新米Vtuberの神社運営生活@デスゲーム〜のんびり配信生活をするつもりが、なぜかNPCの皆さんに信仰されていました ~ 作:梯子田カハシ
「なほちゃん、そろそろ着きそう」
「りょーかーい」
歩くのが面倒になった私達は、私が大狼のアッシュ君に、こいちゃんが赤毛馬に跨って丘の麓の村に向かう。草原の丘を疾走すること約10分、集落の門が見えてくる。
≪いなほ、子供に憶えられている俺が近づきすぎても良いんだろうか≫
「あ、そっか。どーしよ……」
「ご主人、それなら俺にいい案がある」
「イロハ? いい案って、どんなの?」
「ふふふ、宇迦様の神通力には“物の姿を変える力”があるんだぜ?」
「たしかにっ!!…あ、でも、もうMP消費しちゃって〘神降〙は使えないよ?」
「ご主人、なにごともツカミが大事だ。ポーションを使おう」
「うーん………まあ、イロハが言うなら分かったよ」
「なほちゃん、何かするの?」
「あっ、こいちゃん。もう近いし、ここからは歩いていこう?」
「わかった」
私はアッシュ君の背中から降りると、インベントリを開いて中級MPポーションを飲み干した。………ちょっぴり甘くておいしい。ステータスのMP値が一気に満タンになって回復する。やっぱり初期ステータスだから中級ポーションでも効果は抜群だ。
「それじゃ、スキル発動〘神降〙」
「ご主人、合点承知の助だぜっ!!」
「あ、なほちゃんにケモミミが生えた」
「へ? そうなの?」
[ご主人、言い忘れてた。スキル発動中はご主人から俺の狐耳と尻尾が生えてる]
「それ、先に言ってくれると嬉しかったんだけど!?」
「狐っ娘なほちゃん、かわいい。抱きしめたい」
「こいちゃんっ!? なんか目が怖いよ?」
「逃がさない。はい、ぎゅ~」
神足通を使う間もなくこいちゃんに捕まった私は大人しく抱きしめられておく。それを見ているアッシュ君と赤毛馬の2匹からの優しげな視線を感じながら、私はこいちゃんの気が済むのを待つ。
「………満足」
≪ようやく終わったか、待ちくたびれたぞ。なあ、赤兎殿≫
「赤兎? それって赤毛の馬のこと?」
≪いかにも≫
「あれ、こいちゃん、この子の名前知らなかったの?」
「うん。そのうち教えてくれるかなって。君、赤兎って言うんだね」
こいちゃんが赤毛馬、改め、赤兎くんを優しく撫でてあげると、赤兎くんも嬉しそうにいなないて気持ち良さそうに目を瞑る。………赤兎ってことは、やっぱり赤兎馬だよね、この子。私が小さい頃にお兄ちゃんがやってた三国志のゲームで出てきたから覚えてる。だとすると、こいちゃんの武器って、もしかしなくても伝説武器の青龍偃月刀だよね~。
[ご主人、どうかしたか?]
「いや、なんでもないよ。それより、アッシュをどうにかしよう。それじゃあ………こんな感じ?」
アッシュ君を見つめながらイメージを膨らませて念を込める。
イメージを固めて念を送ると、ポンっという音がしてアッシュ君が白い煙に包まれる。………次第に煙が無くなって姿を現したのは、子狼の姿のアッシュ君だった。
「やったっ!! 一回で成功したっ!!」
≪おお、視界が低いぞっ≫
「なっ、狐耳の次は子犬が出てきた。抱きしめなければ」
≪俺は犬じゃなくて狼だ≫
アッシュ君はすぐさまこいちゃんに捕まってモフられている。傍から見ると普段の私ってこんな感じなんだなあ………あ、次は私がモフりたい。
そんなこんなでアッシュ君をモフりながら集落まで行くと、先程の兄妹が私達に向かって駆け寄ってくるのが見える。その後ろには村の住人と思われる人も10人くらいこっちに向かって歩いて来てる。
慌ててたから違和感がなかったけど、よく見ると基本的にはみんな黒髪、黒目の日本人っぽい見た目をしている。時代は……分からないけど昔っぽいことは確かだ。
「狐のねえちゃん!!」
走ってきた兄妹を私は腰を屈めて受け入れる。
お兄ちゃんの方は私のことを心配してくれたのか、目には涙が浮かんでる。
「ねえちゃん、俺達だけ逃げちゃって、ごめんないさい」
「大丈夫だよっ!! それに、妹ちゃんを守ってて偉かったぞ~」
私はそう言って男の子の頭を撫でてあげる。
妹ちゃんも私が怒ってないのを確認しておずおずと顔を出してくれる。
「お、俺、ヤスケってんだ!! ……それで、こっちが妹のヤヨイ」
「や、ヤヨイ、です」
「2人とも無事で良かったよ~。私はいなほって言います」
「………こい。こいねえちゃんって呼んで。」
「「わ、わかりました!!」」
元気のいい兄妹の返事を聞いて私とこいちゃんが笑顔で頷いて2人を撫でる。
せっかくだし、ということで私達は手を繋いで村の入口まで歩いていくことにした。
………ゲームの中でも、やっぱり子供はかわいいね。
▼ △ ▼
「本当に、申し訳ございませんでした!!」
「いえいえ。私達も特に傷は負ってないですし、大丈夫ですよ?」
「私が子供達をしっかり見ていれば良かったんです。それに、2人のいるところで、あんなことを言わなければ………」
「あんなこと?」
「ウメ、落ち着きなさい」
私達が村に入ると、開口一番に兄妹のお母さんと思われる女性が涙ながらに謝罪をしてきた。すこし取り乱した様子のお母さんを落ち着かせるように村長っぽい雰囲気の老人男性が前に出てくる。
「私はこの村、マサキ村の長を務めるユタカと申します。この度はヤスケとヤヨイを助けていただき、ありがとうございました」
「たまたま通りがかっただけですので、ほんとうに大丈夫ですよ? それより、ウメさん、ですか? 何かあったんですか?」
「それは……いや、2人の恩人に隠しごとはできませぬな。実は彼女の夫であり、ヤスケとヤヨイの父親である我が息子が、最近狩りの最中に命を落としたのです」
「父ちゃんは人喰い狼にやられたんだっ!!」
「ヤスケ、落ち着きなさい。………我が息子は村の仲間達との鹿狩りの際に巨大な狼から仲間を庇って戦い、命を落としたんだ」
「そうだったんですね……」
チラッと子犬化したアッシュに目を向けると小さく首を振る。アッシュじゃないってことは、アッシュに怪我を負わせた新しい縄張りの王が犯人、なのかな?
「……私が悪いんです」
「ウメ、やめなさい」
「私がせめて夫の身に着けていた物だけでも見たい、などと言ってしまって………」
「それでヤスケくんがお父さんの形見を探しに行こうとしたの?」
「うん」
素直に頷くヤスケくん。
…………これは、ヤスケくんを責められないなあ。確かに実際に草原まで行っちゃうのは危ないんだけど、心情的に頭ごなしに怒れないというか、むしろお母さんのために動こうとした勇気は褒めてあげたいくらいだ。
「……とにかく、今日はお疲れでしょう。あなた方は我が孫の命の恩人です。小さな村で恐縮ですが、今晩はこの村に泊まっていってください」
「はい、ありがとうございます。こいちゃんも、それで大丈夫?」
「うん、いなほと一緒でいい」
「それでは、この村1番の宿の部屋をお使いください。料理も用意させますので、どうかごゆっくりされてください」
そう言って村長のユタカさんが村を案内してくれる。
村の中で少し大きめの宿を案内された私達は、言われるがままにそこで泊めてもらうことになった。最初は野宿も覚悟してたから成り行きではあるけど、とりあえず布団があるところで眠れそうで良かった。
………それにしても、あの兄妹も、お母さんも、ゲームの中とは思えないくらいに表情が自然だし、本当に感情があるように見える。私が小さい頃にはゲームアバターと現実の境界線が、ここまで曖昧になるとは思わなかったなあ。
「……人喰い狼、許せない」
≪そうだな、いなほ≫
だからこそ、ゲーム世界のNPCだとしてもヤスケくんとヤヨイちゃんのお父さんの仇である人喰い狼への怒りが湧き上がってくる。思わず私は胸に抱える子犬サイズのアッシュ君をギュッと抱きしめる。そんな私に呼応するアッシュ君の瞳は静かな青い光を湛えていた。