンド登録位できるんじゃない? あ、ほら登録メニューあるよ」
「ならフレンド登録する。なほちゃんの初めては私がもらう」
「だから、なんで意味深な言い方をするの!?」
そんなこんなで私がこいちゃんと戯れていると、大きなベルが鳴る音が聞こえてきた。時間を確認するとピッタリ13時ちょうど。……ということは集合時間になってMiDiAXの所属ライバー全員が揃ったということだ。寝坊している人がいなければ。
「寝坊してる人いそうだな~」
「流石にいないと思う。めっちゃ起こされた」
「あ、そっか。こいちゃんは割とそっち側の人だもんね」
「寝坊がVtuberの華なのに……悔しい」
「こいちゃん……何に悔しさを感じてるのよ。それだけ運営も気合が入ってるってことだと思うよ? 所属ライバー全員参加なんて滅多にないし……今回はそれだけ大きな案件なんじゃない?」
「……それなら仕方ない」
広場の端っこで後輩らしく2人でひそひそ話をしていると、広場の上空に巨大なモニターが出現する。広場の中央にいる他の先輩方が見上げる先でモニターに1人の仮面の人物が映し出され、ゆっくりと彼は声を発する。
〘MIDIAX所属のライバー約700名の皆さま、本日は当社の新作フルダイブ型VRMMOゲーム“アストリア・オンライン”β版にご参加いただき、ありがとうございます〙