新米Vtuberの神社運営生活@デスゲーム〜のんびり配信生活をするつもりが、なぜかNPCの皆さんに信仰されていました ~ 作:梯子田カハシ
昼過ぎの草原を1匹の白狐と1匹の狼が駆け抜ける。
じゃれ合うアッシュとイロハを眺めながら、私は小さく溜息をつく。
≪どうかしたのか? いなほ≫
「アッシュが仲間になったのは良いんだけどさ……」
「いい事じゃないか、ご主人」
「いや、この状況で私がアッシュを連れて集落に行ったら村の人達に驚かれちゃうな~と思って。だってアッシュが仲間になるなんて思ってないだろうし」
「うーん…素直にご主人が手懐けたっていえばいいんじゃないか?」
≪うむ。お手とお座りくらいならしてやってもいいぞ。伏せもできる≫
「え~、なんか不安なんだけど~」
「何事もまずは“物は試し”だぞ、ご主人」
「うう~、分かったよ、イロハ」
≪ならば麓の集落に向かおう≫
2匹の仲間に促されて私は再び集落に足を向ける。
せっかくだし、歩きながらアッシュのステータスを確認してみよう。
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●基礎情報
〘名前〙アッシュ
〘種族〙ビッグウルフ
〘性別〙♂
●ステータス
〘LV〙7
〘HP〙790
〘ATK〙1,060
〘DEF〙680
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アッシュのステータス超シンプル。…もしかしたら仲間にするの想定しないで設定してる?めっちゃ項目少ないんですけど。それとも私達プレイヤーの項目が多いとか?
それにしても私がLv1の段階で自分よりLvが高いアッシュを仲間に出来てラッキーだった。もしかしたらだけど、割とうまいこと行ってるのでは?
「ご主人、誰か来る!!」
アッシュのステータスを見ながら呑気に考えごとをしていると、遠くから何かが近づいてくる音が聞こえてくる。これは……馬の足音?
「なほちゃ~~ん」
聞き覚えのある声がして颯爽と赤毛馬に乗った少女が現れる。
手足が長くスラッとした長身とクリっとした大きな瞳と柔らかいほっぺたが特徴的なかわいらしい狸顔。灰色がかったショートヘアに、少しだけぎこちない日本語。私の唯一の同期であり親友であるこいちゃんが、まさかの馬に跨って登場してきた。
「こいちゃん!?」
「やっぱりなほちゃんだ。生きててよかった」
そう言うとこいちゃんは馬から降りて私に近づいてきて……そのまま私に抱き着いた。なんだかいつもよりハグが強い。少しだけ身動ぎするけどビクともしない。
「よかった。ホントによかった」
私を抱きしめるこいちゃんの声が少しだけ擦れている。
……親友であるこいちゃんにそんな声を出されたら、私はもう彼女の為すがままになるしかない。しばらくこいちゃんのハグは続いて、私は黙ってそれを受け入れる。
「………うん、満足」
「こいちゃん、さすがにちょっと長かったよ?」
「嬉しかったから。もう会えないかと思った」
「私も嬉しかった」
「なほちゃん……もう1回ぎゅ~する」
「もう十分だよっ!?」
手を広げて抱き着こうとするこいちゃんを抑えつつ、私はこいちゃんの後ろに控えている赤毛の馬に目を向ける。私と目が合った馬は優しげな瞳で会釈をしてくれる。
「こいちゃんはどうして私の居場所が分かったの?」
「近くにあった集落に行ったら子供が近寄ってきて助けてって言われたから。赤と白の服って言ってたから、もしかしたらなほちゃんかなって思ったの。急いで来たら狼と戦ってなかったからビックリした」
「あっ、そうだよね。実は仲間になってくれたの。こいちゃんの馬もそんな感じ?」
「そう。なんか最初っから近くにいて仲良くなった」
「そうなんだね。私なんて最初噛まれちゃってビックリしたんだよ~」
「…………君、いなほを嚙んだの?」
こいちゃんの声のトーンが下がって、ジャキっという音とともにアッシュに柄の長い大刀の切っ先が向けられる。大きな刃には空を駆ける龍の姿の装飾が施されている。
「こいちゃん、ストップ!!」
「でも…………」
「甘噛みだから!! あるでしょ? ワンちゃんが軽く噛んでくる感じ。あんな感じだったからっ!!ね、アッシュ?」
≪う、うむ。そうだった≫
「…………ならいいけど。なほちゃんに何かあったら許さない」
「あ、ありがと、こいちゃん」
こいちゃん、目がガチだった。あぶない、あぶない。
それにしても、こいちゃんの武器もかっこいいなあ。多分だけど中国由来の武器だよね。こいちゃんは身長が高いからどんな武器でも様になる。
「……なほちゃん? まじまじみて、どうかした?」
「あっ、ごめん。武器かっこいいなって。そういえば、ゲームの中だとマフラーは外してるんだね」
「うん。なんか喋って動くようになった―――武装解除」
ポンッという音がしてこいちゃんの武器が消滅すると、代わりに1匹の小龍がその場に出現する。小さな青い龍はこいちゃんのアバターについていたマフラーと同じ姿だから……たぶんイロハと同じくゲームの中で動けるようになったって感じ、かな?
「やあやあお嬢さん。挨拶するのは初めてだよね?僕はこちらの青龍見習いにお仕えしている小龍のスイと言います。今後お見知りおきを」
「あっ、はじめまして。君、スイって言うんだね」
「そうでございます!!今後ともよしなに」
「よろしくね? あっ、イロハも自己紹介しなきゃだよね。イロハ?」
私が呼ぶとイロハがサッと私の肩に登ってきてこいちゃんのスイの方を見る。………なんでそんなに胸を張ってるのよ、イロハ。もしかしてスイと張り合ってる?
「ご主人の守護を任されているイロハだ。よろしく」
「やっぱりイロハも動けるようになってたんだ。よしよし」
「なっ、鯉殿!? 僕を撫でたことなどないのに、何故その
「ふふん」
「………なんでイロハは勝ち誇った顔をしてるのよ」
なぜか悔しそうにクルクルと身動きをする小龍のスイ……多分だけど飛んでるから撫でにくいだけだと思うよ? まあイロハの毛並みが良いのもあると思うけど。
「あれ? なほちゃん、ガイドは?」
私がぼんやりとスイを眺めていると、こいちゃんが気付いたように天使型AIガイドのことを聞いてくる。
ゲーム開始早々なのにガイドがいなかったら普通気になるよね。まあ私の場合は、初っ端で真っ二つにしちゃったんですけどね、はい。……違うんです、手違いなんです。
「……何と言いますか、倒しちゃった? みたいな?」
「ご主人………」
「そうなんだ、こいと一緒だね」
「へ?」
スイと赤毛馬のインパクトで気付かなかったけど、よく見ればこいちゃんもガイドを連れていない。もしかしなくても、こいちゃんも倒しちゃった感じ?
「なんか、気持ち悪かったから倒した。えいって感じで」
そう言ってこいちゃんは軽く武器を振るそぶりをする。
まさかの自発的にガイドを黙らせるパターンですか……さすがは人呼んで「無自覚破天荒お転婆娘」こいちゃん。こいちゃんがそんな感じなら、もしかしたら先輩のライバーさんの中でもガイドを連れてな人も多いのかも。
「そうだったんだね。正直、ガイドいないの私だけだと思ってたから、ちょっとホッとしたよ~」
「なほちゃんがそう言うなら倒した甲斐があった」
「まさかご主人以外にもガイドを真っ二つにする御仁がいるとは……」
「イロハ? 若干引いてない?」
「ソンナコトハナイゾ?」
「ははは、イロハ殿は面白いですな。我々ともに良い主人と巡り会えた仲、仲良くしましょうぞっ!!」
「ご主人、このミニドラ暑苦しんだけど……」
「せっかくだし仲良くしてあげたら、イロハ? 」
「………そうだな」
「なんで少し嫌そうなのよ、イロハ」
そんなやり取りをしつつ、みんなで軽く談笑する。
気が付けば結構時間が経っていたみたいで、少しずつ陽が沈んできた。太陽の位置がが低くなり、空がゆっくりと薄ピンク色に染まり始める。
「なほちゃん、村に行こう」
「そうだね、こいちゃん」
こいちゃんが差し出した手を取って、私も村の方に歩き出す。
最初はどうなることかと思ったけど、ひとまずこいちゃんと合流できて良かった。つながった手のぬくもりを感じながら、私はホッと安堵の溜息をつくのだった。