新米Vtuberの神社運営生活@デスゲーム〜のんびり配信生活をするつもりが、なぜかNPCの皆さんに信仰されていました ~ 作:梯子田カハシ
「……んん」
目を開けると青空に浮かぶ真っ白な雲が視界に入る。どれだけ眠っていたんだろう。ぼんやりとした意識を何とか奮い立たせて頭を振る。
ゆっくりと身体を起き上がらせると、のどかで暖かな風が通り過ぎて周囲の草を揺らす。
「ここは……丘の上?」
周囲を見渡すと少し盛り上がった場所にいることが分かる。少し遠くには集落のような家も見えて、少しだけ安心して息が漏れる。そして、すぐに膝が震えだす。
「ああ、そっか。私、デスゲームに飛ばされて……」
徐々に意識がハッキリしてきて、現状理解が追い付いてくる。
……ダメだ。こういう時にこそいつも通りに振る舞わないと。うん、平常心、平常心。
「せっかくの綺麗な景色なんだし、まずは深呼吸しよう。すう~~~~……あれ?」
違和感を感じて腰を見ると袴と同じ朱色の鞘に収まった日本刀が差さっていた。私は何気なく立ち上がって、腰の日本刀を抜いてみる。………こう見えて私、剣道経験があるのです。えへん。そんな呑気な事を考えながら軽く素振りをしてみる。
「いち、にー、さん……うん、久しぶりやると気分転換になって素振りも楽しいかも」
〘アストリア・オンラインβの世界へようこそ〙
「ひゃっ!?」
〘私はAIガイドの………〙
「あっ…………」
やってしまった。
突然目の前に出現した天使型AIガイドの声に驚いた私は、反射的に振り上げた日本刀を振り降ろしていた。目の前で真っ二つになる天使型AIガイド。残されたのは呆然とする私とのどかな風景だけ。
「え、うそ。待って、本当に待って」
慌ててメニューを開いてAIガイドを探すけど、何故かメニューのどこにも見つからない。やばいやばいやばいやばい。デスゲームで、いきなり致命的なミスをしたんですけど!! え、本当に、ガイドなしにゲームをしろって言うんですか!?
「いや~、やっぱ宇迦様が見込んだだけあるな」
「ひゃあっ!?」
「おっと、俺のことは斬らないでくれよ、ご主人」
「へ? あ、あなたは……イロハ?」
耳元から声が聞こえてきたかと思うと、尻尾の長い白狐のマフラーが勝手に動き出し、肩から腕を伝って私の手のひらの上に座る。金色の瞳に紅い目尻、真っ白でつやつやとした毛並みに長い尻尾とピンと立った三角耳。
「おうよ。俺がイロハだ!!」
「イロハって男の子だったんだね。知らなかった」
「最初に気になるのそこかよっ!! せっかく俺と喋れてるんだぞ!!」
「あっ、そうだったね。イロハが動けるようになったのもゲームの影響?」
「そうだけど、ちょっと違う」
「それって、どういう意味?」
「おっと、これ以上は言えないぜ。守秘義務ってヤツだ」
「イロハは難しい言葉を知ってるんだね。えらい。ご褒美に撫でてあげよう。ほら、えらいぞ、えらいぞ~」
「そうだろう、そうだろう。ご主人、もっと撫でて欲しい」
「撫でてほしいなら素直に白状するんだ。ほら、まだまだ撫でちゃうぞ。うらうら~」
「ご主人、最高だぜ〜」
私は勢いに任せてイロハを撫でまわす。
イロハくん、その両前足を上げて「最高だぜ〜」ってセリフ、知的財産権的大丈夫なんでしょうか?
イロハのかわいい反応が楽しくって、最終的にはイロハをくすぐり倒していた。しばらくの間、お互いに満足するまで戯れて、ふたたび丘の上にあおむけになる。
…………えっと、何してたんだけ?
「あっ、そうだった。ガイドがいなくなっちゃったんだった」
「いなくなった、ってよりは思いっきりぶった斬ってたけどな、ご主人」
「…………イジワルいうならもう撫でてあげない」
「そう拗ねるなって、ご主人。とりあえずステータスの確認でもしてみたらいいんじゃないか? あんな天使、いたって役に立たないよ」
「たしかに、まず最初はステータスを見るべきだよね」
私は右手で宙をフリックしてメニュー画面を出現させると、ステータス情報を選択して自分自身のステータス確認画面を開く。えっと、まずは基礎情報から……
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●基礎情報
〘名前〙稲取いなほ
〘種族〙ヒューマン
〘職業〙稲取稲荷 巫女
〘性別〙♀
〘年齢〙19歳
〘称号〙アストリア/天使殺し
〘武器〙宇迦太刀《うかたち》
〘装備〙稲取稲荷巫女装束《いなとりいなりみこしょうぞく》/長尾白狐《ながおびゃっこ》イロハ
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……ふむふむ、ん? 天使殺し?早速そんな称号が与えられてるんですね、私。なんか、こういうのってRPG系だと善行値が削られまくってのちのち教会に入れなかったりして苦労する印象がある。いきなりカルマ値を背負ってのスタートとか、泣いていいですか?
「……事故なのに」
「初っ端から日本刀を振り回してるご主人も悪い」
「イロハのいじわる」
軽くイロハの脇腹を小突いてから再びステータスに目を落とす。
あらためて見ると「Vtuber:稲取いなほ」としてのキャラ設定がしっかりとステータスに反映されている。私が架空のバーチャル神社である稲取稲荷の巫女をしている設定とか、まさにそう。有馬社長も言ってたけど、今回のデスゲーム、かなり念入りに計画をしていた感じがひしひしと伝わってくる。えっと、次はステータスっと……
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●ステータス
〘LV〙1
〘SP〙30(初期値)
〘HP〙974/50 :体力×10
〘MP〙75/75 :体力×魔力
〘物攻〙10 :体力+筋力
〘魔攻〙20 :体力+魔力
〘物防〙10 :体力+敏捷
〘魔防〙55 :体力+精神
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全体的に低いけど……レベル1だから仕方がないかな。
HPが上限より多いのはなんでだろう?デスゲームでいきなり死んじゃわないようにっていう配慮とか? 実際に命が掛かっている以上はレベリングしないとだけど、正直この手のゲームの経験が多い訳じゃないから頑張らないと。それこそ視聴者さんの意見とかも聞いてみよう。
「というか、ガイドを倒しても経験値もらえないんだね……」
「そりゃご主人、ガイドはエネミーじゃないからな」
「そうだけど、ちょっと期待したっていいじゃん!!」
「捕らぬ狸のなんとやら……」
「うう、イロハがイジメてくる」
「ご主人、結構愉快な性格なんだな」
愉快とは失礼な。これでも配信者なんです、超愉快に決まってるでしょ。
と、そんなことは置いておいてステータス確認の続きをしなくちゃね。次はさっき見たステータスの基になってる数値のパラメーター。どれどれ……
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●基礎パラメーター
〘体力〙5
〘筋力〙5
〘魔力〙15
〘敏捷〙15
〘精神〙50
〘運命〙大吉
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えっ、思った以上に低いんですけど。こういうステータスで1桁なこととかあるんだ。一番大事そうなパラメーターの体力値が1桁な時点で詰んでる気がする。
……あと、運命値の大吉って何ですか?多分、LUCK値のことだけど、こういうのって普通数値で出るはずだよね。かといって、LUCK値が高くてもステータスになんも影響がないのが悲しい。クリティカルが増えたり戦闘ボーナスが美味しかったり、それくらいなもんで、気休め程度のバグですね、これ。日々のお参りの成果かな、あはは。
「ご主人、なんか疲れてないか?」
「ん~? ソンナコトナイヨ」
「笑顔が引きつってるぞ、ご主人」
「……そういえば、イロハってステータスの解説とかできるの? AIガイドの代わりに出てきてくれたんだよね?」
「何言ってるんだ、ご主人。俺はそんなことできないぞ?」
「へ?」
「俺もご主人についてきただけだからな。このゲームの中で動けるようになったけど、俺はずっとご主人と一緒にいたじゃん?だから、なんにも分かんない」
「ふーん、そうなんだ~」
「あっ、いま俺をいらない子みたいな目で見たな!!これでも俺はご主人を護るためにいるんだからな!!いらない子じゃないぞっ!!」
「はいはい、そうだね~」
「くっ、このご主人、全然信じていないっ!?」
適当にイロハを撫でながらパラメーターを再確認する。レベルの上昇とともにパラメーターにポイントを振り分けられるみたいだし、ひとまずは体力値を中心に上げていく方針にするしかない、って感じかな。一昔前のラノベみたいに極振りも面白そうだけど、デスゲームでそんな選択をする度胸はない。
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●特殊パラメーター
〘登録者〙923,680:登録者数の0.1%をHPに加算
〘同接数〙0 :同接人数の0.1%を攻撃に加算
●職種スキル
〘親交《しんこう》:NPC・モンスターを仲間にすることが可能/仲間になったNPC・モンスターに経験値ボーナスを付与〙
〘信仰《しんこう》:自身に向けられたNPC・モンスターの感情値のSP反映が可能〙
〘神降《しんこう》:自身の信じる神の権能・加護の行使が可能〙
●スキル
〘-----:未設定〙
〘-----:未設定〙
〘-----:未設定〙
●ホーム
〘稲取稲荷神社:未設定〙
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最後は特殊ステータスとスキル関連の確認。
HPが規定値より高かったのは特殊パラメーターのおかげだったみたい。あとは戦闘中に配信をしていれば同接数がバフになる、って感じ。
「これって箱の中で最若手&登録者数最低ラインの私とこいちゃんに超不利じゃない? デビュー1ヶ月で金盾にも届いてない私達にこの仕打ちはないよ……」
「ご主人、これから増やせばいいんだぞ」
「イロハ、そんなことは分かってるんだよ!!でも、でもゲーム世界では先輩も後輩も同じスタートラインからと思うじゃん!!Vtuber活動は後発だから仕方ないけど、ゲームでも不遇スタートなのは納得いかない!!」
「ご主人……」
「いいもん。冒険も、戦闘もするもんか!!どうせ後発の私は足を引っ張るだけだもん!! 引き籠って今まで通り雑談配信ばっかりするもんね!!」
「もんもん言って完全にヘソを曲げている…………。ほら、ご主人。職種スキルとかカッコイイぞ~。神様の能力が使えるみたいだぞ~」
「ふぇ?」
イロハに言われて私は職種スキルの欄を見る。
なにこれ、かっこいい!!スキル〘神降〙って、巫女だから使えるスキル的な?なにそれ、そんなスキルあるなら先に行ってよ~。
「ご主人、チョロい」
「うるさい!!」
そんなこんなでイロハとわちゃわちゃしながらステータス確認を終えた。
たしか週に何時間化は配信もしないといけないみたいだし、レベリングもしないといけない。まずは丘の下、近くに見える集落に行ってみよう。