新米Vtuberの神社運営生活@デスゲーム〜のんびり配信生活をするつもりが、なぜかNPCの皆さんに信仰されていました ~   作:梯子田カハシ

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第1章 はじまりの村
第5話 偉大なる大先輩との遭遇


 

「ひゃ~。近くに見えるけど、結構遠いね」

 

「そうだな、ご主人」

 

「私の肩に乗ってるだけのイロハに言われてもな~」

 

「…………」

 

「無視って酷くない?」

 

 

イロハと会話しながら歩いて丘を降りていく。

 

雲一つない青空に遠くに見える山々、暖かい風と若く青々と広がる草原。ここがデスゲームじゃなければ最高の気分なんだけどなあ。そんなことを考えながら歩いていると、少し先にある岩陰から2人の人影が姿を現すのが見えた。

 

 

「……ご主人」

 

「うん、わかってる。向こうにも気づかれてるよね」

 

「俺は喋らないでマフラーのふりしてる。明らかにヤバそうだったらスキル〘神降〙を使って逃げよう。絶対ご主人を護るから」

 

「急にカッコイイこと言うじゃん、イロハ」

 

「……」

 

「ねえ、無視って酷くない?」

 

 

そんな軽口を交わしつつ、私は日本刀の柄に手を掛けて進む。こちらに向かってくる人影が徐々に大きくなってハッキリと姿が見えるようになる。

 

 

「あれは……宗近さんと神楽耶さん? え、なんで伝説の1期生の2人が……?」

 

「ご主人、知り合いか?」

 

「知り合いというか、事務所の超大御所の先輩。どうしよう、話せるかな…」

 

「先輩だからって油断するなよ? ステータス的に不利なんだろ?」

 

「そ、そうだけど……」

 

 

Vtuber界隈の生ける伝説。それが宗近さんと神楽耶さん。

 

最大手のライバー事務所MiDiAXの1期生にして2010年代中盤の黎明期から30年以上、この業界の最前線を走り抜け、MiDiAXを確固たるトップへと押し上げた事務所の功労者。まさに生ける伝説。そんな2人がこちらに向かって歩いてくる。ヤバい、緊張で吐きそう。

 

2人とも黒髪にクラシックなスーツとドレス。個性や独創性に走りがちなアバターの中ではシンプル過ぎるくらいシンプルでベーシックなスタイルだけど、それがまた黎明期からの生き残りであることの証明のようで、かっこいい。

 

 

「あら、1人なのね? あなたは……いなほちゃんね?」

 

「……へ?私のこと覚えてるんですか?」

 

「当然だろう、と言いたいところだが、直近のデビュー組だから覚えてただけだな」

 

「そ、それでも覚えて頂けてるだけで光栄です……!!」

 

「ふふっ、いなほちゃんのことは印象に残ってるから覚えてたの。知ってる?同期が2人しかいないのって私達1期生とあなたたち69期生の2組だけなのよ」

 

「そ、そんな、恐縮です……」

 

 

ヤ、ヤバい。私、事務所の大先輩と話してる……。

しかも神楽耶さんに認知されてるとか、嬉しすぎるんだけど。

 

 

「それにしても君は落ち着いているな」

 

「へ? そうですか?」

 

「ああ、他のライバー達は大騒ぎになってるみたいだからな」

 

「そうよ~。こんなに落ち着いてて、しかも私達相手にも武器に手を掛けてしっかり臨戦態勢取ってるのあなたくらいよ?」

 

「こ、これは念のためで……」

 

「こんな状況だ。俺達も別にその程度は気にしないさ。俺達は後輩たちが取り乱してしまわないように色々と見て回ってるんだ。その点、君は心配なさそうだ。」

 

 

落ち着いている、というなら宗近さんと神楽耶さんの方だ。一切の迷いがないというか、動揺や困惑の色が2人から全く感じられない。人生経験の差なのかもしれないけど、2人だってデスゲームに巻き込まれるのは初めての経験はず。それなのに、2人はまるで普段の配信で見せる姿そのままの雰囲気だ。

 

 

「そういえば、同期の子はいないの?」

 

「こいちゃんですか? いえ、転移してからはずっと1人ですけど……」

 

「そうなのね……ねえ宗近? 他の子達はデビュー同期組で一緒にいたわよね?」

 

「そうだな、何かのバグだろうか。もしかしたら近くにいるかもしれない」

 

 

なんか違和感。この2人、リスポーンしてからそんなに時間たってないのに持ってる情報が多すぎる気がする。コメントを観てるのか、もしくはスキルとかの能力なのかは分からないけど、とにかく油断しちゃいけない気がする。

 

 

「そ、そうなんですね。もう宗近さんと神楽耶さんは他の先輩方とお会いしたんですね。私もこいちゃんを探してみるようにします」

 

「それが良い。ちなみに、コイツの能力を使って移動してるから俺達は他のライバーとも会えてるが、この世界、相当広いぞ。恐らく同期以外は半径10キロ圏内には居ないだろう」

 

「いなほちゃんも早く同期ちゃんに会えると良いわね」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「それじゃあ、私達はそろそろ行こうかしら。いなほちゃんは落ち着いてて大丈夫そうだし、同期ちゃんも合流できれば問題ないと思うし」

 

「そうだな。それでは移動するとしよう」

 

 

そう言うと宗近さんと神楽耶さんの2人は頷きあう。

 

もう次の場所に移動しちゃうみたい。大先輩である2人と戦闘にならなかったのは良かったけど……どうしても違和感が抜けきらない。こんな状況で2人はなんでこんなに落ち着いてるんだろう。

 

 

「あ、あの!!」

 

「ん?どうかしたかしら?」

 

「あの……こ、怖くないんですか?」

 

「と、いうと?」

 

「いきなりゲームに閉じ込められて、抜け出せなくなるかもしれなくて、死んじゃうかもしれなくて…………怖くないんですか?」

 

「そうね……怖くない、訳ではないわ。でも、それ以上にワクワクしてるの。ねっ、宗近。あなたもそうでしょ?」

 

「………そうだな」

 

「ワクワク、ですか?」

 

「そう。2017年にまだ職業ですらないVtuberとして活動を初めて、これまでに色んなことを経験してきた。楽しいことも、辛いことも、出会いも、別れも。ずっと応援してくれる視聴者さんもいれば、新たに見に来てくれる人も、もちろん去っていく人もいる」

 

 

その一言で嫌でも気づかされる。

 

私の目の前にいる2人の先輩は、約30年の活動で、ライバーとしての酸いも甘いも、全部を知っている人生の大先輩なのだ。あらためて、30年という活動期間の重みをずっしりと感じる。

 

 

「それでも、私の中では最近はずっと停滞してる感じがしてたの。みんなに時間が出来て、より沢山の人が私達を見てくれるようになったけど、同時に私達ライバーも視聴者も満たされてて、最初の10年間みたいな、これからどうなるか分からない、楽しいけど緊張感もあって、みんな必死になって、そんな感覚は味わえなくなってきてた」

 

「……それは俺も同感だな」

 

「だから、楽しみなの。閉じ込められたゲームの世界が、どんな刺激を与えてくれるのか。すっごく楽しみ。それに、アバターならリアルと違って身体の心配しなくていいし」

 

「もう俺達もリアルじゃ結構いい歳だからな」

 

「宗近、そんな夢のないこと言わない。」

 

「あいあい」

 

「いなほちゃん。あなたはこの世界をどう満喫するのかしら? 楽しみにしてるね? それじゃ、特別に。」

 

 

そう言うと神楽耶さんは宙で指を動かしてメニュー画面を操作する。次の瞬間、私の視界にポップアップメッセージが表示されて、神楽耶さんからのフレンド申請を受け取る。…………これって、見間違いじゃないよね?

 

 

「へっ!? フレンドなんて、そんな!!」

 

「いいから~。はい、これでOK」

 

「宗近ともフレンドになっとく?」

 

「…………良いんですか?」

 

「前向きなのは良いことだ。気に入った、フレンドになろう」

 

「ゆ、夢ですか?」

 

「これが悪夢にならないようにね? それじゃ今度こそ、宗近、行きましょう」

 

 

想定外の事態に目をパチパチする私を尻目に宗近さんと神楽耶さんは私から距離を取ってスキルを発動させる。紫色のスキルエフェクトが発動して2人の周囲が輝きを放ち始める。私も慌てて直立して2人を見送る。

 

 

「それでは。いなほ君、また会おう」

 

「はいっ!! ありがとうございます!!」

 

「それじゃ、さよなら。あなたの幸運を祈ってるわ」

 

 

神楽耶さんの声を最後に2人の姿が見えなくなる。

最初から最後まで、圧倒されっぱなしだった。それでも、2人と話せて少しだけ前向きな気持ちになれた気がする。…………たなぼたでフレンドにもなれたし。

 

 

「……でへへ」

 

「ご主人、少しキモいぞ?」

 

「うるさい。…………えへへ、1期生2人とフレンドかあ」

 

 

フレンド画面でこいちゃんの下に表示されるレジェンド2人の名前を見て私はしばらくの間ニヤニヤしていた。イロハはそれを少し引いた目で見ていた。

 

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